本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

初めて黒澤明監督作品を見るなら『七人の侍』より『乱』のほうがいいんじゃないか

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じつはワタクシ、映画を割と見る割に黒澤明監督の作品をひとつも見たことがなくてですね。

もくじ

まぁ、とくに見る気はなかったのだが、とあることでこんな動画を見つけまして。

これは黒澤明のすごさが8分ちょっとでわかる動画」であるわけです。ご存じのように黒澤明監督の映画はとにかくその道のプロの方々から絶賛されていて、いまでも「映画作りのお手本」などとされるわけであります。ワタクシは別に映画のプロではないけれど、そこまでいうのであればやはり見ておくべきであろうということで、借りてきたのであります。

七人の侍

というわけで、今回、まず紹介するのはこちら。

黒澤初心者はどれから見るべきなのかいろいろ人に聞いてみると、やはりこちらの作品は外せないようだ。というよりも、ストーリーのエンターテイメント性が高いので、ガキでもわかりやすい、とのこと。へっぽこな徒花にうってつけである。

ストーリーをいまさら説明するのも野暮だが、一応、念のために紹介すると

「戦国時代、野武士に脅迫されていた村を守るために七人の侍が戦うお話」

である。有名なのは、最後の合戦シーンで雨に墨汁を混ぜたというエピソードだろいう。ともかく以下、個人的に思ったことを羅列していく。

長え!

本作は1954年に公開された作品で、207分(3時間37分)という大長編である。TSUTAYAでレンタルしてきたとき、ディスクが2枚組でびっくらこいた。どういうことかというと、全編と後編の間に休憩時間が挟まっているのだ。

いきなり文字ばっかり!

始まっていきなりスタッフロールが始まったことにはたまげた。しかも背景に映像はまったくなく、ひたすら筆で書かれた人名の羅列が3分くらい続くので、ちょっとそれでゲンナリした。

あれ? 三船敏郎がかわいいぞ?

ヒーロー役である7人の侍たちはみんな個性豊かで楽しいのだが、なかでも目立つのは三船敏郎演じる菊千代ちゃんである。子どもみたいな名前だが、これには理由がある。もちろん、演じているのは三船敏郎なのでひげもじゃのおっさんだ。

f:id:Ada_bana:20160926232942j:plainこれ

しかしこの菊千代、いちいち動作が純真無垢な感じで、やたらかわいいのである。まさかこんなひげもじゃのおっさんをかわいいと感じるなんて思わなかったぜ。。。

ってか、最初から7人は仲間だったわけじゃないのね

ワタクシてっきり、7人の侍というのは元々顔見知りの7人なのかと思っていたが、別にそういうわけではない。中には顔見知り同士もいるが、基本的には町で偶然に知り合った七人が、大した報酬もないのに村を助けに行くという義に厚いやつらなのだ。

久蔵かっけぇ!

7人の侍のなかでおそらく一番かっこいいヤツグランプリをして1位を獲得するのは、たぶん久蔵だと思う。

なにしろ登場シーンがいきなり果し合いで始まって相手を見事に切り伏せちゃうのだ。しかも、最初は「興味ないね(ツンツン)」とした感じを醸し出しながら、結局気分を変えてついてきちゃうツンデレぶりなのだ。そして無駄口をたたかないクールな奴だが、実はかなり優しいのもポイントが高い。

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そしてなんといっても、森の中で待ち伏せしている野武士の種子島(鉄砲)を奪うため、たったひとりでフラフラと森の中に消えていき、2人ぶち殺して奪ってくるシーン。しびれるぜ!久蔵!

ちなみにこの久蔵は宮本武蔵をモデルにしたとされていて、それがのちには『荒野の七人』でジェームズ・コバーン演じるブリットのモデルとなり、そのブリットが『ルパン三世』の次元大介のモデルとなったというからおもしろい。『荒野の七人』もそのうち観てみよう。

単純な勧善懲悪ストーリーじゃないんだぜ

本作、単に義勇にあふれた7人の侍が正義の味方になって悪党をやっつける勧善懲悪ストーリーではない。これは「ヒーローにとって民衆とはなにか?」を問いかける作品であり、ある意味で民衆の“弱き強さ”をまざまざとみせつけるものとなっている。

結論:おもろかった

なにしろワタクシは映画のテクニカル面とかに明るいわけではないので、「このカメラワークがすげえ!」とか「この演出はいまも色あせないなぁ!」などといった玄人っぽい感想が出てこない。が、純粋に視聴者として、おもしろい作品だった。バトルあり、恋愛あり、友情あり、そして見終わった後にモヤッと残るものがあり。。

さすがに3時間を超える作品を「時間を忘れる」などとは表現できないが、それでもやはり見る価値はある作品だった。

『乱』

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こちらはカラーで、上映時間も現代の映画と同じくらいだし、いきなりスタッフ紹介が入らないので自然に見られる。しかもこれ、日本とフランスの合作らしい。以下、あらすじ紹介。

戦国時代、とある地方を平定した一文字家の当主・秀虎は隠居を決意し、3人の息子の前で長男・太郎に家督を譲ることを宣言する。しかし、そこでちょっと軽薄気味な三男・三郎が兄弟同士の衝突を懸念して反対。怒った秀虎は三郎を勘当したが、そこに居合わせた隣国の同盟国領主・藤巻は三郎の正直さを気に入って婿に迎え入れるのだった。

さて、家督を太郎に譲った秀虎だが、馬印を渡すことを拒否したことで太郎とケンカになり、城を追い出される。さらに続いて頼った次郎にも突き放され、失望した秀虎は仕方なく追放した三男・三郎の城にたどり着くのだった。しかし、そこで太郎と次郎が示し合わせて三郎の城を攻めたて、火をつける。しかも、当主の座をひそかに狙っていた次郎の家臣がどさくさに紛れて太郎を射殺してしまうのだった。これにより次郎が一文字家の当主となって兄嫁である楓の方を正室とし、秀虎は完全に正気を失い、野をさまようようになった。

だが、この事態を聞いた三男・三郎は父を引き取るために少数の軍勢を連れ、次郎と交渉する。だが、そこには三郎を支援する藤巻の軍勢と、混乱に乗じて一文字の領地を乗っ取ろうと画策する隣国領主・綾部の軍勢まで出てきて一触即発の事態になる。果たして、三郎は父を助け出すことができるのか。

あらすじなのに細かく書いてしまったが、もっと端的に述べるなら家督相続に端を発したある一族が崩壊する物語」である。けっこう人間関係が複雑そうに感じるが、そこはやっぱり作り方がうまいのか、あまり見ていて混乱することはない。以下、思ったことを述べていく。

ピーターさんやんけ!

秀虎のそばに仕える道化として、狂阿弥という名前であのピーターさんが出演している。若い! そして、いちおう男の役なのだが、やはりなんだかかわいらしい。ちなみに私が思ったのは、「日本の戦国時代に“道化”なんていたのかな?」ということである。

そもそも道化は中世ヨーロッパにおいて、王さまのそばにいた役職?で、彼らは唯一、王様をバカにすることを許された、ある意味で特権的な立ち位置にある(だから、トランプではジョーカーが最強の手札なのだが)。しかし、日本ではあまりそういうのは聞いたことがないし、調べても見つからない。そもそもこの物語はシェイクスピアの四大悲劇のひとつ『リア王』を下敷きにしているらしく、リア王では道化が重要な役割を果たすので、その意味で必要だったのだろう。

実際、ピーターさんは、けっこう作中で出番が多く、重要な役割を担ったりする。最初はふざけてばかりだが、いざ秀虎が正気を失いだすと、それとバランスをとるかのように常識人になっていくのだ。それにより秀虎の狂い具合がまた際立つ。

楓の方、怖すぎぃ!

本作の登場人物は誰が悪いというわけでもないのだが、あえて悪役(というか黒幕)を挙げるとするならば、太郎の正室だった楓の方だろう。彼女は夫亡きあと次郎と契りを結び、こともあろうに正室(つまり正妻)の座を要求する。のみならず、次郎の正室だった末の方を「殺して首を持ってきてくれなきゃもう来てあげない(プンプン」と迫るのだ。恐ろしい女である。最後もなかなか凄惨。

合戦シーンすげえ

七人の侍』にももちろんバトルシーンはあるが、やはり人数が限られているので、迫力という点では物足りなさがある。しかし、本作ではエキストラの日立をたくさん使った城攻めアリ、平原での合戦ありと、かなり迫真の合戦シーンがあり、そこも『七人の侍』には見られない魅力だった。

ラストがなかなかショッキング

ネタバレになるので詳述はしないがWikiだと思いっきりネタバレしているので要注意)、「まじか!」となる。まさに「悲劇」である。

結論:おもしろかった

既に述べたが、話の展開がわかりやすい。といっても単純であるわけではなく、登場人物も多いのだが、おそらくはキャストごとの印象の違いが大きく、無理のない範囲でしっかり状況説明をしてくれるのがその理由かもしれない。ただ、個人的には秀虎が狂い始めてからちょっと中だるみした感もあった。

おわりに

「古さを感じさせない」とまではさすがに言わない。だってモノクロだし、音楽とかにはどうしても古臭さを感じてしまうようなところもある。しかし、それでも純粋に観て、おもしろかったのでよかった。

まだ2作しか見ていないのでこれで黒澤明を語るのもおこがましいが、徒花としてはこの2作からは「人間の醜さ」みたいなものが通底していると感じる。しかもそれは、誰か特定の個人(キャラクター)によって体現されるわけではなく、「みんな悪い」のだ(しかも、悪意がないのがまた厄介なところだが)

とにかく、黒澤監督の作品を見るなら、『七人の侍』はちょっと長すぎてだるい。徒花としては、黒澤ビギナーにはまず『乱』のほうがいいんじゃないかと思った次第である。

というわけで、今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。