本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

「いつでも転職できる」ようにしておいたほうがいい理由 ~『転職の思考法』のレビュー~

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編集者は転職する人が多い。

というか、「転職しない人はいない」と言っても過言ではないくらい、みんなポンポン転職する。

 

もくじ

 

なぜかというと、理由はもちろん個々人でいろいろあるが、本の編集者は仕事内容がすごく「属人的」だからだ。

つまり、会社の名前や組織力で仕事をしているのではなく、個人の能力(企画力・コミュニケーション能力・文章力など)で仕事をしている。

たとえばの話、マネー系の本を作るのが得意な編集者がAという出版社からBという出版社に移ると、B社でマネーのヒット本が出たりする。

 

転職をするのが当然の時代で

 

……ということを編集者本人もとても理解しているので、編集者は「自分はどんな本を作ってきたか」「どんな作家とつながりを持っているか」などを重視するし、それが自分の価値であると理解している。

 

同時に、出版社側も編集者のそうしたロンリーウルフ的な性格を知っているので、厳しく縛ったりしない。

そもそも出版業界自体に特殊なルールが多かったりするが、基本的にはどの会社に入ってもやることはそれほど変わらないのだ。

実際、かく言う私も現在30歳ながら、2度の転職を経験している。

 

なので、私はわりと「転職」というものをありふれたものであり、そんなにすごいことだと思ってはいなかった。

しかも私と同じくらいの年代だと、出版業界でなくても、30歳になるまでに一度は転職をしている人間が半分くらいいる(私の友人だと)。

ただ、それでもやっぱり、新卒でうまく大手の企業に入れた人にとって、転職というのは一大決心であり、こわいことなのだろう。

 

『転職の思考法』

 

ということで、今回紹介する本はこちら。

 

このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法

このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法

 

 

いま、メチャクチャ売れている本である。

著者の北野唯我氏はいろいろ経験している会社員で、はてなブロガーでもあった(よく見たら同い年だった!)

 


ただ、いまはnoteを中心に文章を書いているらしい。

 

いわゆる転職のマニュアル本はすでに世の中にあるが、本書はそれらとはちょっと違う。

いわゆるハウツー本ではなく、タイトルにあるように「転職の思考法」を教えてくれる。

読者の「生き方」「働き方」を転職を契機として見つめなおさせることを目的としているのである。

 

ストーリーはシンプルで好印象

 

本書はストーリー形式で、印刷機器メーカーの営業マンをしている主人公が、敏腕コンサルタントに50万円を支払って転職の思考法を学んでいく。

シナリオそのものはいたってシンプルで、変なエンターテイメント要素はない。

ストーリー形式のビジネス実用書に下手にギャグや恋愛要素などを加えると白けるケースが多いので、これは良いことだと思う。

 

また先生役のキャラクター・黒岩は要点をバシッと言い切る歯切れのよいタイプで、ミステリー小説の探偵のように結論をやたら先延ばしにすることもない。

なので、テンポがよくてすいすい読み進められる。

 

たとえばプロローグから黒岩は悩める主人公・青野に対し、人々がなぜ初めての転職にこれほどまでの不安を覚えるのかという理由について以下のように説明してくれる。

これはけっこう核心を突いた言葉じゃなかろうか。

 

「いいか。ひとつ問いたい。なぜ、初めての転職が多くの人にとって怖いと思う?」

「そりゃ、転職先が潰れたらどうしようとか、考えるからでしょうか」

「違う。いいか、転職というのは多くの人にとって『初めての意思決定』だからだ。だから、怖いんだ」

「初めての意思決定?」

「そうだ、多くの人は普段、じつは何も意思決定しないで生きている。君は自分で大学を選び、就職先も自分で選んできたと思っているかもしれない。しかし、それは、ただ単に、これまでレールの上を歩いてきただけで、自分で何も決めていない。電車に乗り、目的地に進んでいく。大学であれば世の中からいいといわれる大学を目指し、就職先も、世間的にいい会社を選んできただけ。だがな、意味のある意思決定というのは必ず、何かを捨てることを伴う。これまでの人生で、そんな決断をしたことがあるか?」

 

転職できる環境は社会に利益をもたらす

 

「あとがき」において、著者の北野氏は本書を書いた目的について

「すべての人に『いつでも転職できる』という交渉のカードを持たせることによって職場をよくする」

と述べている。

 

ここが本書のけっこう重要なポイントだ。

「いつでも転職できる人間」が増えるということは、もちろん個々人にとって昇給やスキルアップなどのメリットももたらす。

しかしそれだけではなく、「いつでも転職できる」人間が増えることが、結果として日本の企業を強くすることにつながるというのである。

ここもまた、本書から一部を引用しよう。

 

「『転職は裏切り者のすることだ』……そう言われました」

「ふん。ハッキリ言っておこう。真逆なんだよ。会社にとっても、社会にとっても」なんだよ。会社にとっても、社会にとっても」

「真逆?」

「あぁ、考えてみろ。転職しようと思えばできる人間がたくさんいる組織と、転職したくてもできない人間、それどころか今の会社にしがみついて足を引っ張るような人間だらけの会社。どちらの会社のほうが強いと思う?」

「それは……たしかに前者だと思います」

「強い会社というのは普通の発想と逆なんだよ。いつでも転職できるような人間が、それでも転職しない会社。それが最強だ。そんな会社だけが今の時代を生き残れる。だから、現代の経営者は考え直さないといけないんだ、優秀な人間が2年、3年でも、御輿を担いで一緒に頑張ってくれたら御の字だってな」

 

さて本書では具体的に、次のようなことをレクチャーしてくれる。

●自分の市場価値を高める方法

●いいベンチャーを見極めるポイント

●新卒で入るべき会社と、中途で入るべき会社の違い

●パートナーへの相談方法

●「やりたいこと」がない人の仕事選びの基準

 

リアルタイムで転職を考えている人はもちろん、ちょっとでも「転職しようかな」という考えが頭をよぎったことがある人なら、読むと意識が変わるはず。

ご一読あれ。

 

このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法

このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法

 

 

今日の一首

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29.

心あてに をらばやをらむ 初霜の

置きまどはせる 白菊のはな

凡河内躬恒

 

現代語訳:

あてずっぽうに折るなら折れるでしょうか。

初霜がおりて見分けがつかなくなっている白菊を。

 

解説:

庭に咲いていた白菊の上に、今年初めての霜が降りている光景を見て感動している歌。白菊の花と霜の見分けがつかないというのはちょっと大げさだが、それぐらい幻想的な光景だったよということを表現しているロマンチックな歌。ちなみに、「置き」は霜が降るという意味。

 

後記

久しぶりにAmazonプライムで『ディープ・ブルー』を見た。

 

ディープ・ブルー (字幕版)

ディープ・ブルー (字幕版)

 

 

アルツハイマー病の治療薬を作るためにサメの脳を実験台にしている海上研究所で、すごく知能の高いサメが脱走して人々を襲うというパニックムービーだ。

この映画のちょっとおもしろいのは「まあ、こいつは死なないだろ」というキャラクターが意外なシーンで死ぬところ。

ビビリな私は初めて見たときいろいろびっくりした。

見たことがない人は、最終的に誰が生き残るかを予想しながら見るのもおもしろいかもしれない。

 

今回はこんなところで。

それでは、お粗末さまでした。