じゃあ、お前がやれば? ~『場を支配する「悪の論理」技法』のレビュー
私は人と議論しない人間なのだけど、もちろん、ネットやSNSなどを周遊していて、思わず胸クソが悪くなるような意見を目にすることもある。
私は今「胸クソが悪くなる」と書いたが、これは要するに、「自分には到底許容できない、自分とは相容れない意見」のことだ。
もちろん、単に自分とは反りが合わない意見なら胸クソが悪くなることはないのだけど、そこに相手を貶めようとする悪意や、強権的に相手を言いくるめようとする脅しの要素、あるいは上下関係をつくり出すことであざ笑うような思惑が感じられると、えも言われぬ胸クソの悪さを感じてしまう。
そういう時に私が考えるのは「なぜこの人はこのようなことを言うのだろうか」という、相手の心理だ。
この問いかけは「原因」も「目的」もどちらも考える。
つまり、以下の2つのアプローチを考える。
・なぜ、この人はこういう考え方、物の言い方をするようになってしまったのか
・この人は相手をどうしてやろうという意図があってこういうことを言っているのか
ただ、究極的な話をすれば、他人の心理は絶対に理解できないものなので、こういうことを考えるのはあまり意味がない。
なので、適当なところで思考をストップさせ、「ま、いっか」と忘れるに限る。
クソリプに正面から付き合う人もいる
ただ、世の中には物好きな人もいるもので、そういう意見に対して真っ向から反論し、議論をかわそうと試みる人もいる。
今回は、そんな奇特な人物、「とつげき東北」氏の著書、『場を支配する「悪の論理」技法』を紹介したい。
※装丁:山田知子、イラスト:徳丸ゆう
まず著者の「とつげき東北」氏(以下とつげき氏)について紹介したい。
1976年生まれで、東北大学を卒業後、中央省庁に勤務。
2004年に『科学する麻雀』を出版して麻雀の科学的研究の第一人者と称され、講演を行っている。
元東京大学非常勤講師で、デジタルハリウッド大学の特別講師。
現在は某研究機関にて統計学関連の研究に従事しているとのこと。
「悪の論理」とはなにか
まず、この本でいうところの「悪の論理」とはなにか。
本書のタイトルや本文において「悪の論理(または本文中で「名言」)という言葉を使っている。これは端的に言うと、「理屈では間違っているのに、一見正しいとされる論理」のことだ。
世の中には悪の論理が数多く流通していて、多くの人は無自覚に使っている。そしてまた、多くの人が盲目的に騙されている。世間でのやり取りの大部分は、新聞記事やテレビニュースと同程度にいい加減で、表面的で嘘くさい悪の論理のやり取りでスルーされていて、本質的な論理とはかけ離れてしまっている。
このことに自覚的になり、他人から押しつけられる悪の論理を喝破することで、おかしな意見から身を守ることができる。それどころか、逆に自分が悪の論理を使いこなして他人を操ることができれば、圧倒的に有利な立場に立つこともできる。本書では、そうした悪の論理をたくさん例示した。
本書でも説明されているが、たとえば「悪の名言」をいくつか例示すると
「じゃあお前が◯◯すれば?」
「みんながそんな考えを持ったら」
「あなたが殺されてもいいの?」
「社会に出て通用しない」
というものがある。
なんというか、WebニュースやSNSのコメント欄でちょいちょい見るフレーズばかりだ。
こういった発言は、自分の主張が論理的に打ち負かされそうになったとき、論議をすり替える目的で使われることが多い。
そのまま真っ向勝負をしていると論破されてしまいそうだから、争点をずらしたり、相手を辟易とさせて議論を終了させようとするわけだ。
相手の論理を使って相手を攻撃する
んで、本書のメインディッシュは、P109から始まる「詭弁の矛盾を突く方法・利用する方法」にこそある。
全部紹介すると大変なので1つだけ紹介すると、「相手と同じ論理を使って矛盾を導く」という方法がある。
たとえば「歩きタバコは迷惑だ、やめなさい」という意見がある。
すごくまっとうで、正しいことを言っているように思えるが、じつはこれも、「悪の論理」の1つである。
なぜなら、この論理を使うと、次のように反論できるからだ。
「『歩きタバコは迷惑だ』といって禁止することはタバコを吸う人にとって迷惑だ。やめなさい」
最初の発言は「歩きタバコは(タバコを吸わない人にとって)迷惑だ、(タバコを吸わない人の迷惑になるような行為は)やめなさい」という、言葉の主語を曖昧にすることによってさも正しいように見せかけている論理だ。
だから、主語を変えて「迷惑になることをやめなさい」というロジックを応用すれば、そのまま反撃できてしまう。
第Ⅲ部はかなり本質的だから
さて、本書は3部構成になっていて、Ⅲ部ではかなり本質的な内容(というか難しい内容)になっている。
そこまでの内容では論理的正しさを追求してきたのだが、ここに来て、そもそも論理的正しさには実際社会の中でどれほどの力があるのか、ということにも言及される。
たとえば、どれだけ論理的に正しいことを主張しても、それが必ずしも相手に受け入れられるとは限らないし、むしろ、リアル社会だと受け入れられないことが多い。
行動経済学でも、人間はつねに合理的に行動するホモ・エコノミクスではなく、もっといい加減で、感情的に意思決定をする生き物であるということが説明される。
- 作者: マッテオ・モッテルリーニ,泉典子
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2008/04/20
- メディア: 単行本
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このあたりの内容は、ぜひ本を読んでみてほしい。
後記
『トイ・ストーリー4』を見てきました。
いや、かなりおもしろかった。
「なるほど、ウッディはその道を選ぶのか・・・」
というのが感想。
シリーズ物というのは、まあ「2」まではおもしろさがそれなりに担保されることが多いけれど、「3」以降になると一気につまらなくなることが多い。
ただ、この『トイ・ストーリー』シリーズに関しては、本筋のナンバリング作品に関してはどれもおもしろいし、それだけの期待感を持って迎えられた正統派の4作目も、その期待を裏切らないおもしろさだった。
※トイ・ストーリーは本筋以外にもあるが、そっちは見てないのでわからん。