本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

ヴィランズの品格~いまさら映画『マレフィセント』を観て~


『マレフィセント』予告編 - YouTube

先日、映画『NECK』を借りるついでに『マレフィセント』も一緒にレンタルして鑑賞した。

もくじ

本作品の愚生の結論を端的に申し上げるとクソの一言に尽きる。以下、この映画のどのあたりがどのようにクソなのかを述べていくので、もしこの映画が大好きな人がいるならば、ここで引き返したほうがいいかもしれない。

マレフィセントが善人になってしまった!

まず最初に言っておきたいのは、この映画は紛れもなくクソだが、エンターテイメント作品としては高いクオリティを持っていることである。ここを混同してはいけない。

つまりどういうことかというと、決して「つまらない映画ではない」ということだ。CGはきれいだし、シナリオもまぁきれいにまとめられている。キャラクターもしっかり役割分担がされていて、クライマックスで十分盛り上がり、そして大団円を迎える。主演のアンジーを始め、キャスティングも申し分ない。まさにハリウッドが持つエンターテイメント映画のノウハウに沿って、世間一般のマジョリティを満足させる安定したクオリティを持っているのだ。

私がクソだといっているのはマレフィセントをびっくりするくらい善人にしてしまったこと」にほかならない。マレフィセントは並み居るディズニーのヴィラン(悪役のこと)のリーダー格的存在であり、TDLのイベントでも最後にミッキーと戦う悪役は(たいてい)彼女である。まさに、ディズニーにおける“悪の象徴”なのだ。本作品の罪はそんなマレフィセントヴィランズとしての品格を著しく貶め、アイデンティティを揺らがせた点にある。

もちろん、本作品に出ているマレフィセントは1959年に公開されたディズニー長編アニメーション『眠れる森の美女』とはまったく別の人物だ。

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3人組の妖精のほうがよっぽどあくどい

そもそもオーロラ姫を育てる3人の妖精の名前が違うから、世界も全く別物だろう。だから、本作でマレフィセントが善人になっていたとしても、本家マレフィセントのキャラクターにはなんら関係ないと主張することもできる。だが、それでも同じ名前を使っている以上、人々の与える印象に影響を及ぼさないはずがない。

たとえばマレフィセントと対照的なのが前述した3人の妖精だ。彼らの扱いもなかなか酷いもので、本作の中では無責任かつ自分勝手なキャラクターとなっていて、まったくいい印象がなかった。そのうえ、妖精の癖にちゃっかり人間の王と仲良くなっているなど、狡猾さもうかがえる。マレフィセントよりよっぽど悪い奴らだ。

余談だが、赤い妖精ノットグラスを演じたのはイメルダ・スタウントンという女優さんで、彼女はハリポタシリーズであの評判が悪いドローレス・アンブリッジを演じた。このキャスティングから、監督が3妖精を意図的に「嫌な奴ら」に仕立て上げようとした意図がうかがえるのは私がへそ曲がりだからだろうか。彼女ほど顔つきだけで人をイラつかせる人物も珍しい。

だが、彼らは名前から変えられていたからこそ、本家の3妖精とは別のキャラクターであると認識できた。本家の3妖精のイメージは守られたのである。

悪の品格

これは個人的な考えだが、徒花としては悪は純然たる悪であってほしい。「じつはこの人も根は善い人でした」という設定は虫唾が走る。現実社会で人間同士の争いが描かれる作品ならまだしも、おとぎ話という「何かを象徴するキャラクター」が出てくる世界で「悪という立ち位置」の根本が揺らいでしまうのはあってはならないことではないのだろうか、と。

余談になるが、徒花は「過去にコレコレされたから悪人になった可哀想な人なんだよ」的な悪役もあんまり好きじゃない。徒花が好むのは圧倒的に強大で、無慈悲で、それでいてスマートな悪なのだ。

なお、次あたりからネタバレ要素が入ってくるので、まだ映画を見ていない人は注意していただきたい。

しかも、こいつ善人の皮をかぶった偽善者だ!

文句を言いたいのはそれだけではない。マレフィセントが主役である以上、善人になってしまうのは商業的に仕方ないことだとは私も理解できる。だが、だったらせめて「ちゃんと善人」になってほしい。私がとくに失望したのは、マレフィセントがかつて自分が好いた男・ステファン王を結局殺してしまったことだ。

ステファン王はマレフィセントと愛し合った関係にもかかわらず、自らの立身出世のために彼女をだまして翼を奪い取り、そ知らぬ顔で別の女と結婚して子どもを作ったケシカラン男である。そのうえオーロラ姫がマレフィセントによって呪われると心神耗弱状態となり、ついには16歳で城に帰ってきた実の娘を軟禁するというトホホなヤツでもある。だから、ステファン王が無様に墜死してもとくに誰からも文句は出なさそうだが、私は言う

マレフィセントはステファン王を殺してはいけなかった。なぜなら、ステファン王をあそこまで追い詰めたのは、ほかならぬマレフィセント自身だったからだ。

※ちょっと余談

ステファン王が妖精の国を攻撃し始めたのは、マレフィセントがオーロラ姫に呪いをかけたことがきっかけであることは間違いないが、実を言えば、それでも彼が妖精国を攻撃し始めた理由ははっきりと分からない。考えられるのは以下の2つである。

  1. マレフィセントを倒せば娘の呪いが解けると思った(娘のため)
  2. マレフィセントの更なる復讐を恐れた(自分のため)

シナリオ的には2.のほうが妥当だろう。ただ、国中の糸車を燃やしたり、オーロラ姫を森の中で育てようとするなど、オーロラ姫に対する愛情はあったようだ。

たしかに、大元をたどればマレフィセントをだまして翼を奪ったステファン王が一番悪い。だがステファン王はこのとき、マレフィセントを殺すことができたはずなのに、それをせずに翼を奪うだけにしたのである。ここに、私としてはマレフィセントに対するステファン王のを読み取ったりする(考えすぎかもしれないけど)

なのに最終決戦のとき、そのステファン王はマレフィセントに振り落とされてあっさり墜死してしまうのだ。せっかく真実を愛を持てるような善人になったはずなんだから、かつて自分が愛した男の死に対してもっと愛惜の念みたいなものを描写したって罰は当たらないのではなかろうか。

映画では最終的に「英雄でもあり、邪悪なものでもあったマレフィセントが2つの国を統一した」とか、なんかうまいこと言ったな的な感じでまとめていれば、私からすればどっちつかずで中途半端なキャラクターという印象を受けた。もしかするとディズニー的には「人には(妖精だけど)良い面も悪い面も、両方あるのですよ(ニッコリ)」的なメッセージを伝えたかったのかもしれないけど、ディズニーにおける悪の代表格的なマレフィセントのイメージを毀損するのはOKなのかと甚だ疑問である。私からしてみれば、最近のマレフィセントをはじめとしたディズニーヴィランズ人気にあやかっただけの作品にしか見えなかったからクソと評したのだ。

そういえば、今年のシーのハロウィンはヴィランズが主役らしい。

www.tokyodisneyresort.jp

おわりに

本作の中で一番可哀想な役どころはやはりフィリップ王子だろう。原作では赤ん坊のころからいいなずけというまさに運命の相手だったのに、本作では

  • 森で迷子になってひょっこり出会ったオーロラ姫に一目ぼれ
  • マレフィセントに捕まって間抜けな格好で荷物にされる
  • オーロラ姫とキスをしたのに目覚めず、3妖精に邪険にされる
  • バトルにはまったく参加せず、エンディング直前にひょっこり現れる

という、とんだ「ひょっこり野郎」になっている。まぁ実際、原作でもマレフィセントとバトルの功績は9割以上、3妖精の力によって成し遂げられているのだが、とにかく「王子のキスで目覚める」というお株さえも奪われ、「お前、いなくてもよくね?」という存在に成り下がっている。現代の女子にもう王子様は必要ない、ということなのだろう。

さて、現在宣伝されているのは『ピーターパン』を題材にした実写映画『PAN ネバーランド、夢のはじまり』である。10月31日公開予定とのこと。


映画『PAN ~ネバーランド、夢のはじまり~』第1弾予告編 - YouTube

『王さまの剣』、実写映画化するってよ

さらに、なんと1963年に公開されたあの『王さまの剣』も実写リメイクの計画が進んでいるというから驚きだ。

eiga.com

ただし、この作品はアーサー王伝説をつづったT・H・ホワイトの小説『永遠の王(The Once and Future King)』の第1部「石に刺さった剣」をすんごく簡単にまとめたもので、そもそもアニメ自体、そんなに評価が高くない。また、アーサー王伝説自体が壮大な物語なので、やろうと思えばパイレーツ・オブ・カリビアンみたいにシリーズ化させることもできるだろうから、それを狙っているのかもしれない。

永遠の王〈上〉―アーサーの書 (創元推理文庫)

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ちなみに私がアーサー王伝説から思い浮かべる映画は2004年に公開されたキング・アーサーである。ぜんぜんどんな内容だったか記憶がないが、べつにそんなにおもしろくはなかったように思う

キング・アーサー [DVD]

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あとはFate/staynightぐらい。

どちらもあまり期待せずに、とりあえずレンタル落ちするのを待とう。

 

というわけで、お粗末さまでした。