本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『nerim's note』レビュー~旅の終わり~

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マンガに「打ち切り」というのがあるのはよく知られているとは思うが、ライトノベルにもある。

もくじ

しかも、マンガの場合、雑誌で打ち切りになっても単行本化するときになんとか完結させることができるが、小説の場合、そうならずに、ほんとに「ぶつ切り」状態で終わってしまうものもある。

今回紹介する、「nerim's note」というシリーズがそれに該当する。

ひかりのまち―nerim’s note (電撃文庫)

ひかりのまち―nerim’s note (電撃文庫)

 
ガトリング・メロディ―nerim’s note〈2〉 (電撃文庫)

ガトリング・メロディ―nerim’s note〈2〉 (電撃文庫)

 
水晶宮殿―nerim’s note〈3〉 (電撃文庫)

水晶宮殿―nerim’s note〈3〉 (電撃文庫)

 

3作目の水晶宮殿』はいよいよ物語が佳境に突入してこれから作中の色々な謎がとかれていこうとしていく感じだったのに、それがぷっつりと終ってしまっていて、2016年現在も続編は出ていない。著者の長谷川氏も、新作は全然刊行していないようだ。

デビュー作である『ひかりのまち』は第11回電撃小説大賞の金賞を受賞したほどなのだから、版元側が力を入れていなかったわけではないだろう。ただ、やはり売上がともなわなかったと思われる。

人気が出なかった原因を考察する

著者の長谷川昌史氏は純文学が好きなようだが、そのわりにはあまり文章や描写がうまくない。しかし、小説のおもしろさは文章が良ければ売れるほど簡単なものではないので、違う要因の方が強い。なので、本作に限らず、ライのベルが売れない原因を考えてみる。ライトノベルは最近すっかりご無沙汰なので以下の考察は眉唾くらいで読んでもらえればいい。

イラストレーターがよくない

ライトノベルの場合、小説の出来ももちろんだが、担当しているイラストレーターさんの技量に売り上げが左右されることがよくある。私はライトノベルを作ったことがないので、イラストレーターの指定にどのくらい著者が口をはさめるのか知らないが。

本シリーズを担当しているのはNinoという方で、現在はニノモノニノと名前を変えて活動している。たしかに、本書で使われている絵はそんなにうまくはないが、下手でもない。ニノモト氏は、現在もそこそこお仕事があるようだ。イラストレーターのせいとはいいきれない。ってか、めっちゃ絵がうまくなってる!

タイミングが悪い

本作が刊行されたのは2005年から2006年にかけてだ。本作が打ち切りになった2006年くらいは、ライトノベル界にとってはひとつの転換期だったのかもしれない。というのも、この時期からライトノベルのレーベル数が一気に増え、それに伴って作品数が増加して市場がインフレを起こしたからだ。こちらのサイトによると、2006年にはソフトバンク系列の出版社SBクリエイティブがGA文庫を、ホビージャパンHJ文庫を、翌2007年には小学館ガガガ文庫』『ルルル文庫を創刊している。

同時に、ライトノベルの売れ筋が「日常もの」「学園もの」などにシフトしていった。狼と香辛料といったがっつりファンタジーも人気を博したが、これはどちらかというと「ファンタジーに経済の要素を持ち込んだ」というオリジナリティの高さがを人気を呼んだので、異色の作品といえる。

ただ、売れ行きを時代だけのせいにはできない。レーベルが増えたということはそれだけラノベ人気が高まったことでもあり、それは「大ヒットしなくても、刊行を続けるだけの人気を獲得できるチャンス」があるということでもあるからだ。「電撃文庫」という強力なレーベルから出版されたにもかかわらず、そこで芽が出なかったということは、やはり作品内容に問題がある可能性がある。そういえば、ミミズクと夜の王もこのあたりだった。この時期はけっこうライトノベルが多様化し始めた時代だった。

刊行ペースが遅い

刊行ペースは早ければ早い方がいい。時間がたつと読者に忘れられてしまうからだ。私がすごいと思うのは2人。西尾維新氏と、日日日(あきら)氏だ。この2人はとにかく刊行ペースが速く、下手すれば翌月に新刊が出る。おもしろいかどうかは別にしても、「速さ」はそれだけ武器になる。

ただ、これも本作には当てはまらない。刊行時期を見ると、1作目『ひかりのまち』が2005年2月、2作目『ガトリング・メロディ』が同年9月、そして3作目『水晶宮殿』が2006年1月と、だいたい半年に1冊ペースで刊行している。そんなに時間を空けているわけではないので、この要因も考えづらい。

キャラクターの魅力が薄い

ライトノベルの場合、ストーリーもさることながら、登場人物がどれだけ魅力的かはかなり重要だ。とくに、女性キャラクターはいろいろな読者のニーズに応えるため、複数用意するのが鉄則ともいえる。

その点で言えば、この部分は本作に欠けているかもしれない。本作は主人公・ネリムがメインで、彼の心理的な描写にけっこう紙面が割かれている。しかし、ライトノベルの読者は男性がメインで、男性キャラクターの心理描写に興味を持っている人は少ないだろうからだ。

また、本作は主人公のネリムが旅をしながらいろいろなところをひとりで巡る構造になっているので、3作を通じて安定的に登場するサブキャラクターの数が少なく、登場人物が結構コロコロと入れ替わる。そこらへんも、キャラクターのファンを生み出しにくい要因となっているのかもしれない。なお、長谷川氏は作品の毛色を変えた『いつか、こいまち!』という作品も上梓しているが、こちらも1冊で打ち切りになっていて、あまり人気は出なかったようだ。

いつか、こいまち! (電撃文庫)

いつか、こいまち! (電撃文庫)

 

作品名に一貫性がない

これは結構大きいんじゃないかと私は睨んでいる。一応、サブタイトルに「nerim's note」というシリーズ名が入っているが、3作品はタイトルがバラバラで、パッと見同じシリーズものと分かりづらい。ライトノベルの人気シリーズはまずほとんど同じタイトルで続いているので、本作にとってタイトルに一貫性がないのは大きな欠点だったのだろう。これは、1作目を出した時の編集部の判断が悪かった。

世界観を変えすぎ

詳細なあらすじ(←変な言葉)は後述するが、1作目の『ひかりのまち』は「明けない夜に覆われた町の謎を解くダークファンタジー」で、2作目の『ガトリング・メロディ』は「ゲリラ戦を得意とする特殊部隊で戦うミリタリーもの」、そして3作目は「湖の中央に建つ不思議なお城で繰り広げられるダークファンタジー」と、世界観に一貫性がない。しかも、ストーリーがはっきりと独立していればそれはそれでアリなのだが、シリーズを貫くメインストーリーというものが存在しているからNGだ。基本的にはそれ以前の作品を読まないと内容が理解できないようになっている。

ダークファンタジーが好きな人は2作目で離れそうだし、2作目から入った人は前作を読んで「あれ、なんか求めてたのと違うな……」と思ってしまう。著者はいろいろな作風を入れ込みたかったのかもしれないが、結局ファンタジーに戻ってきているあたり、迷走している感じがうかがえる。

著者の熱意が足りなかった

辛辣かもしれないが、私はこれが結構あるように思う。つまり、著者にこの作品を書き上げる根性がなかった――ということだ。たしかに、人気が出なかったからアスキー・メディアワークスによって本シリーズの刊行は打ち切られてしまったかもしれない。しかし、ほかの出版社に持ち込むなり、Amazon自費出版して電子版を出すなり、ホームページで書き上げるなり、方法はいくらでもあったはずだ。マンガなどでも、途中から別の出版社で続きを描きはじめるのは、けっこうある。私がとにかく怒りを感じるのは、著者が本作をいまだに未完のまま終わらせていることである。

私は金のために文章を書くのが悪いとは言わないが、やはり、人気が出る作品が書ける著者とは「書くことそのものが大好きな人」なのだ。もちろん、長谷川氏も2012年には第22回ゆきのまち幻想文学賞などに受賞するなど、執筆活動は続けていたようだが、本作を意欲的に発表する姿勢があまり感じられないのが残念だった。

第26回ゆきのまち幻想文学賞 募集要項

人気が出なかったとしても私はこの作品がけっこう好きで、どういう結末であろうと、それを読みたいと今でも思っている。

各作品紹介

若干のネタバレがあるのでご注意。

ひかりのまち―nerim’s note (電撃文庫)

ひかりのまち―nerim’s note (電撃文庫)

 

険しい山々に閉ざされた田舎町・パラクタに夜だけが続く「日黒期」がやってきて1カ月。16歳のネリムは新しく赴任してきた医務員のディネが図書館に忍び込んでなにかをしているのを偶然発見してしまう。彼女は日黒期という現象に疑念を抱いており、そして数年前に失踪したネリムの兄・メストルの行方を捜していたのだった。

ディネと肉体関係を持ち、彼女に惹かれていくネリムだったが、街の秘密を探るうち、ディネはメストルに恋焦がれていて、自分は兄に似たその「代わり」なのではないかという考えもよぎる。暗躍する「軍」という謎の組織、多発する行方不明者、街の政治家として活躍する父親との確執、そして幼馴染であるレッチとの対立。やがて、ネリムはこの街で起こっている「ほんとうのこと」を知ることとなる。

ガトリング・メロディ―nerim’s note〈2〉 (電撃文庫)

ガトリング・メロディ―nerim’s note〈2〉 (電撃文庫)

 

街の事件を解決して、ネリムは自分の死んだ母親が残していた古代文字のメッセージを解読するため、街を出て旅に出る。やがて彼は、街の陰謀に噛んでいたシュキンバス国家正規軍の存在を知る。シュキンバスという国は彼の暮らす国・カルタゴを征服し、現在は傀儡政権による統治をしていたのだ。

やがて、母親の文字を読める人物を見つけたとき、彼は褐色肌の少女・ミルが率いる「青の小隊」という部隊に命を救われる。彼らは傀儡政権を打倒してカルタゴ王家の統治を復活させるためにゲリラ活動をしていた。そして、古代文字を読める伝承者を探しており、その文字を翻訳できるネリムと行動を共にすることになった。

「青の小隊」とともに旅を続けるうち、彼は小隊にも「秘密」があることを感じ取る。「正式な入隊」「契約の更新」という言葉が持つ意味。シュキンバス正規軍と青の小隊の本当の狙い、古代文字が意味するもの――町の外に広がっていた血なまぐさい「ほんとうのこと」を知っていくうち、ネリムは正義について、考えるようになっていく。

水晶宮殿―nerim’s note〈3〉 (電撃文庫)

水晶宮殿―nerim’s note〈3〉 (電撃文庫)

 

「青の小隊」を離れたネリムは、カルタゴの王族が古代文字を秘密を知っていると知り、都落ちしたカルタゴの王族が避難した湖の真ん中に建つ水晶宮殿にたどり着く。罠をかいくぐって白に潜り込んだネリムは、なぜか賓客としてもてなされた。だが、そこで開かれた晩餐会で目にしたのは、パラクタで別れたはずのディネだった。

彼女の姿を見て再び恋心が再燃すると同時に、兄への嫉妬心が湧きあがるネリム。それを反映するかのように、彼は悪夢ばかり見るようになる。そして、カルタゴの王子・ギュマと、王女・シルダーチェも、なぜかネリムの過去やそうした渦巻く感情を知っていた。そして、なぜかよそよそしいディネはネリムに他人のふりをしてギュマと接近し、ネリム自身はシルダーチェに誘惑される。地下にある巨大水晶はなんなのか? なぜ、ギュマとシルダーチェはネリムの過去を知っているのか? 他人行儀なディネの目的とは何か?

本作を貫くテーマは一貫して「ネリムの成長」だ。そのうえでもっとも大きなテーマとなっているのが、「兄を越える」というものである。ネリムの愛したディネは兄・メストルに惹かれていて、それがネリムにとっては大きな壁となっている。ネリムの行動原理は「ほんとうのことを知る」だが、その奥にある究極的な目的は「兄を越える」ことにある。

しかし、ネリムの旅は、志半ばにして終わってしまった。いまのところ、誰も彼のたびを見届けることはできないでいる。

なお、個人的におススメしたいライトノベルシリーズは『ジョン平とぼくと』シリーズ。理学博士という、ラノベ作家としてはなかなか変わった経歴を持つ人物が書く、ファンタジーSF。全4巻で完結している。

ジョン平とぼくと (GA文庫)

ジョン平とぼくと (GA文庫)

 

 

おわりに

徒花は現在クレジットカードを2枚(JCBとVISA)を所有しているが、ついに3枚目のカードを作ってしまった。Amazon MasterCardクラシックだ。

最近はAmazonで本を買うことが多くなってきたので、これからはAmazonの支払いはポイント還元率がちょこっと高いこちらのカードを使っていく。その代わり、リストラ対象になるのはこちら。

ファミリーマートで使えばギリギリ1%超の還元率になるが、それ以外だと200円で1ポイントとクソ。そして講座引き落としコースに変更しようとすると初回払いがミニマムペイメントというリボ払いにさせられるのが気に食わない。ご利用は計画的に。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。