『13歳からの世界征服』(中田考・著)のレビュー
本当におもしろい本って、逆にレビューを書くのが難しいもんなのです。
なんでかというと、本当におもしろい本って私があれこれいうよりも、「とにかく一部を抜粋して実物を読んでもらったほうがおもしろい」からなのです。
それと同じような感じで、
・内容が完成されすぎている
・わかりやすすぎる
という本も、レビューを書くのが難しかったりします。
要するに、レビュー記事であえて私が付け足したり開設したりするスキがないわけなのです。
売れる本というのは、読んだ人が「自分も一言いいたくなる」ものであることが多いです。
少しばかり著者の独りよがりな思想が入っていたり、極端な言い方をしていて、反発する人が出てきそうな内容のほうが、賛同者と反発者が出てきて人気に火がついたりします。
これは本の装丁づくりも似ています。
私も経験があるのですが、本づくりを始めた当初はデザイナーさんと相談して本の装丁を決めるとき「とにかくかっこよく」「内容に即したもの」にしようとするのですが、あまりにもデザインとして完璧すぎてスタイリッシュすぎたりすると、なんかあまり売れなかったりするのです。
逆に、装丁のなかでちょっと抜けたところがあったり、ちょっとダサく感じたりするもののほうが万人受けしたりします。
ここらへんの塩梅は私もまだまだ試行錯誤を繰り返しています。
さて、今回紹介するこちらの本も抜群におもしろくて私は大好きなのですが、これもある意味完成されてしまっているおもしろさというか、あんまりあえて私が解説する必要がない本なんですね。
著者の中田考先生は日本人でありながらムスリム(イスラム教徒)で、毎日礼拝したりしているそうです。
「えらてん」こと「えらいてんちょう(矢内東紀)」さんと池袋周辺にあるエデンというイベントバーに住み着いているとか、そんな噂があります。
中田先生はちゃんとイスラーム系の解説書とかも出しているのですが、
その一方で中田先生は「カリフ制再興」を目的として各種の活動をしているので、イスラームの教えを日本に伝えるべく、サブカルっぽい本も出しています。
まあこれは、中田先生自体がアニメ等にも造詣が深いこともあると思いますが。
(ライトノベルも書いています)
さて、今回紹介する『13歳からの世界征服』は、中田先生の本の中でもイスラーム色が薄く、基本的に中学生の子供に向けて書かれた一冊なので、中田先生の入門書としてはぴったりなのではないでしょうか。
イスラーム色がうすいとはいっても、基本的にはイスラームの哲学と中田先生の独自の哲学がミックスされたものをベースに、13歳くらいの思春期になったばかりの子どもたちが抱きがちな悩みに回答していきます。
まあ、その回答がぶっ飛んでいるわけです。
初っ端から、こんな感じでこの本は始まります。
Q なぜ人を殺してはいけないのですか?
人を殺してはいけない理由なんて、どこにもありません。
人は人を殺してもいいんです。日本の法律は殺人を禁止していません。
警報199条には「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」と定めてありますが、刑法のどこを読んでも「人を殺してはいけない」とは書かれていません。
「人を殺してはいけない」も含めて、人間が「~をやってはいけない」と言う場合、それを言う人の「これをやって欲しい」「これは嫌だ」という個人的な好き嫌い・趣味以外の根拠はありません。
(中略)
もし「やってはいけないこと」を決められるものがあるとすれば、それはイスラームのような、この宇宙を超えた一神教の神だけです。時代や場所によって左右されてしまう人間には「人を殺すのは罪である」ということを論理的に説明できません。それを決められるのは神だけなんです。
終始、こんな感じの中田節が続きます。
詭弁と言ってしまえばそれだけのような気もしますが、私はこういう極端な物の言い方は大好きです。
あともうひとつ、イスラームのようなゴリゴリの一神教の考え方は、当然ながらキリスト教とか仏教徒はまったく違うロジックに基づいています。
よくある自己啓発書はアメリカ発祥ですから、ソースをさかのぼっていくとその倫理観の根底にあるのはキリスト教です。
そして最近ではマインドフルネスを始めとして、仏教をベースにしたメンタル本、自己啓発本も多いです。
イスラームの教えはそのどちらとも違っていますね。
端的に説明すれば
「唯一神アッラーにさえ気に入られれば、それ以外のすべての人間に嫌われても問題ない」
という考え方です。
すべてのルールはアッラーがムハンマドに授けた「クルアーン(コーラン)」に書かれているわけですから、それだけに従っていればいいわけです。
ちなみに、ムスリムの人たちはよく「インシャーアッラー」という言い方をするそうです。
これは「神が望むなら」というような意味らしく、イスラム圏の人たちはなにか約束をするときにこの言葉をつけます。
たとえば、「明日の12時までにこの仕事を終わらせます。インシャーアッラー」みたいな感じですね。
これはどういうことかというと
「明日の12時までにこの仕事を終わらせるようにがんばるけど、突発的な出来事が起きて12時までに終わらない可能性もある。12時までに終わるかどうかは神がそれを望んでいるかどうか次第ですね」
ということです。
そもそもイスラム教においては神がすべての運命を決めているわけですから、人間が未来の予定を自分で決めることなんてできないわけです。
もちろん、だからといって人間がなんの努力もしなくていいというわけではありません。
イスラム教では、自分の能力とか才能も神から与えられたものなので、それを活かさないといけないのです。
がんばる能力があるならがんばらないといけません。
イスラムの教えは日本では馴染みがないですが、だからこそちょっと勉強してみると、まさに日本人が抱えているさまざまな「まもるべきルール」「従うべきマナー」などの固定観念から解き放ってくれる感じもあります。
(だからといってこの本の内容を実践するのも考えものですが)
たとえば中田先生は本書で次のようなことを伝えています。
Q なぜ自殺をしてはいけないのですか。
A 死にたければ死ねばいいのです。だれも禁止していません
Q 大人になっても働きたくありません
A 生活保護を受給するか、刑務所に入りましょう
Q 生きていくうえで一番大切なものはなんですか?
A 可愛さです。猫のマネをして語尾に「ニャー」をつけましょう
Q なんの取り柄もありません
A 人間にそもそも価値なんてありません。あるとすれば「若さ」くらいです
Q 選挙には行ったほうがいいですか?
A どっちだっていいです。個人的には時間の無駄だから行かなくてもいいと思います。
Q いじめにあっていてつらいです。
A 完全犯罪で相手を殺しましょう。殺すのが一番楽です。
Q 学校ではいじめられ、家ではおやにいろいろ言われます
A 我慢できるなら我慢しましょう。我慢できない人は交番でひたすら泣き叫んでおまわりさんに助けてもらいましょう。交番の前で寝っ転がって手足をばたつかせながら叫び続けます。それでもダメなら布団を敷いて交番の前で泊まり込みましょう。
Q 先輩との関係がむずかしい
A おとなしく先輩の言うことを聞いて子分になりましょう。そもそも運動部は諸悪の根源。野蛮人の巣窟です。
Q 自分の家が貧乏です。
A 日本の貧乏は単なる幻想です。食べ物を買うお金がないならコンビニで並んでいるものをむしゃむしゃ食べましょう。警察に捕まりますが、餓死するよりマシです。
まあ、全般的にこんな感じです。
実際の本ではもっといろいろなことが書いてあるので、興味を持たれた方はぜひお読みください。
気になったらイスラム教に入ってみるのもいいかもしれないですね。
私はとりあえずムスリムになるのはもう少し先延ばししておきますが。
後記
久しぶりに『外天楼』を読み直しまして、
1巻完結のマンガっていいなと改めて感じたので、いくつか買ってしまいました。
とくによかったのはこちら。
すごく簡単にストーリーを説明すると、小学校の男子が同じクラスの家が超貧乏(というより両親が離婚して父親が働かないクズ)な女の子と仲良くなる一夏の恋物語です。
こういう物語って、「主人公が小学生」というのがすごく大事だと思うんですよね。
5年生か6年生くらいがベストじゃないでしょうか。
分別のつく大人に片足踏み込んでいるんだけど、まだまだ子どもで、親の庇護がないとなかなか生きていくのが難しい年代です。
このくらいの子どもたちって、どうしても親に振り回されてしまうんですよね。
大人になると自由になるぶん、なにか圧倒的な理不尽に振り回されるってことはないです。
やはり「いざとなればなんか仕事を見つけて自分で金を稼げる」というのが大きいと思います。
小学生だと働けないので、食べ物を買うお金を自分の努力で手に入れることができない。
だれかにお金をもらわないといけないわけですよね。
このあたりの親の理不尽に振り回され、貧困という状況でちょっとした小銭ですら使うのをためらってしまうような描写は、ヒリヒリさせられます。
似たようなシチュエーションだと映画「誰も知らない」とか、最近だと「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」「天気の子」もそういうシーンありますよね。
で、主人公の男の子も、女の子が好きになってなんとか彼女を助けてあげたいと考えるのですが、やっぱりそこも小学生ですから、自分じゃほとんどなにもできない。
男の子の場合も、サッカーチームの監督が急にやる気のある若い男性に変わって、それに振り回されてサッカーが嫌いになりかけてしまいます。
徹底的に、大人の身勝手さに翻弄される子どもが描かれているように思います。
そこが本作の魅力でしょうね。
ストーリーそのものにはさほど特出するべきところはありません。
物語の結末も、さほどドラマティックななにかがおこるわけではないです。
まあ、ハッピーエンドはハッピーエンドなので、そこは気持ちよく終わってくれるのはいいところでしょうか。
バッドエンドは胸糞わるいですしね。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。