本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

本のレビューの書き方

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Peingでこんな質問をいただいた。

 

もくじ

 
改めてこう聞かれると端的に答えるのが難しい。
そもそもレビューの書き方に正解なんてない。 けど、いい機会なので、私なりのアドバイスをここでまとめておきたい。
 

レビューとは「説明」である

 
私がいろいろ考えながらこのエントリーを書いてたどり着いた結論
 
「本のレビューは感想ではなく、説明である」
 
だった。
 
質問者のバックグラウンドがわからないので推測の域を出ないが、おそらく質問してくれた方は本のレビューや書評を書いてもなかなか筆が進まないという状況なのだろう。
 
その原因は、本の「感想」を書こうとしているからかもしれない
 
もし、本の感想を書こうと思ったら、たぶんそんなに文章は書けない。なぜかというと、感想は突き詰めていくと「おもしろかった」「おもしろくなかった」だけで済んでしまうからだ。「おもしろかった」という内容にいろいろな形容詞を使って飾り付けることはできると思うけど、それだけだったらTwitterで十分だろう。
(子どものときの「読書感想文」というやつがなんだか書きにくいのも、この“感想文”という名称が悪いんじゃないか)
 
だいたい、わざわざ時間と労力をかけてレビューを書こうと思ったくらいなんだから、そこで紹介している本を書き手がおもしろいと思ったことなんて、読む前からわかっている。
(本を批評しているレビューも、「その本で大きく心が動かされた」という点では賞賛とあまり大差はない)
 

レビューで説明する4つのこと


で、じゃあ感想の代わりになにを書くのか。その答えが「説明」なんだと思う。
説明する対象は大きく4つある。
 
(A)「どういう内容の本なのか」を説明する――事実
(B)「その本のどこをおもしろい(またはつまらない)と思ったのか」を説明する――感想
(C)「本の内容を自分はどう解釈したのか」を説明する――解釈
(D)「その本を読み終えて自分が考えたこと」を説明する――自論
 
以下、(A)から順番に説明していくが、(A)~(C)あたりは渾然一体としているので、あまり明確には分離できないことは事前にご了承いただきたい。


(A)「どういう内容の本なのか」を説明する――事実

 
レビューを読んでいる人が紹介している本を読んでいるかどうかは確認できないので、基本的には「その本を読んでいない人」を対象に書くべきだろう。
 
であれば、まずはその本について紹介しなければならない。
説明するポイントはフィクションかノンフィクションかでけっこう違うと思うので、以下、それぞれ分けて考えてみる。


フィクション系

小説やマンガなどの場合、外したくないのは以下の項目。
 
(a)あらすじ
(b)ジャンル
(c)ボリューム
 
ひとつずつ説明していこう。

(a)あらすじ
 
これは一番簡単だしわかりやすい。
注意する箇所があるとすれば、長くならないようにすることと、ネタバレしないことくらいだろう。
 
たとえば私が昨日読み終えた『幼女戦記』はこんな感じ。

 

幼女戦記 1 Deus lo vult

幼女戦記 1 Deus lo vult

 

 

冷酷無比なビジネスマンだった主人公はリストラした社員の恨みを買い、駅のホームで突き落とされて電車に轢かれ命を落とす。だが次の瞬間、彼は創造主を名乗る「存在X」と対話し、なぜか魔法が存在する近代ヨーロッパによく似たパラレルワールドに、小さな女の子「ターニャ・デグレチャフとして転生させられ、帝国軍人になってしまうのだった。
持ち前の頭脳と会社員ならではの処世術、サイコパスな神経、そして存在Xから与えられた絶大な魔力を駆使して軍でどんどん出世する幼女ターニャ。しかし勝てば勝つほど戦況は拡大し、やがて戦況は世界大戦の様相を呈し始める……。
 
このあらすじで私があえて書かなかったのは「なぜ主人公は、幼女として異世界に転生させられることになったのか」という部分。ここを書くとちょっとあらすじが長くなるし、この本におけるキモなので、「そこは自分で読んでみてね」という意図もある。
 
ただ、あらすじをイチから書くのってけっこう大変なので、面倒だったらAmazonなり出版社のWebサイトなりをコピペして、自分なりに加筆修正して問題ない。

(b)ジャンル
 
これは個人的にめちゃくちゃ大事だと思うポイント。言ってみれば、その本にタグをつける感じだ。
 
たとえば、このブログ記事にも「本」「その他」などカテゴリータグがついている。これがあると、読んでいる人はどういう本なのかイメージしやすくなって安心する。その本はミステリーなのか、SFなのか、ファンタジーなのかをちゃんと説明したほうが親切だ。
 
ジャンル分けは細かいほうがいい。たとえばミステリー作品だったら
 
・私立探偵もの
・刑事もの
・検事、弁護士もの
・素人探偵もの
 
などの分け方ができるし、
 
・トリック重視のパズラー系
・ヒューマンドラマ重視系
・社会問題にからませた社会系
・くだらなさ全開のバカミス
・人が死なないほのぼの日常系
 
などの分け方もできる。
もっともっと細かく言えば
 
・密室モノ
・時刻表トリック
・エログロ描写がある
・ギャグ要素が強い
・いわゆる「探偵役は変人」系
 
たとえば『幼女戦記』なら、こんな感じ。
 
主人公最強で「俺TUEEEE」系のハードミリタリー異世界転生ファンタジー
 
「主人公最強」と「俺TUEEEE」は同じ意味だけど、ニュアンスが違う。
「俺TUEEEE」という言葉はいわゆるオタクやギーク系の人じゃないと通じにくい言葉であり、同時に「主人公の驕慢さ」も含有している。この2つの言葉を並べることで、あまりラノベやアニメをたしなまない人でもすぐわかるようにしているし、わかる人にはシニフィエを共有させる。
本質的には同じ意味を持つ言葉でも、その言葉が持つニュアンスも意識して選びたい
 
もうひとつ、さりげないけど大事なワードが「ハード」だ。
「俺TUEEEE」で表現される作品はライトノベルが多くて、主人公は大体いろいろな女性キャラクターにモテる。
しかしこの『幼女戦記ではそういう軟弱な色恋沙汰は皆無である。そもそも女性の登場人物は主人公を含めて2人しか登場しない。それ以外はすべてオッサンで、基本的には戦争!戦略!戦術!の話しかしていない。
 
ここに関しては、既存のジャンル分けに囚われる必要はない。
出版社やほかの人がある作品について「これはラブロマンスだ」と言っていても、自分がサスペンスだと感じたなら「これはサスペンスだ」と紹介してしまっていいのである。この部分は(C)の解釈にも該当する)
 
なんだったら、自分で勝手に言葉を作って新しいジャンルを作ってしまってもいい。『幼女戦記』については、こちらの記事で述べていたライトノベルならぬ『ヘビーノベル』」という表現もいいなあと感じた。

(c)ボリューム
 
ここをけっこう書かない人が多いように思うけど、あったらうれしい。
そもそもその本は短編集なのか、長編なのか。長編だとしたらどのくらいのボリュームがあるのかが説明されていると、「読むのにどのくらいの時間と労力が必要そうか」がわかる。
 
プラス、個人的には読みやすさが書いてあるといい。
同じペース数でも、改行が多い文章と少ない文章ではぜんぜん読むスピードが変わる。風景や心理描写など、物語の進行と直接的には関係ない要素の量もある。使われている用語の難しさや、どのくらい丁寧に説明してくれるかもだ。
 
幼女戦記』でいえば、この作品はページ数が多い上に内容もギッチリ詰まっていて、しかも単体で物語が完結していない。スター・ウォーズでたとえればインペリアル級スター・デストロイヤーだ。

 

 


しかも、異世界の国際情勢や科学技術の発展度合いなどの設定が細かく考え抜かれているので、そのあたりの説明描写も多く、軍事用語やビジネス用語が頻出し、たまに古式ゆかしい言葉も使われていて、お世辞にも「読みやすい」とは言いがたい。いちおう、章ごとに専門用語の解説がついていたりするが、それなりに予備知識がないとつらいと思う。
 


ノンフィクション系

ビジネス実用、思想・人文系の書籍の場合は、以下の項目。

 
(d)著者
(e)テーマ
(f)メッセージ
 
これもひとつずつ説明していこう。

(d)著者
 
ノンフィクション系の場合、「そもそも誰がこれを書いているのか」が大事だ。カバーの袖や奥付などを見れば著者のプロフィールが載っているがもしだったら著者の名前で検索して追加情報を書いたほうが丁寧ろう。あと、なぜその本を執筆することになったのかという経緯もあるといい。
 
本のプロフィールはゴチャゴチャしていてわかりにくいことが多いので、必要な情報だけに絞ろう。
 
たとえばこのあいだ読んだ『未来の年表』の著者、河合雅司氏。本の袖では次のように説明されている。

 

 

1963年、名古屋市生まれ。産経新聞論説委員拓殖大学客員教授大正大学客員教授中央大学卒業。専門は人口政策、社会保障政策。内閣官房有識者会議委員、厚労省検討会委員、農水省三者委員会委員などを歴任。2014年、「ファイザー医学記事賞」大賞を受賞。

いやわかりにくいわ! どういう人なのかサッパリわからん。
これを私なりに紹介するなこんな感じ。
 
もともとは産経新聞の政治部などで記者をやっていたジャーナリスト。いまは同社の論説委員をやったり、政府の有識者会議に出席したり、大正大学客員教授に就任したりして、人口政策・社会保障政策を専門としている。
あとがきによれば、産経新聞に連載していた人口減少の提言コラムを見た講談社の編集長が依頼したのが、この本を書くことになったきっかけらしい。

(e)テーマ
 
どういう人たちに向けてどんなことが書いてある本なのか、ということ。フィクションでいうところの「あらすじ」に近い。
ビジネス書だったらタイトルだけ紹介すれば自然とこのテーマもわかるようになっているものが多いが、社会・人文系の本だとタイトルだけではわかりにくいので、そこを補足説明する必要がある。
 
たとえば『未来の年表』だけだとちょっとわかりづらいが、サブタイトルを見ればわかる。
この本のサブタイトルは「人口現象日本でこれから起こること」だ。
 
蛇足かもしれないが、当然ながらポジティブなことが書いてあるわけではない。「2020年には女性の半数が50歳を超える」とか「2033年には3戸に1戸が空き家になる」とか、人口が減り続ける日本でどのような問題が発生するのか、そしてそうした問題が発生するのを防ぐにはどうすればいいのかを書いてある本だ。
(間違えてはいけないのは、現在進んでいる少子高齢化そのものはもう誰にも止められない、ということ)
 
また、本によってはタイトルなどから受ける印象とは異なるテーマが中味では展開されることもある。マネジメントの本かと思ったら、意外と内容はコミュニケーション術の本だった、ということもある。(単なる著者の宣伝本であることもある)
 
フィクションにおける「ジャンル」と同様に、その本がなにについて書かれているのかは、読者によって変わってくる。たとえそれが著者の意図したことと違っていたとしても、「自分はそう受け取った」と書くことはまったく問題ない。これも書き手の「解釈」が加わってくる)

(f)メッセージ
 
ノンフィクションの本の場合、著者は何かしら読者に伝えたいことがあって本を書いているはずなので、そこも紹介したほうがいい。ただし詳細に書きすぎると「ネタバレ」になり、その本を読んでみようという気持ちを削ぐので、書きすぎには注意したい。
 
『未来の年表』の場合、著者が訴えているのは「もっとみんな、日本の少子高齢化を真剣に考えようよ!」ということである。
一応、本の後半では著者なりの対応策が「日本を救う10の処方箋」として書かれているが、別にこの10の方法が実現されれば本当に日本がどうにかなるのかは誰にもわからない。これはあくまで、河合氏という一個人のアイディアだからだ。
※ここで「日本を救う10の処方箋」を一つずつ詳細に書いていくとネタバレになってしまう
 
著者としては、読者が自分の発案に賛成しようが反対しようが、それはたいしたことではない(たぶん)。なぜかというと、大切なのはこの本をきっかけにして一人でも多くの人が、現在も進行している少子高齢化という問題を自分ごととして考えることそのものだからだ。
 
 

(B)「その本のどこをおもしろい(またはつまらない)と思ったのか」を説明する――感想

 
さて、ここまで書いてようやく次にいける。ここの部分からがいわば「感想」だ。
 
「この本はここがおもしろかった。なぜなら~~~だからだ」
 
という部分になる。
 
ただ、この部分は(A)を書き終えた時点ですでに書いてしまっていることも多いと思う。なぜかというと、多くの場合、おもしろいと思う部分こそがその本を特徴付けているはずだからだ
 
たとえば私が『幼女戦記』でおもしろいと思ったのは、緻密な異世界設定とリアリティのある戦争描写だ。
そこに「幼女」「魔法」「俺TUEEEE系主人公」などの要素を組み込んで絶妙なバランスでエンターテイメント化しているが、コミック版やアニメならいざ知らず、テキストだけの小説ではそのギャップは意識しづらい各キャラの特徴もすごく際立っているわけでもないし)にもかかわらず楽しんで読めるのは、地の設定がしっかりしているからだろう。
 
『未来の年表』の場合、テーマや著者の主張はさほど目新しいわけではないが、少子高齢化という誰でも知っていている問題を「年表」というかたちで、超具体的に目に見えるように解説して改めて問題提起したアイディアによるおもしろさがある。単に「これから少子高齢化社会が進むよ!」といわれても、みんな「そんなの知ってるよ」とスルーされてしまう。

「年表」という言葉もよかった。年表というのは普通、過去に起きた「事実(※)」を並べるものだ。それを未来にも適用することで、あたかもこの「未来の年表」に書かれていることはすでに起きることが確定している「事実」であるように印象付けることができる。
※歴史の年表に書かれている過去の事柄がすべて「事実」であるかどうかについては、いろいろな意見があると思うけど
 
つまりここでは、【(A)「どういう内容の本なのか」を説明する】で述べたその本の特徴をベースに、自分が特に気に入ったポイントだけを抜粋して加筆するイメージだろうか。

その意味では、(A)を先に文章で説明しておくことは、単に読者にとって有益なだけではなく、書き手も自分がおもしろいと思ったポイントを整理しやすくなるというメリットもあるのかもしれない。
 
あと、もしもその本の本筋ではないところで、とくに自分が気に入った箇所があるなら、それを書くのもアリだ。
たとえば『幼女戦記』において「ゼートゥーア准将とルーデルドルフ准将のカップリングが最高すぎる」というのもここで書ける。
 

(C)「本の内容を自分はどう解釈したのか」を説明する――解釈

 
ここはぶっちゃけ、書かなくてもいい。前述の(A)と(B)さえ書いてあれば、本のレビューとしては十分成立すると思う。
 
ここではなにを書くのかというと、直接的にはまったく書いてないけど、たぶん著者はこういうことが言いたいんじゃないかなー」とか著者がじつは裏テーマとして掲げているのはこういうことだろ?」という、勝手な解釈である。
 
この部分については、私も書ける本と書けない本がある。
 
幼女戦記』はとくに書くところがない。というのも、この作品はエンターテイメントとしてしっかりカッチリ作りこまれているからだ。フィクションの場合は村上春樹氏のようなとらえどころがない純文学のような作品だったらいろいろ書けるだろう
 
『未来の年表』については、年表の最後が「外国人による国土占拠」という項目で終わるのもさもありなんという感じがする著者が産経新聞の人だからという先入観があるからかもしれない)

この部分で気をつけるとしたら、著者個人の人格を攻撃したり、政治・宗教系の話題に覚悟もなく突っ込むことだろうか。解釈は自由だが、火傷はしないようにご注意を。
 

(D)「その本を読み終えて自分が考えたこと」を説明する――自論


ここは(C)よりもっと必要ない。私もブログを書いていて、ここの部分まで言及することはあまりない。この部分になると、もはやレビューの範疇を超えてくる
 
たとえて説明するなら
 
●『幼女戦記』を皮切りにして、ライトノベルの皮をかぶった重厚長大な男くさい新たな小説のジャンルが今後は云々
 
●そもそも日本のフィクションにおける「魔法」という言葉の位置づけは云々
 
●『未来の年表』では人口減少ばかりが問題点だけが問題点として取り上げられているが、それよりも日本の問題は云々
 
などなど。
 
 
 
以上!
 
突貫工事で書き上げたので文章が雑然としているが、おおむねこのあたりのことを意識して文章に組み込めば、本のレビューを書くのが楽になるんじゃないかなと思う。
 

その他のアドバイス

 
最後に小技として、タメになるかもしれないことを。


1.たくさん読め

私がブログでレビューを書くのは10冊に1冊程度だ。なんでかというと、残りの9冊は「とくに書くことがない」から。
 
当たり前だけど、レビューを書けるのはなにかしら心に響いた本だけであり、読んだすべての本がこれに該当するわけじゃない。そもそも読んでいる本が少なければ、レビューを書くだけの本に出会う確率も低くなる。
 


2.引用を入れとけ

本の一部を抜粋して引用箇所を加えておくと、レビュー全体にメリハリが出る。レビューを読んだ人も、紹介されている本がどんな感じの文章なのかがわかって親切。
 


3.リファレンス(参照)作品も入れとけ

ある本のレビューを書いている途中で、「この本はこの作品と似ている」「こういう作品が好きな人にお勧め」など、ほかの本のタイトルを持ち出して比較すると、どういう作品なのかというイメージが伝わりやすくなる。
 

4.賞賛してるときこそダメ出し

これもレビューにメリハリを出す手法。ダメなところがない作品なんてまず滅多にお目にかかれないので、良くなかったところをあえて挙げるとよい。逆に批判している作品の場合は「でもここは良かった」という良い点を述べる。
同じポイントでもいろいろな言いかえができる。たとえば「メチャクチャ長いので読むのが大変」とも言えるし、「メチャクチャ長いので読み応えがある」とも言える。
 

5.読書シーンを想起させよ

私はあまり使わないけど、〆の文章に困ったらこれ。たとえば
「秋の夜のお伴にピッタリ」
「落ち込んでいる人にこそ読んでほしい」
などなど。


6.ほかの人の文章をトレース 

これはライターさんとかがよくやる練習法だが、もしも目指すようなレビューの文体がある場合、その人の文章を一字一句、目で追いながら自分で打ってみる練習がある。写経みたいな感じだ。
私はやったことがないけれど、これを律儀に続けていくと、いつのまにかそのような文章が書けるようになるらしい。

 

 

というわけで今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。