『三体』(劉慈欣・著)のレビュー
ついに読みました。
アジア人として初めて、SFの賞のなかでもっとも権威があるといわれているヒューゴー賞を受賞した傑作です。
ヒューゴー賞は1953年から続くもので、ファン投票によって決められます。
過去の受賞作では、『タイタンの妖女』『月は無慈悲な夜の女王』『アルジャーノンに花束を』『ニューロマンサー』などがあります。
まあ、「もっとも権威あるSFの賞」といっても、じつはファンタジー作品も候補に含めているので、さりげなく『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』とか『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』が受賞していたりもします。
また、あくまでも選ぶのは一般の人々なので、ゴリッゴリのハードSFとかよりもエンターテイメント性の高い作品が選ばれやすいように感じます。
個人的にはハードSFよりも、ファンタジー要素が混じってもいいからエンタメ性が高いほうが嬉しいので大歓迎ですが。
さて、本作は前評判がよかったのでかなり期待しながら読んだのですが、これは間違いない傑作です。
抜群におもしろかった。
かなりページ数があるのですが、「長さを感じさせない」とはこのことで、読み始めるとなかなか止まらず、ついつい夜ふかしをしてしまうタイプの本ですね。
ただし、冒頭はいきなり中国の文化大革命の話から始まるのと、いかんせん登場人物が中国の方々なので、「あれ、この人の名前はなんて読むんだっけ?」というフラストレーションを感じたりします。
(漢字で表記せず、カタカナ表記で統一してくれたほうがありがたいような気もするけれど、そこは逆に同じ漢字語圏の弊害といえるかもしれません)
あらすじはこんな感じです。
ウィキペディアのページはスーパーネタバレ祭りですが、このエントリーではネタバレはしないようにするのでご安心を。
文化大革命のとき、目の前で紅衛兵に物理学者の父を殺された葉文潔(イエ・ウェンジエ)は、政府の秘密研究所で働くことになる。巨大アンテナが建造されるその施設では人類の運命を大きく変える、謎の研究が行われていた。
それから数十年後、世界中の科学者たちが自殺を遂げる謎の事件が発生。やがてナノマテリアル研究者の汪淼(ワン・ミャオ)の視界には、どこを向いても移り続ける不気味なカウントダウンが始まっていた。汪淼は、警察官・史強(シー・チアン)に導かれて、各国の軍事関係者が集う会合に加えられる。なかなか全容を明かされないが、どうもとある秘密結社が暗躍して、それが科学者たちの自殺と結びついているらしいとのことだった。
秘密結社の目的はなにか? 視界に映るカウントダウンの正体は? 科学者たちはなぜ自殺してしまったのか? そして、それらのカギを握るらしいVRゲーム「三体」にはどんな謎が仕掛けられているのか?
この作品をスムーズに理解しておきたいのは、「文化大革命」と「三体問題」です。
カンタンに説明していきましょう。
まず文化大革命から。
毛沢東によって建国された中華人民共和国ですが、毛沢東はいろいろ政策に失敗して失脚してしまいます。
しかし、権力欲の強い毛沢東はなんとか政権に返り咲きたい。
そこで、毛沢東は10代の若者たちに「いまの政権は資本主義的だ。もう一度革命を起こして、真に共産主義的な社会を目指そう」と煽りまくるのです。
こうして結成されたのが「紅衛兵」という10代の若者を中心とした組織で、彼らは「非共産主義的なもの」をことごとく攻撃していきました。
金持ちや地主はもちろんのこと、学校の教師や知識人、宗教関係者などのインテリをどんどん虐殺、吊し上げを行います。
これが文化大革命とよばれる運動です。
ただし、当然ながらこんなことをしていては経済がどんどん停滞していくので、毛沢東がなくなったことでどんどん沈静化して、むしろ紅衛兵だった人たちは地方の農村に回されて行き場を失っていったのです。
次に三体問題です。
これは天体力学の問題で、「3つの天体が互いに万有引力を有する場合の軌道は、性格には計算できない」とされているらしいです。
(ただし、特殊な条件下では軌道を計算することができるとのこと)
小説の中では、作中に登場するVRゲームでこの用語が登場します。
このVRゲームは地球ではない別の惑星が舞台になっていて、そこには質量がほとんど同じ3つの太陽があります。
この3つの太陽が三体問題をはらんでいるわけですが、とにかく天候がめちゃくちゃなのです。
うまく3つの太陽の一つの軌道を集会すれば、地球のように穏やかな日々が続きます。
しかし、急に太陽が3つとも惑星から遠く離れて極寒の機構になってしまうこともあれば、逆に太陽に近づきすぎてすべてが蒸発してしまうような地獄になってしまうこともある。
ゲームの中では穏やかな期間を「恒紀」とよび、一日のリズムが全く狂ってしまう期間のことを「乱紀」とよんでいます。
ゲームのプレイヤーはそうしたなかで文明を発展させるために、どうすればこの問題を解決できるのかを考えていくというものです。
この2つに対する基礎知識があると、特に冒頭がスムーズに読み進められるようになると思います。
私は当初、VRゲームが登場するという設定は知っていたので、てっきり「自分とはなにか」みたいな哲学的なSFの作品かと思っていたのですが、ぜんぜん違いました。
もっともっとエンターテイメント性の高い、「なるほど、こっちの方に話が進んでいくのか」という話で、中盤から後半にかけての感情ボルテージがやばいことになります。
すでに第二部の「暗黒森林」も日本語訳版が出ているので、お正月のうちに読もうかと思案中。
これがまた上下巻に分かれていて、すごいボリュームなんですよね。。。
後記
『地獄楽』っていうマンガがおもしろかったです。
舞台は江戸時代。
江戸時代末期、かつて最強の忍として畏れられた画眉丸は、死罪人として囚われていた。そんな中、打ち首執行人・山田浅ェ門佐切に極楽浄土と噂される島から「不老不死の仙薬」を持ち帰れば無罪放免になることを告げられる。画眉丸は幕府の追手からも忍びの里からも二度と追われることがないことを約束される「御免状」を手に入れ、「愛する妻にもう一度会うために」、その引き換えとなる仙薬探しの道を選ぶ。無罪放免を求める他の死罪人達やそのに同行する山田一門と、一見美しいが恐ろしい化物の住む謎の島で仙薬を巡る戦いが行われる。
本作で主人公・画眉丸(がびまる)のパートナーとなる山田浅右衛門は実在した首切り役人で、作品の設定の通り、代々「山田浅右衛門」という屋号を名乗っていた一族です。
明治時代まで続いていたようですね。
絵柄がキレイで、戦闘シーンもスタイリッシュ。
かつ、登場する罪人たちや、ほかの山田浅右衛門たちがキャラクター豊かでなかなか見ていて楽しいです。
さらに、島に救う異形の怪物のデザインも不気味さが際立っていて好きです。
LINEマンガで1巻無料で読んだのですが、続きが気になるから買おうか悩み中。。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。