本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

売れる企画にあるもの~『なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』のレビュー

今回紹介する本はこちら。

 

なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか

なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか

 

 

鉄道会社でマーケティング業務に従事する傍ら、京都大学で人間の行動について研究し、心理カウンセラーの資格も持っている著者が書いた「多人数コミュニケーションの指南書」

 


内容はともかく、この本、とにかくコンセプトとタイトルがうますぎる。

たぶん編集者の腕前だろう。スタッフクレジットを見ると、この本を担当した編集者は梅田直希氏。じつはこの方、先日読んでやはりおもしろかったサンマーク出版の本、『スタンフォード式最高の睡眠』の編集も手がけている人なのだ。かなりのやり手だ。

 

 

「あ、これ自分のことだ」感

 

とにかく、本書の特徴は
多人数(4人以上)のコミュニケーションに特化している
という点。
これは、意外とありそうでなかった切り口。

 

ただしもちろん、ただ「ありそうでなかったもの」を作れば売れるわけではない。

本書のスゴイ点は、なおかつ
多くの人が「あ、これは自分のことだ」と思ってしまう
という部分である。

 

かく言う私もそう思ったから興味を持ったし、インスタグラムで写真をアップしてみたら、ほかの投稿写真と比べて明らかに多くのコメントがつき、「自分のことだ」と感じた人が多いようだった。

 

みんな4人以上の会話が苦手

 

しかしじつは、本書によれば、ほとんどの人が4人以上での会話を苦手としているらしい。つまり、この本のタイトルを見て、ほとんどの人は自分だけのことだと勘違いしてしまうわけだ。

 

人間というのは選択肢が増え、処理が追いつかなくなるとストレスを感じます。

脳は、このストレスが大の苦手。こういう状況になると、面倒になり「だったらや~めた」とすぐにあきらめてしまう。脳ってけっこうワガママなんです。

(中略)

では、「うわっ、なんかいっぱいある!」と脳が感じ、処理が追いつかなくなる教会とはどこなのでしょうか。

僕は、これが「3」と「4」の間にあるのではないかとにらんでいます。

 

ただ、この引用部分を読んでもらえればわかるように、「人間は4以上だと『いっぱい』だと感じ、脳の処理が追いつかなくなる」というのは、あくまでこの著者の勝手な推測にすぎず、とくにエビデンスがあるわけではない。この著者は脳科学者でも医者でも心理学者でもないので、どこまで信じるかはあなた次第だ。

 

「2番手」を目指せ

 

著者によれば、4人以上の会話になると、それぞれの話者に「1番手」から「4番手」までの順位がつくらしい。1番手というのは、まわりに関係なく自分だけでずっと話し続けられる人である。

「3番手」は、「1番手」の人にとにかく肯定してしまう人。そして「4番手」は、まったっ会話に参加せず、いるのかいないのかわからない空気のような人だ。

そして「2番手」は、「1番手」から適度に話を振ってもらいながら、それなりに会話に主体的に参加できる人のことを指す。本書では、4番手になってしまっている人は、まず2番手を目指すべきだというのがおもな主張となっている。

 

絶対に言ってはいけない一音

 

本書は後半になると単なる多人数コミュニケーションにとどまらず、退陣コミュニケーション全般に活用できる細かいテクニックもいろいろ紹介してくれる。これを蛇足だと感じるか、親切だと感じるかは読者次第だろう。

 

そのなかで、著者はあることを注意している。

 

さらにもうひと言、いや1文字、気をつけていただきたい言葉があります。

聞こえにくかったとき、あるいは意味が少しわからなかったとき、こんなひと言を発してはいないでしょうか。

それは「え?」。

言葉が短くて、ついつい言ってしまう、この「え?」。

ところが、僕はこの世の中から、あいうえおの「え」がなくなればいいと思ったことがあるくらい「え?」が嫌い。

それくらい、コミュニケーションにおいては「地雷ワード」なのです。

 

なお、これのエビデンスは60人を対象に実施したテストらしいので、これもどのくらい信じるかどうかは読者にゆだねられるところだ。

 

とりあえず、個人的には信ぴょう性に乏しいところが目立ったが、とにかく比喩が分かりやすくて文章が読みやすく、内容が理解しやすいので一般人には受けるかもしれないと思っている。得てして、こういう本は一度波に乗ると売れやすい。

まだ発売したばかりの本なので、今後に注目しておきたい。

 

今日の一首

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嘆けとて 月やはものを 思はする

かこち顔なる わが涙かな

西行法師

 

現代語訳:

「嘆け」と月が私を、物思いにふけらせようとするのだろうか?

いや、そうではなく月にかこつけて私の涙はこぼれ落ちてしまうのだ。

 

解説:

これだけだと西行法師がなんで月を見て泣いているのか意味不明だが、これは「月と恋」をテーマに何か詠めといわれたものなので、泣いているのはもちろん昔の叶わなかった恋を思い出している。

 

参考:

小学生おもしろ学習シリーズ まんが 百人一首大辞典

小学生おもしろ学習シリーズ まんが 百人一首大辞典

 

 

後記

 

最近は仕事で「人が先か」「企画が先か」を考えている。つまり、著者候補となる人を先に見つけて、その人と話をしながら一緒に本の企画を練り上げていくのがいいのか、それともまず自分で売れそうなテーマを考え、それにマッチする著名な人を探してオファーしてみたほうがいいのか、というものだ。

もちろん、ケースバイケースで、どちらがいいと断言できるものではないと思うが、最近は後者に傾倒している。というのも、やっぱり著者として実績があったほうが上司にも通しやすいし、書店でも大きく取り扱ってもらいやすいからだ。

しかし、著名な著者はだいたい多忙なので、原稿を書いてもらおうとすると1~2年くらいはざらに待たされる。スピーディに出したい場合、前者のほうがいいかもしれないので、そこは組み合わせ次第なのだろう。

むつかしい。

 

なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか

なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか

 

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。