本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

あらゆる「百合」を詰め込んだSF短編集 ~『アステリズムに花束を』のレビュー

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「百合」というのは女性同士で恋愛感情を持っているような関係性を表現するスラングだ。

 

ちなみに、「百合」と「レズビアン」の境界線ははっきりとしないが、レズビアンが明確に女性同士の同性愛者を示すのに対し、「百合」はもう少しぼんやりとしていて、レズビアンを含むものという感じだろうか。

 

ただし、スラングであるがゆえに明確な定義はないし、むしろ厳密に定義すること自体がナンセンスであるようにも感じる。

 

ちなみに、なぜ女性同士を「百合」と呼ぶようになったかというと、これは諸説あるようだが、男性同士の恋愛を「薔薇族」とよぶことから、「じゃあ女性は百合だろう」みたいな感じで決まったらしい。

これは1971年に創刊されたゲイ雑誌『薔薇族』の編集長で、自身も同性愛者だったとされる伊藤文學氏がそう提唱したようだけど、あまり定かではない。

ちなみにちなみに、なぜゲイ雑誌のタイトルが『薔薇族』だったのかというと、これもやっぱり伊藤氏が雑誌のタイトルを考えるとき、「古代ギリシャでは薔薇の木の下で男性同士が愛を誓った」とかなんとかという話があるが、これも本当に伊藤氏がそういう意図で名付けたことを示す根拠は見つけられなかったので、「まあ、そういう感じなんだな」くらいにとらえておいたほうがいいだろう。

 

 

人々の中における「百合受容体」の拡大

 

前置きが長くなったが、今回紹介する本はこちら。

 

アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)

アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)

 

 

サブタイトルにある通り、本書は「百合」をテーマにしたSF短編集を集めたアンソロジー本である。

早川書房が刊行している雑誌「SFマガジン」の2019年2月号でも「百合特集」が組まれていて、SFと百合というのは一つの潮流なのかもしれない。

 

SFマガジン 2019年 02 月号

SFマガジン 2019年 02 月号

 

 

ちなみにこの号は雑誌としては異例の3刷になったということなので、百合人気が伺い知れる。早川書房も百合フェアをやるみたいだ。

 

www.hayakawabooks.com

 

これについては、この企画を仕掛た編集者・溝口力丸氏のインタビュー記事もあるので参考にされたし。

 

book.asahi.com

 

この記事の中で述べられているが、「百合受容体」というのはなかなか興味深い。

 

――作品の多様化だけでなく、最近では読者の間で百合人気のすそ野が広がっていると。

 百合作品は以前からありましたが、私は人々の間に“百合受容体”のようなものができた点が大きいのでは、と思っています。

――百合受容体、と言いますと?

 (作品を)百合にうまく「変換」できるようになってきたのです。百合というと、かつては「女の子同士の恋愛ものでしょ」という考え方が強かった。でも、(注目されるポイントが)女の子同士の「関係」にフォーカスされるようになってきました。例えば、アニメ「プリキュア」シリーズはすごく(いろいろな視聴者に)開かれた良い作品ですね。男や女の役割というものから解放されている。あそこで描かれている女の子同士の友情も、見る人が見れば百合になります。

 19年のセンター試験では、「古文の問題に百合が出た」と話題になりました。狐が少女に化けてお姫様と仲良くなるという話です。実は狐の(本来の)性別が書かれていないので百合かどうかは分からない。でも、読み手は百合だと思ったのです。このように、“百合受容器官”が発達したのでしょう。百合が広まったというのは、作品数が増えたというより受け手が変わった点が大きいと思います。

 

世間的にはダイバーシティ(多様性)という言葉も市民権を得つつあり、かつてよりも同性愛に対する偏見みたいなものもなくなってきたので、ある意味で隠されていたニーズが掘り起こされた結果なのかもしれない。

 

収録作品紹介

それでは『アステリズムに花束を』に収録されている作品を簡単に紹介していこう。

 

『キミノスケープ』(宮澤伊織)

ポストアポカリプス的な世界で、果たして存在しているのかわからない痕跡をたどる女性の物語。

読みやすい作品ではあるが、全体的に抽象度が高くてふわっとした終わり方。

正直なところ、わかりやすい百合描写はないのだが、それでもこの作品を冒頭に持ってくるあたりが「百合」という言葉の示す範囲がさらに拡大していることをアピールしている感じはある。

 

『四十九日恋文』(森田季節

死者の霊魂が実際に四十九日間現世に留まることがわかり、その期間であればメールの短いメッセージを個人と買わせるようになった世界で行われる百合たちの会話で進む物語。

一日ごとに遅れるメッセージの文字数が少なくなっていくので、平安時代のように短歌のようなやりとりがくりひろげられるのがなかなか風流。

ただ、SFというよりもファンタジーに近い感じ。

 

『幽世知能』(草野原々)

「幽世」という現世とは別に存在することが明らかになった宇宙をひとつのコンピュータとみなしたテクノロジーが常態化した世界で、妹を殺した、ちょっと頭のネジがぶっとんだ幼馴染の少女と少女の物語。

著者の草野氏は以前にこのブログでも紹介した『最後にして最初のアイドル』の著者だが、あいからわらず発想が極端でおもしろい。

 

ada-bana.hatenablog.com

 

彼岸花』(伴名練)

こちらは吸血鬼が人間に取って代わった世界で、唯一生き残った人間の少女と吸血鬼のお姉さまの交流を、残された往復書簡を通じて描く、どこかノスタルジックな学園百合もの。

設定だけだと完全にファンタジーだが、血液を動力源としたスチームパンク的なアイテムの存在がそこはかとなくSF。

 

『月と怪物』(南木義隆)

個人的には一番好きな作品。

実はこの著者自体、まだ単著としてのデビュー作はなく、この作品も「コミック百合姫×pixiv 百合文芸小説コンテスト」にノミネートされたことでネット上で話題になった作品ということ。

旧ソ連のとある研究施設に収容された、特殊能力を持つ少女とその妹、そして女性軍人のやり取りを描いたもので、まあこれも「SFなのか?」と思わなくはないが、作品としての完成度が高くていい。

 

『海の双翼』(櫻木みわ、麦原遼)

正直、ちょっとよくわからなかった作品。

2人の著者で綴られた物語で、言語による意思疎通ができない異種族間の百合ものだと思うのだけど、そのテーマに沿った文体になっているせいか、文章自体も読みづらいし、2人の著者が交互に担当しているような形なので、話の展開というか、物語の全体像がつかみづらい。

 

『色のない緑』(陸秋槎)

こちらはSFの王道的なプロットに百合要素をまぶしたもので、発達した人工知能によって様々な意思決定がなされる世界で、なぜか突然自殺してしまった数学者の友人の死の理由を探っていく物語。

完全なるディストピアに移行する前の世界を舞台にしたような作品で、展開は王道だが、だからこそ安心して読める。

著者は中国のご出身で、そういえば今年はアジア人として初めてヒューゴー賞受賞した劉 慈欣氏の『三体』も話題になった。

 

三体

三体

 

 

『三体』も読んでみたい気はするけど、なかなか分厚くてしんどそうだなあと思い、まだ手が出さていない・・・。

しかし、一足飛びに経済発展を遂げて最新のテクノロジーを社会のインフラに定着させつつある中国だからこそ、おもしろいSF作品も生まれるのは道理なのかも。

 

『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』(小川一水

ほかのかなり若い作家さんたちに比べると、もはや大御所感のある日本のベテランSF作家による書き下ろし。

昏魚というエネルギー源となるようなものを宇宙空間で、バディを組んで漁することで生計を立てている人々の物語。

集落の外からやってきたフリーランスのクールな女の子と、頭はユルめだけど天性のセンスを持っている(そしておっぱいが大きい)女の子が組むというストーリーで、さすがベテランだけあってエンタメ性が高い楽しい作品。

というよりも、ほかの収録作品ではないような、王道的なイチャラブ百合が見れる。

ただ、これまでの作品を読んでからの最後の作品であるせいか、どうしても時代性を感じるのも事実。

全体的にノリが80年代くらいのアニメのような感じはあるが、やっぱりこれはこれで楽しい。

 

ということで、全体的にこれから有望な若い作家さんの作品が多く、百合&SFという固定されたテーマでありながらも多種多様な物語がギュッと詰め込まれていて、いい本だった。

週末などにぜひ。

 

アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)

アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 

後記

ドラクエウォークがリリースされたので、そればっかりやっていたせいで先週のブログ更新はサボってしまいました(いや仕事が忙しかったのもある)。

 

www.dragonquest.jp

 

あまり事前に調べないままインストールしてやってみたのだけど、やる前までは「ポケモンGOみたいな感じかな」と思っていた。

ドラクエはシリーズによってはモンスターを仲間にして一緒に戦うことができるので、それと同じようにいろいろなモンスターを歩いて集めるコレクション要素が強いのかな、と思っていたのだ。

 

が、ぜんぜん違った。

というよりも、これはけっこうガチめな「ドラクエ」だった。

プレーヤーは4キャラクターでパーティを組んでジョブを組み合わせながらひたすらモンスターを倒してレベルを上げ、シナリオを進めてボスを倒していく。

そして、このボスが、けっこう強い。

途中まではさほどレベル上げをしなくてもサクサク進めるのだが、ストーリも3章に入ってくるとまじでボスが強くて、けっこうたいへんだ。

 

もともとRPGが好きで、コツコツレベル上げするのも嫌いじゃないので、最近はポケGOからすっかりドラクエに移行してしまった。

しかし、ポケGOもイッシュ地方ポケモンが追加されたので、そっちもやっておきたい。

悩ましい。

 

とりあえず今週はキラーマシン2体をたおそう。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。