『ダークマターと恐竜絶滅』を読んでダークマター世界に想いを馳せる
「STAP細胞はあります」と記者会見で断言した小保方晴子さんの一件がもはや「懐かしい」と感じることに時の流れの速さを感じる今日このごろ。
もくじ
調べてみると、最近でも話題はあるようで、彼女はNHKで放送された番組に対して「名誉毀損(きそん)の人権侵害が認められる」という理由から勧告書を出したらしい。
「誰も見ることができない」からこそ科学的なのだ
それはともかく、世の中には「(目にも見えないし触れないしほかの物質にほとんど何の影響も与えないと思うけど)ダークマターはあります」と主張している人々がいる。これだけ読むとまるで幽霊とかUMAと同じような存在にも感じられるけれど、その違いは明確にある。
幽霊やUMAは「一部の人だけに見える(見たことがある)もの」であり、一方のダークマターは「どんな人間にも絶対に見ることができないもの」なのだ。なおタチが悪い。
しかし、科学的な視点で考えるとこの部分が非常に重要なのだ。なにしろ、科学というのは客観的な立場から「推論」「観察」「実験」によって世界のありようを探求するものなので、その結果が人によって違っていると「科学的ではない」ということになるのである。
小保方さんの話題に話を戻すと、STAP細胞の問題点は「小保方さんは見つけられたが、ほかの科学者はどう頑張っても見つけられない」という差異が非常に問題……というか、世界の科学者が受け入れられないポイントなのである。
逆に、ダークマターのように「誰が見ても見つけられませんよ。でも存在はしてます」と言われた方が、科学者は納得できるようなのである。
『ダークマターと恐竜絶滅』
ここら辺の科学者のスタンスについては、最近読んだこちらの本を読んでみると理解できるかもしれない。ただ、けっこう重厚なので、読むのに時間はかかると思うが。
- 作者: スティーヴンワインバーグ,大栗博司,Steven Weinberg,赤根洋子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/05/14
- メディア: 単行本
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今回紹介するのはこの本ではなくて、こっち。
小保方さんに「勧告」を受けたNHKの出版局が世に送り出した一冊である。
K-Pg境界の引き金はダークマターなのか
私が子どもの頃、例にもれず恐竜に夢中になる時期があったが、そのころ読んだ本ではまだ恐竜絶滅の原因が特定されていなかった。
隕石衝突のほかに、気候変動や、植物が一斉に毒性を持ったことで草食恐竜→肉食恐竜の順番に死滅したというなかなかトンデもな説も乗っていたような気がする。
しかし、現代では恐竜絶滅の原因はおおよそ隕石の落下だろうと特定されているらしい。恐竜の絶滅をもう少し専門的には「K-Pg境界」という。
Kというのは白亜紀を意味するドイツ語「Kreide」の頭文字で*1、Pgというのは「古第三紀(6,600万年前から2,303万年前まで)」を指す「Paleogene period」の略称なので、つまり直訳すると「白亜紀と古第三紀の境界線」という意味である。
K-Pg境界は約6550万年前だとされており、このころに巨大な隕石がメキシコのユカタン半島に飛来したことで恐竜は絶滅したとされている。そもそも、ユカタン半島の地形は隕石の飛来によってできたと主張されているのだ。
本書ではその隕石が地球に飛来するそもそもの原因が、もしかしたらダークマターにあったのかもしれない……という可能性を指摘している。もちろん、この説はまだ「K-Pg境界は隕石飛来によるもの」という説よりも認められてはいないようだが、シナリオとしてはなかなか興奮できる。
ダークマターについてはほかの本で
ダークマターについて基礎的なことを説明し始めるととんでもないことになるし、科学者でもない私がヘタに説明しようとすると間違ったことを伝える可能性が高いので、ダークマターについて知りたい人はそれに関する成書を読んでいただきたい。私が初めてでーくマターについて知ったのはこの本だった気がする。
本書でもダークマターについての基本的な説明はしてくれるが、どちらかというとより上級編のダークマターについて説明するのが本書の趣旨なので、ダークマターの基本についてとりあえず知りたいなら上のような本を読んだ方がいいと思う。
ダークマターの世界と、ダーク生命体はいるか?
ちなみに、本書の著者であるリサ・ランドール氏は本書よりも前に『ワープする宇宙』という本のなかなどで、マルチバース(多元宇宙論)の可能性について主張している。
- 作者: リサ・ランドール,向山信治,塩原通緒
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2007/06/28
- メディア: 単行本
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マルチバースも説明が難しいが、もしかすると、この世界には私たちのように物質世界に生きている存在には何をどうやっても感知できない別の宇宙が複数存在するのかもしれないというもので、SF好きだと非常に食指が動かされる話である。
ダークマターと呼称すると、まるでそういう名前の単一の物質のようなイメージを抱きがちだが、この名称はむしろ「原子」「陽子」「ニュートリノ」など、物質の種類を指していると考えたほうが適切だ。つまり、ダークマターのなかにも(たぶん)いろいろな種類があって、ことによるとダークマターによって全く別の世界が構成されている可能性も無きにしも非ず……といえる。
ダークマターは銀河と重なるような位置に独自の「ダークディスク」を形成しているのかもしれないし、ダークマター同士は「ダークフォース(ダークエネルギー)」――つまりダークライト(暗黒の光)やダーク電磁力など――という私たちの世界とは全く違う力学によって影響を与え合っているのかもしれない。
となると、もしかするとダークマターはダークマターと組み合わさることで、やはり私たちには知覚できない独自の物質を作り出し、ダーク生命体が普通に社会を形成している可能性だってないわけではないのだ。
このことを、ランドール氏は次のように説明している。
似たような電荷を持った二種類の粒子が同じ場所にいるのに相互作用しないというのは、じつはそれほど不思議なことでもない。たとえて言えば、通常の物質がフェイスブックを通じて相互作用しているのに対し、部分的に相互作用するダークマターのモデルの荷電物質はグーグルプラスを通じて相互作用しているようなものだ。それぞれの相互作用は同じようなものだが、どちらも自分の属するソーシャルネットワーク上の相手としか接触を持たない。相互作用はどちらかのネットワーク上で行われるもので、両方が交わることはない。
ダークマターが隕石を生み出したのか
ただし、ダークマターが私たちのような物質世界にまったく干渉しない……というわけではない。だからこそ、恐竜絶滅の原因かもしれないという主張が成り立つわけだ。
ダークマターは光も透過してしまうようなものだが、重力の影響は受ける。そして、非常に高密度で存在した場合、重力に影響を与えてオールトの雲(太陽系を取り巻いているとされる天体群)の軌道を変え、太陽系の内側に隕石を生じさせる可能性だってあるわけだ。不幸なことに、恐竜たちはこうした隕石によって絶滅を余儀なくされたことも考えられる。
おわりに
ということを読んで興奮したのだが、本エントリーを書くにあたっていくつか検索していたら、こんな記事も見つけてしまった。
これは2016年12月の記事で、ヴァーリンデの重力仮説が現実味を帯びてきたことを伝えている。そもそもダークマターはアインシュタインの提唱した相対性理論に基づいた観察を補正するために考えられた仮定物質なので、もしかするとそもそもダークマターなんて奇怪な存在を考えなくても、この宇宙の膨張は説明できるかもしれないわけだ。
宇宙の闇はまだまだ深い。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。
*1:白亜紀は英語で「Cretaceous」なのだが、時代区分はCで始まる単語が多くて紛らわしいのでドイツ語を使うことになったようだ