本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『コンサル一年目が学ぶこと』のレビューなのか

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「知っている」と「理解している」ことは別物であるというのは、聞いたことがある人が多いと思います。

「理解している」を「腹落ちする」に変換してもいいかもしれません。

つまり、実感を持って納得できたかどうか、ということです。

 

今回紹介するこの本は、じつはそんなにすごくいい本というわけではありません。

コンサル一年目が学ぶこと

コンサル一年目が学ぶこと

  • 作者:大石 哲之
  • 発売日: 2014/07/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

もちろん、悪い本ではありません。

マッキンゼーとかBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)などのコンサルタントというのは新人でも高給取りとされていて、「考えるプロ」「問題解決のプロ」だと認識されています。

そうしたコンサル会社に入った人が、どうやって「考え方の考え方」を学ぶのかということを、サックリわかりやすく説明してくれる本です。

 

本書で私が好意的に受け止めたのは、問題解決のための基礎の基礎とも言える「ロジックツリー」の部分で、次のような非常に率直な書き方をしているところです。

 

わたしはロジカルシンキングの本も書いているので、こういうことを言うのは憚られますが、読者のみなさんのために、最後に、正直に書いておこうと思います。

課題を漏れなく、ダブりなく分解したり、意味のあるロジックツリーをつくるには、適切な指導者が必要です。勉強会などで、若手社会人同士でロジックツリーのトレーニングをし合っている場面を見ることがありますが、あまり成果が上がっているようには見えません。

この手のトレーニングの問題は、ロジックをつくっている張本人は、自分で間違いに気づくことができないことです。結局、ツリーの問題点や論理のミスは、すでにそれができるようになっている人が指摘してあげないと、何がどう間違っているのかがわかりません。

「ロジックツリーをつくる練習をする際の注意点」を、ロジックツリーを使って論理的に整理してみると、「自分一人のトレーニングには限界がある」というところがもっともクリティカル(重大)な論点になってしまうのです。これは、大きな矛盾です。

 

この部分、はっきり言えば「それを言っちゃおしまい」な文章なのですが、要するに、この本を読んでロジックツリーについて「知る」ことができても、それを正しく実践して成果を上げることはできないんですよ、とぶっちゃけてしまっているわけですね。

でもこれは誠実な書き方だと思います。

そんなこと、教えてくれない本のほうが圧倒的に多いわけですから。

 

ただ、じゃあ「考え方の考え方」「問題解決能力」を高めるためにこの本がおすすめできるかと言うと、そうでもないのが悩ましいところです。

コンサルティング会社の人が書いた本なんて星の数ほどあって、そのなかで敢えてこの本を選ぶ理由が、とくにないんですよね(非情な言い方ですが)。

幸いというか、本書はKindle Unlimitedの対象作品なので、会員の方は無料で読むことができます。

もしKindle Unlimited会員なら読んでも時間の無駄になることはないでしょう。

(ちなみに、私はライトなビジネス書の場合は極力時間を書けないで読むように意識しています。具体的には1冊に1時間以上かけないようにしています)

 

で、ここからが本題。

私がこの本を読んで、すごく腹落ちしたことが1つあります。

それが「雲・雨・傘提案」です。

これはロジカルシンキング系の本であれば頻繁に出てくる考え方なので、知っている人も多いと思います。

私も、本書を読む前からたびたび別の本などでこの考え方は読んだことがあり、知識としては備わっていました。

 

この「雲・雨・傘提案」というのは、どういうことかとういと、「事実・解釈・アクション」の区別をして、それをセットにして話をしましょう、ということです。

 

「空を見ると、雲が出ている」(事実)

「曇っているから、雨が降りそうだ」(解釈)

「雨が振りそうだから、傘を持っていこう」(アクション)

 

考え方としては非常にシンプルですよね。

ただ、私は本書を読んでこの箇所を読んだとき、なぜかはまったくわからないのですが、すごく腹落ちした感触があったのです。

別に、本書での書き方が特別優れていたというわけではありません。

ただ、知識として保有していたこの「雲・雨・傘提案」をいま、この年齢になって改めて読んでみると、この考え方の意味するところがやっとわかったという感覚です。

 

私が腹落ちした結果として感じたのは

結局、すべては「事実」がベースにないといけない

ということです。

こうやって文章にすると呆れるくらい当たり前のことなんですが、じつはこれができていない人はすごく多いんじゃないかと思うのです。

 

この「事実」の重要性を認識したとき、私のなかでピコンと浮かんだのが「考える=調べる(事実集め)」という図式です。

結局のところ、「考えが足りない」というのは「調べ(事実)が足りない」ということなのではないか、という発想が思い浮かんだのです。

別の言い方をすれば「インプット不足」ですね。

これは人によると思うのですが、たとえば私は書籍の企画を考えるとき、わりと「思いつき」が出発点となることが多いです。

つまり、「帰納法」が思考の癖としてあるということですね。

そのため、思いつき(=仮説)が正しいかどうかを、そのあとに事実集めをして補強していくことになります。

 

「雲・雨・傘提案」でいうと、渡しの場合、「傘を持っていく」というアクションをまず先に思いついてしまうので、そのあとで「傘を持っていくべき理由」を考える感じです。

「傘を持っていくべきです」と提案してそれを相手(上司や著者など)に受け入れてもらうためには、理屈(解釈)をつけないといけません。

その理屈のベースになるものこそが「事実」なのです。

……と文章で書くとやっぱり当たり前過ぎてアホらしくなる自分もいるのですが、自分の思考の道筋が可視化されたのは大きな収穫でした。

 

難しいのは、だからといってこの本を読んだ人が私と同じような収穫を得られるかどうかはわからないところなんですよね。

たとえば、そもそも「雲・雨・傘提案」のことを知らなかった人が本書を読んで初めて知ったとしても、私のような気づきは得られないと思います。

また、そもそも帰納法的な考え方ではなく、演繹的に物事を考える癖のある人も同様です。

 

ここが本の良し悪しを判断する上での難しいポイントで、本の価値は結局のところ、読者次第だということです。

よく、ベストセラーのAmazonレビューを見ると「当たり前のことしか書かれていない」などという意見が散見されますが、この「当たり前」というのは主観に基づいたもので、なにを「当たり前」と感じるかは人それぞれです。

 

私は編集者として本をつくる側の人間ですが、実用書の編集者の仕事の大きな部分というのは、この「読者のレベルのチューニング」にあるのかもしれません。

この本を読んでほしい読者のレベルを考え、「未知の情報」と「既知の情報」をふるいにかけて、なにをどのくらい説明するかを調整するわけです。

ベストセラーとなる実用書は、そのレベルのチューニングが絶妙です。

つまり、本の中身が、世の中の大多数の人々の知識レベル±αの範囲にうまいこと収まっているわけです。

(そしてベストセラーは本をよく読む人からすれば少し「低いレベル」に設定されていることが多いから、上記のようなレビューが多く見られるのではないかと)

この「世の中の大多数人の知識レベル」を推し量るために必要なものも、また事実をベースにした解釈となります。

 

いろいろな方面に話を広げて書きなぐりましたが、コンサルにしろ編集にしろ、それ以外のすべての職業でも、仕事の本質はきっと「考えること」にあるのでしょう。

AIやロボティクスの普及で人間が単純作業をやることの価値がゼロになるだろう現代において、付加価値を生み出すのは「考えること」なのです。

別に読むのはこの本じゃなくてもいいですが、「考え方の考え方」については、どんな人でも読んでおいて損ではないのではないかと感じました。

 

後記

Netflixに再加入して「攻殻機動隊SAC 2045」を観ました。

www.ghostintheshell-sac2045.jp

 

今回はタイトルの通り2045年が舞台で、世界同時デフォルトを経て「サステナブル・ウォー」という名称で、計画的な戦争が産業として認められている世界で、「ポスト・ヒューマン」という”新人類”が登場するという物語です。

ポスト・ヒューマンといえば、シンギュラリティの大家であるレイ・カーツワイルの著作が有名ですね。

 

 

人工知能が人間を超越するシンギュラリティの予感もある現代において、取り上げられるべくして取り上げられたテーマなのかもしれません。

とりあえず現在視聴できるところまでは視聴しましたが、すごく途中で終わってしまいます。

なので、一回解約しました。

興味がある人は、全話公開されてから登録して視聴したほうがいいかもしれませんね。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。