本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『屍人荘の殺人』のレビュー

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NETABARE。

 

小説のレビューを書くときに最難関となるのがこれですね。

ビジネス書とか実用書の場合はあまり気にしなくてもいいのですが、小説の場合、とくにそれがミステリーだった場合、ネタバレは一気にタブーな行為になってしまうわけで、そこが文芸作品のレビューを書くネックになるわけです。

 

過去のエントリーで私は

「本レビューとはとどのつまり、その本の説明である」

ということを述べましたが、ネタバレを避けながらその本を説明するのは高度なテクニックを要します。

 

ada-bana.hatenablog.com

 

今回紹介しようと思うのはこちらの本です。

 

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

 

 

この本は「鮎川哲也賞」「このミステリーがすごい!2018年度版」「週刊文春ミステリーベスト10」「2018 本格ミステリ・ベスト10」と、2018年の主要なミステリの賞を総なめにしたとんでもないモンスター作品です。

今年12月には映画化が決まっています。

 


映画『屍人荘の殺人』予告【12月13日(金)公開】

 

ただ、

この本、非常にレビュワー泣かせ

なのです。

 

普通のミステリの場合、最悪、事件の核心となるトリックさえ伏せておけばOKだと思います。

が、この作品の場合、トリックどころか、そのトリックを用いるための前提状況ですらなぜかネットを見てみてもふせられていることが多いのです。

 

Wikipediaはたまにとんでもないネタバレをやらかすことで知られていますが、この作品に関してはトリックはもちろん、「あのこと」に関してすら一切触れられていません。

引用してみましょう。

 

神紅大学ミステリー愛好会のメンバーである葉村譲と明智恭介は、女子大生の自称「探偵少女」剣崎比留子に誘われ、同じ大学の映画研究会夏合宿に参加する。しかし、映画研究会はいわくつきで知られ、何かが起きることは容易に想像ができた。事実、肝試しに出かけた合宿初日の夜、思いも寄らぬ事態が発生し、葉村たちは合宿先である紫湛荘に立てこもらざるを得ない事態になってしまう。翌朝、紫湛荘の一室において映画研究会のメンバーの1人が他殺体となって発見される。恐怖に怯える学生たちだが、これはこれから起きる連続殺人事件の始まりにすぎなかった。

 

これはあまりにも話題になっている本であるだけにウィキペディアンたちが配慮をしているということなのか、事実はよくわかりません。

が、あのウィキペディアですらそのこと「思いもよらぬ事態」と具体的に起こることを伏せている以上、私が勝手にそれをネタバレするわけにもいかないでしょう。

そのため、トリックどこからこの物語の根幹をなす要素について一切明らかにしないまま説明しなければならないのです。困った困った。

 

さて、この作品が2018年のミステリの賞を総なめにしたことはすでに説明しましたが、それはなぜかというと、

すでにありとあらゆる手法・バリエーションが使い回されてシオシオに枯れ果ててしまったかに思われていた「密室トリック」のジャンルに、別の要素を加えることで"新しいあり方"を鮮やかに実現した

からなのです。

 

ミステリーの世界ではいろいろな「偽装」が行われます。

たとえば自殺と見せかけた他殺、かと思いきや他殺と見せかけた自殺、偶発的な事故に見せかけた計画的殺人、計画的殺人に見せかけた偶発的自己、犯人ではない人を犯人だと思わせる……などなど。

 

けっこうギリギリなヒントを差し上げると、この本の真骨頂は、その状況でしかなし得ない偽装工作を行っている点です。

これくらいにしておきましょう。

 

トリック以外の部分については、この本にはいかにも「本格的」な要素があります。

たとえばホームズ役の相棒としてのワトソン役に重点が置かれていること、たとえば登場人物がやたらミステリにくわしくてうんちくを語ること、たとえばトリック偏重気味で動機の意外性には重きを置かれていないこと。

 

そうそう、ホームズ役の剣崎蛭子さんはちょっと独特の推理方法が特徴的で、彼女はいわゆるミステリの中の探偵のようにトリック(ハウダニット)の部分を考えず、もっぱら動機(ワイダニット)の側面から犯人を割り出していきます。

これもある意味で本格へのアンチテーゼのように見えつつ、一種の本格に対するリスペクトのように思えるのです。

 

あと、私が個人的にこの本の著者・今村昌弘先生に非常に共感できる点があります。

それは登場人物の名前の付け方です。

ミステリーって登場人物が多いですよね。

まあ、登場人物が少なすぎると謎解きとか死人が足りなくなるという不都合が生じるので、登場人物が多くなってしまうのはミステリの宿命なのですが、そうなるとだれがだれだかよくわからなくなってくるわけです。

とくに、海外ミステリだと名前のイメージがつかみにくいせいで、だれとだれがどういうつながりだったかわからなくなりがちです。

 

その点、この本は非常に単純明快です。

というのも、登場人物たちの名前がどれも彼・彼女たちの見た目・正確に即したヒジョーにわかりやすい名前になっているからです。

 

たとえば、ヒロイン然とした超可愛い女の子の名前は星川 麗花。

口数が少ないおとなしい女の子は静原 美冬。

デブの男は重元 充。

親の七光りで遊びまくる道楽息子は七宮 兼光。

ギョロッとした目つきが特徴的な男は出目 飛雄。

 

ありがたいのは、きちんと作中でそれぞれの名前の由来を説明臭く説明してくれるところです。

これで、たくさん登場人物が出てくるからと言って、だれがどういうキャラクターだったか混乱することはありませんね。

私のように記憶力に難のある人間には大変ありがたい仕様になっています。

 

ちなみに、続編である『魔眼の匣の殺人』も読みました。

 

魔眼の匣の殺人 屍人荘の殺人シリーズ

魔眼の匣の殺人 屍人荘の殺人シリーズ

 

 

おもしろかったけれど、状況設定的にはやっぱり『屍人荘の殺人』には劣ります。

ミステリーとかサスペンス系にはさほど珍しくないモチーフだったこともあります。

 

ただ、適度にライトなノリで、文章もわかりやすく、見た目の割にアッサリさっくりよめる良質なミステリなので、秋の夜長にはお薦めですね。

 

ちなみに、集英社のアプリ『ジャンプ+』でコミカライズ版が連載されています。

剣崎蛭子がなんかちょっとイメージと違いますが、これはこれで楽しいです。

 

shonenjumpplus.com

 

単行本も発売されるみたいですね。

まだ書影は出てないけれど。

 

屍人荘の殺人 1 (ジャンプコミックス)

屍人荘の殺人 1 (ジャンプコミックス)

 

 

きになったらぜひ。

 

後記

 

『移動都市/モータル・エンジン』を観ました。

 

 

荒廃したはるか未来で著巨大エンジンによって都市そのものを動かしながら資源を略奪していって生計を立てている人々の物語です。

原作はこちらの小説です。

 

移動都市 (創元SF文庫)

移動都市 (創元SF文庫)

 

 

原作とどのくらいストーリーを変えているのかはわかりかねますが、すごく率直に感じたのは

「これスター・ウォーズみたいだな」

ということでした。

あのキャラクターの設定とか、あの兵器とか、、、。

いや別につまらなくはないけれど、うーんスローリーに安直感が否めない。

ただ、スチームパンク的なギミックが好きな私としてはガチャンコガチャンコする変形都市のデザインは好みです。

それくらいでしょうか。

暇だったら観てみるのもアリかもですね。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。