本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『メインテーマは殺人』(アンソニー・ホロヴィッツ著)のレビュー

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小説を読んでいて「すごいなぁ」と著者の筆力に感嘆することはよくあるのですが、私がとくに感心するのは「イヤなキャラクター」の描き方がうまいときです。

物語の場合、主人公の敵役とは別に、なんだか気に食わない、まじでこんな奴がそばにいたらイライラするな……というキャラクターが出てくるとすごくいいアクセントになりますよね。

ハリー・ポッターシリーズでいうとこのスネイプ先生みたいな感じというと、わかりやすいでしょうか。

料理の味付けにちょっとした苦味があると深みが出るように、嫌なキャラクターがいると物語に奥行きが出てくるように思います。

 

で、今回紹介するこちらの本。

 

ミステリーとしてのクオリティも最高だったのですが、人物の描き方が秀逸でした。

あらすじはこんな感じです。

 

自らの葬儀の手配をしたまさにその日、資産家の老婦人は絞殺された。彼女は、自分が殺されると知っていたのか? 作家のわたし、ホロヴィッツはドラマの脚本執筆で知り合った元刑事ホーソーンから、この奇妙な事件を操作する自分を本にしないかと誘われる……。自らをワトソン役に配した、謎解きの魅力全開の犯人当てミステリ!

 

著者のスティーブン・ホロヴィッツは『カササギ殺人事件』が日本国内のミステリアワードを総なめにした話題作となりました。

こちらも気になって読もうかと思っていたのですが、『カササギ殺人事件』は上下巻なので、とりあえず1冊で完結しているこちらから読んでみようと思った次第です。

 

 

本作はもちろんフィクションですが、著者本人がワトソン役として登場し、この著者が実際に今現在やっていそうな仕事の話を交えながら物語を進めるので、どこからどこまでがリアルで、どこからがフィクションなのかその境界線が最初は曖昧になりがちです。それが著者の狙いでもあります。

 

なにしろ、『タンタンの冒険』の続編映画の脚本を書くことになり、そのためにスティーブン・スピルバーグと話をするというシーンすらあります。

ホロヴィッツが『タンタンの冒険2』にかかわっていたのは事実であったようです。実現はいまのところ、していないようですが。

www.bbc.com

 

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で、探偵役のホーソーン

もともと敏腕の警察官だったのですが、現在は警察の顧問警察として、警察とは別行動でいろいろな事件を捜査している人物です。

ホロヴィッツとはとあるドラマの『インジャスティス 法と正義の間で』で、できるだけ不愉快な刑事役のモデルとして協力してもらったことが縁と語られます。

(このドラマも実在します)

 

まあ、このホーソーンが超絶嫌なやつなわけです。

もちろん、古今東西、名探偵といえば常人離れした感覚の持ち主で、いまでいえば発達障害と言われてしまいそうな人達もいるわけですが、多くの場合、それでも憎めないキャラクターに仕上げられていることが多いなか、このホーソーンはほんとに嫌な奴です。

本作における探偵役なのでずば抜けた観察力と推理力を持っているのですが、とにかく独善的で自己中心的、横暴、そしてこれが極め付きですが、差別的な言動を繰り返します。

たとえば冒頭でのホロヴィッツホーソーンの会話。

そもそも、不可解な事件をホロヴィッツに持ち込んで、それをワトソン役として書き留めて小説として発表し、自分にも分け前をよこせと提案してくるのはホーソーンのほうなのですが、彼は自分のプライベートや過去について語るのは嫌だと断言します。

ちょっと引用しましょう。

 

「どうしてまた、きみの話なんかを読みたがる人間がいると思うんだ?」

「おれは刑事だからな。世の中の人間は、刑事の話を読みたがるもんじゃないか」

「だが、正式な刑事じゃない。きみは首になったんだろう。そもそも、いったいどうして首にされたんだ?」

「その話はしたくないんでね」

「なるほど。だが、きみの話を書くとなったら、それについても話してもらうことになる。きみがどこに住んでいるのか、結婚はしているのか、朝は何を食べたのか、休日は何をしているのか、そんなことも。人々が殺人事件の話を読みたがるのは、こういうことに興味があるからだよ」

「あんたはそう思ってるのか?」

「ああ、そうだ!」

ホーソーンは頭を振った。「おれはそうは思わんね。主題(メインテーマ)となるのは殺人だ。重要なのはそこなんだよ」

 

このあとも紆余曲折あって、結局ホロヴィッツはこの提案を受け入れることになるのですが、ホーソーンはその後もホロヴィッツの書いた文章にケチをつけたりしてきて、なかなかのイヤなやつっぷりを発揮します。

探偵役がイヤなやつ(というか一癖も二癖もある)のはよくありますが、ホームズ役とワトソン役がこんなにもギクシャクした関係で物語が進むパターンもなかなか珍しいんじゃないでしょうか。

 

もちろん本作、ミステリーの部分も一級です。

最初に引用した紹介文でも書かれていますが、本作はトリック云々というよりも、「誰が犯人なのか」を読者が予想しながら読み進めるフーダニットのおもしろさがあります

犯人の意外性もバッチリ。

たいへん、楽しめるミステリーでした。

 

 

後記

先日、最近の売れ筋マンガをまとめたエントリーを書いたのですが、

 

ada-bana.hatenablog.com

 

いくつかのマンガはAmazonで1巻無料だったので読んでみました。

抜群におもしろかったのは「アシガール」ですね。

 

アシガール 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
 

 

脚が速いことしか取り柄のない女子高生が弟の発明したマシンに酔って戦国時代にタイムスリップし、そこで出会ったイケメン若君を振り向かせるため、戦で活躍しようとするSFラブコメディです。

とにかく主人公がアホの子すぎて行動に突拍子もないし、弟が逆にハイスペック過ぎて突っ込みどころが満載なのですが、あっさり軽やかなギャグがまんべんなく散りばめられていて、笑いながら読めます。

知らなかったのですが、映像化もされていたみたいですね。

NHKのドラマのようです。

 

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今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。