本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

セックスと青春とSF~『逆行の夏』のレビュー~

今回紹介する本はこちら。

 

逆行の夏 ジョン・ヴァーリイ傑作集 (ハヤカワ文庫SF)

逆行の夏 ジョン・ヴァーリイ傑作集 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ジョン・ヴァーリイ,シライシユウコ,浅倉久志,宮脇孝雄,大野万紀,内田昌之,中原尚哉
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/07/23
  • メディア: 新書
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アメリカのSF小説作家、ジョン・ヴァーリイの中短編集。ちなみに、ヴァーリイ氏がとくに活躍したのが1970~80年代で、現在も69歳で存命中。

 

もくじ

 

出版社の紹介文章だと「怜悧で官能的なヴィジョンがあふれる6篇」と説明されているが、これは平たく言うと「SFチックな世界観でセックスもけっこうでてくる話を集めたよ」ということだ。

実際、多くの作品ではだいたいセックスシーンが出てくる。ただキャラクターたちがベッドでキャッキャウフフするだけではない。表題作などをはじめ、多くのキャラクターがまるで初恋のように、ジュブナイル的な雰囲気の中でセックスするわけだ。つまり、そんなにイヤラシサがない。

 

今回はそれぞれの話について、セックスシーンについて述べていこう。

 

『逆行の夏』

地球をエイリアンに侵略され、太陽系のそれぞれの惑星に移住した人類たちが太陽系経済圏をつくって暮らす世界を舞台にした<八世界>シリーズのひとつ。

本作の舞台は水星で、過酷な環境の中で母親と一緒に暮らしている少年(ティモシー)が、自分のクローンである姉(ジュビラント)が訪れたことで自分と家族の秘密を知っていく物語。途中、ティモシーとジュビラントは水銀の池の洞窟に行ったとき、地震で閉じ込められてしまう。2人は仕方なく、助けが来てくれるのを待つことにする。

 

ぼくらは並んで水銀の溜りに横たわり、互いに腕を相手の体にからませていた。そうしていれば、気分が和らぐとわかったのだ。

「つまり……わかったわ。<服>を着たままメイク・ラブできるのね。それがあなたのいってることなの?」

「水銀の池でやってごらん。最高だよ」

「わたしたち水銀の池にいるわ」

「だけどいまはできない。オーバーヒートしちゃうし、自省しなくちゃ」

彼女は黙っていた。でもぼくの背中で彼女の手がぎゅっと握られるのを感じた。

「何かまずいことが起こっているの、ティモシー?」

「いいや。でも長時間になるかも知れない。だんだん喉が渇いてくるだろう。持ちこたえられるかい?」

「メイク・ラブできないなんてあんまりだわ。気が紛れると思ったのに」

「もちこたえられるかい?」

「もちこたえられるわ」

 

「メイク・ラブ」って言葉がサラッとつかえるのが流石ですわ。

 

『さようなら、ロビンソン・クルーソー』

 

とある海だらけの世界を舞台に、ピリという若者がリーアンドラというお姉さんと仲良くなることで、自分の正体を知っていく物語。ピリにはハルラという幼馴染ポジションの女の子がいるが、こういうストーリーの場合、大人への手ほどきをしてくれるのはお姉さんであるのは定石である。

 

彼女は片手をピリの頬にそえると、すこし彼の頭をかたむけて、キスをした。母親的なキスではなかった。彼はこれがもういままでとおなじゲームでないことを知った。彼女が別のルールを押しつけてきたのだ。

「リー……」

「だまって。もうあなたもそろそろ覚えていいときよ」

(中略)

「ぼくはまだそんな年じゃないよ」と抗議したが、彼女の手には、もう彼が充分そんな年齢だという証拠が握られていた。何年か前から、すでにそんな年だったのだ。ぼくは十四歳だ、と彼は思った。それなのに、どうしてまだ十だなんて、自分をごまかしていられたのだろ?

「あなたは元気のいい若者よ」彼女が耳元でささやいた。「いつまでもそんなことばかりいうようなら、わたしはがっかりしちゃうわ。もうあなたは子供じゃないのよ、ピリ。その事実を認めなさい」

 

年上のお姉さんというのは男の子の憧れですね。

 

『バービーはなぜ殺される』

 

ルナである殺人事件が発生する。公衆の面前で殺害され、多くの人が犯人を見ていたが、犯人がわからない。ルナには手術によって全員自分たちの個性(アイデンティティ)を極力なくす生活をしている宗教にハマっている人たち(バービー)がいて、犯人はそういったバービーのひとりだったからだ。自治警察の警部補、アンナ=ルイーズ・バッハは、いっけんするとどうやっても解決できない犯人探しに乗り出す。

さて本書のセックスシーンというか、官能シーンはあるのだが、それは本書の核心に迫る部分になってしまうので、ここで引用するのはやめておく。ただ、前2作とは違い、登場人物の年齢も高いので、もう少しアダルティで落ち着いた雰囲気なっているのが特徴的。

 

『残像』

 

とくに目的もなく旅をする男が、目と耳の不自由な人々だけが住みつくコミューンにたどり着き、そこで彼らとともに生活をしようとする物語。そのコミューンでは、人々は言葉や文字の代わりに肉体を使ったコミュニケーション・ボディトークを用いており、主人公の男はコミューンの少女・ピンクとともに暮らしながらそれを習っていくのだった。

 

わたしはピンクからボディトークのレッスンを受けていた。そう、愛を交わしていたのだ。気づくまで数週間かかったのだが、彼女には性欲があり、わたしが無邪気――あのころはそう決めつけていた――なものと思い込もうとしていた愛撫は、無邪気でありながら無邪気ではなかった。彼女は、自分が両手でわたしのペニスに語りかければ、結果的に別の会話になるかもしれないということを、まったく自然なことと理解していた。まだ思春期のただなかにあったとはいえ、彼女は全員からおとなとみなされていたし、わたしもそのつもりで受け入れていた。彼女が語りかけてくることが見えなかったのは、ひとえに文化的な条件付けのせいだった。

 

主人公の年齢はいくつなのかはわからないが、青臭さがなんともいえない。

 

『ブルー・シャンペン』

 

巨大なシャンペングラスのように見えるセレブ御用達の遊戯惑星「ブルー・シャンペン」の救助員として働いている主人公・クーパーは、遊びにやってきたポルノスターの女優、メガンと恋に落ちる。だが、かつての事故で首から下が全身まひした彼女はボディーガイドという機械によって自由を得ていたのだった。

 

「愛してるよ」と彼はいった。

(中略)

「やぶから棒ね。すこしおちつくまで待ってからにしたら――」

「いや」両手を彼女の顔に添え、自分のほうを向かせた。「いや。この気持ちは、さっき、あの夢中になった瞬間にしか言葉にできなかった。ぼくにとっていいやすい言葉じゃなかった」

「まいったな」メガンは静かなモノトーンでいった。

「どうした?」それでも彼女が答えないのを見て、クーパーは両手にはさんだ顔を静かに前後に揺らした。「ぼくを愛してない、そうなのか? だったら、いまはっきりそういってくれ」

「そうじゃないわよ。もちろん愛してる。あなたは恋をした経験がないんでしょう?」

「うん。どんな気持ちのものなのか、いつになったらわかるだろうと思っていた。いま、それがわかった」

「あなたはまだその半分も知らない。ときには恋がもっと理性的なものであってくれたら、と思いたくなることもあるわよ。いちばん対処しにくいときを選んでおそいかかってこなくても、と」

「どうやら、ぼくたちは完全に無力ということらしいね、ちがう?」

「そのとおりよ」彼女はもう一度ためいきをついてから、立ち上がってクーパーの手をとった。ベッドのほうへいざいながらいった。

「いらっしゃい。メイク・ラブのしかたをおぼえてもらわないと」

 

クーパーは、それが奇怪なものではないかとこれまで一抹の不安をいだいていた。だが、そうではなかった。あれからそのことはずっと頭にあったが、答が出てこなかった。いったい彼女はどんなことをするのだろう? もし鎖骨から下はぜんぜん感覚がないとしたら、どんな性行為も彼女にとっては意味がないのでは?

ひとつの答は最初から明らかなはずだった。彼女は、まだ肩と、首すじと、顔と、唇と、耳で感じることができる。第二の答も、最初から目の前にあったのに気がつかなかったのだ。彼女にはまだ勃起能力がある。性器からの知覚は脳に届かないが、クリトリスから脊髄につながる神経は損傷を受けていない。 

 

この話は、読んでいて『風味絶佳』を思い出した。

 

風味絶佳 (文春文庫)

風味絶佳 (文春文庫)

 

 

『PRESS ENTER ■』

 

退役軍人であるビクターはある日、隣人でパソコンマニアの変人・クルージが死んでいるのを発見する。警察によれば、近隣住民のプライベート情報を把握していたクルージは、一番清廉潔白な男やまめであるビクターに財産を譲ると遺書を残し、不思議なプログラムを自分のパソコンに残していた。

捜査に行き詰った警察は、カリフォルニア工科大の秀才・リサに助けを求め、彼女はクルージの家に入り浸って連日パソコンを解析。やがて、ビクターと夕食をとるほど仲良くなるのだった。

 

俺はコンピュータの初歩を教わった。キーボードをすこし叩いてみたが、すぐにわけがわからなくなった。プログラマーになろうと思わないほうがいいとおたがいに結論づけた。

電話モデムというものも見せてもらった。これを使って世界じゅうのコンピュータにつなげられるらしい。リサは実際にスタンフォード大学のだれかに接続してみせた。顔も本名も知らず、“泡の選別者”(バブル・ソーター)という仮名で知っているだけだという。相手とは文字でやり取りした。

最後にバブルソーターは、“bye-p”と打ってきた。リサは“T”と返した。

「Tってなに?」

「真(トゥルー)よ。つまり、イエスってこと。ハッカーにとってイエスはあたりまえすぎておもしろくないから」

「バイの意味は教えてもらったけど、“bye-p”は?」

リサは真剣な顔の上目遣いになった。

「疑問形よ。単語にpをつけると疑問になる。つまり“bye-p”は、ログアウトしたいか、つまり接続を終了したいかと、バブルソーターが尋ねてきたわけ」

俺は少し考えた。

「じゃあ、“osculate posterior-p”を翻訳すると?」

「“あたしのケツにキスしたいのか?”ってこと。もちろん、あのときはオズボーンに言ってたのよ」

俺は改めてリサのTシャツを見た。それから彼女の目を見た。真剣でゆらがない。両手を膝の上で組んで、返事を待っている。

 

intercourse(性交)-p

 

「イエス。したい」俺は答えた。

彼女は眼鏡をはずしてテーブルにおき、Tシャツを脱いだ。

 

ちなみに、ビクターはリサの倍くらいの年齢で年が離れているが、やっぱり青臭い、ティーンエイジャーのようなセックスをしているのが印象的。

 

今日の一首

 

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81

ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば

ただ有明の 月ぞ残れる

後徳大寺左大臣

 

現代語訳:

ほととぎすが鳴いた方を見てみたら、

(ほととぎすの姿はなく)夜明けごろの月しか残っていなかった

 

解説:

解説する必要もないくらい、かなりシンプルな歌。蛇足ながら説明すると、平安時代の貴族たちはその年に一番早く鳴くほととぎすの声を聴くために徹夜することを、風流な遊びとして楽しんでいたらしい。ただそのときの情景を素直に描写しただけで技巧もないが、夏の初めの夜明けごろの余韻と、鳴き声だけ聞こえるのにその姿が見つけられなかった残念さが伝わってきて、個人的にはかなり好み。

 

後記

 

残念がら、先日ブログで著ロット紹介したCloudtipというビットコインを手軽に送付できるサービスが終了することになったようだ。

 


くわしいことはわからないが、私が見ている限りユーザー数はメチャクチャ少なかったので、資金が回らなくなったのではないかと思われる。ちょっとおもしろそうなサービスだと思った矢先の出来事だったので、残念だ。

 

そういえば、マストドンもちょっと前に話題になったけれど、結局、テレビなどの大手マスメディアはあまり関心を示さなかったようで、一般に広まる気配はいまのところない。まあ、マストドンの場合はそもそも一般向けのサービスではないのだろうから、このままひたすらマイナーなSNSであり続けるのが正しいのかもしれないが。

 

個人的には、ビジネス向けのSNSであるLinkdeinがもう少し日本でも一般的になったらいいかもしれないと思っている。基本的にFacebookをビジネスのために使っているが、どうしてもプライベートの友人の投稿と混じってしまうので、ビジネスはビジネス、プライベートはプライベートで分けたいという思いもなくはない。

 

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。