本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『13歳からのアート思考』(末永幸歩・著)のレビュー

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私が美術館に行くようになったのは大学生になってからのことだったと思います。

というより、積極的に読書をするようになったのもこのころで、人生のモラトリアムを「読書」「映画」「美術」「アニメ」「麻雀」で満たしていました。

私が好きなのはバロックからルネサンス、それとシュルレアリスムあたり。

印象派や現代美術はちょっと良さがよくわからんと思っていました。

 

ただ、以前に紹介した『絵を見る技術』でも書いたとおり、絵の「好き嫌い」と絵の「良し悪し」は別物です。

 

ada-bana.hatenablog.com

 

絵画に限らず、「好き嫌い」と「良し悪し」を混同している人は多いと思います。

四象限マトリクスで説明すると、こういうことですね。

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読んだ本の感想を書いたりするときも、この四象限を参考にしてみると便利かもしれません。

好き嫌いの理由と、良し悪しの理由は別々にあるはずです。

 

さて今回紹介する本書『13歳からのアート思考』は、タイトルからも伝わるように、どちらかというとアートを通じてこれからの世の中を生きていくのに役立つ「思考法」を伝えることを目的とした一冊です。

 

「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考

「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考

  • 作者:末永 幸歩
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

「美術」へのこうした苦手意識は、どこから生まれるのでしょう?

じつのところ、これには明確な"分岐点"があるのではないか、という仮説を私は持っています。

その分岐点とは、本書のタイトルにもある「13歳」です。

(中略)

私が一教員として学校教育の実態を見てきたかぎりでは、絵を描いたりものをつくったりする「技術」と、過去に生み出された芸術作品についての「知識」に重点を置いた授業が、いまだに大半を占めています。

「絵を描く」「ものをつくる」「アート作品の知識を得る」――こうした授業スタイルは、一見するとみなさんの創造性を育んでくれそうなものですが、じつのところ、これらはかえって個人の創造性を奪っていきます。

このような「技術・知識」偏重型の授業スタイルが、中学以降の「美術」に対する苦手意識の元凶ではないかというわけです。

 

まあたしかに思い起こしてみると、「美術の成績」ほど評価基準があやふやなものはありませんね。

ただ、現代ではアートを学ぶことの意義は大きい、と著者は主張します。

それは、テクノロジーの発達によって、人間は以前にもまして「自分で考える」必要がなくなっていったからです。

たとえばレストランを選ぶとき、ジャンルやエリアを入力すると、オススメのお店が一覧で出てきて、「他人のレビュー・評点」を参考にして決めます。

 

本もそうですね。

あまりにも出版されている本の数が多すぎるから、どれを読めばいいのかわからなくなります。

だから、人々は書店で大々的に展開されている本を読んだり、Amazonのレビュー数が多いもの、人気があって売れているものを読んだりします。

私も仕事で本を作るとき、営業部からよくいわれるのは「とにかく著名人の推薦コメントを載せられないか」ということです。

とくに著者の実績が少なく、SNSのフォロワーも少なかったりする場合、だれか他の人の「お墨付き」が必須になりつつあるのです。

実際本書でも、著者の末永さんは出版の実績があまりなく、知名度が高い人ではありません。

そのため、出版社の判断として、ビジネス書をよく読む人なら名前を知っているだろう「藤原和博」さんや「山口周」さんの推薦コメントをオビに載せたりしているのだと思います。

 

藤原和博の必ず食える1%の人になる方法

藤原和博の必ず食える1%の人になる方法

 

 

ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式

ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式

  • 作者:山口 周
  • 発売日: 2019/07/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

この本の場合は、佐宗邦威さんの解説までついてますね。

 

直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN

直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN

  • 作者:佐宗 邦威
  • 発売日: 2019/03/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

ただ、これらの他者による評価は先程の「好き嫌い・良し悪し」四象限にはまったく関わってこないものです。

「好き嫌い・良し悪し」を決めるのはあくまでもその人自身であり、そのためには自分で考えることが必要になります。

本書の著者によれば、そのために必要なのがアートであり、アート的な思考である、ということです。

 

ただ、私としてはそんな小難しいことを考えながら読まずとも、純粋に「現代アートがよくわかる本」として読めば十分なのではないか、と思います。

本書で取り上げているのは、アートの立ち位置が決定的に変わった〈あるイノベーション〉以降の芸術家たちの作品です。

 

具体的には

アンリ・マティスの「緑のすじのあるマティス婦人の肖像」

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https://www.musey.net/5737より

ピカソの「アビニヨンの娘たち

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http://www.artmuseum.jpn.org/mu_avinyon.htmlより

ワシリー・カンディンスキーの「コンポジションⅦ」

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https://www.musey.net/828より

 

マルセル・デュシャンの「泉」

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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%89_(%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%B3)より

ジャクソン・ポロックの「ナンバー1A」

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https://www.musey.net/6723より

 

たとえばカンディンスキーの「コンポジションⅦ」とポロックの「ナンバー1A」なんて、なにがどう違うのか意味がわかりませんよね。

でも、この2つは目的が明確に違うのです。

それが、本書を読めばわかります。

私はとくにポロックの「ナンバー1A」の説明を読んだとき、なるほどポロックはこの絵によってアートというものの概念の壁をさらに一つ打ち破ったのだと目から鱗が落ちました。

 

タイトルでは「13歳からの」と銘打っていますが、どちらかというと大人向けですね。

大変刺激な一冊でした。

 

後記

いまさらながら「FINAL FANTASY XVファイナルファンタジー15)」をクリアしました

 

 

ここで感想を書こうかと思ったのですが、書いているうちにすんごく長くなってしまったので、これはまた別の記事にします。

 

というわけで、今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。