腑抜けども、悲しみの愛を見せろ!!~はじめての本谷有希子~
暇だったところで見たい映画があり、近所のツタヤに行ったら5枚で1,000円キャンペーンの最中だったので思わず借りてしまった。というわけでその1枚目。
私がそもそもこの作品を知っていたのは小説が出ていたからだが、調べてみるどうやら2000年に初演された舞台作品が一番の大元である。その後、2004年に小説化され、2007年に映画が公開された。
本谷有希子氏について
1979年、石川県生まれ。本作品の舞台も石川県のとあるド田舎の村だが、もしかしたら自身の出身地をモデルとしているのかもしれない。高校卒業後に上京し、ENBUゼミナール演劇科に入学。在学中より主に舞台において女優活動を開始した。
2000年に「劇団、本谷有希子」を創立し、劇作家・演出家としての活動を開始。『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』はこの舞台で公演されたものである。
じつは小説家デビューはこれよりも前で、2002年に『群像増刊エクスタス』に「江利子と絶対」を発表し小説家デビュー。ちなみに、映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の主演は佐藤江梨子だが、漢字が違う。
『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』は三島由紀夫賞候補の候補になり、さらに『生きてるだけで、愛』『あの子の考えることは変』は芥川賞の候補にもなったが、いずれも受賞は逃している。さらに『ぬるい毒』は三島由紀夫賞、芥川賞両方の候補になったが、やはり受賞を逃している。残念。
一応、第10回鶴屋南北戯曲賞と第53回岸田國士戯曲賞を受賞しているが、前2つと比べるとちょっと見劣りしてしまう。残念。
しかししかし! 『ぬるい毒』は第33回野間文芸新人賞を受賞。さらに2013年には『嵐のピクニック』で第7回大江健三郎賞を受賞。そしてついに2014年、小説『自分を好きになる方法』で第27回三島由紀夫賞受賞したのである。よかったね!
ちなみに本谷氏、声優さんの経歴もある。あの庵野秀明氏に見いだされ、1998年にアニメ『彼氏彼女の事情』に出ているのだ。とはいっても「文化祭で上演する劇の台本を書く」少女の役で、それ以降はほとんどアニメには出ていない。ただし、同じく石川県出身の声優・能登麻美子氏とは友達であるようだ。
さらに、『幽☆遊☆白書』の蔵馬が好きらしい。なかなか興味深い人物である。ちなみに徒花は小説は一冊も読んでいないので、どういう文体の人なのかは知りません。
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『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』のレビュー(ネタバレなし)
というわけで以下、あらすじ。
北陸のとある山間部に暮らす和合清深は、マンガを描くことを趣味とする暗い女の子。ある日、両親が交通事故死したことを受けて、清深の姉・澄伽が帰省する。
澄伽は4年前、女優を目指して上京したが、「我侭」「自意識過剰」「プライドが高い」と性格が最悪なうえに縁起の才能もなかったので、まったく芽が出ないでいた。
じつは姉妹には因縁がある。澄伽がまだ高校生だった頃、清深が姉をネタにしたマンガを投稿し、それがグランプリを受賞したのだ。澄伽はこのせいで「自分は演技に集中できずに芽が出なかった」と因縁をつけ、いじめ続けていたのである。
澄伽はとりあえず実家で過ごしながらなおも女優としての夢を見続けて映画監督に手紙を送り続ける。一方、清深はかつての自分の行いを悔いながらも、やっぱり破天荒な行動をする姉をモデルに再びマンガをこっそり描きはじめるのだった……。
この映画、ジャンルはシリアスを装ったギャグである。前半だけを見ると「心に傷を負った病弱な少女」「夢破れた勘違い女」「ゆがんだ愛情を持つ兄」(姉妹には腹違いの兄もいる)、など、ドロドロした人間ドラマ風にも見えるが、巧妙にはられた伏線とシュールな構図が後半になると一気に収束し、得も言われぬ面白さを生む。しかも、終わり方がすごく爽やかで気持ちいいのだ。
佐藤江梨子の演技もいい。使われているマンガは呪みちる氏のものだが、この絵がまた作品にぴったりの、どこかシュールさをかもし出すホラーなイラスト。そして、ここぞという瞬間に盛り上げる演出もよかった。
ちなみに、テーマソングはチャットモンチーの『世界が終わる夜に』である。徒花はわりとチャットモンチーが好きで、いくつかアルバムも持っているのだ。ここらへんも好印象だった。全然内容と関係ないけど。この曲は『生命力』というアルバムに入っている。まだ3人で活躍していたころだ……。うん。
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そしてなにより、これは別に映画に限った話ではないのだがこの作品はタイトルが素晴らしい。はっきりいって、これまで私が見てきた作品の中でも、タイトルだけなら1、2位に入る。これだけ語呂がよくて思わず口に出したくなる素晴らしいリズム。そして罵りの言葉と強い命令形で終わっているため、かなり強いインパクトを持っている。
とにかく、思ったよりもおもしろい作品だった。てっきり『嫌われ松子の一生』みたいにもっとドロドロした作品化と思ったのが、いい意味で裏切られた形だ。まだ見てない人は、見てみる価値がある。
というわけで、お粗末さまでした。