本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『獏鸚』(海野十三・著/日下三蔵・編)のレビュー

f:id:Ada_bana:20200105115339j:plain


いまでは「推理小説」というジャンル名のほうが人口に膾炙しているけれど、昔だと「探偵小説」と呼ばれていたこともあります。

じゃあこの2つの違いは何かというと、あんまり明確な区別はないようですね。

ただ調べてみると、坂口安吾のエッセー「探偵小説とは」というものがあって、以下のような書き方がありました。

 

日本には、今まで、一口に探偵小説と称しても、主として怪奇小説であり、推理小説というものは殆ど行われていなかった。

 

元来、推理小説は、高度のパズルの遊戯であるから、各方面の最高の知識人に理知的な高級娯楽として愛好されるのが自然であって、最も高級な読者のあるべき性質のものであるが、日本に於ては、推理小説でなく、怪奇小説であったために、探偵小説の読者は極めて幼稚低俗であったのである。日本の文学者は今まで探偵小説とは怪奇小説と考え、食わず嫌いの傾向であったが、推理小説というものを知ったら、面白がるに相違ない。

※出典:青空文庫 https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42821_26306.html

 

要するに、探偵が出てくれば多少ロジックに無理があったり、怪異が出てきても「探偵小説」であるということのようです。

その意味でいえば、今回紹介するこの本は、推理小説と読んでも差し支えないんじゃないだろうかと思えます。

 

獏鸚 (名探偵帆村荘六の事件簿) (創元推理文庫)

獏鸚 (名探偵帆村荘六の事件簿) (創元推理文庫)

 

 

トリックの再現可能性は首を傾げたくなるところもあるのですが、一応すべて著者なりの科学的知見に基づいて行われているからです。

※ただ「SFミステリ」と称されている通り、あくまでフィクション的な科学的知見(つまりツッコミどころは満載)だといえますけど

 

著者の海野十三(うんの・じゅうざ)は1897年生まれで、本書に収録されている作品はいずれも戦前に書かれた古典的作品ばかり。

ただ、だからといって文章が古臭くって読みづらいかと言うと、そんなわけでもないのです。

 

飄々としたキャラクターたちに、テンポよく進む物語。

それでいてけっこう殺人事件の内容そのものは凄惨を極めていて、犯人の動機も常軌を逸していたりしてグロテスク。

『振動魔』など怪奇小説の特徴が強いものもありますが、ミステリーでよくある「引き伸ばし」なんかもなく、探偵役の帆村荘六(ほむら・そうろく・・・シャーロック・ホームズをもじったキャラクター)は謎がわかるとさっさと解き明かしてくれるのもよいですね。

 

400ページくらいのなかなかボリュームがある本ではありますが、読みづらさは感じず、現代のミステリ好きでも楽しめる一冊ではないでしょうか。

以下、簡単に内容を紹介していきます。

 

『麻雀殺人事件』

雀荘で毒物を使った殺人事件が起きてしまう、帆村荘六のデビュー作です。

著者の海野十三は麻雀が好きだった模様。

派手さはないけれどいちばんミステリーっぽいかもしれない作品ですね。

 

省線電車の射撃手』

山手線の電車で女性たちが次々と銃撃されてるという連続事件です。

ポイントは射角。

ただ、ちょっと長めの割には冴えないトリックで、いまいち。

 

『ネオン横丁殺人事件』

飲み屋街で深夜に起きた銃殺事件。

いわゆるアリバイトリックものだけど、手法は科学的。

ただ、おもしろさはビミョー。

 

『振動魔』

不倫の末に望まぬ妊娠をさせてしまった男が、科学技術を使ってなんとか堕胎させようとする怪奇小説職の強い作品。

探偵・帆村が出てくるのは後半になってからだが、そこへきて怪奇小説から推理小説っぽくなる展開は嫌いじゃない。

 

『爬虫館事件』

行方不明になってしまった動物園の園長を探す物語。

爬虫館で飼っている大蛇に丸呑みさせたんじゃないかと帆村は考えますが、さすがに大の大人を丸呑みさせるのはムリだし、大蛇は死んだ肉は丸呑みしないからバラバラにしてから飲ませるのもムリ……というところでじゃあ延長はどこに行ったのか。

トリックそものはシンプルだけど、これは好き。

 

『赤外線男』

赤外線でしか探知できないいわゆる「透明人間」が次々と殺人を犯していく事件。

ただ、その前に電車による女性の轢殺事件が起こり、死んだはずの人間が墓からいなくなるなど、いくつも事件が絡み合った複雑なものになっています。

本作はまさしく「SFミステリー」という呼び名にふさわしい感じのトリックでなかなかおもしろい。

 

『点眼器殺人事件』

秘密結社によって突然拉致された帆村探偵が、限られた情報の中で半ば強制的に殺人事件の解明を求められる物語。

組織のボスが絞殺死体となって発見されてしまうのだが、誰にも犯行は不可能で、凶器も見つからない、という状況

このトリックはけっこう無理がある感じもしますが、タイトルの通り、「点眼器」がキーになります。

 

『俘囚』

若い男との不倫の末に夫を井戸に投げ込んで殺した妻が、死んだはずの夫の幻影に悩まされる物語。

これもかなりグロテスクな怪奇小説傾向の強い作品。

ただ、コレはちょっとぶっ飛び過ぎかも・・・。

 

『人間灰』

空気工場で次々と従業員が疾走するという事件を解き明かす物語。

船で湖を渡っていた人はなぜ気づかないうちに血まみれになってしまったのか。

消えた人々はどこに行ってしまったのか。

これまたギョエッと思ってしまうようなトリックだけど、これはなかなかおもしろい。

 

『獏鸚』

暴力組織同士の抗争に絡んで、探偵・帆村が見つけた秘密のメッセージにかかれていた謎の言葉「獏鸚」。

獏と鸚を組み合わせたこの言葉は何を意味するのか。

最後はあまりグロくない暗号もの。

 

ちなみに帆村シリーズは続編も復刊されているようです。

 

蠅男 (名探偵帆村荘六の事件簿 2) (創元推理文庫)

蠅男 (名探偵帆村荘六の事件簿 2) (創元推理文庫)

 

 

後記

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』を見てきました。


「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」 TV SPOT 伝説編

 

いやあ、よかったですね。

シリーズ完結編ということでどんな終わり方をするのか、期待半分・不安半分で見に行ったのですが、いい感じの終わり方にしてくれたと思います。

 

ちゃんとレイの正体は明かされます。

これ、検索するとけっこう簡単にネタバレが出てきてしまうので、見ていない人は気をつけてください。

 

ただ前作「最後のジェダイ」はなんだったんだよ…感は否めないかも。

個人的には、前作の最後に出てきたあの少年がまったく登場しなかったという肩透かしもありました。

カリフォルニアのディズニー、行ってみたいもんです。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。