『折りたたみ北京』(ケン・リュウ編)のレビュー
SFというのはその性質上、著者が作品を書いた当時の社会を反映させたものになると思うわけです。
筒井康隆御大の古い短編小説などを読むと、当時の日本社会のことがなんとなく想像できますね。
当たり前だけど、「すでに現実世界で実現しているもの」を題材にしてもSFにはなりえませんから、時代とか著者の住んでいる国によって、傾向が出てきます。
というわけで、じゃあ現代に生きる中国人SF作家はどういう作品を生み出しているのでしょうか。
中国といえば経済発展が著しく、深センなんかだと現金はほとんど使われていないくらいキャッシュレス化が進んでいるらしいです(行ったことないから話に聞くだけだけど)。
でもその一方、農村と都市部の格差は日本以上に開いているとか、共産党による一党独裁・一人っ子政策が続いているとか、なかなか興味深い国です。
中国のSFといえば、去年は『三体』が大きな話題になりました(まだ読んでない)。
今回紹介する中国SFアンソロジー『折りたたみ北京』も、当然ながらこの『三体』ヒットの裏で発売されたもので、『三体』の著者である劉慈欣(リウツーシン)さんの2つの作品が収録されています。
当然ながら、作家さんによって作品の色はまちまちなので、簡単に紹介していきましょう。
※ちなみに、登場人物は当たり前ながら中国人名が多いのですが、登場するたびにふりがなを振ってくれているのは親切ですね。あとやっぱり、中国語本来のよみがなのほうがかっこいい気がします。
[陳楸帆(チェン チウファン)]
『鼠年』
やたらと大きなネズミ(ネオラット)を退治するためにかき集めらた若き軍隊の物語。大きな力に翻弄される、力ない者たちの悲愴。まあまあ。
『麗江(リージャン)の魚』
神経症の治療のために麗江を訪れた男と、そこで出会った女の物語。経済成長を優先させるがために人間の「時間感覚」すらも操作する社会。まあまあ。
『沙嘴(シャーズィ)の花』
ボディフィルムという、社会的地位を示すディスプレイを身にまとうことが当たり前の社会。その修理工と娼婦。男女のいざこざ。まあまあ。
[夏 笳(シア・ジア)]
『百鬼夜行街』
ロボッたちだけが暮らす街でひとり一緒に生きる人間の少年の物語。微妙。
『童童(トントン)の夢』
要介護状態の祖父と介護ロボットの物語。ほのぼのとしたハッピーエンド。まあまあ。
『龍馬夜行』
人間がいなくなった世界で一人放浪の旅を続ける龍馬ロボットの物語。微妙。
[馬伯庸(マー・ボーヨン)]
『沈黙都市』
人々の思考と行動を制限するため政府から「健全語リスト」以外の言葉の止揚が禁じられた世界物語。これはいいディストピア。おもしろい。
[郝景芳(ハオ・ジンファン)]
『見えない惑星』
二人の語り手がこれまで訪れた惑星とそこに暮らす人々を語る物語。うーん、微妙。
『折りたたみ北京』
時間帯によって3つのエリアが交互に現れる北京を舞台にした物語。割と王道的な話で嫌いじゃない。
[糖匪(タン・フェイ)]
『コールガール』
不思議な力を持つ少女の物語。ちょっとよくわからんかった。趣味じゃない。
[程 婧波(チョン・ジンボー)]
『蛍火の墓』
太陽が光を失い、新天地を求めてさすらった末に時間の流れが止まった<無重力とし>に流れ着く物語。よくわからん。
[劉慈欣(リウ・ツーシン)]
『円』
秦の始皇帝が不老不死を得るため、荊軻(けいか)に命じて全軍を動かし、円周率を計算させる歴史SF。これはおもしろい。発想もおもしろいし、物語としても高品質。
『神様の介護係』
これがこの本のなかで一番好きな話。ある日、いきなり「人類を創生した」と名乗る神々が現れ、高齢になった自分たちの介護を地球人たちにお願いする物語。しかし、後半になると神様たちが地球にやってきた本当の目的が明らかになります。ギャグテイストとシリアステイストが見事に融合した傑作。
総括ですが、まあいろいろバリエーションに富んだ作品が多いので、どれか気にいるものがあるのではないでしょうか。
後記
『アルカディア』を見ました。
カルト宗教を信奉する村から脱出した兄弟がひょんなことから村に戻ることになるんだけど、その村で不思議なことが起こる・・・・・・という物語。
ストーリーだけ聞くとなかなかおもしろそうなんですけど、実際、村の秘密とか、どういうことだったのかというのがいまいち明かされないまま終わってしまいます。
あと全体的に暗く、B級臭がする。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。