金持ちという「病い」 ~『本物の大富豪が教える金持ちになるためのすべて』のレビュー~
世の中には「こうすれば金持ちになれる」と読者にアドバイスしてくれる本が山ほどあるが、じつはそれらの本の著者は「大金持ち」ではない。
もくじ
なぜ本物の大金持ちは「金持ちになる方法」という本を書かないのか?
自分が金持ちになった理由を秘密にしたいとか、そういうケチな心理ではない。(たぶん)
そうではなくて、彼らの大半は本を書いてそれらを伝えることにあまり興味を持っていないからだ。
というのも、本を書くというのは、基本的に労力の割りに儲からない活動だからである。
本を書いている時間があるのなら、その間に新しい事業を立ち上げて軌道に乗せ、適当なところで売却したりするほうがよほど儲かる。
本物のビリオネアがガチで書いた本
書店に並んでいる「金持ちになる方法」系の本を書いているのは、せいぜいが個人資産1~10億円とか、そのくらいの人たちだ。
(もちろん、世の中の大半の人はそれくらいのお金が手に入れば満足する“幸福”な人たちなので、このくらいの人たちが教えてくれることで十分タメになる・・・・・・という考え方もできる)
一般的に「ビリオネア」というのは個人資産が10億ドル(日本円だとだいたい1100億円くらい)くらいの人たちを指す。
ただ、今回紹介する本は、本当にイギリスを代表する超富豪が、ガチで金持ちになる方法をすべて明らかにした一冊である。
著者はこんな人だ。
イギリスを代表する大富豪・メディア王・出版王。1947年生まれ。貧しい家庭で育ち、幼少期は無一文同然に過ごす。 1973年、時代を先取りしたコンピューター雑誌の創刊とともにデニス・パブリッシングを起業。 ブルース・リーの伝記の独占出版、男性誌『マキシム』の月間250万部発行の実現、世界的週刊誌『ザ・ウィーク』のプロデュースなど、 事業を次々大成功させ、デニス・パブリッシングを世界有数の出版社に成長させた。 豊かな商才によって一代で富を築き、『サンデー・タイムズ』の「大富豪100人」に選出。 本書はその経験をもとに、デニス自身の人生の集大成としてまとめられた「大富豪がみずから書き下ろしたダウ富豪になるための唯一のノウハウ書」。 ウィットに富んだ語り口で、大富豪の実態を隠すところなく描いている。2014年没。
あんた、なんで本書いたの?
本書の冒頭では、著者本人がQ&A方式でこんな風に書いている。
Q.なぜ時間を費やしてまで、ほかの人が金持ちになれる本を書くのですか?
理由はふたつある。ひとつには、私は書くのが好きだからだ。ふたつめ、それなりの頭を持つ人なら、たいがいは、意欲と行動によって金持ちになれると信じているからだ。
Q.金儲けのために書いているわけではないということですか?
この本でさらに金が儲かるなら、それにこしたことはない。だが、本を書いて金持ちになれる人はほとんどいない。小説や映画、ゲーム、玩具などにブランドを展開し、商品化できれば金儲けができることもある。とは言うものの、『本物の大富豪が教える金持ちになるためのすべて』というおもちゃなど、売れるはずがないだろう(ボードゲームやテレビのリアリティ番組という可能性はないこともないが……いや、冗談だけどね)。
冒頭でも説明したように、本書の著者はいわゆる「小金持ち」ではなく、「ガチな大富豪」である。
がゆえに、本書で教えてくれるのは、個人資産数億円とか、数十億円といったスケールではなく、数百・数千億円の資産を築き上げるための方法である。
本書に興味をもたれた人は、ここをまず誤解してはいけない。
ある意味で、この本の邦題『本物の大富豪が教える金持ちになるためのすべて』はウソだ。
この本が教えてくれるのは「金持ち」になる方法ではない。「超大金持ち」になる方法だからである。
サラリーマンは超富豪にはなれない
本書ではまず、基本的にサラリーマンとしての働き方は度外視されている。
他人の会社で働くサラリーマンは、どれだけ優秀でも「ガチな大富豪」には絶対になれないからである。
「ガチな大富豪」になるためには絶対に自分で会社を起こし、それを成長・拡大させていくしかない。
それ以外に、まずもって数百~数千億という資産を築く方法はないのである。
なので、本書では事業を立ち上げてそのオーナーになる手法について述べられている。
起業するための行動力とか、思考法とか、資金調達ノウハウとか、人材の発掘法とか、交渉術とかだ。
まあ要するに、この本を見習って実践して役に立つ人というのは非常に限られていると思う。
金持ちは幸せじゃないという事実
勘違いされやすい部分だと思うのだが、じつはこの本は「金持ちのススメ」ではないし、さらにいえば「超大金持ちのススメ」でもない。
第15章まで読み進めればわかるのだが、デニス氏は最終的に、自分のような超大金持ちになることを読者に推奨しないのである。
いまは大金持ちである。さて、私は幸せなのだろうか。
いいや、 幸せじゃない。少なくとも、たまにしか幸せではない。たとえば、森の中をひとりで歩いているときとか、趣味である詩の文言を上手に組み立てられたときとか、あるいはまた、ワインを挟んで古い友人と静かに向き合っているときは幸せを感じる。野良猫に餌をやるときも、かな。でも、こういうことは金持ちでなくてもできる。
くり返すが、金持ちは幸せじゃない。本当の金持ちで幸せな人など、いまだお目にかかったことがない。金持ちにはずいぶんと会っているのだが。 富のおこぼれを求める声がうるさくなるため、たいがいは人とかかわらなくなる。ひとりでいると、こだわりが強く、尊大になる。寂しさも感じるようになる。そして、集めた砂の中を転げまわって楽しめる年数がかぎられていることにも怒りを感じるようになる。
ここだけ読むと、まあこういう金持ち系の本にたまに出てくる「お金と幸せは別だよ」的な結論になっていくのが普通だ。
なぜ人は金儲けを止められなくなるのか
しかし、デニス氏はさらに
「お金が幸せをもたらしてくれるわけではないとわかっているのに、なぜ私は、金儲けをやめられないのか?」
という部分にも言及している。
ここが本書でもっとも興味深く、おもしろい点だと思う。
言い訳にもならないが、金儲けは麻薬である。金そのものではなく、金を稼ぐことが麻薬なのだ。
そんなはずはないと思うかもしれないが、本当のことだ。脳内麻薬などとも呼ばれる「エンドルフィン」が発見されるまで、運動に依存性があるなどだれも信じなかったが、それと同じだ。そして、金儲けというのは、ジョギングなんかと比べものにならないくらい依存性が強い。
なるほどビジネスというのは、ギャンブルに近いものがある。
自分が思いついた商品やサービスがヒットするかはわからないけど、見事にヒットすれば最高に気持ちいい。
金儲けというのは、資本主義社会における最高のゲームである・・・・・・とも表現できる。
オンラインゲームにはまって主になる人がいるように、要するに億万長者というのは「金儲けゲーム」の魅力に取りつかれてそれしか考えられなくなってしまった人たちだといえるわけだ。
金持ちは基本的に人でなしである
そしてこのゲームで勝者となるには、基本的に「儲かるか」を考え、人と付き合わなければならない。
そのことを極端に示す例が、ある。
ちょっと長いが、引用しよう。
大昔、私が会社を立ちあげてまだ間がないころ、仕事仲間の4人に陰謀を企てられたことがある。ひとりは役員、ひとりは発行人、ひとりはデザイナー、ひとりは編集者。自分たちなしでは私の小さな会社が立ちゆかないことをネタに私と対決し、株をわたせと言ってきた。捨て身の一撃である。
もちろん、物腰は柔らかく、丁寧である。株は私が100%を握っており、そのうち、たとえば、 20%をみなに分けても問題ないはずだと指摘された。金が動く話ではなく、しかも公平な形になるだけだ──彼らはそう表現した。みな、私と同じくらい長時間働いているし、会社を大成功させようと真剣に努力している。株を分けてくれるなら、給料の削減を受け入れる用意があるという話もあった。
(中略)
彼らは本気だった。だが、わずか 20%の株を彼らにわたせば、そういう不愉快はすべて避けられる。将来の業績次第でという話でもいい。 彼らは、友人として、また、仕事仲間として、この提案を冷静かつ誠実に検討すべきだとすすめてきた。私も、心の底では、彼らが正しいとわかっているはず──彼らは、みな、そう考えていた。公平な形にしようというだけのことなのだから。
私は、 彼らを全員、 その場でクビにした。彼らのほうから出ていったのかもしれない。どちらだったかよく覚えていない。まあ、どちらであっても同じだ。
このエピソードは、「超大金持ちになるには、会社の『所有』にこだわらなければならない」というメッセージにつながるのだが、まあ人非人である。
しかし、こういう決定を下せないと、超大金持ちにはなれないのである。
私たちが金持ちになれない理由
普通の人は、「ここまでするくらいなら金持ちになれなくてもいい」と思ってしまう。
それが普通だろう。
そして、「普通」であるがゆえに、そうした人たちは絶対に超大金持ちにはなれない。
金持ちというのは結局、たまたま資本主義社会においては「成功者」と受け取られるだけの精神異常者なのかもしれない。
つまり、私たちがなろうと思ってもなかなか金持ちになる覚悟をもてないというのは、それだけ一般的な感覚の持ち主であるということの証左かもしれないのだ。
ポジティブに捉えれば、ね。
そんなことを思わせてくれる一冊ではあった。
今日の一首
14.
陸奥の しのぶもぢずり 誰故に
乱れそめにし われならなくに
現代語訳:
陸奥でつくられる「しのぶ草」で染めた「しのぶもぢずり」の模様のように、
私の心は乱れています。それは誰のせいか、あなたのせいですよ。
解説:
詠み手の河原左大臣は嵯峨天皇の第12皇子で、恋多き男として知られ、一説によれば『源氏物語』の主人公、光源氏のモデルともされる。この歌は要するに染物をみて、遠く離れた陸奥の女性を思っているわけだが、単に京都と陸奥くらい心の距離がまだ離れているという風にも受け止められる。
後記
BO4を買いました。
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ブラックアウトのように、100人でサバイバルするシステムのやつはどうにも性に合わないのであまりやってない。
もっぱらマルチプレイヤーをやっている。
ショットガンが好きです。焼夷ショットガン最高。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。