本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『おとしどころの見つけ方』のレビュー

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「交渉」というと普段の生活であまり耳馴染みがないというか、ビジネスシーンだけを連想する言葉だと思います。

ただ、じつは

「あらゆるコミュニケーションは交渉である」

というのは、一理あるのです。

 

そもそも「交渉」とは「話し合いによって何かを決めること」を指します。

なので、晩御飯の献立を決めるのも、デートでどの映画を見に行くのかを決めるのも、相手と自分の考えをすり合わせてコンセンサス(合意)を必要とする場合、それにかかわる会話は「交渉」だといえます。

というわけで今回紹介するこちらの本、『世界一やさしい交渉学入門 おとしどころの見つけ方』が役に立ちます。

 

おとしどころの見つけ方 世界一やさしい交渉学入門

おとしどころの見つけ方 世界一やさしい交渉学入門

 

  

本書の著者はマサチューセッツ工科大学(MIT)留学時にこの「交渉」をテーマに研究することを決め、「交渉学」というものを立ち上げた人です。

ちょっとめずらしい、「交渉の専門家」といえる人ですね。

 

装丁を見ればわかるように、この本は非常にやさしい作り方をしています。
マンガページが多く、ほとんどが物語形式で進行します。

主人公の久地米太(くち・べいた)くんがいきなり宇宙人(ネゴ星人)と遭遇し、なぜかその宇宙人から交渉のイロハを教わるというストーリーです。

ここでは、本書の内容の少し解説していきます。


相手の「利害」を把握する

ベストセラー『嫌われる勇気』で一躍有名になったアドラー心理学では、「目的論」という考え方が出てきます。

これは「原因論」の対になるような考え方です。

 

簡単に説明すると、他人の行動原理を理解しようとするとき、

「この人がこんなことをする原因はなんだろう?」

と相手の原因ベースで考えるのではなく、

「この人がこんなことをする目的はなんだろう?」

と、相手が目指している目的をベースに考えましょうということですね。

 

コミュニケーションが交渉になるのは、相手の主張と自分の主張にずれがあるときです。

そのズレを調整して落とし所を見つけるのが大切になるわけですが、そのためには相手の目的を把握していないといけません。

 

この、相手の主張の背後にある理由のことを、交渉学では「利害」と呼びます。

たとえばランチで、自分はラーメンが食べたいのに、相手が「カレーが食べたい」といって意見が対立している場合。

この場合、相手の表面的な主張は「カレーが食べたい」ですが、それが利害とは限りません。

もしかすると、「今日は寒いから辛いものが食べたい気分だ」というのが相手の真の目的である可能性があります。

であれば、「辛うま担々麺の店に行こう」という提案にすれば、相手も「ラーメン屋にいきたい」という自分の提案を受け入れる可能性があるということです。

 

アタリマエのことですが、交渉とは単に自分の意見をゴリ押ししたり、相手の意見を論破したりすることではありません。

それでは、たとえ自分の主張を相手に受け入れさせても、相手との関係性に軋轢が生じてしまいます。(基本的に、正論で論破するというのは悪手です)

そこで、相手の「真の目的」を明らかにし、自分も相手もうれしい「おとしどころ」を見つけるのが交渉学ということなのです。


大事なのは「BATNA

交渉においてメチャクチャ重要な考え方が「BATNA(バトナ)」というものです。

 

これは

「Best Alternative to Negotiated Agreement」

の略称で、翻訳すると

「交渉決裂時の最良の代替案」

とでもいえばいいでしょうか。

MBAで教えてもらえるらしいコミュニケーションの鉄則です。

 

平たく言うと、

「つねに最悪のケースを想定して、そうなったときの行動を考えておけよ」

ということですね。

ハッキリいって、このBATNAを考えているかいないかで交渉の結果はまったく変わります。

 

たとえば引っ越しをするときに業者にお願いする場合、1社しか検討していなければ、基本的に「その業者に頼むか、頼まないか」の2つしか選択肢はありません。

しかし、3社に同時に見積もりを取れば、相手が提示した見積もりによってはほかの会社にお願いするという選択肢が考えられます。

 

交渉というは、必ずその相手とおとしどころをみつけなければいけないものではありません。

どうしても自分の条件と相手の条件が折り合わないのであれば、決裂させるというのも選択肢のひとつなわけです。

(だからこそ、企業は「代替案がない」ような商品・サービスづくりに躍起になります。たとえば「ブランド価値」というのはほかでは代替できない価値です。アップル社のスマホやパソコンは、たとえ他社のものが性能や見た目がアップル社そっくりでも、「アップル社の製品である」ということは代替できないので、消費者に対して強い態度=高い価格設定で挑むことができます)

 

「最悪の場合は、こうしよう」ということが考えておければ、相手との交渉に余裕を持って臨むことができます。

 

BATNAがない人は、カモにされます。

なにかに焦っている人、「これしか方法がない」と視野が狭まっている人は、交渉において相手のいいなりになるしなくなるということですね。

たとえば、とにかくすぐにお金が必要な人は、消費者ローンの高い金利を飲んでお金を借りなければならないかもしれません。

 

あるいは、「絶対別れたくない」と恋人にベタぼれしている場合、惚れた弱みで相手のワガママに付き合わざるを得ない状況になります。

なお、自分にもBATNAがあるように、相手にもBATNAがあります。
それを把握しておかないと、相手から交渉を破棄される可能性があります。


手の内は簡単に明かすな

引っ越しをしたことがある人は経験があると思いますが、引越し業者に見積もりをお願いすると

「すでに他社でお見積されていますか?」
「他社さんの見積額はいくらですか?」

と質問されます。

よほど相手の営業マンがボンクラでない限り、絶っ対に聞いてきます。

 

これは要するに、お客にBATNAがあるのか、あるとしたらどんなBATNAなのか、探りを入れてきているのです。

ここで、絶対にバカ正直に「○○円です」などと教えてはいけません。

「○○円以下なら即決しますよ」などと答えるのもダメです。

 

たとえばBという引越し業者に「A社さんの見積もりは10万円でした」と伝えたら、それを聞いたB社は「じゃあうちは9万5000円にしますよ」と言ってきます。

もしかしたらB者は9万円まで値引きする用意があったかもしれないのに、競合相手からの見積額を教えてしまったがために

「A社さんより安くしてますから、もうこれ以上は下げられませんよ」

という理屈を言えるスキを与えてしまっているのです。

 

よほど親しい相手とか、信頼できる相手でない限り、自分の「許諾条件」を相手に打ち明けてはいけません。

それを言ってしまうと、相手に足元を見られます。

本書で述べられていますが、相手に自分のBATNAが知られてしまうのは、交渉において「負けが確定」してしまいます。

・自分が本当に望んでいるもの
・本当のデッドライン
・本当の許諾条件

などは相手には曖昧に伝えておくのが鉄則です。


ざっくり駆け足で説明しましたが、本書ではこのような交渉における基本的な姿勢、そしてテクニックを、久地米太くんとネゴ星人の対話形式で事例を交えつつ伝えてくれています。

 

ちなみに、多作なことで知られる明治大学齋藤孝先生の著書『いますぐ使える!頭のいい人の話し方』という本では、頭がいい人のことを「視点の移動ができる人」と定義しています。

 

頭がいい人、悪い人の話し方 (PHP新書)

頭がいい人、悪い人の話し方 (PHP新書)

 

 

つまり、頭が悪い人というのは、「自分の主観でしか物事を見られない人、物事を考えられない人」ということですね。

要するに「視野が狭い人」ってことです。

 

交渉において大事なのは「相手の立場に立って、相手の利害を考えること」であります。

そして、自分の利害と相手の利害を俯瞰的に見て、そのすり合わせをすることが大事です。

口で言うのは簡単だけど、それがなかなかできない、あるいは間違えてしまうから厄介なわけですが、「すべてのコミュニケーションは交渉である」という考え方を念頭に置いて、つねに自分と相手のおとしどころを考えながら話をするというのは、主観で物事を考えるクセから脱するヒントになるんじゃないでしょうか。

 

おとしどころの見つけ方 世界一やさしい交渉学入門

おとしどころの見つけ方 世界一やさしい交渉学入門

 

 

後記

「FFBE幻影戦争」がリリースされましたね。

www.jp.square-enix.com

 

もともと「FFTファイナルファンタジータクティクス)」や「タクティクス・オウガ」などが好きだったので、事前登録までしてけっこう楽しみにしていたのですが、実際にやってみて、うーんちょっとイマイチな感じがしたのが残念でした。

 

ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争 - PSP

ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争 - PSP

 

 

タクティクスオウガ 運命の輪(特典なし) - PSP

タクティクスオウガ 運命の輪(特典なし) - PSP

 

 

ちなみに、配信元はスクエア・エニックスですが、開発元は「誰ガ為のアルケミスト」をつくったgumiという会社です。

なので、レビューにもチラホラ意見が見られますが、マップ等で「誰ガ為のアルケミスト(以下タガタメ)」の使い回しと思えるようなところも見られるらしいです。

 

まあそれは置いておいて、なんで私がこのゲームに対してイマイチのめり込めないのかというのを考えてみました。

 

・ストーリーが浅い

FFTやタクティクス・オウガの魅力というは、壮大なストーリーです。

というよりも、ゲームの中の情勢が複雑すぎて、子どもだとついていけないような話でもありますが、それがよいのです。

今回の「幻影戦争」は、それがちと浅い。

そもそも、王族の兄弟で確執があるというのはまんま「タガタメ」と同じだし、シナリオの進め方がご都合主義なところが多い。

仕方ない部分はあるだろうけど、キャラクターもやたら女の子ばっかりだし。


・育成が複雑すぎる

キャラクターは基本的にガチャで入手数のですが、通常の経験値とは別にJPがあるのはいいにしても、「限界突破」「Jobレベル」「覚醒」などなど、それぞれを上げるために必要な素材が別々なので面倒くさいことこの上ない。

そのうえ、武器などのアイテム強化、装備する召喚獣、さらにビジョンカードなど、もうどのアイテムがどれの強化用なのかわからない。

また、ここが最悪だと思うのですが、キャラクター育成の自由度がメチャクチャ狭いのです。

キャラクターごとにジョブは決まっているし、スキルも、一応自分で取捨選択できるけど、現実的にあまり選択肢はない。

いろいろ複雑なのに、プレーヤーに選択肢がないというのはフラストレーションが貯まるポイントであります。

あとこれは仕方ないところかもしれないけれど、リリースしたばかりで強いキャラクターが数種類しかいないというのも不興。

とくに、メインシナリオで同じキャラクターが出てきてしまうのは、それだけで世界観が崩壊してしまうようでゲンナリします。


SRPGスマホは相性が悪いのかもしれない

マップの上で複数のキャラクターを移動させながら戦略的にバトルを進めていくスタイルは「シミュレーションRPG」と呼ばれるジャンルですが、こうしたゲームの性質は、もしかするとスマホと相性が悪いのかもしれない、ということをプレイしながら感じました。

以前よりスマホの画面が大きくなりつつあるとはいえ、テレビやタブレットよりも小さな画面でマップを確認しながらキャラクターを動かしていくというのはなかなか面倒くさい。

指で移動先を移動させるのもあまりスムーズにできないし、マップの角度を変えたり敵の移動範囲を把握したりするのもちょっとたいへんです。
操作をミスするとそのままターンが終わったりするし。

こういうゲームはやっぱりボタンで操作したほうが良いのかな……、とも。

SRPGの真髄は強すぎる敵(だいたいマップの初期配置ではプレーヤーが不利なところにいる。場合によっては的に囲まれているキャラクターを殺される前に救助しなければならないちおう鬼畜条件がつく)に対して慎重に団体行動をして味方が死なないようにしながら相手を個別撃破していくところにあるのですが、そもそも操作が面倒くさくて、基本的にオードバトルモードにしたくなるというのは自分の中で本末転倒な気がしているのです。

とくに、3Dで背景やキャラクターの造形がむやみにリアルになってしまっているせいで、マップの視認性が悪いというのは困りものですね。

 

まだプレイを初めて1ヶ月も経っていないので年内くらいはダラダラ続けていくつもりですが、どうにもあまりのめり込めないかもな……「戦場のヴァルキュリア」のリマスター版をPS4でプレイし直そうかしらなどと考えています。

 

 

今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。