『書きたい人のためのミステリ入門』(新井久幸・著)のレビュー
- 「クローズド・サークル」のお手本になる3冊
- 「論理を重ねて真相にたどり着く」のお手本になる1冊
- 「奇想天外で美しい謎」のお手本になる3冊
- 「密室もの」のお手本になる3冊
- 「心理的に美しい謎」のお手本になる3冊
- 「地の文にひそむウソ」のお手本にある2冊
- 「フーダニットの変化球」のお手本になる3冊
- 「意外な動機」のお手本になる4冊
- 「ホワットダニット」のお手本になる5冊
- 「うますぎる伏線」でお手本になる2冊
- 「安楽椅子探偵」のお手本になる6冊
- 「アリバイトリック」のお手本になる2冊
- 「リドル・ストーリー」のお手本になる2冊
- 「群像劇」のお手本になる1冊
- 「ファンタジーミステリ」のお手本になる2冊
- 「SFミステリ」のお手本になる1冊
- 後記
小説のジャンルには「恋愛」「冒険活劇」「歴史」「SF」「サスペンス」「ホラー」「人情物」などいろいろあるわけですが、そうしたさまざまな物語の基本はミステリーなんじゃないかなとも思うわけです。
読者が物語にのめり込むのは、小説のなかで「解決されていない問題」が発生して、その結末がどうなるかが気になるからでしょう。
「この物語はどういう結末を迎えるんだろう?」という疑問をいだき、それが最後に解消されるはずだと期待して、人は物語を読むことが多いです。
その意味でいえば、推理小説、いわゆる「ミステリ」とよばれるジャンルはその構造がとても明快です。
なにかしらの事件が起きて、謎が提示され、最後に名探偵がそれを鮮やかに解決してカタルシスを読者に提供するます。
ある意味で、人が物語にのめり込む構造がフォーマット化された世界といえるんじゃないでしょうか。
ある意味で、最近流行りの異世界転生者のフォーマットと近いものがるかもしれませんね。
型が決められているなかで、どうやってバリエーションを出し、読者を驚かし続けられるかの勝負になってきます。
んで、型が定められているということは、そのなかでさまざまな「お約束」……暗黙のルールみたいなものがあって、それがわかっているとよりミステリを楽しむことができます。
そのお約束みたいなものを簡単にまとめつつ、ミステリを自分でも書きたいという人にいろいろなアドバイスを詰め込んでいるのがこの本です。
著者は新潮社で働く現役編集者(というか編集長)です。
自分が働いている会社で自分の著書を出すのはどういう気分なのか、印税条件とかはどうしているのかは個人的に気になるところですが、まあそれは置いておくとして、20年近くにわたってミステリーの新人賞などの事務局でしたよみをしてきたとのことです。
何百本という応募原稿を読んできて、「惜しいなあ、もっと面白くできたはずなのに」と思うことがよくあった。それは突き詰めれば、「ミステリ的な手続き」に不備があったり、いわゆる「お約束」を踏まえていないことに起因する。
ミステリは、「暗黙の了解」の多いジャンルである。それらは本来、読書経験の中で自然と身に付いてくるものではあるが、独力ではどうしても時間がかかるし、限界もある。
(中略)
下読み経験を基にしているから、小説家を志す人には、多少なりとも参考になるだろう。新人賞運営の事務局として、「これは知っておいて欲しい」と思っていることをもまとめておいた。
まあ、新書で文章もわかりやすく、サラッと読めるので、そのミステリのお約束は本書を読んでもらうことにして、ここでは本書で紹介されている魅力的なミステリの名著をピックアップしてまとめておきます。
結局のところ、ミステリを書きたいのであれば、これらの本は読んでおきたいよね、ということです。
個人的にもまだ読んでいない本があるので、備忘録代わりにまとめておきます。
「クローズド・サークル」のお手本になる3冊
「論理を重ねて真相にたどり着く」のお手本になる1冊
「奇想天外で美しい謎」のお手本になる3冊
刑事たちが見張るなか、電話ボックスから忽然と人間が消える謎が出ます。
収録作『神の灯』では家一軒がまるごと消失します。
「密室もの」のお手本になる3冊
「心理的に美しい謎」のお手本になる3冊
「ミッシング・リンク」のお手本になる3冊
「日常の謎」ミステリのお手本になる2冊
「地の文にひそむウソ」のお手本にある2冊
「読者への挑戦状」のお手本になる3冊
「フーダニットの変化球」のお手本になる3冊
「わたしはこの事件の探偵であり、証人であり、被害者であり、犯人なのです。」
「私はこの事件の犯人であり、探偵であり、どうやら、被害者にもなりそうだ。」
「この推理小説中に伏在する真犯人は、きみなんです。」
「意外な動機」のお手本になる4冊
「ホワットダニット」のお手本になる5冊
「ミスディレクション」のお手本になる1冊
収録されている『幽霊妻』。
「うますぎる伏線」でお手本になる2冊
「安楽椅子探偵」のお手本になる6冊
「アリバイトリック」のお手本になる2冊
「リドル・ストーリー」のお手本になる2冊
収録されているF・R・ストックトンの『女か虎か』と、C・モフェットの『謎のカード』。
収録されている『決断の時』。
「群像劇」のお手本になる1冊
「ファンタジーミステリ」のお手本になる2冊
「SFミステリ」のお手本になる1冊
以上。
個人的にはもうちょっといろいろオススメしたいものもありますが、あくまで本書で取り上げられていたものでピックアップしてみました。
こういう本を読むとミステリが読みたくなるし、書きたくなるものですね。
後記
Amazonプライムでレンタル199円セールだったので、『2分1の魔法』を観ました。
実写版の『ムーラン』や『ソウルフル・ワールド』もそうですが、2020年くらいの公開予定だった映画は新型コロナのせいでスケジュールがメタメタにされて大変だったでしょうね。
本作も日本の興行収入的には失敗と言わざるを得ないような結果になってしまいました。
さて本作は、魔法と科学技術が両方存在する世界で、亡くなったお父さんを1日だけ復活させる魔法を完成させるために旅立つ兄弟の物語です。
魔法は便利だけど、習得が難しいし手間がかかる。それよりも誰でも簡単にできる科学のほうが便利じゃない?という世界です。
そのせいで、世間からはすっかり魔法を使う人がいなくなり、妖精やマンティコアなど翼を持っている種族たちも、空の飛び方を忘れてしまっていました。
テーマは「魔法の見直し」と「兄弟愛」でしょうか。
亡くなったお父さんとの再開は副次的なものであるように感じます。
「死者との再会」というテーマであれば『リメンバー・ミー』がありますしね。
ピクサーの作品で、たくさんの人とお金をかけて作られているので、ぜんぜんつまらなくはないですが、絶賛して人に勧められるほどおもしろかったわけでもなく、65点くらいの映画という感じでした。
この「65点くらい」ってものすごく厄介ですね。
この作品を観ていても、とくに「悪いところ」が見つからないのです。
明らかに悪いところが見つからないから、どこをどうすればもっとおもしろくなるか……そもそも、もっとおもしろくなる余地はあるのかなどがわかりません。
本づくり……というか原稿の作り方もこれと同じようなところがあるような気がします。
ちょっといい方は悪いですが、著者の先生なりライターさんなりから届いた原稿が65点くらいのおもしろさだと、もうちょっとどうしようもできなくなります。
もちろん、40点くらいのものを手直しすれば65点より上に行くのか……というとそんなことはなくて、結局40点のものにいろいろ修正を加えて65点になることもよくあるのですが、でもやっぱり65点くらいの原稿の本はあまり大きくは売れないです。
ただ、65点あれば十分というのもまた事実である側面もあって、これは投資信託における「インデックス運用」と「アクティブ運用」に近いものかもしれません。
インデックス運用というのは、市場平均に近い成果を出すように運用することで、大儲けはできないけれど、ヘタも踏むことが少ない投資手法です。
一方、アクティブ運用はもっとリスク(振れ幅)を大きくして大勝ちを狙いにいく投資の手法で、大儲けできることもあるけど、空振りして大損することもあります。
65点くらいの本を安定的に作ることも大事なんですが、やっぱりそれだとおもしろみに欠けるので、65点くらいの本をつくりつつ、ホームランを狙ってバットを大きくふるような本もつくっておくのが私の理想とする働き方だったりします。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。