『そこまでやるか!裏社会ビジネス 黒い欲望の掟』(丸山祐介・著)のレビュー
この間、とある出版社のマーケティング担当者の方に聞いた話なのですが、裏社会をテーマにした某マンガの売上をアップさせるため「パニックマンガとして描いてください」という要望を作者に伝えて内容を変更していってもらったところ、人気が出るようになったとういことでした。
アングラ(アンダーグラウンド)な世界というはなんとなく惹かれるものがありますが、それは一種のファンタジーというか、ホラー映画、パニック映画に似た要素があるように思います。
ホラー映画の怖さは「もしかしたら自分の身にも降りかかるかもしれない」と思うところにありますよね。
ヤクザとか闇金とか麻薬とか、そういう裏社会系の話も、一見すると自分とはまったく円のない社会のように思えるけれど、ちょっとどこかで道を踏み間違えてしまえば、いとも簡単に自分事になってしまう。
そういうところが「おもしろさ」として捉えられるんじゃないでしょうか。
ということで、今回紹介するのはこちらです。
著者の丸山祐介さんは「丸山ゴンザレス」としても活動していて、「ビジネスにも裏社会にも精通する犯罪ジャーナリスト」ということらしいです。
さて、本書で紹介するところの「裏社会」とはなにか。
そもそもなにが「表」で、なにが「裏」なのか。
単純な話で、「法律を守っているか、いないか」「違法であることを分かっていてやっているか」の問題です。
これはマンガなどを読んでいても思うところがありますが、裏社会の人たちもやっぱりいろいろ大変だなあと感じますね。
本書によれば、現在はいわゆる表と裏のボーダーレス化が起きていて、表と裏を自由に行き来するような人が増えているそうです。
表をホワイト、裏をブラックとするなら、その中間層であるグレーゾーンがどんどん拡大している印象でしょうか。
そもそも、いわゆるヤクザというのは警察が定めた「指定暴力団」のことを指します(2つ以上の都道府県にわたって組織を有する場合は「広域指定暴力団」とよばれる)。
指定暴力団になると、一定の行為に制限がかけられます。特に組員は、警察がリスト化して、住所や家族構成まで把握されることになるのです。これは、暴力団の可視化のためであり、暴対法によって、暴力団が社会悪で暴力団を排除するためには、手段を選んでいられないということでもあるのです。
さらに二〇一〇年頃に、全国的に施行の動きが広まった暴力団排除条例の締めつけによって、一般企業は暴力団との付き合いを禁じられました。
こうした暴力団の人達に代わって、現在裏社会ビジネスで台頭しているのが半グレとよばれる不良集団です。
「半グレ」とか「不良集団」というと、ヤクザよりもヌルい印象を受けるかもしれませんが、むしろ彼らは別に暴力団に指定されているわけでもない「一般人」であるため、なにか事件が起きないと警察が動かないという怖さがあるようです。
「俺らヤクザじゃないからね。いつだって堅気になれるんだ」
ものものしい言い方ですが、元関東連合を名乗る三〇代の男性(都内在住)から、こんな脅しともとれるプレッシャーを掛けられた経験のある筆者にとっては、半グレを軽んじることはできません。
なんせ、ヤクザなら堅気への接し方ひとつで即、逮捕もありえます。たとえば威圧的に名詞を渡すだけで脅しとみなされる、といった具合です。ところが半グレの人たちは、そのような暴力団扱いをされることはありません。何か事件を起こすまでは、私たちとなんら変わることのない一般市民だからです。
このように、もともと限りなくブラックに近いグレーの人たちの層が厚くなっているのが、グレーゾーン拡大のひとつの要因。
もうひとつは、インターネットの一般化などにより、普通のホワイトの領域にいた人たちが脱法ハーブの栽培、売買をしたり、違法な性風俗サービスを提供しやすくなったことが挙げられます。
あとはグローバル化の波に乗って、不良外国人が増えていることもあるみたいです。
あと、脱法ハーブ(危険ドラッグ)は相当ヤバい品のようですね。
実際にリサーチをかけてみて実感したのは、ハードドラッグ(覚せい剤などの違法薬物)をやっている人ほど、脱法ハーブの危険性について警鐘を鳴らしてきたというkとおです。薬物使用歴の長い知人の通称ジュンさん(仮名・年齢不詳ながら見た目は三〇代前半、職業は自称フリーライター)に、効き目などを聞いたときのことです。
「(脱法)ハーブについて調べてるんだけど」
「なに丸山さん、そっちに手を出すの? やめときなって」
「取材ですから」
「それならいいけど、あんなのに手を出したら人生終わりだよ」
「ジュンさんは、もうシャブ食ってますよね?(覚せい剤に手を出してますよねの意)」
「そういう効き方じゃないんだよ。俺もちょっと試してみようと思って手を出したけど、二、三口吸っただけでいきなり意識が飛んじゃってさ」
ちなみに、私がこの本を読んでいておもしろかったのは、ちょいちょい裏の世界の言葉遣いを一般人にもわかるように翻訳するとき、やたら丁寧に訳してくれるところだったりします。
「N県にいい場所があるんでクサでも育てようと思うんですよ。一枚噛みませんか?」
→「人目につきにくい場所で大麻栽培のビジネスを起業して今後、展開していくにあたり資金調達が必要なので出資していただけませんでしょうか」
「いてこましたるかいな」「いてまうぞ、われ」
→「あなたのことを痛めつけてしまいますよ」
「かたはめたろかぁ」
→「あなたのことを型枠にはめ込んでしまいますよ」
(逃げたくても逃げられないようにしてしまいますよ)
「吐いた唾は呑めぬ」「われも吐いた唾呑まんとけや!」
→「一度口にした言葉は取り消すことができませんので気をつけて発言してください」
「おどれ、チンコロしたんかい!」
→「あなた、警察に情報提供して私が逮捕されるように仕向けましたか」
まあ、他の方のレビューを読むとあんまり深いところにまでは突っ込んでいない内容のようですが、裏社会ビジネス素人さんが軽く知るにはちょうどいい感じの本ではないでしょうか。
後記
『マトリズム』をLINEマンガで読んでます。
これもまた、薬物というブラックながらも、ちょっとしたことで普通の人が触れてしまうものだから、人を惹きつけるものがあるのでしょう。
マトリとよばれる麻薬取締官が主人公で、薬物に溺れしまう人たちを描き出すヒューマンドラマですね。
『闇金ウシジマくん』の薬物バージョンみたいな感じ、と説明するのがわかりやすいでしょうか。
(もちろん、主人公は警察の人間なので、麻薬をやめさせようとしますが)
主人公はいろいろです。
DVを受けている主婦だったり、学校の先生だったり、一度は薬物依存から抜け出せたけど更生施設でまた誘惑に駆られてしまうオジサンだったり。
読者を引き込むためではありますが、私たちが普段日常的に接しているだろう、普通の人たちがどのように薬物と関わりを持ち、そして破滅していってしまうのかがけっこう淡々と描かれています。
絵柄はなんとなく『やれたかも委員会』に近いかも。
ダメになっていく人間って、親近感が湧くんですよね……。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。