答えは書いてあるけど、正解だとはいってない ~『その悩み、哲学者がすでに答えを出しています』のレビュー
あけましておめでとうございます。
昨年末の更新から1ヶ月以上放置してしまったのだが、ブログは続くよどこまでも。
もくじ
なぜブログの更新が滞っていたのかといえば、理由は単純で、仕事がウルトラ忙しかったから。
別の会社に移ったのだが、悪魔的な仕事量に忙殺され、ろくすっぽ本を読んでなかった。
更新頻度は下がるかもしれないけれど、引き続き、このブログは継続していく所存なので、ぜひお付き合いください。
『その悩み、哲学者がすでに答えを出しています』
というわけで、2019年一発目にご紹介するのはこちら。
現代人が抱えるさまざまな悩みに対して、古今東西の哲学者が出している答えを提示しながら、アドバイスしてくれる一冊。
著者は哲学の研究者ではなく、某大手企業に勤める傍ら、慶應技術大学のゼミ講師などを務めている。作家・水野敬也氏との共著書『ウケる技術』は20万部突破のロングセラーだ。
本人は哲学の専門家ではないが、本書の末尾では執筆のための参考文献が延々と挙げられており、勉強家ぶりがうかがい知れる。
本書で提示しているお悩み一覧
本書では以下のような悩みと、その回答者として1人ずつ哲学者の名前が上げられているが、参考文献ページを見ると、それ以外にも本当にいろいろな哲学者の文献を当たっている。
・将来、食べていけるか不安(アリストテレス)
・忙しい。時間がない(アンリ・ベルクソン)
・お金持ちになりたい(マックス・ウェーバー)
・やりたいことはあるが、行動に移す勇気がない(ルネ・デカルト)
・会社を辞めたいが辞められない(ジル・デュルーズ)
・緊張してしまう(ゴータマ・シッダールタ)
・自分の顔が醜い(ジャン=ポール・サルトル)
・思い出したくない過去をフラッシュバックする(フリードリヒ・ニーチェ)
・自分を他人と比べて落ち込んでしまう(ミハイ・チクセントミハイ)
・他人から認められたい。チヤホヤされたい(ジャック・ラカン)
・ダイエットが続かない(ジョン・スチュアート・ミル)
・常に漠然とした不安に襲われている(トマス・ホッブス)
・人の目が気になる(ミシェル・フーコー)
・嫌いな上司がいる。上司とうまくいっていない(バールーフ・デ・スピノザ)
・家族が憎い(ハンナ・アーレント)
・恋人や妻(夫)とけんかが絶えない(ゲオルク・W・F・ヘーゲル)
・大切な人を失った(ジークムント・フロイト)
・やりたいことがない。毎日が楽しくない(道元)
・人生の選択に迫られている(ダニエル・カーネマン)
・夜、孤独を感じる(アルトゥル・ショーペンハウアー)
・死ぬのが怖い(ソクラテス)
・人生がつらい(マルティン・ハイデガー)
・重い病気にかかっている(ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン)
悩みは解決されません
まず正直に言うと、本書を読んで、これらの悩みが解決されるかは微妙なところだ。
いずれの哲学者も、その思想そのものは広く世界から認められているものばかりだが、その悩みに対してピンポイントで的確なアドバイスをしているわけではない。
たとえば「家族が憎い」の章で取り上げられている項目では、哲学者アンナ・ハーレントの提唱した「ゆるし」によって復習の連鎖を止め、許す者と許されるものを自由にすることを推奨している。
だが、ユダヤ人である彼女自身、第二次世界大戦後に行われたナチスのアドルフ・アイヒマン(数百万人のユダヤ人を強制収容所に移送し、ホロコーストを指揮した人物)の裁判に際して、アイヒマンは絞首刑に処されなければならないという自らの考えを述べている。
アーレント自身がその力を主張した「ゆるし」が、ホロコーストという世界史上すくいようのない悪の前に、万能ではなかったこともまた明らかでした。アーレントの論理には不徹底な部分があり、理論と現実の間で齟齬をきたしたことは否めません。
私がむしろ本書に好感を抱くのは、黙殺して「掲載しない自由」を行使することも可能だったこうした「不都合な事実」もきちんと説明している点だ。
不倫はいいのか悪いのか
あるいは、「不倫がやめられない」という項目では、イマヌエル・カントの思想を紹介して
「『すべての人がそれをやったら、世の中がめちゃくちゃにならないかどうか』という判断基準に照らして行動せよ」
という判断基準を示しているし、
「理性によって抑えることですがすがしさを感じることが出来るのも、人間なのです」
と、読みようによっては不倫をいさめるような論を展開している。
だがその一方で!
同じ項目において自らの性欲を抑えきれず、肉食をして7人の妻を持ち、俗世にどっぷり浸りながら仏道を極めようとした親鸞の
「悪人正機(自分は自分で欲望を抑えきれないから仏に助けてもらうしかない人間だ……と自覚している人のほうが仏に救われるという考え)」
も紹介して、煩悩の深さに身をゆだねる思想をも紹介している。
これだけ読むと「どっちやねん」とツッコミたくなるような本なのだが、じつはこれこそが、本書を通じて著者が伝えたいメッセージだとしたら、どうだろう。
たった1つの正解はないという真理
本書の冒頭「はじめに」において、著者はいまから約1200年前の古バビロニア時代の石版に刻まれた「店へのクレーム」という碇を紹介している。
あるいはエジプトのパピルスで判明した「仕事をサボる人々」と「それに対して憤慨する上司」の言葉を記しながら、結局のところ、人間の悩みは1000年以上前からあまり変わっていないことを示している。
つまり、この本で述べられている悩みは世界中のありとあらゆる人々がずーーーーっと悩み続けてきたことであり、要するに、いまだに明確な解決方法がない問題ばかりなのだ。
だから、この本を読んで内容を理解しても、たしかにそれは「答え」の1つではあるかもしれないけれど、正解だとはいえない。
ここはけっこうポイントであるような気がしていて、実用書なりビジネス書なりを読む人のなかには、「たった1つの正解」を追い求めている人が少なからずいる。
でもそれは幻想で、そういうものを追い求めても、万人の悩みを解決する模範回答というというものは存在しない。
その代わり、「答え」はたくさんあって、どの答えが効力を発揮するかはケースバイケースだ。
だから大切なのは、「たった1つの正解」を追い求めることではなく、たくさんの正解があることを知りながら、自分にもっとも当てはまるものを探す(あるいは自らつくりだす)ことだろう。
哲学の入門書として良書
だからこの本のタイトルを見て、自分の悩みを解決したいという人がいるのも悪くないけれど、たぶんその要望は実現できる望みが薄くて、実質的には、本書は古今東西の哲学者たちの思想をわかりやすくなぞれる哲学入門書といったほうが正しい。
そういう意味では、幅広い本からしっかり研究して、わかりやすい言葉を使いつつ、しかも私たちの日々の悩みとリンクして説明することで、哲学をさらに身近なこととして捉えられる良書なのではないだろうか。
★★★後記★★★
キングダムハーツ3やってます。
奥さんも私も好きなので別々のデータでプレイしているわけだけど、当然ながらお互いネタバレはしたくない。
ということで、基本的に相手がいないときを見計らってやるわけだが、私は仕事のせいでほとんどやる時間がないので、遅々としてストーリーが進まない。。
とはいえ、楽しい。
特にバトルシステムがかなりバリエーションに富んでいて、簡単で楽しい。
また、今回からはピクサーも協力しているので、『トイ・ストーリー』や『モンスターズ・インク』などの世界やキャラクターも登場するし、グラフィックが超絶きれいになっているから、本当に映画のなかのような画面の中を動き回れるのが楽しい。
そう、とりあえず楽しい。
ただ難点なのは、シリーズの外伝まですべてプレイしているわけではないし、バースバイスリープとかプレイしたのはもう8年も前だからけっこういろいろなことを忘れていて、ちょっとストーリーにちゃんとついていけるのかが不安。
まああと、1つ不満らしいことをいうと、キングダムハーツ1、2と比べて、「最初の不安感」がなくなったのはちょっと情緒がないかな・・・・・・と思わなくもない。
前2作はソラ、ロクサスが最初はキーブレードを盛っていなくて、わけのわからない敵から逃げ回らなければならないステップを踏む。
そういう、敵から逃げるしかないというスリルというか、不安感みたいなものがあったのだけど、今回は最初からソラはドナルド・グーフィーとガッツリ一緒で、ゴリゴリ敵を倒していってしまう。
そういうところが、ドラマらしいドラマもないままヌルッと物語が始まってしまったような感じがして、ちょっと残念ではあった。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。