本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『Comic M』のレビュー~先ずアンソロジーより始めよ~

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世の中には「アンソロジー」という本の形態がある。

もくじ

徒花はアンソロジーをちょいちょい読む。なぜかというと、アンソロジーを読んで、自分が気に入りそうな作家さんを発掘するからだ。

ある程度本を読む人なら共感できる話だと思うが、読書暦がそれなりに長くなってくると、知らない作家さんを発掘するのがなかなか面倒になってくる。書店をブラブラしてジャケ買いをするのも悪くないが、当たりはずれが大きい。

かといって、なにかしらの賞を受賞した作品や、話題となっている本を購入するのもつまらない。BOOKOFで100円の古本を漁る方法もあるが、100円という価値がつけられている(つまり、それだけたくさん中古として売られている)以上、つまらない本である可能性が高い。雑誌を買うのもひとつの手だが、連載作品だと途中から読む気にならない。

アンソロジーは知らない作家さんの発掘手法

というわけで、おススメしたいのがアンソロジーである。アンソロジーはたいてい、人気のある作家さんが2~3人入り、ほかは中堅、新進気鋭の作家の作品で構成されている。しかも短編なので、空いた時間にチョコチョコ読める。そのなかで気に入った作風の人を見つけられれば、その人の代表作から入っていけばいい。

また、アンソロジーは、小説の場合、文庫本であることが多い。徒花は基本的に文庫本のほうが好きだ。かさばらないし、値段も控えめだから。

70周年記念コミックアンソロジー『Comic M』

んで、この本を読んだ。

タイトルの通り、早川書房創立70周年を記念して発行されたコミックアンソロジー。こちらはミステリ編で、もう一冊、SF編の『Comic S』も同時刊行されている。こっちは読んでいない。

このなかで人気作家だろうと思われるのは、高橋葉介坂田靖子石黒正数あたりだろうか(主観)。本書の表紙も飾っている高橋葉介については、過去のエントリーでも紹介した。エロティックな絵柄が大好き。

 

坂田靖子氏は実家に一通りの著作がそろっていたので、たいがいは読んでいると思う。代表作は『バジル氏の優雅な生活』だろうか。たまーにBLが入ってくることもあるが、ギャグをスパイスとしてまぶしたファンタジー、SF、ホラー、ミステリー、歴史モノなど、作品の幅が広い。天花粉はおもしろい。

バジル氏の優雅な生活 (第1巻) (白泉社文庫)

バジル氏の優雅な生活 (第1巻) (白泉社文庫)

 

 

坂田靖子セレクション (第1巻) 天花粉 潮漫画文庫

坂田靖子セレクション (第1巻) 天花粉 潮漫画文庫

 

石黒正数氏は週刊少年チャンピオン木曜日のフルットを連載中のギャグミステリマンガ家だ。本人がミステリマニアであるため、ミステリーを題材とした作品が多い。

木曜日のフルット 1 (少年チャンピオン・コミックス)

木曜日のフルット 1 (少年チャンピオン・コミックス)

 

個人的に圧倒的におススメなのは『外天楼』。1冊で完結した物語で、連作短編集となっている。個々の話は独立して完結しているのだが、終盤に向かうと、それまで無関係だったそれぞれの話がひとつの結末に向かって収束していく様はお見事である。ミステリーはもちろん、SF、ホラーなど著者が得意とするジャンルがこれでもかと詰め込まれ、かなり完成度の高い、中身の濃い作品となっている。

外天楼 (KCデラックス 文芸第三出版)

外天楼 (KCデラックス 文芸第三出版)

 

あと、人気作家からはちょっと外れるかもしれないが、個人的には小原愼司も好きな作家さん。代表作はアニメにもなった二十面相の娘である。はっきりいって、絵はヘタクソだが、ロマンあふれるストーリーは嫌いじゃない。

 

二十面相の娘 1 (初回限定版) [DVD]
 

ちなみに、アニメで主人公・チコの声を演じたのはあの平野綾氏。最近は寄生獣のミギーとか、ガッチャマン クラウズのパイマンとか、そういうマスコットキャラ系の声に当てられている気がする。ただ、実をいえば私は小原氏のほかの作品を読んでいない。今回、エントリーを書くに当たって改めて調べたら、思った以上にたくさんの著作があったので、どれか読んでみようと考えている。

さて、個人的に気になったのは宮崎夏次系(みやざき・なつじけい)氏。ファンタジー色あふれる世界観で、デフォルメが強めに効いたキャラクターデザインはかわいい。ちょっとポエミーで電波系な感じがしないでもないが、なにか1冊くらい、購入して読んでみようかなと思った。

『コミックM』の評価

大前提として、アンソロジーそのものにあまり「おもしろさ」や「作品としての質の高さ」を求めるのはあまり正しくない。アンソロジーというのは前述したとおり、新しい作家さんの発掘ツールであり、導入でしかないので、はっきり言えば、本書に収録されていた作品も、あんまりおもしろくはなかった。(石黒氏だけは発想がちょっとおもしろかったが、やはりオチが弱い)

中国の故事に「先ず隗より始めよ」という言葉があるが、燕の昭王だってまずは何のとりえもない(と本人は主張している)隗にお金を払うことで、有能な人物を集めることに成功したのだ。アンソロジーそのものにはさほどおもしろさを見出せないとしても、それをきっかけにおもしろそうな作家さんと出会えるかもしれない。

ゼロ年代の日本SFアンソロジー(おススメ1)

まずはSF。SFといったやっぱり『日本SF短篇50』シリーズだろう。これは日本SF作家クラブ創設50周年を記念して刊行されたもので、いまのところ5巻ある。もちろんすべてを読むのはしんどいと思うので、個人的には最終巻の『日本SF短篇50』Ⅴを推しておく。

こちらは2003~2012年と、いわゆるゼロ年代に活躍したSF作家の作品がまとめられているので、冲方丁氏や小川一水氏など、現在も第一線で活躍している人が多い。じつをいえば、私が伊藤計劃を初めて知ったのはこの本を読んだからである。

それから、過去のエントリーで紹介した『時の娘』は、「時間」をテーマにして集めた海外SF作家のアンソロジーで、けっこうおもしろかった。こちらのエントリーで書いた。

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)

 

現代ミステリアンソロジー(おススメ2)

ミステリーなら『赤に捧げる殺意』『青に捧げる悪夢』の2冊。

 

あまり新進気鋭の作家はなく、いずれも著名な作家さんばかりだが、並べて読んでみると文体の違いなどを比較できるし、トリックや動機、人間模様、キャラクターなど、その人が何に重点を置いているのかが垣間見れる。

あと、徒花は読んでいないのだが、講談社からは毎年『ベスト本格ミステリが刊行されている。こちらは本当に過去1年間の短編なので、大御所から新人まで、幅広い作家さんの作品が楽しめる。

恋愛小説のアンソロジー(おススメ3)

恋愛小説のアンソロジーだと、記憶にあるのはこちら。

不思議の扉  時をかける恋 (角川文庫)

不思議の扉 時をかける恋 (角川文庫)

 

恩田陸乙一といった現代の作家から太宰治、果てはジャック・フィニイまで、恋愛をテーマにした胸がキュンキュンする作品が集められている。徒花は「時間旅行×恋」というテーマがドストライクなのでこちらの1冊しか読んでいないが、この『不思議の扉』シリーズは恋愛をテーマに「午後の教室」「ありえない恋」などいくつもあるので、テーマや作家さんの並びを見て、好みのものを選んでみるのがいいだろう。

星新一のコミックアンソロジー(おススメ4)

実をいうと、コミックのアンソロジーはあまり読まない・・・・・・のだが、よく考えると星新一を題材にしたアンソロジーは結構読んでいる。星新一といえばいわずと知れた「ショートショートの神様」であり、いかにもアンソロジー向きに題材なのだ。そして、マンガ家さんによって、それぞれの作品をどのように表現するか、はっきりと違いが出るので呼んでいておもしろいのである。

以下の3冊は、いずれも読んだ。

コミック星新一宇宙からの客

コミック星新一宇宙からの客

 
コミック星新一☆親しげな悪魔

コミック星新一☆親しげな悪魔

 
コミック星新一―ショートショート招待席 (秋田文庫 58-1)

コミック星新一―ショートショート招待席 (秋田文庫 58-1)

 

そういえばこのエントリーを書いていて、小さい頃はポケモンとかの4コママンガをよく読んでいたなぁと思い出した。ああいうのももちろん、アンソロジーコミックである。 

ポケットモンスター4コマギャグバトル―アンソロジー (少年王シリーズ)

ポケットモンスター4コマギャグバトル―アンソロジー (少年王シリーズ)

 

おわりに

ネットでちょっと調べてみると、私が紹介している以外のアンソロジーを紹介している人もいたので、そちらのリンクも貼っておく。お役に立てば幸いである。

贅沢すぎる!超おすすめ’’アンソロジー’’小説10選① | 300books

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。