古代~中世~近代のおもしろ職業~『十三世紀のハローワーク』のレビュー~
今回紹介する本はこちら。
かつて実在したさまざまな職業をSRPG風に紹介したもの。
SRPGというのはシュミレーションRPGのことで、チェスの駒みたいにキャラクターを動かす戦略要素の大きいRPGのことだ。かくいう私もSRPGが好きで、「タクティクスオウガ」とか「FFT」とか「魔界戦記ディスガイア」をやった。
ちなみに、本書のタイトルは「十三世紀の」となっているが、紹介されている職業は古代から近世まで幅広い。また、必ずしもヨーロッパの職業ばかりではなく、イスラム圏やアジアなどもカバーしている。これは単に、村上龍氏のヒット作『13歳のハローワーク』をオマージュしているのだろう。
今回は、そのなかで個人的におもしろいと思った職業を少しピックアップしていく。本書の中だとファンタジー色を加えたイラストたっぷりで紹介しているので、気になったら読んでみてほしい。
水売り
古代ローマや近世パリで活躍した職業。低層の肉体労働者化と思いきや、給水泉を独占して市民を排除して儲けたりして「割と儲かる仕事だった」としている資料もあるらしい。もちろん彼らは強面で屈強な肉体の持ち主なので、警察も手を焼いたのだとか。
ビール妻(エールワイフ)
ビールはそもそも各家庭で生産されるもので、中でも特にビールづくりに秀でた女性たちはこのように呼ばれた。イギリスではビールのレシピと醸造鍋が嫁入り道具だったとか。
ベナンダンティ
イタリアのフリウーリ地方に見られた職業で、いわばヨーロッパのイタコ。幽体離脱して霊魂化し、同様に霊魂化した悪しき魔術師(マランダンティ)たちと戦いを繰り広げるという胸が高まる職業だ。
ハイランダー
スコットランドあたり出身の傭兵のこと。中世ではまだ常備軍がなく、傭兵を使って戦うのが主流だったので、彼らが雇われたりした。なかでも特徴的なのは武器。大型剣クレイモア(籠手付きの片手剣がこう呼ばれることもある)、鉤付き斧ロッコバーアックス、刃の背が鋸のようになっているナイフ・ダークなど特徴的。
匪賊
厳密には職業ではなく、支配者にたてつくならず者集団のこと。どの社会にもいたようで、ダコイト(インド・ビルマ)、ハイドゥク(バルカン半島)、コサック(ウクライナ、ロシア)、ゼイベキ(オスマン帝国)などなどがいる。ただし、農民と兼業していて、暇な時だけ匪賊になるケースもあるよう。
鳥刺し
鷹狩に使う鷹の餌として小鳥をつかまえるお仕事。また、鳥は昔から「観賞用」「イベントで花を添える用」「鉱山の毒ガス検知用」「放生会用」など、いろいろ用途があった。彼らが使うのは吹き矢や網、トリモチなどだ。
狩狼官(しゅろうかん)
狼を狩る権利を土地の所有者から託された専門職。狼は牙と爪、タフさ、鋭い嗅覚、そして知能の高さを持ったハイスペックな動物で、狩狼官は犬や罠を用いて戦った。鋭い嗅覚を持つブラックハウンドで狼を見つけ、俊足とタフさを併せ持つグレイハウンドで追いつめ、最後の白兵戦は闘犬として名高いマスティフを使うなどした。かっこいい!
ドルイド
アイルランドやウェールズあたりにあった古代ケルト社会における司祭さん。ケルトでは、人は死ぬとティル・ナ・ノーグという理想郷に行くと考えられていたために死に対するネガティブなイメージが希薄で、生贄などをよく行っていたとのこと。ドルイドになるためにはまず12年の修行が必要なバードという仕事になる必要がある。
持衰(じさい)
古代日本にいた職業?で、要するに航海の安全を祈るために風呂に一切入らず服も着かえず、肉も食わず女性にも触れない人々。ただし、それでも海が荒れてしまったら「心身が足りん」ということでその場で海に放り込まれたらしい。男限定職。
ヴァリャーギ
ビザンツ帝国に使えたヴァイキングのこと。ビザンツはもともと内乱が多かったので、下手に裏切るかもしれない同胞を使うより、しがらみのない外国人のほうがいいと好まれた。皇帝の直属部隊として「ここぞの場面で暴れまわる」切り札的な役割だった模様。武器はもちろん斧。とくに右手に剣、左手に斧を持つ超好戦的スタイルで、寝る時も盾をふとんに、剣を枕にしたとか。
ベルセルク
ヴァイキングの最上位職のひとつ。ただし、精鋭ではあるが規律や集団行動はできず、野獣のような凶暴さと強靭な肉体で戦う人々。ヴァイキングはいろいろと名前があり、「ハスカール(イングランドや北欧部族の家士)」「ビョルンセルク(熊の毛皮をまとった戦士)」「ウルフヘズナル(狼の毛皮をまとった戦士)」などいろいろあっておもしろい。好きです。
ウェスタの処女
古代ローマのウェスタ神殿にある炎を絶やさぬために使わされた巫女。30年にわたる修行と純潔を守らなければならないが、この処女になると当時の女性としてはかなり珍しい参政権や財産特権のほか、かなり権力を持った。彼女のおかげでカエサルは「スッラの粛清」をまぬかれた。ただし、修行に失敗すると結構えげつない方法で処刑されたらしい。
カストラート
教会音楽のために去勢した男性歌手。教会では女性が歌えないので、成人後も美しいソプラノの声を出すために生み出された。ただし、中国の宦官のように陰茎を切断するのではなく、睾丸と精索をとりだすので、健康への影響は少なかったようだ。とくに18世紀に活躍したファネッリが有名。
キプカマヨク
アステカ文明で書記官。ただし、アステカでは文字がなく、紐の結び目で数を記録していたとのこと(これを「キープ」という)。皇帝に代わって勢の計算や戸籍調査などを行い、かなり高い権威を有していた。
コーヒー嗅ぎ
18世紀のプロイセンではコーヒーに高い税金がかけられていた。そして市民のコーヒー密輸に対抗するためにコーヒーの香りをかぎ分けて市民の家に押し入る権限が与えられていたらしい。ちなみにこの時に大用コーヒーが多く作られたので、「ドイツのコーヒー」といったそれは代用コーヒーを指していた。
貴賤と上下関係
最後に、個人的に思ったのは「職業の貴賎」「職業の流動性」について。かつては明らかに職業間には上下関係が存在し、絶対的に人々から忌避される職業があった。ただ、それらはどちらかというと「嫌悪」と「畏れ」が入り混じったような複雑な感情のように思えて、単純に「下」に見ていただけのようにも思えなかったりする。
ともあれ、中世ヨーロッパ系の世界が大好きな人なら資料的価値もある一冊。私は図書館で借りたが、手元においておきたくなる本だった。
今日の一首
64.
朝ぼらけ 宇治の川ぎり たえだえに
あらはれ渡る 瀬々のあじろぎ
権中納言定頼
現代語訳:
夜がほのぼの明けて宇治川の霧が途切れ途切れになってきたら、
川の網代木が現れてきました。
解説:
網代木というのは氷魚(鮎の稚魚)を取るための仕掛けで、これは冬の風物詩。最初は霧で何も見えなかったのに、だんだんと霧が晴れてくると、冬の情緒を感じさせる網代木がぼんやりと見えてきて風雅だなぁという歌。特に技巧はないが、こういう素朴な歌も嫌いじゃない。
後記
先日、「オリーブの丘」というイタリアレストランチェーン店に行ってきた。端的に表現するなら「なかなか見つからないレアなサイゼリア」。なにしろ、まだ都内(しかも郊外)に3店舗くらいしかない。
しかし、安い。そして(それなりに)おいしい。特に驚きなのが、パスタやドリアにプラス300円をつけると、ピザが食べ放題になるというサービスだ。ボロネーゼドリア約300円にピザ食べ放題セットをつければ、600円で死ぬほどお腹がいっぱいになる。
で、肝心のピザだが、6種類くらいがどんどん焼き上げられていく。私が入店したのが週末の夕餉時、つまり家族連れで混雑しているときだったこともあると思うのだが、焼きたてのピザが運ばれてくるとあっという間になくなる。しかし、それに負けずにガンガンピザが焼かれてくる。おいしかった。
どうやら外食大手のゼンショーが運営しているようだが、公式サイトもなく、まだまだ知名度が低い。今後、サイゼリアとタイマン張る店舗になるかは未知数だが、撤退しないうちに一度食べに行くのはアリかもしれない。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。