年末年始はコレを読んどけアワード2019 ~小説・人文・ビジネス実用~
今年は仕事が忙しくてかなり本を読む量が減ってしまいました。
いや、言い訳をすると、本は読んでいるのです。
ただ、仕事の資料として読まなければならない本が多く、著者がかなり偏っているので、そういう場合はレビューを書いたりブログ記事にしたりしなかったりしたのです。
あとマンガとかも、巻数が多いと書いていなかったりします。
ともあれ、またこの時期がやってきたので、私の中で年中行事になりつつあるこの記事を今年も書きます。
今年読んだ本のなかからとくにおもしろかったものを10冊に絞ってご紹介。
あくまで「私が今年読んだ本」なので、刊行年数はもっと古いものもあります。
とくにランキング形式は採用してないので順不同です。
ちなみに、今回はブログでは取り上げなかった書籍も入っているので、それらの本に関しては説明がちょい眺めになっています。
もくじ
1.『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』
2018年のビジネス書大賞に選ばれたヒット作で、ビジネス書におけるリベラルアーツ(いわゆる教養)ブームの先駆けになった本。
すでにビジネスの世界ではAIとかRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が進んできていて、いわゆるホワイトワーカー的な事務作業は今後ますます重要性が低下することが予想されています。
そうしたなかで人間に残された役割は、分析されたデータを見て、個人あるいは会社としてどのような行動を取るか判断する意思決定の領域になるのですが、そこで重要になるのが「美意識」である――というのが著者の主張です。
すごく端折ると、美意識の一側面はモラルのことです。
お金が儲かるからといって法律スレスレの反モラル的なことを行うと、長期的な視野に立ったとき、結局損をすることもある。
ただ、じつはモラルの欠如は悪意によって引き起こされるのではなく、無思考差によって引き起こされることは、ハンナ・アーレントがナチスドイツで多くのユダヤ人を処刑したアイヒマンについて述べた書籍で明らかにしています。
このあたりの「倫理」については、こちらの本も参考になるかもしれません。
この本もいま、売れてます。
Think CIVILITY(シンク シビリティ) 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である
- 作者:クリスティーン・ポラス
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2019/06/28
- メディア: 単行本
2.『ゼニの人間学』
著者は名作マンガ『ナニワ金融道』の著者です。
じつは私は絵柄があまり性に合わなかったのでこのマンガを読んでこなかったのですが、LINEマンガで無料で読めたので、今年始めて読みました。
で、メチャクチャおもしろかったのです。
主人公はいわゆる街金(サラ金)に務める会社員で、お金に困った中小企業の経営者、あるいは個人になかなかの金利で貸し付けます。
それにまつわる人間ドラマ、転落劇がおもしろいわけです。
(これをおもしろいと思えるのは「自分には関係ない話」という思考と、「でも自分も同じ目に遭うかもしれないな」という恐怖がない混ぜになっているせいなんでしょう)
さて著者の青木雄二さんは残念ながら2003年に58歳の若さで亡くなってしまったのですが、マンガ家としてデビューしたのは45歳とかなりの遅咲き作家で、それまでは30もの職を転々としたり、印刷会社の経営を行ったりしていました。
じつは青木さんはマルクス主義に傾倒していて、資本主義の現代社会にたびたび警鐘を鳴らしています。
青木さん自身は『ナニワ金融道』によって一生遊んで暮らせるだけの資産を築いたにもかかわらず、資本主義を否定していた稀有な人物だったのです。
もちろん、マンガでそんな小難しい話をしてもだれも読んでくれないことは重々理解していたため、経済的自由を手にしてからは本書のような現代社会を痛烈に批判する本を書いたり、講演活動を行っていたとのことです。
なぜ人はお金にこんなにも執着してしまうのか。お金とはそもそもなんなのか。
お金で何度も辛酸を嘗め、裏切りに会い、騙された経験を持つ著者だからこその説得力がある一冊です。
3.『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』
「百合=女性同士の恋愛」をテーマにしたSFアンソロジーです。
「百合=女性同士の恋愛」と捉えられることも多いですが、この「恋愛」という言葉が、たとえばセックスをともなうラブ的なものかと言うと、かならずしもそうではなくて、もっとプラトニックな、あるいは「絆」と呼ぶべきようなものであることも大いにあります。
そのあたり、「百合」というテーマを投げ与えられた作家が、作品を通じてどのような返答をしたのかというのも、この本を読む上でおもしろい部分でしょう。
4.『てつがくフレンズ』
ブロガーであり、ベストセラー『史上最強の哲学入門』の著者である飲茶さんがひっそりと出している一冊です。
タイトルは明らかに「けものフレンズ」をオマージュしていますね。
本書は基本的にマンガで、西洋の名だたる哲学者たちがかわいい女の子になり、学園に入学するという「よくあるパターン」で物語が進みます。
正直、この時点で私はちょっと意気消沈したというか、私は飲茶先生の作品が結構好きだったので、途中まで「おもしろくないなあ」と思いながら読み進めていたのですが、さすがは飲茶先生です。
この作品、終盤で化けます。
女の子たちがワイワイキャッキャするほのぼの学園マンガから、マンガというメディアを使って「自由意志」について問いかけてくるわけです。
一気にシリアスな展開になり、(ちょっと難しくなるけど)グイグイ引き込まれます。
そして私はこういう展開が大好きなのです。
残念ながら売れ行きがあまり芳しくないのか、ちょっと話が尻切れトンボで終わってしまっているのですが、私としてはぜひとも続編が読みたいと説に希望しています。
序盤で読むのをやめないで、ぜひ最後まで読み切ってほしい一冊ですね。
5.『むかしむかしあるところに、死体がありました。』
桃太郎や浦島太郎、一寸法師など、だれでも一度は聞いたことがある日本のおとぎ話の世界で繰り広げられる精算な殺人事件と、その謎を解く短編ミステリー。
こうした設定がおもしろいのはもちろんのこと、物理的なトリックから叙述系、アリバイトリックまで、おおよそミステリーのジャンルを網羅するような丁寧な作り方が魅力的。
6.『1秒でつかむ』
メチャクチャ分厚くて(500ページ超)、すごく内容が濃い。
著者はテレビ東京の人気番組『家、ついて行ってイイですか?』のプロデューサーであり、ほかのテレビ局と比べて予算の少ないテレ東らしい、エッヂの効いた企画を量産している人。
本書の最大の魅力は、単にハウツーとしてアイディアの出し方を読者に提案するだけではなく、実際にその考え方について、読者がこの本を読み進めながら実体験できるように作られているという部分でしょう。
7.『10の奇妙な話』
ミュージシャンや映画監督もやっていた異色の作家さんによる不思議な不思議な短編集。
「ひたすら眠り続ける少年」「骨を集める少女」「暗い葬儀屋一家」などなど、ホラーとまではいかないけれど、なんだか薄暗くて不気味な登場人物たちによる物語です。
正直なところ、「で?」という感じで終わる話も多いし、結局どういう話だったのかスグに理解できないものもあるかもしれないので、読む人は選びそうだけど、真冬の夜中辺りに読むのにぴったりな一冊ですね!
8.『叙述トリック短編集』
ミステリーは突き詰めれば著者と読者の化かし合いなわけですが、それをストレートに突き詰めたのがこの一冊。
最初から「この本は叙述トリックのミステリーです」と言っている時点でかなり挑戦的ですが、さらにおもしろいのは、ミステリーなのに「はじめに」があるという点。
ここで、いきなり読者への挑戦状ならぬ「読者へのヒント」まで出してくれる親切っぷりです。
ただしもちろん、著者は読者に謎を仕掛ける側の人間ですから、基本的に著者の言っていることをあまり真に受けてはいけません。
(もちろん、騙されることも快感ではあるけれど)
9.『ラメルノエリキサ』
こいつは昨日読み終えた本なのですが、おもしろかったので、急遽追加しました。
ちょっとミステリーっぽさがある文芸。
完璧に優しくて美しい母親にコンプレックスを抱き、「やられたたらやりかえす」を進上している「復習の申し子」であるハードボイルドJKがいきなり夜道で通り魔に遭うことからさあ大変。
当然ながら犯人に復讐を遂げるため、警察よりも早く犯人を見つけようとするのですが、手がかりは班員がいい子した言葉「ラメルノエリキサのためなんだ」のみ。
さて犯人はだれなのか、動機は? ラメルノエリキサとはなんなのか?
鬼のような行動力でスピーディに突き進む物語は店舗も抜群で、サクサク読んでいけますし、キャラクターもいちいち魅力的。
そしてなにより、復讐劇というフォーマットなのに読んでいてどす黒い感情にはならず、清涼感があってスッキリとした読後感なのです。
10.『翻訳地獄へようこそ』
ベテラン翻訳者によるエッセー本。
ほかの翻訳者の訳文を取り上げつつ、英語から日本語に変換するとき、どういう間違いを犯しがちなのか、翻訳するときにはどういうことをする必要があるのかということがつらつらと書かれている。
翻訳の仕事をしている人からすると「うるせえな」と思うような内容なのかもしれないけど、門外漢の私からすれば「なるほど、こういう間違いを翻訳家の人もするのね」という驚きがあったりして、おもしろい。
ベスト・オブ・ベストは……
今回はちょっと悩ましいけれど、『叙述トリック短編集』。
やはり「してやられた!」感を出してくれるミステリーに出会えるとうれしいもんですね。
それでは良いお年を。