本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『海賊とよばれた男』を読むならいまがベストタイミングだぜ!

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和菓子は断然つぶあん派の徒花です。

もくじ

アルスラーン戦記』を見た

アルスラーン戦記の2期が始まって、とりあえずダラダラ見ていた。OPは藍井エイルさんの『翼』で、ネットの反応を見るとおおむね好評のようだ。かっこいい曲である。

じつはたまたま、土曜日のJ‐WAVEの『ALL AREA PASS』に藍井エイルさんがゲストとして出演しているのを聴いていて、この曲を何度か耳にしていたのだ。原作は読んでいないが、どうもオリジナルな物語展開になってきたようで、とりあえず視聴を続けていきたい。

王都炎上―アルスラーン戦記〈1〉 (光文社文庫)

王都炎上―アルスラーン戦記〈1〉 (光文社文庫)

 

百田氏の小説は読みやすい

今回紹介するのは、百田尚樹(ひゃくた・なおき)氏の海賊とよばれた男

海賊とよばれた男(上) (講談社文庫)

海賊とよばれた男(上) (講談社文庫)

 
海賊とよばれた男(下) (講談社文庫)

海賊とよばれた男(下) (講談社文庫)

 

百田氏の作品を読むのは初めてのことで、それまではテレビやネットメディアなどで百田氏を目にしては「なんか右翼的な発言を繰り返すハゲジジイ」くらいの認識しか持っていなかったが、改めて彼の書いた作品を読んでみて、ちょっとイメージが変わった

なぜかというと、小説は丁寧かつわかりやすく書かれていて、エンターテイメントしてかなり高い完成度だったからである。本作は戦前から戦後にかけてがメインで、1980年までが描かれている。つまり、かなり幅のある激動の時代が描かれているため、社会的な背景の変化が必要だ。しかも本作、一般の人々にはあまりなじみのない「石油業界」を舞台としているので、専門的な用語や業界内のルール、勢力など、専門的な知見も読み解くには必要になる。

だが、ここら辺の難しいところを、百田氏はけっこう丁寧に説明しながら、知識ゼロの読者でも読み進めていけるように描写しているのだ。

作品がおもしろければそれでいいじゃないか

さらに、本作ではちょっとだけだけど永遠の0の主人公である宮部久蔵(みやべ・きゅうぞう)が登場し、本作の主人公である国岡鐵造(くにおか・てつぞう)と目を合わせたりするシーンがある。こういうファンを喜ばせるちょっと演出もなかなか憎い仕掛けである。

永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)

 

百田氏の経歴を調べてみると、『探偵!ナイトスクープ』などの構成作家を務めていたらしく、小説家として活動を始めたのは2006年になってからとのこと。おそらく、こうしたわかりやすい描写やファンサービスを忘れないような精神は、長らくエンタメ業界で働いてきた中で培われてきたものなのだろう。

いうまでもないことだが、作品と作者の人格は別問題であり、私はもちろん、作品がおもしろければ問題なしとするスタンスだ。むしろ、ちょっと人物的に問題のある人のほうがおもしろい作品が書けるものかもしれない。

あらすじ

1945年(昭和20年)8月15日、太平洋戦争が終わった。戦前より石油の重要性を認識し、裸一貫から石油を扱う商売をしていた国岡商会の店主・国岡鐡造は、日本の復興のためには石油が重要だと認識し、商売を再開する。しかし、GHQの統制、旧態依然な日本の石油業界、そして世界の石油の覇権を狙う石油メジャーなど、さまざまな思惑を持った巨大な敵がその前に立ちふさがる。

やがて、ようやく事業が軌道に乗ってきたころ、鐡造はある決断をする。イギリスから独立したばかりのイランと交渉し、欧米ではなく直接石油を輸入することを。だが、イギリスはまだイランの石油の権利を主張しており、強行すればタンカーをイギリス軍に撃沈される可能性もある。そしてのちに『日章丸事件』とよばれる、世界を驚かせた行動に、日本の石油会社は挑んだのだった。

端的に説明するなら、戦後、日本独自の石油会社を築き上げた国岡鐡造の自伝的小説である。作品の雰囲気は、これもじつは読んだことがないのだけれど、ドラマ『半沢直樹』などに代表される池井戸潤氏のサラリーマン小説に近いんじゃないだろうか。いろいろな困難が立ちふさがるけれど、信念を持った鐡造が度胸と先見の明で切り開いていく物語だ。

オレたちバブル入行組 (文春文庫)

オレたちバブル入行組 (文春文庫)

 

なお、タイトルとなっている「海賊」と呼ばれるようになった理由は、『日章号事件』に由来しているわけではない。まさに「海賊」と呼ばれても仕方ないようなことを、戦前に彼はやっているのだ。詳しくは本書を読んでいただきたい。

年末までアツい出光興産

モデルとなっているのは出光興産の創業者・出光佐三(いでみつ・さぞう)。出光といえば、最近はこんな話題がニュースになった。

出光興産は2015年に昭和シェル石油と経営統合することを決定していたのだが、その決定に創業家の出光一族が待ったをかけたのだ。そもそも、昭和シェル石油は日本の昭和石油と世界第2位のエネルギー企業、ロイヤル・ダッチ・シェルが合併してできた会社であり、つまりは欧米資本。出光一族はすでに会社の経営からは離れているが、大株主ではある。そこで、「企業体質が合わない」という理由から反対しているわけだ。

このニュース、単体でみると創業家一族がワガママをいっているだけのようにも聞こえるが、本書を読むと創業家一族が反対する理由もわかる。そもそも出光興産はシェルを含む石油メジャーと死闘を繰り広げてきた歴史があり、大家族経営という労働組合を持たない経営体質が大きな特徴だったので、肌が合わないと出光家が感じるのは当然といえば当然なのだ。

出光家は株主総会で経営統合を決定した月岡隆社長の再任に反対したが、これは僅差で否決され、月岡社長は続投が決定。

ただし、合併の承認を求めて開かれる年末の臨時株主総会では出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要なので、このままだと合併ができないため、年末までに出光家の説得や株式取得での工作が繰り広げられることだろう。これはこれでおもしろい。

おわりに

ちなみに、『海賊とよばれた男』は映画化が決定していて、今年の12月に公開予定とのこと。

主演は『永遠の0』でも主役を務めたV6の岡田准一さんだ。モデルとなった出光興産の今後が年末に決定されるうえ、映画もあるので、興味があるなら読むのはちょうどいいタイミングかもしれない。おススメ。

 

というわけで、今回はこんなところで。

お粗末さまでした。