人は分類されたがる~『人生を変える習慣のつくり方』のレビュー~
実用書というやつのメインストリームは変遷がある。
実用書の4つのフェーズ
第一フェーズは
「とりあえず成功している人のマネをすればいいんじゃね」
だ。
仕事で成果を出している人や、金持ち、モテてる人が普段何をやっているのかを知り、それをそのままマネすれば、自分も仲間入りできるんじゃないか、と考えるわけだ。
そこで、人々は成功者が書いた本を読み漁る。
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第二フェーズは
「成功している人たちのパターンを分析してマネすればいいんじゃね」
だ。
人間には差がある。成功している人のマネをしても、自分も成功できるようになるわけではないと人々は気づき始めたわけだ。
そこで、人々はこう考え出す。成功している人たちのいろいろな事例を寄せ集め、そうした成功者たちに共通するパターンを見出し、その本質的な部分をマネすれば成功できるんじゃないか。
成功者本人が書いても主観的なので、このフェーズになるともっと冷静に、客観的に分析できる第三者(しかも成功者の知り合いがたくさんいる人)が本を執筆し始める。
最強の働き方―世界中の上司に怒られ、凄すぎる部下・同僚に学んだ77の教訓
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第三フェーズは
「ちょっと待って、どうやってマネすりゃいいのか教えてくれよ」
だ。
第二フェーズで成功者たちのパターンを分析すると、なんだかんだ彼らは非常に勤勉で、ハードワークで、メンタルがタフで、チャレンジングで、規則正しかったりする。
で、人々はそれをマネしようとするのだが、知ったからといってすぐにマネできれば、今ごろ世の中は大金持ちだらけである。
ダイエットをしたい人は、別に「どうすれば痩せられるか」という方法を知らないわけではない。みんな、「食事制限をして、ジャンクフードを食べず、適度な運動をすれば痩せる」というのは、わかっているのである。しかし、それができないから困っているわけだ。
そこで、このフェーズでは、「そもそもどうやったら成功者のマネができるメンタルや習慣が身につくのか」を人々は求め始める。こうなると、出番になるのは心理学者やカウンセラー、コーチング、脳科学者といった学術的な人々だ。
「脳の仕組みはこうなっているから、こうすれば成功者の習慣を実践できるんですよ~」と、彼らはもっともらしいエビデンスで教えてくれるのである。
現在のビジネス系自己啓発書の主流は、このあたりである。
第四フェーズは
「いやもう神頼みしかないわ。自分じゃどうしようもない部分を何とかする方法を教えてくれ」
だ。
科学的な手法で自分の習慣や考え方、メンタルの鍛え方を教えてもらっても、それでもなかなか実践するのは難しい。
そうすると、やっぱり最後は神頼み。潜在意識やら、神様やら、宇宙の意思やら、引き寄せの法則やら、そのようなスピリチュアルな力を味方につける方法を人々は模索し始めるのだ。
『人生を変える習慣のつくり方』
さて、今回紹介するのはこちら。上の4つの中では第三フェーズに該当する。
「習慣」というのは、ここ数年、ビジネス実用書の中ではキーワードになる言葉である。
9割の日本人が知らない お金をふやす8つの習慣―――外資系金融マンが教える本当のお金の知識
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というのも、人間の問題はすべて「習慣」が解決すると考えられるからだ。
たとえば仕事で成果を上げたいなら「仕事の習慣」を変えればいい。
ダイエットしたいなら「食事の習慣」を変えればいい。
マッチョになりたいなら「運動の習慣」を変えればいい。
で、問題は以下の通りである。
「習慣を変えればいいのはわかった。いい習慣と悪い習慣もわかる。で、どうやったら習慣を変えられるんだ?」
本書はそれに対する答えを明示する一冊である。
何がいい習慣なのかは、人によって違う
この本の結論を端的に述べれば、
「良い習慣を身につける効果的な方法は、人によって違うよ」
という、かなり身も蓋もない話になる。
とはいえ、これは意外と多くの人が忘れていたことかもしれない。従来の本は、たとえば「朝早く起きる習慣を身に付けなさい」と主張するが、当然、すべての人にとってこの習慣が良い効果をもたらすとは限らないからだ。
たとえば、私も朝早く起きる習慣を身につけようとしたことがある。
だが、私はやめた。自分の実感として、朝早く起きると、明らかに日中の仕事のパフォーマンスが低下するからだ。具体的に言うと、11時くらいにもう眠くなってくる。
朝5時起きが習慣になる「5時間快眠法」―――睡眠専門医が教えるショートスリーパー入門
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また、よく「朝食は食べないとダメ」という言説もあるが、私はこれにも従っていない。むしろ、朝食を食べるとなぜかお昼にやたらお腹が空き、集中力が落ちてくる。
そもそも、私は仕事に集中しているとお昼ご飯すら食べるのが面倒くさくなってくるし、空腹のほうがガリガリ仕事ができるので、1日1食でもいいくらいだ。
このように、何がその人にとって良い習慣なのかは変わるし、習慣を変える方法だって異なるのは当たり前なのだ。
人間を4つに分類する
さて本書では、人間を大きく4つに分類している。
アップホルダー(約束を守る人):
他人との約束も守るし、自分で作った約束も積極的に守る人。
クエスチョナー(疑問をもつ人):
あらゆる期待を疑問視し、自分で「やる価値がある」と判断したものだけ実行しようとする。
オブライジャー(義務を果たす人):
他人から「こうしなさい」と言われるとそれを果たそうとするが、自分で自分に課した義務はどうしても怠けたりしてしまう人。
レブル(抵抗する人):
いわゆる天邪鬼。人から「こうしなさい」と言われるとそれに逆らうし、自分で自分に何か義務を課したりするのも嫌がる。自分がやりたいことしかやらない。
おそらくだが、この文章を読んだ人は多くが「自分はクエスチョナーだな」と考えたのではないかと思う。
でもたぶん、あなたはクエスチョナーじゃない。たしかに、世の中には「これをしたほうがいいよ」とアドバイスを受けると、「でもそれって~~じゃない?」みたいに、疑問を呈してなかなか実行しない人が多い。
しかし、それが本当に疑問を解消するための質問であるのかどうかはわからない。というのも、人は自分がやりたくないことを回避するために、なにかとイチャモンをつけてそれをやらなくても言いように自分を正当化するからだ。
アドバイスの効果を疑ってそれに従わない自分を正当化する行為は、どちらかというとオブライジャー的である。
クエスチョナーとオブライジャーの見分け方
では、クエスチョナーとオブライジャーをどうやって区別するのかというと、本人が積極的に調べているかどうかである。
たとえば、「朝5時に起きると、仕事の調子がよくなるからやってみなよ」と言われたとする。
クエスチョナーはそれが本当に効果的なのかを疑い、いろいろな文献を調べたり、賛否両論の意見を集めたり、自分でちょっと実行してそれが本当に効果的かを確認する。その後、それが効果的だと自分が判断できれば、それを続けるのだ。
しかし、オブライジャーはそういう調査はしない。そして、ためしにやってみることもしない。なぜなら、彼らは表面上は「効果を疑っている」ように見せかけながら、本心はただ「めんどうくせえ」と思っているだけだからだ。
これは私の実感だが、残念ながら世の中の大半の人は「オブライジャー」ではないかと思う。でなければ、「楽して金持ちになる方法」とか、「努力しないで痩せる方法」とか、「これだけやればすべてうまくいきますよ」と謳う本が売れるはずがないと思うからだ。
オブライジャーの人にお勧めの習慣を変える方法については本書で詳しく書いてあるので、興味がある人は本書を読んでみてほしい。
人は「分類」に弱い
この本のうまいところは、「人を4つに分類する」というところだ。
人間は分類されるのが大好きである。星占いや血液型、動物占いなど、自分をどれかの枠に当てはめたがる。
それは、自分を何かの型に当てはめることによって自己を規定しようとしているからだ。そして、本書の4つの分類は、まさにそれと同じ手法で、人々をひきつける。
しかし、そのような枠に自らを押し込めることが果たして良いことなのかどうかは、疑うべきところだろう。4つの分類は空くまでこの著者がひとりで生み出した概念であり、すべての人がどれかにピッタリ当てはまるわけではない。
たとえば、会社では「アップホルダー」だが、家族の前では「オブライジャー」になり、趣味仲間の間では「レブル」になる人だっている。人は「自分はこういう人間なんだ」と規定したがるが、そうした規定そのものは、単なる自己満足でしかないように思える。
『ボクと魔王』と分類の話
古いゲームだが、私が好きなゲームに『ボクと魔王』というのがある。
このゲーム、一見すると普通のRPGなのだが、じつは従来のRPGを痛切に皮肉っている。RPGというのはロールプレイングゲームの略で、ロール(役割)に扮するものだ。プレイヤーは勇者という役割を演じ、魔王という役割の人を倒したりする。そして、ゲームの中には村人の役割もいて、言うべき台詞も決められている。
このゲームでは、「各キャラクターに割り当てられた役割」というものがかなりストーリーの根幹に食い込んでくる。村人や魔王といった役割に対して疑問を投げかけ、アイデンティティを問いただしてきたりするわけだ。
気をつけなければいけないのは、こういった型はその人のある一面を端的に現しているかもしれないが、その人そのものを規定するものではない、ということである。
おわりに
魔王つながりで余談をひとつ。
最近、ローグライクゲームのアプリにはまっている。その名も『隣人は魔王』というやつだ。
ローグライクゲームというのは、いわゆる『風来のシレン』とか『トルネコの大冒険』とか『チョコボの不思議なダンジョン』みたいなやつだ。
余談の余談だが、私は『チョコボの不思議なダンジョン2』も大好きである。
最近、ゲームはなんでも「他人と協力してやる」スタイルが増えている。が、わたしはやっぱり、ゲームは一人でコツコツとやりたいなぁと、ひっそり思っている。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。