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本で死ぬ

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『大富豪アニキの教え』のレビュー~対話形式の実用書のむずかしさ~

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書籍のなかには自己啓発書というジャンルがあって、一応、ビジネス書とは一線を画すものとなっている。

 もくじ

自己啓発書とビジネス書の違い

代表的なものというと、デール・カーネギー『人を動かす』やスティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』だろう。ビジネス書と混同されがちだが、ビジネス書がビジネスで役立つテクニックや考え方を伝えるのに対し、自己啓発書はビジネスのみならず、人生をより良いものにするためのテクニックや考え方を伝えている

人を動かす 文庫版

人を動かす 文庫版

 

 

7つの習慣-成功には原則があった!

7つの習慣-成功には原則があった!

  • 作者: スティーブン・R.コヴィー,Stephen R. Covey,ジェームススキナー,川西茂
  • 出版社/メーカー: キングベアー出版
  • 発売日: 1996/12/25
  • メディア: 単行本
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ただし、現在の資本主義社会においては「人生の成功=ビジネスの成功=金もうけ」という構図が成り立つので、その境界線はけっこうあいまいだったりする。んで、今回レビューを書くのはこれ。

大富豪アニキの教え

大富豪アニキの教え

 

ご存じダイヤモンド社はビジネス書で有名な出版社だし、本書の内容も基本的には「どうすれば金もうけがうまくいくのか」というテーマなのでビジネス書といえばビジネス書だが、帯文にも書いてある通り、本書は単にビジネスの成功だけを目的とするのではなく、「人生を変える方法」を伝えている本という位置づけなので、どちらかといえば自己啓発書というジャンル位に類される一冊だろう。

著者について

著者は兄貴(アニキ)こと丸尾孝俊(まるお・たかとし)氏。細かい話だが、タイトルは「アニキ」とカタカナになっているが、本文では「兄貴」と漢字で表記しているのが個人的にはちょっと気になる。日本にいるときはパッとしない人物だったが20代後半の時に単身バリにわたり、そこでいろいろな人に親切心からお金を配りまくった結果一文無しになったものの、お礼にもらったとある土地の値段が爆上がり。その後は現地で29もの現地関連会社を運営する超絶資産家となった人物だ。

本書は鈴木一郎(あだ名は「いっちゃん」)という架空の人物がバリに住んでいるアニキの元を訪問し、その成功の秘訣を聞いていく物語形式なので、おそらくインタビューをもとにしてライターが書き起こしたものと思われる。

※余談だが、ビジネス書などで本人が書いているかライターが書いているかを見極めるポイントのひとつは、奥付に「編集協力」もしくは「執筆協力」をしている人物がいるか否か。もちろん、本当にゴーストを使っている場合はここにも名前が書かれない場合はあるし、書かれていたとしてもあくまで「出版社に著者を紹介して編集業務を請け負っただけ」という可能性もあるので確実ではないし、ライターが書いているほうが読みやすい文章であることも多々あるが。

なお、本書の主人公であるいっちゃんはFacebookからアニキに連絡を取って、まったく見ず知らずの間柄ながらいきなりバリに行って対面するのだが、実際、こういう人々が多くいるらしい。もちろん、現在もアニキはこうした人々の来訪はウェルカムとのことだ。会いたい人は連絡してみるのもいいだろう。ただし、FBの写真を見ればわかるが、けっこう強面である。

文体について

前述したとおり、本書は基本的にいっちゃんとアニキの対話形式で物語が進んでいく。物語形式の自己啓発書といえば、最近のメガヒット作『嫌われる勇気』も同様だ。こういう対話形式の自己啓発書というのはたいていの場合、先生役と生徒役に分かれ、読者は生徒役のキャラクターに自己を投影させながら読み進めることになる。

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

 

そこで大切なのは、先生役のキャラクターよりもむしろ、生徒役の質問の仕方だ。生徒役は読者を投影させるという非常に大切な役割があるのだから、読者が疑問に思うだろうポイントを的確に突っ込んでいかなければならない。これはけっこう難しいことだ。とくに、こうした物語の中で先生役となる著者本人が「一般の人がどこを疑問に思うのか」を想像して書くのは至難の業といえる。

『嫌われる勇気』でも、哲学者である岸見氏が先生役、そしてライターの古賀氏が生徒役として執筆を担っているが、こうした役割分担がかなりうまくいったからこそ、非常に分かりやすい良書となったのだと考えられる。

対話形式の実用書は難しい

反面教師……というわけではないが、この対話形式があまり成功しなかったんじゃないかと思うのが、最近読んだ『超ひも理論をパパに習ってみた』である。本書は女子高生・美咲が自分の父親である物理学者にいろいろ質問をして、超ひも理論について勉強していくというスタイルの本だ。

超ひも理論をパパに習ってみた 天才物理学者・浪速阪教授の70分講義 (KS科学一般書)

超ひも理論をパパに習ってみた 天才物理学者・浪速阪教授の70分講義 (KS科学一般書)

 

だが、本書を読むとあまりにもフツーの女子高生であるはずの美咲ちゃんの理解力が高すぎて、違和感しか感じない。私などはパパの話を聞いても後半は半分くらいしか理解できないのだが、美咲ちゃんは一度聞いただけでぱっと理解してしまうのだ。

ここに、本書の失敗があるような気がしてならない。美咲ちゃんは読者の投影先となるキャラクターにならなければならないのに、読者の理解力と美咲ちゃんの理解力の間にかい離が生じてしまっているのだ。まぁ、本書は「超ひも理論」という、一般人はなかなか理解する難易度が高い物理学をテーマにしているので仕方ない部分ではあるが、ここでかい離が起きてしまうと、対話形式の最大のメリットが損なわれてしまうのである。

関西弁の文章は好みがわかれる(気がする)

また、対話形式にはほかのデメリットもある。対話形式にすると、どうしても「キャラクター」すなわち性格づけが必要になるという点だ。対話によって物語が進むとはいっても、小説とは異なり、そんなに込み入ったストーリーは必要ないわけで、つまりはシチュエーションの変化とか起承転結はあまりない。淡々と2人の会話だけが続く状況が起きてしまうので、セリフだけでどちらのセリフなのかが明確であるように書かなければならないのだ。たとえば『超ひも理論を~』でも、今回紹介する『大富豪アニキ~』でもそうなのだが、先生役の人物は関西弁でしゃべっている(聞き手がどちらも標準語であるのも共通事項)

んで、ここからが問題なのだが、関西弁というのはテレビなどで芸人さんが喋っている分にはあまり違和感を感じないのだが、文章になると違和感を感じる(人が多いんじゃないだろうか)。関西弁は文字にした瞬間、その性格を強調されてしまうのだ。実際、関西圏の人はネット上では標準語を使うという人が多いんじゃないかと思う。

本の内容がキャラクターの強さに喰われるリスク

何が言いたいのかというと、コッテコテの関西弁でしゃべるアニキのキャラクターは好みが分かれるだろう……ということだ。

もちろん、丸尾氏は大阪出身で、実際に丸尾氏は本書で書いてある通りの関西弁でしゃべるのだろう。だがやはり、それを文字にすると異なる印象は抱きやすい。そのうえ、アニキはやたら大食漢(しかも辛い物好き)で、ヘビースモーカーで、夜更かししまくりという、かなりアクの強いキャラクターとなっている。これも、実際に丸尾氏がこういうキャラクターな気がするから特別脚色しているというわけではないのだろうが、キャラクターのアクが強すぎる場合、本書が本当に伝えたいメッセージが薄れてしまうという危険性はある。

実際、本書ではバリ島のさまざまな食べ物もたくさん登場するのだが、胃腸があまり強くない徒花としては「アニキ、そんなに食べたらお腹の調子が悪くなるよ」「アニキ、そんなに香辛料かけまくったら下痢になっちゃうよ」「アニキ、いくらなんでも炭水化物と塩分の摂取しすぎだよ」「いっちゃん、お腹いっぱいならアニキの誘いでも断ろうよ」とか、いろいろ考えながら読んでしまった。

本書の内容について

さてここからようやくレビューに入っていくわけだが、端的に言えばあまり目新しいことは書いてない。「相手のためにお金を使う」とか「まずは行動する」とか「本気になる」とか、そういうことはどの自己啓発書でも必ずといっていいほど書いてある内容なので、目新しさはない

ただ、そのなかで個人的に良いと思った教えは「生きる目的は、少しでもよくして次の世代に伝えるため」というところ。ちょっと長いが、以下引用(太字およびカギカッコ前の名前は徒花)

鈴木「兄貴、日本で新しい行動を起こしてみて、『やり続けてさえいれば、たとえ時間はかかっても、自分は変わって行けるんだ』という実感を得たことは、ものすごい自分にとっては大きな前進でした。(中略)確かに、僕は、純粋に『大成功したい!』と思います。でも、兄貴、その先、僕らは、最終的に、何を目指して、がんばればいいのでしょうか?

(中略)兄貴「それはな…、『伝えるため』や」

(中略)兄貴「いうなれば、オレたちはな、駅伝でいうところの『タスキ』なんや。リレーでいうところの『バトン』やな。ようするにな、『次の世代の人たちに、伝えなければならない使命』があるんやで」

(中略)兄貴「ただしな、いっちゃん。タスキやバトンを『ふつうに渡す』だけではダメなんや。そしたら、『自分が生きてきた意味』がないやろ。(中略)自分が生きている間に、自分のところでがんばってな、少しよくして次の世代に渡さなくてはいけないんや」

(中略)「あのな、過去から現在にかけてな、我々の諸先輩たちが『人類が、さらによくなるようにして、タスキをつなげてくれた』からこそな、昔にくらべて、我々はよりよい人生、よりより日本を得ることができてるんやろ」

(中略)「たいていは、親より少し出来がいいように産んでくれてるわけやしな、日本語が読めて書けてしゃべれてな、日本の文化と風習があって、こんなに便利な暮らしができて、99.9%の人が飢えることなく、ある程度裕福な暮らしができとるのはな、我々のご先祖さまや諸先輩がたが、さらによくなるようにして、そら必死のパッチで、タスキをつないできてくれたからこそなんや」

多くの自己啓発書は「こうすれば成功する」ということを書いているが、さらにそこから一歩踏み込んで、「そもそもなんでそんなに金を稼ぐことを頑張らなければならないのか」ということを、単純に個人の幸せという枠組みを超えて、それが自分が暮らしている国、祖先、ひいては人類の発展と更なる幸せのために必要なのだ、と述べているところは「なるほどな」とは思えた部分である。

ここらへんはいかにも自己啓発書っぽいところで、いわゆるビジネス書とは一線を画すポイントだろう。もちろん、普段、自己啓発書をまったく読まない人にとっては、分かりやすい言葉でいろいろとタメになることを教えてくれるので、読んでみてもいい本とはいえる。

おわりに

ちなみに、このアニキを主人公にした作品は堤真一主演で映画化もされている。

ただし、こちらの映画はどちらかというと、アニキの弟子であるクロイワ・ショウ氏が書いた『出稼げば大富豪』が元になっているようだ。

出稼げば大富豪 (KKロングセラーズ)

出稼げば大富豪 (KKロングセラーズ)

 

映画もそのうち見てみる。というわけで、今回はこの辺で。

 

お粗末さまでした。