本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

正しいは正しくない ~『すべては好き嫌いから始まる』のレビュー

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私自身が割とそうなのでちょっと反省するべきところだなあと思うのだが、「正しいor正しくない」で物事を判断したりするのは、あまり良くないような気がする。

 

その意味では言えば、私はこの本が好きだし、この本の著者である楠木建氏が大好きだ。

 

 

楠木建氏は一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻(ICS)教授を務める経営学者で、経済産業省産業構造審議会委員、組織学会理事、りそな銀行資産運用アドバイザリーコミッティ委員(現任)などを歴任してきたすごい人である。

そういう人と自分を同列に扱うような言い方はちょっと気後れするが、私とけっこう考え方が似ているというか、親和性を感じるからだ。

 

僕がいちばん好きなもの、それは「好き嫌い」。ややこしく聞こえるかもしれないが、「好き嫌い」が好きで「良し悪し」が嫌い。僕の好き嫌いの一丁目一番地だ。

好き嫌いと良し悪しはいずれも何らかの価値観をとらえている。ただし、この2つは普遍性という連続軸の上で対照的な位置関係にある。

例えば、「民主主義」や「言論の自由」。国や社会によって例外はあるにせよ、こうした価値観はこの百年ほどは広範なコンセンサスを獲得している。個人的な好き嫌いを超えたところにある普遍的な良し悪しだ。「文明」と言ってもよい。

こうした普遍的な価値観を個別的な方向に寄せていくと、国や地域や組織に固有の「文化」になる。文化は本来的にローカルなものだ。ある境界の内部では共有された価値、つまり良し悪しとして認識されている。しかし、境界を越えて外に出てしまうともはや良し悪しとしては通用しない。文化というのはその中にいる人にとっては心地いいものだ。しかし、文明ほどの普遍性はない。

文化をさらに個別性の方向に寄せ切ると、個人の好き嫌いとなる。つまり「特定個人のレベルまで局所化された良し悪し」だ。このように、良し悪しと好き嫌いは普遍的対局所的という軸の上で連続をなしている。

氷山に 喩えるとわかりやすい。海の上に出ている見える部分、これが良し悪しである。そこでは相当に広い範囲で社会的合意が形成されている。みんながそこに同じものを見る。約束の時間に遅れてはいけない。遅れるのは「悪いこと」だ。「俺は遅刻するのがわりとスキなんだよね……」──これは単なる迷惑な 輩 であり、世の中では許容されない。

氷山の頂点には極端に普遍的な価値観がある。ここまでいくと法律て明示的に規定されている。人を殺してはいけない。殺人は悪である。「もう殺人がスキでスキで、今週も2人ばかり殺ったんだけど……」――これはただの凶悪犯。ただちに警察に通報する必要がある。

 

それともう1つは、かなりユーモアがあって、マジメで抽象的なことを語る内容でもちょいちょいふざけたところを入れてくる部分。

 

詳細な目次

本書の内容は仕事術から生き方までけっこう多岐にわたっているので、詳細なもくじがてら、カンタンに説明していこう。

 

●無努力主義の仕事術

(好き:凝る 嫌い:頑張る)

 

●「勝ち組」「負け組」と騒ぎ立てる人のイヤらしさ

(好き:出たとこ勝負 嫌い:勝ち組・負け組

 

●「好き」の理由を言語化する

(好き:シュークリーム 嫌い:クッキー)

 

●スポーツが嫌いな理由――その本質を考える

(好き:歌舞音曲 嫌い:スポーツ)

 

●想像は裏切るが、「経験」は裏切らない

(好き:経験 嫌い:想像)

 

●「出過ぎた杭になれ」になるな

(好き:余人をもって代えがたい 嫌い:出過ぎた杭は打たれない)

 

●「早寝早起き早帰り」の効能

(好き:朝 嫌い:夜)

 

●極私的「仕事の原則」

(好き:プロダクト・アウト 嫌い:マーケット・イン)

 

●UMS主義者、かく語りき――衣のユニクロ、住の無印良品、食のサイゼリヤ

(好き:UMS 嫌い:ブランド物)

 

●「ブラック企業」批判はズレている

(好き:ピンク企業・グレー企業 嫌い:ブラック企業ホワイト企業

 

●「シナジーおじさん」は信用できない――アマゾンの競争優位の正体は「順列」にあり

(好き:タマゴサンド 嫌い:ローストビーフサンド)

 

●「文春砲」を考える

(好き:「週刊文春」の商売姿勢 嫌い:文春砲)

 

●入社式で「今こそ変革を!」と演説する社長を信用しない理由

(好き:創造的破壊者 嫌い:「激動期・変革」おじさん)

 

●真の変革者は「構造改革」を待たない

(好き:運用が先、制度が後 嫌い:制度が先、運用は後)

 

●「三角形の経営者」と「矢印の経営者」

(好き:実績 嫌い:経歴)

 

●悦びの相対性理論

(好き:最後にイチゴ 嫌い:最初にイチゴ)

 

●「お買い得」のメカニズム

(好き:グリーン車 嫌い:ビジネスクラス

 

●街にあふれる嫌いな言葉

(好き:おむすび 嫌い:おにぎり)

 

●「フェイスブック」を好きになれない理由

(好き:葉書 嫌い:フェイスブック

 

スマホメディアで「罵詈雑言」を浴びる効用

(好き:ネットでの罵詈雑言 嫌い:ネットでの罵詈雑言)

 

●「個」が消え、(笑)が残る

(好き:笑 嫌い:(笑い))

 

●「ダイバーシティ経営」の落とし穴

(好き:インクルージョン 嫌い:ダイバーシティ

 

●「好き嫌い」は資本主義を救う

(好き:産業資本主義 嫌い:金融資本主義)

 

ちなみに、本書は「文春オンライン」で連載していたものを加筆修正して一冊にまとめたものなので、エッセー的な色合いが強い。

ビジネス書寄せのエッセー、といったほうが正しいだろうか。

 

他者基準の決定から脱する

それぞれの内容には言及しないが、資本主義にしてもSNSを通じた承認欲求にしても、判断基準を「良し悪し」に置いてしまうと、必然的に他者評価にさらされることになってしまう、ということだ。

「これが正しい」という意見には、どうしても反対意見が出てきてしまう。

それに対して、「好き嫌い」で物事を判断すると、これは完全に個人の主観によるものだから、反論は出てこない(はず・・・)。

 

もちろん、反対されるのが悪いというわけではないが、他者の基準を慮る必要が出てくると生きにくくなる。

たとえ非効率であろうが、儲からなさそうであろうが、誰の関心も引かないものであろうが、自分が好きならそれをやってしまっていいし、幸福というのはそういうスタンスからしか得られないのではないか、と思う。

 

ちょこちょこビジネスチックなことも書かれているが、結構気軽に読める本なので、興味があれば是非に。

ちなみに、楠木建氏の本だと、こちらもおもしろい。

 

戦略読書日記<本質を抉りだす思考のセンス>

戦略読書日記<本質を抉りだす思考のセンス>

 

 

後記

ポケモンマスターズが事前予約開始しましたね。

pokemonmasters-game.com

 

歴代ジムリーダーとかといろいろ交流したりできるみたいなので、いわゆるガチポケモン勢向けなゲームだと思うけど、とりあえず事前登録。

あと、ついでに「FFBE幻影戦争」にも事前登録した。

www.jp.square-enix.com

 

こっちはFFTっぽい、タクティクス系のゲーム。

もともと大好きなので、純粋な楽しみさでいえばこっちのほうが上。

早くやりたいなー。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。