『魔法のコンパス』を読んで川村元気氏を思い出すの巻
死のふちから無事に生還した徒花です。
もくじ
『魔法のコンパス』
それはさておき、今回紹介するのはこちら。
この間は『アメトーーク!』にも「スゴイんだぞ!西野さん」というテーマが放送されていたので、とりあえず話題になっている一冊だ。
ビジネス書というより真正面から自己啓発書
個人的にはなかなか楽しめたが、Amazonなどのレビューをザッと見ると、西野氏がネットに公開している文章や動画の内容を単にまとめなおしただけ……なようなので、もともと西野氏のファンで彼の一挙一動を追いかけていた人には、特に目新しい内容はないのかもしれない(そういう人はもう購入しているのだろうが)。
で、ジャンルだが、帯にはこう書いてある。
「泣けるビジネス書!」
“レールからハミ出す人のためのビジネス書”
最近はビジネス書と自己啓発書の垣根がどんどん低くなってきているので一概に断定できかねるところだが、徒花的にはビジネス書というよりも自己啓発書と表現したほうが正確ではないかと思う。
ビジネス書と自己啓発書の境目はどこか
ビジネス書と自己啓発書の境界線はヒジョーに曖昧でモコモコっとしているのだが、すごく乱暴に言えば「ビジネス書に見えるものがビジネス書」なのだ。
というのは、書店員さんはこの本を見てどこの売り場におくべきかをぱっと判断するからである。
そこで「ビジネス書だな」と判断されればビジネス書のコーナーに置かれるし、「自己啓発書だな」と判断されれば自己啓発書コーナーに置かれ、「タレント本だな」と判断されればタレント本コーナーに置かれる。*1
もしくは、「即効性の有無」も両者を分かつものかもしれない。
もちろん、本質的に考えれば本のジャンル分けもそんなに意味があるものではないのだが。
内容に目新しさはそんなにない
さて内容はというと、
・なぜテレビに出演するのをやめたのか
・なぜ絵本を作ることにしたのか
・なぜ自分はネットで炎上するのか
・なぜ「村を作る」という酔狂なことを言い出したのか
などの経験を交えながら、自身の哲学に乗せてこれからの時代をハッピーに生きるための西野さんなりのアドバイスを送る一冊となっている。
本書を貫くメッセージはいくつかあるが、その根幹を成しているのは
「自分がやりたい、おもしろそうと思ったことに素直になってやっちゃおうZE☆」
ということだ。
それ(つまり、自分が今やっていることが本当に自分がやりたいと思っていることなのか)を見極める基準が「ドキドキしてる」なのである。
このメッセージ自体は、それほど目新しいものではない。
古い本だとマイク・マクマナス氏の『ソース』という本でも主張されている。
こちらは「ドキドキ」ではなく「ワクワク」という言葉を使っているが、主張内容自体はほぼ同じだ。
- 作者: マイク・マクマナス,ヒューイ陽子
- 出版社/メーカー: ヴォイス
- 発売日: 1999/10/01
- メディア: 単行本
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もっと最近の人で言えば、四角(よすみ)大輔氏も同じようなことを伝える本を書いている。
自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと (Sanctuary books)
- 作者: 四角大輔
- 出版社/メーカー: サンクチュアリ出版
- 発売日: 2012/07/12
- メディア: 単行本
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問題は内容に「説得力」があるか
と、このようにメッセージそのものに目新しさはないのだが、それでも徒花がおもしろくこの本を読めたのは、ひとえに著者である西野氏が実体験を元に具体的な話を出しながら書き進めているからだ。
正直、自己啓発というのは最終的に行き着くところはどの本でも同じである。
富士山の山頂を目指すのに、静岡側から登るか山梨側から登るかの違いくらいである。
だからぶっちゃけ、自己啓発書である以上、結論がほかの本と似通ってしまうのは仕方がない部分もある。
そこで問題となるのは「誰が書いているのか?」「そこに説得力はあるか?」ということだ。西野氏はこの点でアドバンテージがあった。
まず、彼はかつて放送していた人気番組『はねるのトびら』のレギュラー出演者としてテレビに出ていたので抜群の知名度がある。
そして芸人(ここでいう芸人は世間一般が指すところの芸人である)として芸能界やテレビ業界などでさまざまな経験を積んでいるため、おもしろエピソードをたくさん持っているのだ。
さらに、西野氏は何度もネット上で炎上しているから、その辺でも知名度があり、なんだかんだでやっていることが話題にされやすい。
実際に口だけではなく行動に移し、結果を出している。
だから、批判もされるかもしれないが、少なくともその主張に対する裏づけと説得力を持っているのだ。
本書の気になる2つの点
というわけで内容自体はいいのだが、個人的に気になる点があった。
それは
●「~だよね」「~じゃないかな?」「~じゃんね」など、ところどころ文末で馴れ馴れしさをかもし出してくる
●冒頭でいきなり自分とまったく考え方の異なるナインティナインの岡村氏との軋轢の話から始めるなど、たまに自分と価値観の違う(もしくは古い価値観?を持っている人々)を揶揄するような表現がある
の2つ。
おそらく西野氏の発言が炎上してしまうのは「世間一般の価値観と主張があまりに乖離しすぎている」のに加えてこの辺りに原因があるのではないかと思う。
あえて付け入る隙を与えているのか
が!
これももしかしたら西野氏なりの戦略の一環なのかもしれない。
本書でも述べられているが、西野氏は「無風が一番しんどい」と考えている。これはつまり賛成も批判もされない状態だ。無視されるくらいなら、まだ大々的に批判されるほうが何かをしようと思っている人間には好都合なのである。
本書を読む限り、西野氏はアイデアマンであると同時に優秀なプロデューサーでもある。
つまり、周囲の状況を細かく察知しながら他人をうまく誘導して自分のやりたいことを実現させるのが得意なんだろうとうかがい知れる。
となれば、あえて馴れ馴れしい言葉遣いをしたり、自分と違う考えの人を「古臭い」とディスったりするのも、付け入る隙(批判できる材料)を読者に与えているのかもしれない。(もちろん、そんな意図はなく、天然なのかもしれない)
本書でもこの戦略については述べられている。
西野氏流にいうと「マズ味調味料」だ。
あえて反対意見を与えられそうな要素を加えることでバズらせる……ある意味で「炎上マーケティング」に近い。
なんとなく、川村元気氏にも似ている
西野氏はまだいろいろなことを試している研究段階のようだが、「どういうことを言えば世間の人たちがどういう反応をするのか」を彼はある程度考えて行動している。
個人的に、これをもっとひっそりと成功させていると思うのが川村元気氏である。
私もこの小説は読んだが、端的に言えばつまらなかった。
だが、この本は売れた。
なぜなら、この本のストーリーや登場するキャラクターたちは、まさに読者が求めていそうなものを非常にうまいバランスで組み合わせて作られているからだ。「ネコ」「消える」「死期の悟り」「死神」「ピュアなラブロマンス」など、鉄板的な要素を組み合わせて女子が喜びそうな物語に仕立てている。
ちなみに、川村氏はウルトラヒットした映画『君の名は。』もプロデュースしている。
私は川村氏に会ったことはないが、面識のある映画関係者の人の話を聞くと、「川村さんはめっちゃネガティブ」なのだという。
どういうことかというと、ちょっと面白そうなアイディアが提案されても「でも~だからダメだ」「ここが~だからダメだ」などと、とにかく悪い点ばかりを見つけていくのだそうだ。
そして、そうやってダメなところを見つめ、最後の最後に残った部分だけを集めてアイディアを構築していくのである。西野氏とはベクトルが違うかもしれないが、「こうすれば人々はこんな風に感じるだろう、そしてこう行動するだろう」というのを観察しきっているのである。
おわりに
最近は明晰夢の本などを読んだりもしていたのだが、思うに「現実を現実だと判断する方法はない」ということをボンヤリと考えたりする。
- 作者: チャールズマックフィー,Charles Mcphee,石垣達也
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/11
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 63回
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※ただし、この本はおもしろくなかったのでおススメできない
明晰夢というのは「これは夢だ!」と気付いている夢のことなのだが、私たちは普段、生活していて「これは現実だ!」と認識はしていない。
そうすると何が夢で何が現実なのかを明確に区別することはできなくなって、もしかしたらこの原稿を書いている私は夢の中にいて、このブログを読んでいる読者がいるというのも単に私の意識が生み出した妄想なのかもしれないとか考えたりする。
それと同じように、私たちは普段「自分は生きている!」と認識しながら生活しているわけではないので、つまり自分が生きているのか、それとも死んでいるのかは確認のしようがない。
ということは、このブログを書いている私がじつはもう死んでいる可能性だってゼロではないわけだ。だからなんだという話だが、「とりあえず私はまだ生きている」という前提でこれからはブログを更新していくことにする。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。
*1:そして、書店のどの売り場に置かれるかはかなり本の売上に影響を与えるため、編集者は本のタイトルと装丁にかなり気を遣う