『老虎残夢』(桃野雑派)のレビュー
SNSの投稿では、「タグ付け」が重要になったりしますね。
いかにフックのあるタグがたくさんつけられるか、みたいなところで注目されやすくなったりするものです。
その意味では、この本は「タグもりもり」な一冊でした。
帯の裏のほうにも書いていますが、本書は
・芥川賞受賞作であり
・新人著者のデビュー作であり
・中国の歴史小説であり
・武道の達人たちが特殊能力を発揮する「特殊設定もの」であり
・密室殺人であり
・館のなかの殺人であり
・孤島での殺人であり
・百合要素もある
という作品であるからです。
本書の中でとくに特徴的なのは「特殊設定」と「百合」でしょう。
まず特殊設定ですが、普通、ミステリーはわたしたちが暮らしている現実世界を舞台しているものが多いです。
そのため、人は空を飛ばないし、毒を飲んだら死にます。
しかし本書の場合、登場人物たちはいずれも武術の達人であり、内功という「気」のようなパワーを活用します。
この内功をうまく使うと、自分の体を軽くして水の上を走れるようになったり、毒を飲んでも体内で中和できるらしいのです。
そんなんだったら、何でもありやん、と思ってしまいがちですが、そこでうまく作品の中でルールを作り、ロジックを立てて、「うまく不可能犯罪」を組み立てるのが作家の腕の見せ所、というわけですね。
正直、その点でいうと本作はちょっと消化不良気味でした。
せっかく舞台設定はおもしろいし、登場人物たちもキャラクター豊かで、わくわくさせてくれるのに、謎が明かされると正直、ちょっとガックリしてしまう感じです。
本書は江戸川乱歩賞を受賞した作品で、最後に選考委員たちの選評が掲載されていますが、そこでも「本格ミステリとしては欠陥が多い」とも評されていますが、こうした細かい技工はこれから洗練されていくであろうという期待感が大きいことが感じられます。
武術の達人・梁泰隆(りょう・たいりゅう)の弟子であり、類まれな才能を持つ少女・蒼紫苑(そう・しおん)は、師の娘である恋華(れんか)と、掟で固く禁じられている秘密の相思相愛の関係にあった。
そんななか、師は自らの奥義を伝承する候補として、3人の武術の達人を招く。ずっと師のもとで修行を続けていた紫苑は、なぜ自分に奥義を授けてくれないのか不満を持っていたが、師の決定におとなしく従い、3人の客をもてなす。
3人の客が逗留している夜、酒を飲んだ泰隆は離れ小島にある楼閣にひとり赴く。師父が酔っていないか心配だった紫苑はそのあとをつけるが、内功の達人である泰隆は体を軽くして湖面を跳ね、船も使わずに小島に向かっていったので、安心して紫苑は戻った。
翌朝、朝食に来ない泰隆を心配した紫苑は、3人の客とともに迎えに行こうとするが、なぜか小舟は楼閣の小島側にある。不審に思いつつも紫苑と客が楼閣にたどりつくと、そこで泰隆は毒殺されていた。
内功の達人であるはずの泰隆はなぜ毒で死んだのか。そしてだれが毒を飲ませて師父を殺したのか。外部の人間が入った形跡がない以上、犯人は3人の客の誰かでしかありえない。師の仇をとるべく、紫苑は真相を追い求める。
ちなみに、船も使わずに湖面を渡れるのは泰隆と紫苑くらいなもので、3人の奥義継承者はそこまでの内功の使い手ではない、ということになっています。
謎は色々あります。
・犯人はどうやって湖を渡ったのか
・どうして内功の達人が毒で死んでしまったのか
・なぜ、泰隆は愛弟子の紫苑に奥義を教えようとしなかったのか
ちなみに、本書の真の謎は、むしろ3つ目のものにある、といえるかもしれません。
それが「老虎残夢」というタイトルの真意を表しています。
後記
「定時退社オンライン」というゲームをしばらくやっていました。
4人の平社員と、1人の上司に別れ、オンラインで対戦をするゲームです。
4人の平社員側は日報を書き、労基署に電話をして、上司の姿を撮影してSNSにアップすることで会社から脱出することができます。
上司側は、それを阻止します。
これ、分かる人はわかると思いますが、PS4の人気オンラインホラーゲーム、デッドバイデイライトと同じシステムですね。
発想がなかなかおもしろいですね。
日本らしいゲーム、といえるかもしれません。
まあ、飽きるのも早かったですが。。。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。