『10歳のミッション』(齋藤孝・著)
しばらくお休みしていましたが、またボチボチ始めていきます。
今後はレビュー(自分の感想)というよりも、「分析」に近いものになるかもしれません。まあ備忘録ですね。
今回はこちら。
著者の齋藤孝先生は、日本人なら知らない人はいないであろう人物で、NHK・Eテレの番組「にほんごであそぼ」の総合指導を務めています。
大人向けの書籍はもちろん、子ども向けの書籍でも多数のベストセラーがある人気作家です。
本作もよく売れていて、同じ出版社から以下のようなシリーズ続刊があります。
書籍の体裁は、四六判より天地がちょっと短いくらい。
本文用紙は柔らかく、おそらく10歳くらいの子どもでもめくりやすいように、本全体がデザインされているものと思われます。
大人向けの実用書だと、だいたい四六判か、B6変形、ちょっと大きいものでA5判が多いですが、それと比べると児童書はジャンルやテーマ、内容に応じて、判型が多岐にわたっているのがおもしろいところです。
本書はソフトカバーで、144ページ。
中面はスミとオレンジの2色刷。
子ども向けのノンフィクション(実用書)だと、イラストやマンガを多用して、フルカラーにしているものも多いです。
そうしたほかの本と比べると、文字ベースでしっかり「読む」タイプの本に仕上がっていますね。
折による色変えも行われていませんので、児童書の中ではなかなか「シブい」本です。定価は本体1,200円です。
本書のコンセプトは
「10歳のうちに覚えておきたい、生き抜く力がつく31のミッションを伝える」
というものです。
「はじめに」によると、齋藤孝さんはやる気を出したいときに「これは、ぼくのミッションだ!」と思って取り組むといいます。
ミションは使命、あるいは使命感を持って行動することを指します。
要するに、この本で伝えるのは、「使命感を持って取り組むことの大切さ」ということですね。
とはいえ「何事にも使命感を持って取り組みましょう」だと、子どもにはわかりにくいので、本書は子どもたちが直面するであろう具体的なシチュエーションを、ひとつずつ挙げながら、「使命感を持って取り組む」とはどういうことなのか、本を読むにしたがって体感的に理解できるような構造になっています。
じゃあ、使命感を持って物事に取り組むことができると、どういうメリットがあるのか、というと、おそらく本書の内容を見る感じ、以下のようなものです。
●自信がつく
●楽しくなる
●人に優しくなる
●学びや物事の習得が得意になる
章構成は以下の通り。
友だち・家族のミッション
1 あいさつで心を開け!
2 相手の話を全身で聞け!
3 相手と気をあわせよ!
4 相手のいいところを見つけてほめよ!
5 家族とあれこれ話すべし!
6 SNSとうまくつきあうべし!
コラム 気になる人に話しかけよう生活のミッション
1 指さし確認で忘れ物をなくせ!
2 時間に余裕を持つべし!
3 予定表を作り、目の前のことに集中せよ!
4 日記を書いて”毎日をプラス”にせよ
5 ときには、がまんするべし!
6 優先順位を書いて確かめよ!
コラム 時間を大切にしようまなびのミッション
1 「やるぞ」と決めて勉強せよ!
2 予習・復讐で自信をつけよ!
3 世のため人のためにできることを考えよ!
4 まちがえてもいいから自分の考えをのべよ!
5 本を読んで、人生の味方を増やせ!
6 音読をして、頭の回転をよくするべし!
コラム 伝記や自伝を読もうあそびのミッション
1 体を動かして、エネルギーを出し切れ!
2 音楽を体で感じるべし!
3 美しいものにふれるべし!
4 生きものとふれあって息ぬきせよ!
5 植物からパワーをもらえ!
6 手を使ってあそぶべし!
コラム 年齢のちがう子とあそぼう心のミッション
1 ”知仁勇チェック”で心を整えよ!
2 ”なりきりパワー”でやる気を出せ!
3 ときどき、”心のおはらい”をするべし!
4 経験して心を強くする!
5 好きなものを一週間にひとつずつ増やせ!
6 とにかく思いきり笑うべし!
7 人との縁を大切にするべし!
章構成を見て、私が思ったのは以下のことです。
●すべてが「!」で終わっている
●(意外と)項目が「命令形」になっている
●「まなび」と「あそび」がひらがなになっている
●まず「友だち・家族」のことから始まっている
●1章、2章というくくりがない
項目の見出しが命令形になっているのは、「ミッションを伝える」という内容的に、あえて強い表現をしよう、という意図かもしれません。
とすると、すべての項目に「!」がついているのは、項目の命令形に威圧感を与えすぎないための、子ども向けの配慮……とも考えられます。
子ども向けの本の場合、どのことばをひらがなにするかは、悩みどころのひとつですが、本書では「まなび」もひらがなで表記されているのがちょっとおもしろいポイントです。
「あそび」はひらがなでも、まあ自然です。
「遊び」という漢字が、ちょっと画数が多いからです(とはいえ、小学3年生で習うので、さほどむずかしいとはいえない)。
ただ「まなび」については、わりと低学年向けの児童書でも「学び」と漢字で表記しているイメージがあるので、ひらがなにしたのは、なにかしらの意図を感じる部分ではありますね。
全体の章の順番に関しては、まあ「心のミッション」を最後に持ってくるのが順当だとして、最初の章でなにを伝えるかは、要チェックポイントのひとつです。
1章目の内容は超重要というか、
「読者に重要だと思われているだろうと、著者および編集者が考えている内容」
になることが多いからです。
「友だち・家族」というのは、要するに人間関係・他者とのコミュニケーションというテーマなので、それが子どもたちの日常において重要なポジションにある……ということを示しているわけです。
ちなみに「1章」とか「2章」という表現をあえてつかっていないのは、本書が「つまみ読み」を推奨しているからでしょう。
「はじめに」でも、本書はもくじを見て、気になるところだけ読んでくれればいいという旨が書かれています。
つまり、本書は最初から最後まで通読するたぐいの本ではないため、そもそも章に数字を割りふって順番を想起させる必要性がない、ということです。
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ここまでで本全体の構造について分析してきましたが、ここから中身について述べていきます。
本書は31のミッションを4ページで説明するフォーマットです。
基本的には縦組みの文章を読ませる流れで、4ページ目にミッション内容をビジュアル化したイラストが挿入されていますが、パッと見た感じでは、決して「ビジュアルたっぷり」という印象は与えません。
そして、最後に「まとめ」がついていて、これは本論の内容を「2つの箇条書き」でまとめています。
ただ、まとめ自体はそこまで目立つようなデザインになっていません。あくまでも「文章がメイン」というデザインですね。
あ、ちなみに文章は総ルビになっています。
文章は、齋藤孝さんが読者である10歳の子どもたちに語りかけるような文体になっていて、著者の経験談(子ども時代のものからおとなになってからのものまでさまざま)や、歴史上の偉人たちの言葉、名言などを散りばめています。
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児童書の場合、買われ方には2つあります。
●子どもが「これ読みたい」とねだるパターン
●親が「これ子どもに読ませたい」と買い与えるパターン
です。
本書は明らかに後者のパターンです。
タイトルに「読んでほしい読者」の具体的な年齢(本書の場合は10歳)を入れるべきか否かは悩ましいところですが、本書の場合は「思春期に入る前で、かつまとまった文章が読める年齢」と、想定読者がかなりピンポイントに限られているので、具体的な年齢をタイトルに組み込んだことが奏功している感じがします。
興味深い一冊です。