本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

「怖さ」のメカニズム~『私の骨』のレビューじゃない~

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帰宅するとすぐテレビをつける徒花です。とはいっても、別にテレビが見たいわけじゃないのです。

 

もくじ

 

私はテレビの黒い画面が怖いのだ。もしかしたら、幼少時に見た映画『リング』の影響があるのかもしれない。

 

 

怖いもの

 

とにかく、テレビの黒い画面の中に自分の部屋が写っているのが視界に入るのが耐えられない。あと、鏡もあまり得意じゃないし、カメラも嫌いだ。

あまり人には理解されないが、おそらく誰にでも「自分が特別怖がるもの」が何かしらあると思う。

 

まあぶっちゃけ、私はホラーそのものが苦手である。

お化け屋敷なんか近寄りたくないし、ホラー映画も、ホラーゲームも、ホラーマンガも、ホラー小説も得意じゃない。少なくとも、ホラー小説なんてシャワーを浴びる前には読めない(読んでからシャワーを浴びると、後ろに何かいそうだから)

 

『私の骨』

 

で、先日、こんな本を読んだ。

 

 

ホラー小説である。

別にAmazonで評価が高いわけでもない。なぜ自分がこの本を読もうとわざわざ図書館で予約したのか、意味がまったくわからない。しかし、読書家の多くは、おそらく「どうして自分が読もうと思ったのかよくわからない本」が少なからずあると思う。

 

本はイマイチなので、読む必要なし

 

で、読んでどうだったのかというと、イマイチな一冊だった。

短編集だが、とくに怖くもないし、よくわからない話が多い。Amazonの評価があまり高くないのもうなずける。

 

しかし、私がなかなかおもしろいと思う内容もあった。

それは「恐怖のメカニズム」についてである。『おそれ』という話の中でつづられている。

 

『おそれ』という話は短編なのだが、百物語のように登場人物の各人が自分が体験した怖い話を語り合う物語になっていて、作品の中でいくつもの怖い話が続くスタイルだ。

そこで、登場人物たちが「怖い」と思う仕組みについて語り合うところがある。

 

わけがわからない、から怖い

 

怖いの根源は「わけがわからない」である。

たとえばちょっとネタバレになってしまうが、『おそれ』のなかで語られた話のひとつに「祖母が死んだ翌日、ひとりで留守番していたら祖母が自分を呼ぶ声が聞こえた。祖母の部屋に行ってみて、ふとタンスを空けると、そこに祖母がぎゅうぎゅうに詰まって入っていた」というのがある。(反転させてください)

 

怖すぎる!

意味がわからない!

こうしてあらましだけを書いてしまうとまるでコメディのようだが、臨場感たっぷりに語られ、想像すると、かなり怖い。

 

これ、もし、おばあちゃんがなにかタンスに因縁を持っていて、「たしかにそういう理由があるならこんなことをしたのもわかるな」と理性的に考えられると、なぜか怖さは半減してしまうのだ。

しかし、そこにはそんな理屈はない。

なぜおばあちゃんがそんなことをしたのか、全く意味がわからない。

だから、怖いのである。語り部は「あれからタンスの引き出しが怖い」と語っている。すげえわかる。

 

『リング』にしても同じだ。

見ると死ぬ「呪いのビデオ」は怖い。なぜなら、なぜ死ぬのか、その理由がわからないからだ。

しかし、貞子という女性がかかわっていることがわかり、どうやら貞子は生前にいろいろ苦労して怨念を積み重ねていた(しかも超能力者だった)ということがわかると、だんだん怖さがなくなっていく。

人は、人の行動する動機が理解できると、恐怖を抱かなくなってしまうものなのだ。とんでもない悪役が、じつは凄惨な過去を持っていると知ると、とたんに見方をしたくなるのと似ているかもしれない。

 

おわりに

 

幽霊とかとは別次元だが、「昆虫が怖い」という人も多いと思う。その理由も、じつは「わけがわからない」につながっている。

昆虫には感情表現がない。

たとえばイヌの場合、吠える前には予備動作があるものだ。尻尾がだらりと下がり、毛が逆立ち、鼻にしわを寄せてうーうー唸る。それを見ると、「あ、こいつ吠えそうだな」というのが予測できるのである。

 

しかしたとえば、ゴキブリはどうだろうか?

いつ、どこで出てくるか、予想がつかない。じっと止まっていたかと思うといきなり猛スピードで動きだす。逃げるのかと思いきや、いきなりこっちに向かって飛んでくる。怖すぎる!

昆虫は感情が見えず、次の行動が予想できないからこそ、人によっては強い恐怖を抱くのである。

 

私の骨 (角川ホラー文庫)

私の骨 (角川ホラー文庫)

 

 

今回はこんなところで。

それではお粗末さまでした。