『ディベートの達人が教える説得する技術』のレビュー~超絶ディベートチャンピオン、キング・リュウキが教えてくれたこと~
昨年末、久しぶりに大学の友人(+その友人の会社の同期)と麻雀をした。
もくじ
結果は負けである。ビリではなかったのでぼろ負けではないが、金をむしりとられた。また、たまーに将棋を指したりするが、おそらく通産では負け越している。よくよく考えれば、私は学生時代から互いに火花を散らして戦うスポーツが苦手だった。サッカー、バスケ、柔道などなど、あまり勝てた記憶がない。とにかく、勝負事が苦手なのだ。「勝ちたい」とか「負けたくない」という意識が薄いのかもしれない。
というわけで、私は議論も苦手だ。とにかく、相手を説得するということができないのだ。「意見が違う相手はスルーする」というのが基本的なスタンスであり、自分の言葉によって相手の考え方や行動を変えようという意志が乏しいのだろう。
こうした性格、ブログを書く上では別に困らないのだが、仕事となるとちょっと困ったことが起こったりする。ビジネスの現場では往々にして相手を説得したり、自分の意見を通す必要に駆られるシーンに出会うからだ。たとえば、自分が自信満々で作った企画書を見た上司が渋面を作っているときとか、こちらの原稿内容修正依頼に従ってくれない著者と対峙したときとか・・・・・・私はそういうのが苦手である。
太田龍樹氏について
だから、というわけではないのだが、こんな本を読んだ。
ディベートの達人が教える説得する技術 ~なぜか主張が通る人の技術と習慣~
- 作者: 太田龍樹
- 出版社/メーカー: フォレスト出版
- 発売日: 2006/05/20
- メディア: 単行本
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著者の太田龍樹(おおた・りゅうき)氏は「BURNING MIND(バーニングマインド)」というNPO法人の代表を務めている人物で、明治大学在学中に同名の団体を創設してからずっとディベートに磨きをかけている。以下のページによれば、ニックネームは「キング・リュウキ」というらしい……………。キング!!
ちなみに、このNPO法人の理事長はあの出口汪(でぐち・ひろし)氏。最近だとこんな本が記憶に残っている。表紙のイラストを飾っているのは『マンガでわかる心療内科』シリーズでおなじみのソウ氏。
さて太田氏に話を戻すが、本書の帯のプロフィールには「BMディベートキング防衛」「BMディベートマニア5連覇」などと一見華々しい受賞歴が書かれている。が、なんのことはない、BMとはバーニングマインドの略称であり、つまりは自分で設立した団体が主催する大会で自分がいっぱい勝っただけの話である。とはいえ、実際にソニー生命保険でコンサルティング営業に従事してバリバリ営業として活躍していたらしいし、企業や大学などでディベートの講師も務めているので、論戦の強さは確かだなのだろう。
ちなみに、本書の「はじめに」部分で太田氏は自分のことを「ディベートキング」と称したり、「私は勝ち続けるほどに支持を得てきた」「誰も私を非難することはない」「見ていて聞いていて気持ちがいいと、聞き手は思ってくれるのだ」などと書いている。
自分のディベート術および自分自身についての自信が本から滴り落ちてきそうなほどに伝わってくるが、ここまで明け透けに自慢されるとかえって清清しく、好印象を抱く(のは私だけだろうか?)。もしかしたらこうした感情を抱いていることが既に太田氏の術中にはまっていることになるのかもしれないが、とりあえず今回は本書に基づいて私なりにまとめなおした説得術のポイントを書き連ねていこう。
1.人を見たらウソツキと思え!
相手を説得するためには、まず相手の話を聞くことが大切だ。そして相手の話を真剣に聞くためには、相手の主張を疑い、「なぜ」という疑問を持つ癖を日ごろからつけることが大切らしい。太田氏はこのように述べている。「人を疑わずして、話し上手になることなし。」
また、ある論点について意見を述べるとき、「そもそも○○とはどういうことなのか?」という、根本的なところに疑問を持つことも大切だとしている。すると、そのテーマに対するブレない基本スタンスが固まるというのだ。
2.失敗を恐れるな!
説得がうまくいかない人は、多くの場合「説得に失敗する」ことを恐れている。失敗したら恥ずかしいから、思い切って相手を説得することができないのだ。これは、振られるのが怖いから告白しないのと同じである。失敗すれば、それはまたその人の糧になる。「失敗」を経験することが、話術上達の最初にして最小の壁なのである。
3.自分の見かけとのバランスをとれ!
太田氏はひとつの公式を提示している。それが以下だ。
話し手のイメージ =「見かけ」 × 「声」 × 「外にあふれる情熱」
「外にあふれる情熱」をどうやって測るのかはあまりちゃんと説明されていないのでよくわからないが、体の線が細い人はがっしりとした筋肉質の人よりもよりハキハキとした大きな声を出したほうが良いということらしい。あとは、テレビなどで話し上手な人からモデルを選ぶのも良いとのこと。
4.情報収集を怠るな!
自分の主張を通すとき、論的な思考力よりもまず大切なのがネタだ。自分の主張を裏付けるような引き出しが多ければ多いほど、相手のさまざまな反論にも対処し、自分の言っていることの説得力を増加させることができる。そして、このメカニズムはよくわからないが、「聞いている相手はあなたの話に感動をしてくれるはずだ」と太田氏は述べている。そうらしい。
5.仮説を立てて自分で反論しろ!
情報収集によって材料が集まったら、次はそれらの材料を組み合わせて仮説を作っていく。そして忘れてはならないのが、自分で立てた仮説に対して自分で反論をして、「分析 → 比較 → 検証」という作業を行うのである。また、ターゲット(説得相手のことを本書ではこう呼ぶ)の性格やどのような思考傾向を持っているのか調べ、相手が繰り出してくるだろう戦略を予想しておくことも重要とのことだ。
6.反論には必ず対案をセットにしろ!
自分の主張に対してターゲット(上司や顧客)が反対意見を述べてきた場合、それをただ否定しては相手に悪印象を与えるだけだ。相手の反対意見が自分にとって受け入れがたい場合、かならず自分が反論している「理由」と、対抗しうる自分なりの考えをセットにすることが大切だ。ちなみにこの具体例として、「野比のび太とペ・ヨンジュンはどちらが眼鏡が似合うか」という、果てしなくどうでもよい論争を挙げている。
7.説得したい相手を徹底的に分析!
論戦には必ず勝てる黄金律はない。相手の性格、年齢、性別、出身地、学歴、立場、知識の深さなど、相手がどのようなステータスを持っているのかを把握できていなければ、その相手に効果的な言い方を選別することはできないのだ。
8.キーパーソンを見極めろ!
これは会社で働いた経験がある人ならわかることかもしれないが、「実質的な決定権を持っているのが誰か?」を見極めることはチョー大切だ。肩書的には部長が決定権を握っていても、じつは部長が意思決定をする際に次長の意見を重視するのであれば、部長よりもむしろ次長を味方につけることが大切になる。本書ではキーパーソンの特徴として「声が大きく存在感がある」「年長者である」「プライベートの親交具合」などをチェック項目として掲げている。
また、大勢の前で話をしなければならない場合も、「味方を見つける」ことが大切だと太田氏は述べる。観衆が利き手である場合、自分の話を真面目に聞いている人は少数派だ。しかし、なかには真面目に自分の話を聞き、熱心にうなずいてくれる人もいる。緊張して視線をどこに置けばいいか迷ったら、そうやって自分の話を聞き、うなずいてくれる「味方」をみつけて、そこに目線を送ればいいのだ。
9.ミラクルワードを駆使すべし!
話すうえで、「この言葉を入れれば相手の興味を引く」というミラクルワードを太田氏は紹介している。その一部を引用しよう。
「信じられないほどの」
「なぜかと言うと」
「センセーショナルな」
「私からいわせてもらえば」
「証明されている」
10.場の空気を支配しろ!
話す内容や言葉遣いも大切だが、「場」も説得には大きな影響を及ぼす。会社の場合、ほかの社員がいるフロアで話すのがいいのか、別室に連れ出したほうがいいのか、はたまたランチタイムがいいのか……などだ。もちろん、相手の反応が芳しくない場合、勇気ある撤退、すなわち仕切り直しをするのも有効である。
11.権威は徹底的に利用すべし!
自分のいっていることの内容に説得力を持たせるためにはエビデンスが大切だ。ではどんなエビデンスを用意すればいいのか? その答えは「権威」にある。松下幸之助といったビジネス界の巨人や、プロのスポーツ選手、政府や大学の調査結果などなど、世間一般で信頼されている人・団体が自分の考え方と同じ行動をしていたり、自分のような考え方を支持していることを示せれば、話し方に風格が出てくるらしい…。
12.「エー」「アー」を有効活用する「キング・スペシャル」!
田中角栄は「まぁ、そのぉ」という枕詞を用いたように、言葉を出す前の発声は必ずしも悪いものではない。とはいえ、連発しすぎると頭の回転が悪いように見えて相手には悪印象だ。そこで、太田氏は自ら名付けたカッチョイイ技名「キング・スペシャル」なる技を紹介してくれている。こんな感じだ
①エー
②かみ殺す
③沈黙が生まれる(その間が心地よいリズムを生む)
④周りを見回す(その静寂に、聴衆がはっと顔をあげて、あなたを見る)
⑤そこで、次の言葉を発すれば、必ず注目して聞いてもらえるのだ
これは、「誰でもできる高等テクニック」らしい。なんかこの言葉は矛盾してる気もするが、気にしてはいけない。
13.必殺「リュウキ・チョップ」「リュウキ・パンチ」!
言葉以外にも、体はモノを語る。相手との距離、顔の向き、姿勢などは、相手に対する印象を大きく左右する。自分の意見を通したいのであれば、自信のある姿勢を相手に見せることが大切だ。
さらに、声質も気にかけなければならない。声の大きさはもちろん、レコーダーなどで自分の声質を分析して相手にどのように聞こえるのか、把握しているのが望ましい。それ以外にもしゃべるリズム、アクセント、スピードなどにも気にかけたい。
そしてここで太田氏が伝授してくれるのが、伝家の宝刀「リュウキ・チョップ」だ。手はもちろん、非常に有効なボディランゲージであるが、要は「手を縦に振り下ろす」動作のことである。こういう、いちいち名前をつけちゃうのがかわいい。さらに、コブシを縦に何度も振り下ろす「リュウキ・パンチ」もある。これで相手をノックアウトだ。太田氏は語る。
そしてその際、自分が話している内容に合わせて、手を、腕を、指を、あたあも指揮棒をふっているように動かすのだ。
そう、コンダクター(指揮者)の気分である。
アリストテレスも参考にしよう
太田氏は終章において、自分はアリストテレスの弁論術も参考にしていると述べている。そういえば、こんな記事も書いたなぁと思いだした。
議論はスポーツである
このように、読んでいるとなかなか噴飯ものの内容もあるが、それをふくめておもしろい一冊だった。勢いだけで書いているような文章だが、案外こういう本、嫌いじゃないぜ。
そして、徒花的に太田氏に好感を抱くのは、彼が「相手も幸せにする議論」を望んでいるという点だ。彼はもちろん議論での勝利に心血を注いでいるような人物ではあるが、徹底的に相手を叩きのめし、潰すことを目的としているのではない。ただ、相手と意見をぶつけ合い、それにより良い結果を持たらすことを目的としているのだ。だから太田氏はディベートの場でも、議論が終われば必ず相手と握手をするという。彼にとって、ディベートというのは言葉を使った格闘技……すなわちスポーツなのである。
おわりに
日本人は議論が苦手とされているが、個人的にはその要因のひとつに「戦う相手を区別できていない」という点があるのではないかと思う。たとえばある仕事で意見の対立が生まれてしまうと、その対立がそれとは関係ないすべての仕事や、飲み会などの職場外にまで影響してしまうのだ。なにかに反対し、批判するのであれば、「人」「意見」「行動」をそれぞれ区別して、どれに反対しているのかを自分自身がわかっていなければならない。そうしないと、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ということになりかねないのだ。
牌を憎んで人を憎まず。
それでは、お粗末さまでした。