ものづくりの鉄則について ~『手塚治虫のマンガの描き方』
絵が描けたらいいなあ、と思うことはだれしも一度はあると思う。
私もそうだ。絵が描けたらいいなあと思いながら、練習するのは面倒くさいなと思ってしまう。
ということは結局、私の「絵が描きたい欲」はその程度なのかもしれない。
マンガ家になったりイラストレーターになったりする人というのは、たいていの場合、絵を描くことを“努力”とは感じていない。
それは、私が文章を読んだり書いたりすることを“努力”とは感じていないのと同じだろう。
そういう人がプロになれるのだろうと思うし、それがパッションなのだと思う(ボーク重子氏的に言えば)。
素人からプロ志望まで役立つ一冊
さて今回紹介するのは、マンガを読まない人でも名前を知っているゴッド・オブ・マンガこと手塚治虫先生が一般の人向けに書いた「マンガの描き方」である。
もともとは昭和52年に刊行された本で、こういう昔の本が非常に安価に手に入るようになるというのは電子書籍バンザイなところである。
(私が購入したときはセールだったので99円だった)
内容はというと、タイトルのままで、まったくマンガを描いたことがない人からある程度マンガを描いているまで、幅広い人を対象に「マンガの描き方」を伝授している一冊だ。
とはいえ、いかんせんターゲットの幅が広すぎるので、どんな読者にも当てはまらない部分があるのが玉に瑕。
たとえば私のようにまったく絵が描けない人間は、冒頭部分は「なるほど」とおもしろく読めたが、中盤の高度なマンガのテクニックや具体的に使う道具の話はあまり興味を持てなかった。
落書きだってマンガなのだ!
しかし、手塚先生はスーパーハードに仕事をした人だと知っていたので、てっきり素人相手にもスパルタ方式なのかと思ったが、いがいと優しい。
素人に対しては「とりあえず絵を描いてみなさい」とアドバイスするのだが、とにかくそれはどんなに下手でもいいそうだ。
たとえば、課長をぶん殴りたいなら、課長(とおぼしき絵)に、あなたのゲンコツを描き加えてみる。といっても、なにもゲンコツを描かなくても、ただの丸でいい。あなたさえそれをゲンコツだと思えばいいのだ。先ほどのように矢印を使って、ゲンコツと文字で書き添えてもいい。
デートのふたりは、顔だけでなく、からだまで描いたほうがいい。まずあなたとおぼしきほうに胴体や手足をつけてみよう。あなたが長身なら、キュウリのように長細い丸をくっつけ、手足を棒で描き加える。相手の女性が(または男性が)キングサイズなら、あなたより大きい胴体を描く。そしてふたりが愛しあっているなら、ふたりの上にハートを描いてみる。「片思い」なら、そのハートのまわりを前のようにかこんで、ちょっとした出っぱりを、あなたの顔のほうに向けてみる。つまり、「フキダシ」である。フキダシはなにもセリフでなくてもよいのだ。
マンガというものが、そこらの駅売りに並んでいるコミック週刊誌のことなら、それはプロのマンガであって、マンガのすべてではない。たとえば、へのへのもへじだってマンガといえば、マンガなのだ。トイレの落書きだってりっぱなマンガである。
こういうことは、やっぱり「誰が言うか」で説得力がまるで変ってくる。
自分の命を削り、生涯をマンガに費やした伝説的なマンガが「落書きだってマンガだよ」というから、すごくその言葉に説得力が出てくるんじゃないだろうか。
マンガの要素とはなにか?
私はあまり「絵を描く」ということを考えてみたことがなかったので、本書に書かれていたことはけっこう新鮮な内容が多かった。
たとえばこれは、「マンガの3つの要素」を説明しているところ。
小さい子の絵には、まず、ものの形の「省略」がある。手の指の一本一本まではけっして描かない。しかし手なのだ。それから「誇張」もある。頭を福助のみたいに大きく描くのがそれだ。人間大の草花だって、そうである。三つめに、「変形」もある。自分の描きやすいように、好き勝手に形を変えて描いている。しかも、それが人なら人、犬なら犬と、ちゃんと決まっているのだ。
「省略」「誇張」「変形」、この三つは、幼児画の特徴で……落書きの特徴で……そして、マンガの、すべての要素なのだ!
こちらはマンガに必要なもう一つの要素、「荒唐無稽さ」について。
荒唐無稽 さ、デタラメさを抜きとったマンガが、いかにつまらないか、考えてみるといい。最近、あまりにも写実的な絵で、きまじめでリアルな物語のマンガが多い。こういったものは、デタラメやウソを入れようにも入れられないから、しょせん、絵のほうもくそまじめで終わってしまう。
劇画でも、シナリオライターとか、作家が原作を書くと、やっぱりリアリティを重んじるせいか、デタラメさが少なくなる。
しかしです。マンガのなにがおもしろいかといって、あのしたたかなウソ、ホラ、デタラメ、 支離滅裂、荒唐無稽さに出会ったときのたのしさったら、ないのである。 赤塚不二夫 さんのマンガは、それが生命力なのである。マンガを描こうとする人は、力のおよぶかぎり、ウソ、ホラ、デタラメに徹してほしい。ことに絵のうえでは、PTAや警視庁からとたんにクレームがつくくらい、ハメをはずしためちゃくちゃを描いてほしいものだ。
ただしもちろん、優しさだけではない。
手塚治虫先生はいわゆる「マンガ」と「プロのマンガ」をわりと明確に区切っているようで、プロに対しては結構要望が厳しめだ。
そのあたりは本書を読んでみてほしい。
まずパクリから始めよ
さて私は本書を読んでいて、具体的なマンガの描き方よりも、シナリオやキャラクターの作り方がかなりおもしろかった。(将来的には小説も書いてみたいと思っているので)
たとえば主人公の作り方はこんな感じ。手塚先生は2つの方法を伝授してくれる。
新しい主人公をつくる、便利で手軽な方法がある。
ひとつは、既成の主人公の性格を変えること。「サザエさん」を例にとれば、彼女の性格はおっちょこちょいで、お人好しで、あわてものだといえるから、この特徴をまったく逆に、非常に怒りっぽい、かんしゃく持ちな性質にしたててみるわけだ。
親しい友だちや町で見かけた人が、かんしゃく持ちの印象でおもしろいと思ったら、借りものの主人公におきかえてみよう。借りもののの顔に、なにかつけ足せばオリジナルのものができるように、主人公の性格もまったくオリジナルになるものだ。
もうひとつの方法は、たとえば、フジ三太郎と「がきデカ」のこまわり君の性格を混ぜあわせて、ひとりの人物をつくってしまうことだ。しかし、この方法は、下手をすれば「ジキルとハイド」にもなりかねない。もっとも、この混乱は、描いているうちにだんだんなくなっていく。ひとりの人物にあまり多くの性格を入れると、逆に印象が弱くなることもある。
要するに、完全にゼロベースから主人公を作り出すのはハードルが高いから、既存の人気者の要素を借りてきてそれをベースにしてしまおうということだ。
日本では伝統的に「守破離」が言われているが、マンガも同じだ。
素人がいきなりゼロからなにかを作り始めるのはハードルが高いから、まずは世の中にあるものを模倣することから始めるのは、どの世界でも鉄則ではないだろうか。
シナリオの組み立て方
手塚先生はシナリオの作り方についても、ご丁寧にイラストで説明してくれる。
※本書より抜粋
マンガ家志望の人はもちろんのこと、クリエイターとして何らかの活動をしている人なら必ず役に立つ一冊だ。
たとえば「長編をいきなり書くな! まず短編を最後まで書き上げろ」というのは、まさに小説でも音楽でも同様のことが言えるだろう。
最初は短くてもいいから「最後まで終わらせる」ということが大切なのだろう。
これはスマホに入れて置き、また期があったらじっくり読み直したい。
ちなみに、いまはこの本も気になっている。
今日の一首
39.
浅ぢふの をのの篠原 しのぶれど
あまりてなどか 人の恋しき
参議等
現代語訳:
浅く茅(ちがや)の生えている小野の篠原のように忍んできたけれど、
どうしてこんなにあなたが恋しいのでしょうか。
解説:
古今集にある詠み人知らずの「浅茅生の 小野の篠原 しのぶとも 人知るらめや いふ人なしに(あの人は私の恋心を知っているだろうか、いや、知らないだろう。伝えてくれる人がいないのだから)」という歌の本歌取り。ちなみに、「小野」というのは単純な「野原」のことだけど、リズムを整えるために「お」をつけている。
後記
ようやくテイルズ・オブ・ベルセリアを終えたので、「ニーア オートマタ」をユルユルとはじめた。
先に奥さんがプレイしてたんだけど、マルチエンディングで周回が前提となっているらしい。その分、シナリオは比較的短め。
まだ途中だけど、けっこうおもしろい。
本当は2010年に発売された『ニーア レプリカント(またはゲシュタルト)』の続編なんだけど、これ単体でも十分楽しめる。
ちなみに、制作スタッフは『ドラッグオンドラグーン』と同じで、年代はまったく違うけれど同じ世界を舞台にしているらしい。
あらすじ
舞台ははるか未来。異星人と彼らの生み出した兵器「機械生命体」により壊滅した地球から逃れた人類は月に移住。人類も「アンドロイド兵士」を生み出し、地球奪還のために活動させていた。主人公の2B(トゥービー)は相棒の9S(ナインエス)とともに地球で調査を行うなかで、真実を知っていく。
基本的には主人公の2Bを操作して敵をなぎ倒していくアクションゲーム。難易度はいつでも選べるけれど、ぶっちゃけノーマルでもちょっとシビア。どこがシビアかというと、雑魚敵でもダメージがでかい点だ。
「すべての攻撃を回避する」ができないと厳しいので、雑魚敵でも5体くらいに囲まれるとあっという間に死んだりする。(あと野生動物がやたら強い)
ただし、レベルが上がるとごり押しもできる。
しかしオープンワールド形式で荒廃した地球を自由に歩き回れるのはかなりいい。個人的にポストアポカリプス的な廃墟風景は好きなので、マップを探索するだけでも楽しめる。
キャラクターデザインもいいし、いまのところ戦闘システムも楽しい。まだ一周もしていないので、適度に進めてあとはシナリオを楽しんでいきたい。
ということで今回はこんなところで。
それでは、お粗末様でした。