『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(津川友介・著)のレビュー
いわゆる「健康本」って、評するのが難しいです。
健康本はその性質上、「おもしろい」とか「おもしろくない」という価値観で測れるものではありません。
「正しい」か「正しくない」か。
「役に立つ」か「役に立たない」か。
そういった指標に従わざるを得ません。
残されたおもしろさというと、「知的好奇心を満たす」というものくらいでしょうか。
だいたい、そういうものはそれは奇をてらったものになりやすい傾向がありますが。
書評のおもしろさというのは、人によって評価が変わるところです。
ある人が「駄作」とこき下ろしている一方、「傑作」と持ち上げている人もいる。
そして、どちらの言い分も、しっかり読んでみると、なるほどと納得できるところがある。
そういう「余地」があるからこそ、書評する意味があると思っています。
翻って健康本、とくに本書のように、とにかくエビデンスを重視して、世界の研究結果というファクトをベースに書きましたとされると、そこに好き嫌いを挟み込む余地はなくて、「そうなんですね」としか言えないわけですね。
解釈の余地がない、という言い方もできるでしょう。
そんなわけで、じつは私は健康本は「読書」という感じがせず、ただ情報を取得するだけのように感じてあまり好きではないです。
しかし、にもかかわらず、今回ブログでこの本を紹介しようと思ったのは、
「それでもやっぱり定期的に健康本のような本を読むのも必要だな」
と改めて感じたからです。
(これは私の解釈です)
というわけで、今回紹介するのがこちらです。
本書では各国の研究データに基づき、現時点で体にいい、体に悪いと断言できる食べ物について述べています。
本書ではいろいろな情報が述べられています。
細かいことは実際に本を読んでもらればいいですが、ざっくりまとめるとこんな感じです。
・白米を含む「白い炭水化物」、牛肉や豚肉、バターなどの飽和脂肪酸は体に悪い
・魚、野菜、果物、茶色い炭水化物、オリーブオイル、ナッツ類は体にいい
・複数の研究結果を取りまとめたメタアナリシスという研究手法で導き出されたエビデンスがいちばん信頼できる
・食べるものは「成分」で考えず、「食品全体」で考えるべき
・日本人が考えがちな「食べ過ぎなければ大丈夫」という考えは間違い
・日本人は塩分摂りすぎ、味噌汁と漬物をやめるべき
健康本を読む人であれば、それほど目新しいことはありません。
これは奇をてらった健康本ではなく、エビデンスを重視したものである以上、仕方がないといえるでしょう。
強いて言えば、赤身の肉や脂肪分に関しては、書籍によっては推奨しているものもありますが、生成された炭水化物(糖質)は、最近の本ではどれでも「悪」として扱われていますね。
ちなみに、本書ではアルコールについて言及がありませんが、お酒の良し悪しについてはこちらの本が参考になるかもしれません(私は下戸で飲酒習慣がないですが)。
私は医者でも栄養士でもないし、食と健康に関する論文にくわしいわけでもないので、どれが正しくてどれが間違っているかという判断はできません。
本書の内容についても、あくまでも「現時点で科学的に証明されている」ということなので、10年後、20年後にはまたまったく違う研究結果が出ることもあり得るでしょう。
だから、こうした研究本を読んで、「あれが体にいい」「これは体に悪い」とあまり神経質になりすぎる必要はないと思うのです。
ただ、ここからがこのエントリーの本題ですが、気にしすぎる必要がないからと言って、まったく気にしなくていいというわけでもないのです。
人間というのは油断しているとすぐに低きに流れます。
つまり、楽なほうにいってしまうということですね。
健康のことを考えず、自分の好きなものを好きなだけ食べるのが楽です。
食品添加物や栄養バランスのことなど考えず、ジャンクフードや濃い味付けのもの、甘いものばかり腹一杯になるまで食べるのが、何も考えなくて楽です。
しかしやはり、そういう食生活をしているとパフォーマンスが落ちたり、病気になりやすくなるのは間違いないでしょう。
だから私が思うのは、健康本を読むときは、個別の情報が正しい・そのとおりにしなければならないと鵜呑みにするのではなく、自分の食生活などを考え直す契機として読んだほうがいいのではないか、ということです。
そのように考えると、じつはどの健康本を読むかというのは大した問題ではない、ともいえます。
実際、本書がほかの健康本と比べていいか悪いかということは、私にはわかりません。
ただ、この本の良いところは、具体的なエビデンスを掲げて「これこそが正しいのです」と説得力を持って書いてくれているところです。
本当に悪いのかどうかは別にしても「白米は体に悪いから少しでも食べちゃダメ」と言われると、「そうなのかな……」と私なんかは思ってしまいます。
だから私は、とりあえず当面の間は、白米は食べるのはやめようと思いました。
自分を省みる契機にするために読む、という意味では、これはいわゆる自己啓発本とかビジネスハウツー本も同じかもしれません。
じつはどの本を読むのかは重要ではないと思うのです。
なんか仕事に対してやる気が起きなかったり、だらけてるなぁと感じたときに読む。
そうすると、ちょっと頑張んなきゃな、という意識になります。
たぶん、本というメディアが持つ役割は、単に情報を提供する以上に、そういう意味があるんだろうなと。
後記
映画『アナと雪の女王2』を観ました。
『トイ・ストーリー3』や『トイ・ストーリー4』を観たときも思ったのですが、昨今は子ども向けのアニメでも「不可逆的なシナリオ」が多くなっていますね。
『天気の子』を観たときにも思ったのですが、はたしてハッピーエンドというのは「元の状態に戻る」ことを指すのか、ということです。
多くの物語では「平和な世界に悪者が現れた。悪者を倒した。世界がもとに戻った。これでハッピー」というシナリオが多かったと思いますが、いまはそうではないということです。
現在進行系で起きているコロナ禍で、落合陽一さんなんかは「アフターコロナというよりウィズコロナ」ということをおっしゃっていました。
「アフターコロナ」というと、コロナが収束したあと、あたかもコロナ以前の生活がそのまま戻ってくるような印象を受けますが、実際はそうではなく、私たちはこれから新型コロナウイルスのような大規模感染症のリスクを織り込んだ社会のなかでいきていかなければならない、ということです。
たとえば、いまや都内のコンビニエンスストアではレジの前に透明なフィルムがぶらさがっています。
このフィルムは、おそらくはコロナが落ち着いてもそのままになるでしょう。
リモートワークやリモート会議、リモートミーティングも、手段の一つとして恒常化すると思います。
「歴史は繰り返す」といいますが、たしかに個別の事象が繰り返すことがあったとしても、「もとに戻る」ということは、それこそ人類が絶滅して文明が完全にリセットでもされない限りありえないわけです。
だいぶ話が脱線しましたが、『アナと雪の女王2』も、そんな感じでした。
ちょっとネタバレしてしまうので、未視聴の人は気をつけてください。
ここからネタバレです。
物語のラストで、アナとエルサは分かれて暮らすことになります。
姉妹で仲良くお城で暮らす生活が終りを迎えるわけです。
でも、そうした状況をアナもエルサも前向きに受け止めます。
変わることは決して悪いことではないからです。
コンテンツの商業的な側面から考えれば、ドラえもんとかクレヨンしんちゃんみたいに永続的に続けられたほうがいいんでしょうが、ディズニーはそうしないということですね。
でもその意味でも、すごく現代っぽい作品だなぁと改めて感じました。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。