本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『マネー・ショート』が思ったよりもおもしろかった

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先日、まったく意図しないところで映画を一本見た。

おもしろかったのでレビューを書いておく。

 

もくじ

 

どこで見たのかと言うと、高速バスの車内だ。

今回紹介するのはこちら。

 

 

2008年に発生したサブプライムローン問題と、リーマン・ショックを予見していた男たちが「住宅ローンと大銀行のウソ」を暴いていく過程を描いたノンフィクションをベースにした映画。

ただ、いきなり登場人物が観客に語りかけたりするメタ的なシーンがあったり、ストーリーとしての盛り上がりどころを用意していたりと、全体的にエンターテイメント性の高い作品に仕上がっている。

 

ちなみに、原作は小説で和訳もされている。

 

世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)

世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)

 

 

リーマン・ショックを予見した4人の男たち

 

まずはあらすじ。

 

2000年代前半、ヘッジファンドマネージャーのマイケルは、アメリカの住宅ローンの構造に疑問を抱き、調査を開始。その結果、2007年の前半までに住宅ローンの崩壊が発生すると予見し、CDS取引を銀行に持ちかけた。

同じ頃、このCDSの動きに目をつけたジャレッド、マーク、ベンも不動産の不可思議な動きに注目し、それぞれ調査を開始。その結果、彼らはアメリカの住宅ローン市場がとんでもないバブル状態にあり、しかも住宅ローンの証券化技術によってその影響が全世界に波及していることを知るのだった……。

 

この映画に登場する主役をはる男たちは、必ずしも正義の味方とはいえない。

なぜなら、彼らは近々アメリカの住宅ローン市場が破綻するのを予見していながら、それを余りとめることはせずにうまく金儲けをしたからだ。

 

――と説明すると、リーマン・ショックをダシに上手く金儲けしたとんでもない野郎どものの輝かしい成功譚のようにも聞こえるかもしれない。

また徒花としては、サブタイトルの「華麗なる大逆転」というのは誤解を招く表現であるような気がする。

 

実はこの映画、そんなに小気味よく終わる作品ではない。

というのも、本作品が本当に伝えたいメッセージは

巨悪は滅びない

ということだからだ。

 

これはあとで説明する。

 

サブプライムローンってなに? 

 

当たり前だが、この映画ではリーマン・ショックおよびそれを引き起こしたサブプライムローン問題について理解しておかなければならない。

 

作中でも簡単に説明してくれるが、やはり最低限の知識は持ってから見始めたほうがいいと思う。

 

ので、まずは基礎的な用語の説明をしていこう。

 

なお、この説明はあくまでも私がすごくはしょっているので、あくまで大まかな流れだけを掴むものとして理解していただきたい。と言い訳しておく

 

サブプライムローンはクソローン

 

サブプライムローンというのは、貧乏人向けの住宅ローンのことだ。

借りているのは貧乏人だから、当然ながら返済できなくなるリスクが高い。だから、金利は高く設定する。

しかし、最初から金利を高く設定すると誰も借りなくなるので、ここで銀行は細工をする。最初は金利を安くしておいて、何年か経つと金利が跳ね上がるようにしたのだ。

これを作中では「クソ」と呼んでいる。

 

さて、じゃあ銀行はこんな貧乏人に金を貸して、もしローンを返せなくなったらどうするのか?

簡単だ。住宅を差し押さえて転売すればいいのである。

なにしろ当時のアメリカは住宅バブルの真っ最中で、毎年住宅価格が上昇していたのだから、家を新しく売却すればローンの貸付金もペイできるはず……だったのである。

 

金利が上がり始めて返せなくなる人が続出し、不良債権化

 

2007年に入り、大勢の人たちの住宅ローンの金利が上がり始めると、それが払えない人たちが続出した。

すると、売りに出る家が増えて住宅価格が下がる。

すると、銀行は住宅を差し押さえて転売しようとしても貸付金が回収できず、不良債権化する。

パニック!

 

まあ、要するにアメリカの住宅バブルが崩壊したのである。

そもそも、アルバイトで生活している人ですらローンを組んで一軒家を買うような異常な事態だったので、起こるべくして起きた混乱だった。

 

アメリカの住宅ローン問題が世界に波及した諸悪の根源

 

いや、ここまでだったら単に「アメリカはバカだね」という笑い話になるのだが、問題はアメリカの頭の良い金融機関連中が「住宅ローンの金融証券化」という摩訶不思議な金融マジックを使ったことだ。

つまり、住宅ローンの債権(借金を取り立てる権利)を商品にして、いろいろな国の金融機関に売りつけたわけだ。

 

とはいえ、サブプライムローンだけだと誰も買ってくれないので、優良なローンといろいろミックスさせて、中身が分からないようにしたのである。

これは、金融商品の福袋……と表現できるかもしれない。

 

みんながアメリカの銀行を信用した

 

ちょっと考えて欲しい。

正月のセールで1万円の福袋が売られていたとしたら、それを買うお客さんは「この福袋にはきっと1万円以上の商品が入っているから、お得なのだろう」と考えて買っているはずだ。

しかも、その福袋を販売しているのが三越とか伊勢丹とか高島屋だったら、みんな信頼してバンバン買うはずである。

 

しかし、アメリカのバブルが崩壊して一気にサブプライムローンが不良債権化したことで、この福袋を購入した世界各国の金融機関も同時にパニックに陥った。

つまり、1万円以上はすると思っていた福袋の中身が、じつは300円くらいの値打ちしかなかった!

ということが明らかになったのである。

※しかも、どの福袋(金融商品)にサブプライムローンが組み込まれているのかが誰にも分からなくなった。つまり、だれがババを持っているのか分からないので、世界中の金融機関が疑心暗鬼になったのである

 

金融商品の値段が下り、株価や為替にも波及して経済が停滞した

 

さて、福袋を購入した人々が慌てて売り払おうとするが、当然ながら売れるわけがない。

 

売りたい人が増えるとその商品の値段はどんどん下がっていくので、世界の金融商品の値段は下がり続け、それが株価にも影響し、為替にも影響。

最終的にはリーマン・ブラザーズ(日本で言う野村證券みたいな会社)が倒産したことでいよいよパニックは頂点に達し、全世界同時不況という経済的な大事件へと発展して言ったのである。

 

※ちなみに、日本の金融機関はこのローンの入った証券の購入に慎重だったらしく(日本は先にバブル崩壊を経験していたからとも)、そのおかげで日本への影響は少なかったが、それによって円高ドル安が進んで輸出企業へ悪影響を及ぼしたともいえる

 

尻拭いは市民がやらされる

 

これを読んでもらえばわかるように、明らかにリーマンショックを引き起こしたのはアメリカの大手銀行のやつらだった。

彼らはアメリカの貧乏人たちを口先で騙して家を買わせ、住宅バブルを作り上げた。

そしてその債権を世界中に販売してがっぽり金儲けし、リスクを世界中に分散させたのである。

 

で、この事件のあと、銀行も当然、財政難に陥って倒産の危機に瀕した。

その結果、どうなったか。

アメリカ政府は税金を投入してこれらの銀行を救い、なんとか経済の立て直しを図ったのである。

 

結局、最終的なツケが回ってきたのは一般市民である。

彼らは住んでいた家を奪われ、不況によって仕事を失った。

サブプライムローン問題の責任の所在は明らかにされず、うやむやにされたまま、現在もこの世界は続いているのである。

 

まさに「巨悪は滅びない」ということを示した映画だった。

 

おわりに

 

このあたりのことを知っていると、映画はさらに楽しめると思う。

誰もがまだ記憶に新しい事件だったからこそ、作品として客観的に見ると、これはこれでおもしろい。

 

一見すると未来を予見した4人の男たちが途中は虐げられながらも最後は大逆転勝利するストーリーに見えるが、最後はなんだかどんよりとする後味の悪いもので、それはそれでいい味を出していた。

 

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。