『NECK』のレビューも添えて~はじめての舞城王太郎~
講談社が発行している雑誌『メフィスト』の新人賞に「メフィスト賞」というのがある。もちろん、名前の由来はゲーテの名作『ファウスト』に登場する悪魔・メフィストフェレス――と思いきや、そのルーツは小野不由美氏の小説『メフィストとワルツ!』に由来しているとか。
もちろん、元ネタはファウストに違いないのだが。ちなみに、講談社からは不定期の文芸誌『ファウスト』も刊行されていた。ただしこちらは2011年に刊行されたvol.11で終わりらしい。メフィストで掲載されているのはこれまでのジャンルではとらえきれない新感覚の小説ばかりで、ミステリーやホラー系のものが多い。
というわけで、そんなメフィスト賞の標榜は『究極のエンターテインメント』『面白ければ何でもあり』というもの。第1回は森博嗣氏の『すべてがFになる』が受賞し、その後も蘇部健一(『六枚のとんかつ』)、高里椎奈(『銀の檻を溶かして』)、西尾維新(『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』)、辻村深月(『冷たい校舎の時は止まる』)、古野まほろ(『天帝のはしたなき果実』)、汀こるもの(『パラダイス・クローズド THANATOS』)などの作家が受賞している。個人的にお気に入りの作家さんも多く、上に挙げたのは私が読んだことがあるものである。
ちなみに、一番おススメしないのは『天帝のはしたなき果実』である。なぜなら、あまりにも分厚く、言葉が難解で、ストーリーを理解するのはおろか、1ページを読み進めるのも大変だからである。生半可な覚悟で手を出してはいけない。
舞城王太郎について
んで、2001年に『煙か土か食い物 Smoke, Soil or Sacrifices』がメフィスト賞を受賞してデビューを果たした作家が舞城王太郎氏である。
1973年、福井県生まれ。完全な覆面作家なので、本名も顔も経歴もまったくわからない。これは徹底していて、2003年に『阿修羅ガール』で三島由紀夫賞を受賞した際の授賞式も欠席している。個人的にはまたそういうところも惹かれるポイントだ。
そして私が初めて読んだのはこの『阿修羅ガール』である。芥川賞にも何回かノミネートしているようだが、人によって好き嫌いが激しく分かれそうな作家で、実際に石原慎太郎氏や宮本輝氏などは酷評しているようで、受賞はしていない。少なくとも、お行儀の良い作品でないことは確かだ。
数々の小説を生み出し、高い評価を受けてはいるのはもちろん、イラストも自分で書いて本の挿絵などにしている。まぁぶっちゃけ、すごく絵が上手いわけではない。また、それ以外にもさまざまな創作活動に手を出しているようで、映画・ドラマ・アニメ・ゲームなどの映像作品を企画・制作・販売するユニット「REALCOFFEE」に所属しているようだ。
さらに2007年には東京都写真美術館で開催された「文学の触覚」という展覧会で『舞城小説粉吹雪』という作品を展示。これは「Type Trace」というソフトウェアを使って同名の書き下ろし小説の創作過程(展示期間中も随時更新)におけるタイピング記録である。これは第12回文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品に[タイプトレース道〜舞城王太郎之巻]として選ばれた。
ICC ONLINE | アーカイヴ | 2012年 | [インターネット アート これから]――ポスト・インターネットのリアリティ | 展示作品
また、2010年からは乙一・秋田禎信らとのコラボレーション企画としてライトノベルシリーズ『魔界探偵冥王星O』シリーズを越前魔太郎名義で発表。当初「越前魔太郎は誰か?」と話題になっていたが、そもそもペンネームの語呂がなんか似てるし、現在では舞城王太郎作品の中にも「冥王星O」や「越前魔太郎」という登場人物として出てきているので、本人からの公式メッセージはないが、同一人物として認知されている。
- 作者: 越前魔太郎,ブリキ
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2010/04/10
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 166回
- この商品を含むブログ (47件) を見る
さて肝心の文体はというと、一般的には「スピード感がある文章」などと称される。どういうことかというと、一文が長く、改行が少なく、本を開くとどこも文章がミッチリと詰まっているのである。にもかかわらず文章のテンポが良いためにスイスイ読み進めることができ、つづられた文字がさながら濁流のごとく頭の中に流れ込むので、おそらく「スピード感がある」などと表現されるのだろう。また、話の流れや展開も早い……というよりもブッ飛んでいるので、めまぐるしく舞台が変わったりもする。
一般的に、文章は適度なところで切って短くし、改行を挟むことで読みやすくなるので「一文が長くて改行が短い文章」というのはヘタクソがやることなのだが、舞城氏の場合はそれを補って余りある語彙力と文才があるので、これが彼(もしかしたら女性かもしれないけど)のスタイルとなっているのである。
また、舞城氏の小説の中ではやたらと自らの出身地である福井が舞台になる。ほかの場所が出てくることもあるが、なんらかの形で福井がかかわってくるのだ。同時に、関西訛りに近い福井弁を話すキャラクターが必ずといっていいほど登場するのも特徴。それ以外にも、「ルンババ12」「冥王星O」などほかの作品に登場したキャラクターがひょっこり出てきたりするが、そこらへんは完璧に理解していなくても物語そのものは楽しめる。
さらに舞城氏の作品を形作る要素として欠かせないのが「不条理なバイオレンス」である。女の子でもわりと容赦なくボコボコにされたりする。しかも唐突に! 理由も良く分からず! そのくせ、いや、だからこそなのかもしれないが、「愛」という言葉がよく出てきたりする。
一応ジャンルはミステリーだが、普通のミステリーではないので注意が必要だ。
ついでに紹介すると、あの名作マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』の小説を書いたりもしている。これは第1部の主人公ジョナサン・ジョースターの息子であり、第2部の主人公ジョセフ・ジョースターの父親であるジョージ・ジョースター2世を主人公にしたものだ。リサリサが幼馴染として登場する。
『NECK』のレビュー(ネタバレなし)
最近すっかり舞城王太郎もご無沙汰だった徒花だが、自宅の本棚を漁っていたらこの本が出てきた。まったく買った覚えがないが、たぶん、いつにか買ったんだろうと思う。
というわけで読み始めたわけだが、じつはこの作品、そもそも舞城氏の原案を元に作られた映画が先で、本はその原案やら脚本やらとともに、後になって書き下ろされた小説を一冊にまとめたものであるようだ。私としては舞城節の見られない脚本や原案部分には興味がなかったので、結局最初の書き下ろし小説だけを読んで本を閉じた。
書き下ろし小説は映画の『NECK』とはストーリーも登場人物もまったく異なるので、まずは小説版のあらすじをまとめよう。
東京に暮らすJD・粟寺百花(あわじ・ももか)には普通の人とは違うところがあった。なんと彼女は、首の骨が普通の人よりもひとつ多いのである。とはいえ、別に生活に支障もないので彼女は普通に暮らしていた。
だがある日、突然彼女の首の骨の中から正体不明の男が現れ、彼は去っていく。すると、ドーマン、セーマンと名乗る2人組の男が百花の家を訪れ、彼女をボコッた挙句、3日後までに男を連れ戻さないと殺すと脅迫したのだ。
百花は男の正体を突き止めるため単身、福井県へ。そこでドーマン、セーマンをボコッたノジャージャという男の協力を得て東京へ戻ろうとする途中、ノジャージャの友人である作家・愛媛川十三が不可能犯罪によって殺害されてしまうのだった……。
果たして首から出てきた男とドーマン、セーマンの正体とは? だれが愛媛川十三を殺したのか?
あらすじからして既にカオスである。そして、何がなんだかよくわからないまま、いい感じでうまくまとめられて終わっていたりする。だが、それが舞城王太郎という作家の小説なのだ……と思うほかない。あと、文章全体に特殊なフォントを使っていて、とくにルビがとっても読みにくい。意図は不明である。
文章を読むと確かに舞城氏なのだが、なんだか以前のような止め処ない文章の勢いがなくなってしまったような気がする。もちろん展開の早さは相変わらずなので読者を飽きさせるということはしないのだが、ちょっと残念な点だ。
本書のテーマとなっているのは主人公、百花の成長である。首の骨が多いことをコンプレックスにし、「世の中のことはすべて自分でなんとかしていかなければならない」と考えていた彼女が、あまりにも不条理で不可思議な出来事に巻き込まれ、突き進んでいく中で少しずつ心理的に成長していく。
というわけで、私は早速ネットの在庫検索で近所のツタヤに映画『NECK』が置いてあることを確認し、それを借りに行った。ついでに、5枚で1,000円キャンペーンをやっていたので、ツタヤの仕掛けたその狡猾な罠に自らかかることで日曜日の貴重な時間を不意にすることを数秒くらいで決断したのである。
とにかく続いて映画のレビューだ。
もう、このパッケージの感じからビンビン伝わるように、コメディである。しかもただのコメディではない。本作品は「胸キュン♥ホラー」という新たなジャンルに挑戦したものらしく、ホラーでありラブコメディであるのだ。
徒花はホラーが死ぬほど苦手で、一人暮らしをしている以上、映画や小説、マンガはもちろん、それ系のテレビ番組も一切見ないようにしているのだが、こればかりは苦虫を噛み潰すような思いで、ひとり静かに見ていた。ただ、お化けが出てきそうな場面になったら即ミュートにして音を消していたはいたが……。
というわけで、あらすじは以下の通り。
真山杉奈は幼少時の経験から、おばけを作る研究に没頭する女子大生で、「ネック・マシーン」という機械を使ってお化けを生み出す実験を繰り返していた。そんな杉奈に恋をしたのが同じ大学に通う首藤友和だ。彼ら2人は杉奈の幼馴染でお化けのトラウマを植え付けられ、現在は「越前魔太郎」というペンネームでホラー小説家をしている古里崇史、さらには崇史の担当編集者・赤坂英子とともに、呪いの人形があるという人形屋敷に向かい、おばけ生成実験を行うことになったのである……。
あらすじを見てもらえば分かるように、書き下ろし小説とは全く別のお話である。そしてキャストは主演が相武紗季。さらに溝端淳平、栗山千明、平岡祐太、板東英二(ゆで卵やないかい!)、温水洋一、板尾創路、細川茂樹とかなり豪華である。みんなもっと仕事を選んでも罰は当たらないだろうに。
ただし、映画自体はB級。シナリオに舞城らしさは見られないし、映像もなんだか安っぽい。いろいろなお化けが出てきてしっちゃかめっちゃかにバトルを繰り広げ、まさか呪いの人形の目からビームが出てくるところは驚いたり笑ったりしたが、基本的には時間泥棒(見ると時間を無駄にする)な映画である。ただ、あの冥王星Oが実写化されているため、舞城ファンならそこは見る価値があるかもしれない。
なお、小説には祭部亜紀(さいぶ・あき)という、明らかに主演の 相武紗季氏をもじった名前の登場人物が出てくる。作品の中では「生まれつき不思議なものが見える体質」の女子大生だ。となると、主人公である粟寺百花はやはり映画に出演していた栗山千明をもじった可能性がある。「粟」と「栗」の字は似ているし、「百」と「千」はいずれも数字だ。なぜ「山」が「寺」になり、「明」が「花」になったのかはよくわからないが、粟寺百花はモデルの仕事をしていた。いろいろと妄想はできるが、映画版と小説版のつながりはあまり見出せない。
というわけで結論。舞城はやっぱり映画より小説!!
なお、もし初めて舞城氏の小説を読むのであれば、個人的には『世界は密室でできている』をおススメしたい。舞城節をビンビン感じられながらも比較的分かりやすいストーリー展開で、少年少女が活躍する爽やかな物語である。奇怪な殺人事件でバンバン人は死ぬけど。
というわけで、お粗末さまでした。