『猿の部長』がSF小説としてもおもしろい
年賀状は出したことがない徒花です。
来年あたりから出すかもしれない。
もくじ
今回紹介するのはこちら。
会計コンサルタントと公認会計士の2人がタッグを組んで著した一冊。
このコンビは本書以外にもいくつもの小説スタイルのビジネス書を執筆していて、好評を博している。
単なる物語形式のビジネス書とは違うぞ
最近は物語形式にしたビジネス書もたくさん出ているのだが、その多くは「ダメダメな主人公がめんたーに出会いながら成長していく」というフォーマットに沿ったものとなっていて、あくまで「読みやすくするために物語の形式を取っている」だけに過ぎない。
すなわち、読み物としてのおもしろさは最初からあまり想定していないし、読者の方もあまりそれを求めていないわけだ。
ただ、この作品の場合はちょっとそれとは毛色が違う。
なぜなら、本書の場合はビジネス書としてマーケティングを学ぶことができる内容でありながら、それと同じくらいエンターテイメントとしての物語にも凝っているからだ。
猿が支配する世界からの脱却
というわけで、ビジネス書ではあるがあらすじを紹介していく。
敏腕マーケター・滝川は好奇心から、とある島で行われている秘密の伝統行事を盗み見するが、その直後、意識を失う。そして目覚めると、彼は基本的にも説いた世界と同じだが、なぜか部長職以上の役職を人間ではなく猿(ニホンザルやオランウータン、ゴリラなど)が占めている世界になっていた。
とにかく彼は新たな職場となった会社でそれぞれの部長(猿)たちにマーケティングの知識を伝授していきながら、赤字続きだった事業を次々に改善していく。
そして同時に、じつはこの世界もある「事件」をきっかけに猿たちが台頭し、人間がサルに支配されるようになったことを知り、その秘密を探るとともに元の世界に戻る方法を模索するのだった。
ジャンル的にはSFだろうか。
猿が人間を支配している社会構造だし、タイトルからも明らかに『猿の惑星』をオマージュしている。
猿と人間の最大の違い
本書はもちろんマーケティングを学ぶための一冊ではあるが、個人的に興味深かったのは猿たちと人間の違いだった。
それは、「人間はどうしても利己主義に走る」というものだ。
猿は集団(会社)を作ったとき、頂点に君臨するボス猿に絶対服従し、裏切るなんてことはしない。そして一匹一匹が組織を生き残らせるために自分の全力を尽くす。
だが、人間はたとえ見かけは組織(会社)に所属していたとしても、腹の底では何を考えているかはわからない。もし、組織の利益と自分の利益が相反したとき、組織を裏切って自分の利益を追求してしまうこともありうるのだ。
猿たちによれば、そうした人間の習性こそが、人間が猿を超えられない原因だと断言する。
そして実際に、たびたび述べられるこの自論は、この物語の結末を迎えるときに最大の伏線となっていたことを読者は読み進めていくと気づく仕掛けになっているのである。
ぶっちゃけ、マーケティングの部分がどれだけ役に立つのかはよくわからないが、SF小説として読んでもそれなりにエンターテイメント性が高くて楽しめるので、暇なら読んでみるのもまた一興かもしれない。
おわりに
ちなみに、猿と人間の違いはもう一つある。
猿はなにか嫌なことがあると、目の前に誰がいるかもお構いなく、その場で怒りを発散させる。そして、1分くらいその状態が続く落ち着いて話の続きができるようになる。
人間はこうできない。
怒りを自分の内側に蓄積させ、それを歪んだ感情に変質させたり、自分を追いつめてしまったりする。
主人公は最初、猿たちのこうした怒りの発散方法に面食らうのだが、次第に慣れてくると、こうした猿たちの負の感情の発散方法にどこか羨ましさを感じるようにもなるのだった。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。