本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『1%の富裕層のお金でみんなが幸せになる方法』(クリス・ヒューズ)のレビュー

f:id:Ada_bana:20200713091331j:plain


成功者たちの本が世の中には溢れています。

なぜ人々が成功者たちの本を読みたがるかというと、「彼らの真似をすれば自分も成功者に慣れる」という考え(信仰?)があるからです。

ロジック自体は明快で、「成功するには正しい方法がある。そのロジックを知って実践すれば成功できる」というものですね。

まあ、そのロジックが正しかったとしても、実践することが出来ないのが凡人の悲しいところではあるのですが、そもそも社会的成功には少なからず「運」の要素が絡んでくると思うのです。

 

どんな能力を持つことが社会的成功につながるかは、時代背景によって変わります。

たとえば孫正義さんが戦国時代に生まれてしまったら、もしかしたら足軽としてあっけなく弓矢に当たって何事をなすこともなく死んでしまっていたかもしれません。

(もちろん、大商人としてやっぱり大成するかもしれませんが)

あるいは別に「時代」なんていうたいそれたことでなくても、たとえば私が北朝鮮に生まれていたら、こんなふうに好きに本を読んでブログを書くなんてことはできていないでしょう。

日本人として生まれてこの年齢まで大きな病気も怪我もなく、自分がやりたい仕事につけて、生活できて、好きな本を読んで文章をかけるのは大変「幸運」なことです。

いわゆる社会的成功をするか否かも、この「運」が絡んでくる要素が大きいというのは、今回紹介する本で少し実感しました。

 

1%の富裕層のお金でみんなが幸せになる方法

1%の富裕層のお金でみんなが幸せになる方法

 

 

本書の著者クリス・ヒューズ氏はたまたまハーバード大学マーク・ザッカーバーグという青年とルームメイトになり、たまたまフェイスブックというサービスを展開するのを手伝ったことにより、もう一生働かなくてもいい大金を手にするのです。

とはいえ、彼はその後、バラク・オバマ大統領の選挙キャンペーンのオンライン戦略をマネジメントして成功を収めていますし、超頭が切れるザッカーバーグに気に入られたくらいですから(そもそもハーバードに合格しているし)、地頭はいいし努力もしていることは間違いありません。

ただ、おそらく彼くらいの能力を持っている人はほかにもいたにもかかわらず、マーク・ザッカーバーグに出会ったのは彼で、若いうちから超大金を手に入れたというのは、まあ言ってみれば宝くじに近い感覚でしょう。

実際、彼も次のように言っています。

僕はフェイスブックを去ってかなり経ってからも、市民団体や企業、学校などに呼ばれ、人々を鼓舞し奮い立たせるようなフェイスブックの物語を伝えた。才能と努力をつぎ込めば自分も同じように成功できるのだと聴衆は信じたがっていた。僕らの成功の秘訣を知り、それに続きたいと考えていた。だから僕は彼らが望むとおりの物語をつくろうとした。努力の末にすばらしい成果を上げたときの達成感を知っていたし、フェイスブックは実際、途方もない大成功だった。

しかしそれは先達が積み重ねてきたものとはまるで種類の違う成功だった。これまでの世代は努力を重ね、前の世代よりも少しずつよい暮らしを手に入れてきた。だが僕のフェイスブックでの経験は、たとえるなら宝くじに当選する感覚に近かった。

誰もが学生寮のサクセスストーリーに熱狂したが、僕自身は釈然としなかった。自分が何かの天才だなんて思えなかった。

 

さて、とはいっても「成功」と「運」がどうのこうのというのは、この本のメインテーマではありません。

著者のヒューズさんは自らの幸運によって働かなくてもいいくらいの大金を手に入れた結果、社会に蔓延している覆しようのない巨大な経済的格差の存在を身を以て実感し、それをなんとかできないかという社会活動を始めたのです。

その結果、彼が結論としてたどり着き、本書で提言しているのが「保証所得」というシステムです。

 

年収五万ドル未満の世帯の、何らかのかたちで働いている成人一人につき月五〇〇ドルの保証所得を政府が支給する。

つまり一人につき年六〇〇〇ドル、既婚夫婦なら一万二〇〇〇ドルの計算だ。年三万八〇〇〇ドルの収入しかない夫婦の世帯は年収が五万ドルになり、手取りが大幅に増える。ウォルマートで時給一〇ドルで週二五時間働く独身労働者は、所得が一万三〇〇〇ドルから一万九〇〇〇ドルに押し上げられる。

 

これは、日本では2ちゃんねる創設者のひろゆきさんなどが盛んに提唱している「ベーシック・インカム(BI)」と似ていますが、BIが支給する対象を一切限定しない(つまり貧乏人も金持ちも誰でももらえる)のに対し、こちらは対象が「働いている成人」に限定されます。

また、ヒューズ氏の案では、この保証所得の財源は年収二五万ドル(日本円だとおよそ年収2600万円)を超えるアメリカの最富裕層が全面的に負担するようです。

こうすることにより、全国民に一律お金を配るよりもコストが少ない、と主張しています(だれが保証所得の対象者化を選別する人的・時間的コストがどのくらいかかるのかなどは不明ですが)。

 

本書の後半はそんな「保証所得」の話になっていておもしろさが半減してしまいますが(それが著者の伝えたいことなんですけどね)、個人的には前半、著者のフェイスブックとの関わりやオバマ大統領のエピソードのほうがおもしろいです。

 

1%の富裕層のお金でみんなが幸せになる方法

1%の富裕層のお金でみんなが幸せになる方法

 

 

後記

マンガ『二月の勝者』を読みました。

 

 

進学塾講師の先生たちの受験にまつわる物語です。

受験マンガといえば有名なのは『ドラゴン桜』ですね。

 

ドラゴン桜(1) (モーニングコミックス)

ドラゴン桜(1) (モーニングコミックス)

 

 

こちらは高校生の大学受験がテーマで、弁護士が経営難に苦しむ高校を助けるという物語です。

ドラマが話題となりましたが、こちらの『二月の勝者』もドラマ化されるみたいです。

本作で大きなウェイトを占めるのが「お金」。

言ってみれば「受験とお金の真実」です。

正直な話、親の年収と子どもの成績・大学進学率には正の相関関係があり、年収の高い家庭の子どもほど成績が良くなります。

私自身が塾に通った経験もほとんどないし、親の苦悩も子どもの思いもよくわからないので、このマンガの内容がどのくらいのリアリティを持っているのかは不明ですが、各主人公である黒木蔵人らにもいろいろな過去があるようで、各家庭の人間ドラマも垣間見れ、なかなか楽しく読めました。

ドラマになったらまた話題になるかもしれないですね。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。