本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

「やりたくない理由」探しをする人々~『サラとソロモン―少女サラが賢いふくろうソロモンから学んだ幸せの秘訣』のレビュー~

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フクロウとミミズクの違いはハッキリしない。ただ、一般的には「羽角(耳羽)があるのがミミズク」とされる。

もくじ

今回紹介する本はこちら。

『サラとソロモン』の概要

サラとソロモン―少女サラが賢いふくろうソロモンから学んだ幸せの秘訣

サラとソロモン―少女サラが賢いふくろうソロモンから学んだ幸せの秘訣

  • 作者: エスターヒックス,ジェリーヒックス,Esther Hicks,Jerry Hicks,加藤三代子
  • 出版社/メーカー: ナチュラルスピリット
  • 発売日: 2005/11
  • メディア: 単行本
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本書はAmazonでカスタマーレビューが100件以上ついていて、なおかつ平均★4.7という高得点をたたき出している本だ。出版元のナチュラルスピリットという会社は知らなかったが、調べてみるとスピリチュアル全開ななんともダサいデザインのホームページが見つかった。ほんと、日本にはいろんな出版社がある。

内容は、小学校中学年くらいの女の子サラが、人語を解する(厳密には違う)フクロウ・ソロモンとの出会いをきっかけに成長していく小説。こちらの記事で「売れる自己啓発書」を分類したが、本書はそのなかの①に分類される。①のなかでもとくに物語性の強い一冊だろう。

サラはなぜソロモンにだけ心を開いたのか?

主人公のサラは、ひとりで考え事をするのが好きな女の子である。彼女は家族や友人も遠ざけ、自分ひとりでの思案に明け暮れる。普通に考えれば、そんなサラが喋るフクロウに出会ってもあまり話が弾まなさそうだが、なぜ彼女はフクロウのソロモンにだけは心を開く。

しかしこれは、物語によくありがちなご都合主義ではない。なぜ、彼女がソロモンとだけおしゃべりをしたいと思ったのか? その答えはソロモン自身が冒頭で明かしている。引用しよう。

実はね、サラ、僕はただ、君が話すことについて話しているだけなんだ。君が何か質問をした時にだけ、僕の答えは君にとって価値のあるものとなるんだ。誰も質問していない時に与えられる答えは、誰にとっても本当に時間の無駄なのさ。そんなことをしても、生徒に先生にもちっとも面白くない。

もうしょっぱなから哲学的な物言いがなんとも痺れるソロモンさん。しかし、いっていることは尤もだ。彼女が他者との会話を苦手としていたのは、彼らの多くが「自分のいいたいことを一方的にいうだけ」だからだろう。会話というのは「お互いのいいたいことを言い合うやりとり」とも考えられる。

しかし、ソロモンは違う。彼はあくまでも受身で、サラが話したいことを話させてくれる。だからこそ、彼女はソロモンとの会話をとても心地よく感じるのだ。ちなみにこれ、女性を口説くときの必勝テクニックでもある。「相手の話したいことを話させる」のがキモだ。

人は「やりたくないこと」ばかりを考える

「わたしも、ソロモンみたいに空を飛べたらいいなあ」

なぜ? なぜ空を飛びたいの?

「ああ、ソロモン、いつも地面の上を歩かなきゃいけないなんて、面白くないよぉ。すごくゆっくりだし、いろいろな所に行くのも、すごく時間がかかる。それに、見えるものも限られてる。地面の上にあるものだけしか見えないなんて、つまらない」

あのねぇ、サラ、君は僕の質問にちゃんと答えていないみたいだね。

「あら、答えたわよ、ソロモン。わたしが言ったのは、空を飛びたい理由は……」

面白くない地面の上を歩き回るのが好きじゃないから、だろう? あのね、サラ、君は『なぜ君が空を飛びたいのか』を話したのではないんだ。君が僕に話してくれたのは、『空を飛べないことを君がいやだと思う理由は何なのか』ということだ。

「どこが違うの?」

ああ、サラ、大きな違いだ。もう一度、考え直してごらん。

ソロモンは口調が穏やかだが、けっこう辛辣でもある。しかし、人は往々にして「~したくないから」「~がいやだから」という理由で行動する。こういう風に考えてしまう人は、物事のネガティブな側面に目がいって、あまり幸せになれないことが多い。

人は良いことよりも、悪いことばかりを探している

人々は本当にいい気分でいたいんだ。そしてほとんどの人々は、いい人間でありたいとすごく望んでいる。ところが、この点が大きな問題なんだ。

「それ、どういう意味? いい人間でいたいことが、どうして問題になるの?」

それはね、サラ、人々はいい人間でいたいと望むからこそ、何が良いことなのかを決めるために、周りを見渡して、他の人々の生き方を観察しているんだ。自分たちの周囲の状況を眺めて、その状況の中に良いことだと思えることと、悪いことだと思えることの両方を見ている。

「それが悪いことなの? それのどこが悪いのか、わたしにはわからない」

(中略)いい人間になりたいという気持ちから、人々はいつも悪いことを探し出しては、それを遠ざけようとばかりしているのさ。それがどうして問題かっていうとね、人々が「悪いこと」だと思っているものを遠ざけようとしている間中ずっと、その人たちは《苦しみの鎖》につながってしまっているからなんだ。

《苦しみの鎖》は、もうちょっと単純に考えると「ネガティブ思考」ともいえる。それはひいては、自尊心を貶めることにつながる。自尊心を自ら貶めると、人は消極的になり、不幸になる。

後半からはちょっとアレになる

このように、本書でソロモンはかなりいいことをいっているが、後半から、ちょっとだんだん調子がおかしくなってくる。というよりも、本領を発揮してくる。その契機となるのは、《共鳴引力の法則》が登場してからだろう。

「ルールって、たとえば、ゲームのルールみたいなこと?」

うん、それにも似ている。実際には、もっといい呼び名は《共鳴引力の法則》だ。それは、《同じ種類のものはお互いに引きつけ合う》という現象だ。

(中略)そして、全宇宙の中のすべての人々とすべての物事が、この法則の影響下にあるんだ。

宇宙が出てくるあたりから「おやっ?」と思ったが、じつはこの《共鳴引力の法則》とは、俗にいう引き寄せの法則である。そう、じつは本書、引き寄せの法則が一般化する前に刊行された、引き寄せの法則のパイオニアなのだ。本領が発揮されるのは、作中でとある重大な事件が発生して以後である。

引き寄せの法則はかなりスピリチュアルな領域に足を踏み込むので、あまり初心者にはおススメしない。が、本書はそうした引き寄せ系の本の中ではなかなか理解できるないようだと思う。

「(前略)今まではいつも、悪いことをした人は罰せられなければならないって教えられてきたんだもん」

その考え方の問題点は、「何が悪いことなのかを誰が決めているのか」ということを、君たちみんなで決めるのはむずかしいってことなんだ。君たちのほとんどが、「自分が正しくて、他人は間違っている」と信じている。物質界の存在たちは、ずっとそのことで論争しながら、お互いを殺しあってきたんだ。

おわりに

内容はそこそこいいのでおススメできる本なのだが、最終的に精神論に持っていくので、好みはあるかもしれない。

ちなみに、フクロウはギリシャ神話において、知恵を司る神・アテナの従者ということになっているので、ヨーロッパでは「森の賢者」に位置づけられる。最近は日本でもネガティブなイメージはないが、古来は「死」の象徴だったこともあるようで、世界中を見ても、地域や文化によって毀誉褒貶の激しい存在であるようだ。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。