浦島太郎が救った亀はメスらしい~超水族館ナイト2016夏のレビュー~
先日、こちらのイベントに行ってきた。
もくじ
水族館プロデューサー・中村元氏が定期的に行っているトークショーで、年に4回くらい開催しているものだ。場所はお台場のTOKYO CULTURE CULTUREというスペースで、食べ物やドリンクを味わいつつ、まったりとお話を聞ける。新宿にあるLOFTプラスワンがゲスいサブカルをテーマにしている会場なら、カルカルはちょっと洒落たサブカルをテーマにしたイベントがよくおこなわれている。
ちなみにこのイベント、超絶人気なので、チケットは発売されると秒速で売り切れる。関係者にコネクションがない場合、発売日にネットに張り付いて即購入しないとすぐに満席になってしまうのだ。また、開場はイベント開始の1時間前から行われるが、開場するとすぐに常連さんが一番いい席を確保してしまうので、早めに入場しておくのをおススメする。次回は9月とかだったかな?
で、水族館プロデューサーってなによ?
これは中村氏が名乗っている職業で、本人いわく、日本で自分しかいないらしい。何をしているのかというと、名前の通り、水族館をプロデュースしている。具体的には、水族館の改装に際して水槽を設計したり、展示する魚をアドバイスしたり、職員の育成などを行って、水族館の集客力をアップさせるのがお仕事だ。
中村氏は大学卒業後、働き始めた鳥羽水族館で頭角を現し、日本にラッコブームを起こしたりした仕掛け人である。最終的には副館長まで出世したが、その後フリーランスになって「水族館プロデューサー」を名乗り、日本各地の水族館にアドバイスをしている。有名どころでは、アシカが空を泳いでいるように見える、池袋・サンシャイン水族館の「サンシャインアクアリング」を生み出したことなどが有名である。
画像はこちらから拝借
著書もたくさん出していて、とくに水族館プロデューサーとしての活躍ぶりは、以下の本が詳しい。文章自体も非常にうまく、かなりおもしろいのでおススメだ。実際、文章にはかなりのこだわりがあるらしい。
水族館に奇跡が起きる7つのヒミツ―水族館プロデューサー中村元の集客倍増の仕掛け
- 作者: 中村元,やきそばかおる
- 出版社/メーカー: Collar出版
- 発売日: 2013/08
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (1件) を見る
ただし、ご本人のキャラクターは三重県出身の関西人らしく、かなりトークにも長けたおもしろいオッチャンである。トークを見に行ったのはこのイベントが初めてだが、終始フリートークなのに話題が尽きず、かなりおもしろかった。
ゲストはマンガ家・内田春菊氏
しかも今回は、東京電力のキャラクター・でんこちゃん(といって、若い人に通じるだろうカ……)の生みの親として有名なマンガ家・内田春菊氏も後半のゲストに招いていて、けっこう豪華。開場では以下の新刊が発売されていて、最後にはサイン会もやっていた。
しかも、寡聞ながら私は知らなかったのだが、内田氏はマンガ家であると同時に歌手でもあって、CDも出している。会場では生歌も披露していたし、CDもしっかり販売していた。もう56歳のようだが、お肌が若々しかった。CDのジャケットはぶっ飛んでいた。
ただ、トーク内容だけを評価すれば、個人的には内田氏が登場する前の前半のほうがおもしろかった。中村氏と内田氏はすごく親密というわけではなさそうだったので、どちらも探り合いつつトークを展開している節があって、中村氏もトークの切れ味が少し落ちてしまっていたように感じたからだ。
というわけで、以下、イベントの中で徒花がおもしろいとおもったトピックを簡単に紹介していこう。
浦島太郎が救った亀はオス・メス?
これはイベントの開始直後、つかみとして話題に出たテーマで、中村氏の十八番である。昔、鳥羽水族館に勤めていたころ、中村氏は関西からくるお客さんたちに少しでも興味を持ってもらおうと、いろいろ苦労したのだ。
たとえば一口にウミガメといっても、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイの3種類がいるが、普通に説明しても関西のオッチャン・オバチャンという種族は聞いてくれない。むしろ、「で、浦島太郎が助けた亀はどれなの?」と聞くだけ聞いて、それで笑う始末だ。
中村氏はここであきらめず、その疑問に真摯に答えようとする。たしかに、どのカメも日本近海に現れるが、そのうち、浜にあがる習性があるのはアカウミガメだけである。しかもさらに調べると、浜に上がるのは産卵のために上陸するメスだけだと判明したのだ。つまり、浦島太郎が助けた、浜でいじめられていたカメは生物学的に考えるとアカウミガメのメスであるはずなのだ。
中村氏がすごいのはここから。たしかに、これでお客さんの疑問には答えられるが、ただ「浦島太郎が助けたのはアカウミガメのメスです」と説明しても、お客さんはくいついてこない。そこで中村氏はさらにこんなことをお客さんに説明する。
「ウミガメのオスとメスを見分ける方法を知っていますか? 尻尾の太さなんですよ。オスのほうが太いんです」
もちろん、これだけでもまだお客さんは食いつかない。そこで、とどめの一言が次の説明だ。
「なんで太いかというと、尻尾のなかにペニスを内蔵しているからなんですね。かなり立派です」
こういうと、関西のオッチャン・オバチャンたちは途端に目の色を変えて、カメの水槽をじっくりと観察し始める。そして、ギャーギャー騒ぎながら「あれがオスだ! あのなかにペニスがあるんだ!」と盛り上がるわけだ。確かに品はないかもしれないが、しゃくし定規な説明をされるよりも、よっぽど海の生き物に対する興味関心が湧く。
女性の方が細かいことに気付く理由
今回のイベントのサブタイトルは「遺伝子は発情する!」なので、自然とオスとメスの違いについて多くが語られた。中でもなるほどなぁとおもったのが、この話だ。
そもそも、ヒトは昔からオスはタンパク源を求めて狩猟をおこない、メスは果実などの採取をして生活していた。そして、果実などの採取をしてきたからこそ、細かい色の違いをオスよりも判別できるようになっているらしいのだ。これは近年、科学的な調査も行われている。
実際、ちょっとした上方の変化とか顔色とか、女性の方がそういう細やかなことに気が付くことが多い。これは別になんとなくそういう傾向があるのではなく、生物学的に男性よりもそういう変化に気付く能力に長けているのだ。
逆に、男が得意とするのは空間把握能力である。狩猟は遠くまで出かけないといけないので、遠くに出かけても巣(住処)にちゃんと戻ってこれるように、そういう能力が女性よりも長けているとされるのだ。だからこそ、男性と比べると女性は「地図が読めない」などといわれてしまうことがあるらしい。興味深い。
オス(男)はメス(女)の予備である
恋愛においては、どの動物でも基本的にメスがイニシアチブを持っている。人間の場合も、暴力などで無理矢理服従させない限り、男性が女性を選ぶのではなく、女性が男性を選ぶのである。これにも、生物学的な理屈が付けられる。
そもそも、男性は毎日何億個もの精子を体の中で作っている。一方、女性は卵子を月に1回しか作れない。つまり、精子と卵子では価値が全く違うのだ。圧倒的に卵子のほうが貴重なのである。
しかも、精子は卵子が活動を始めるためのスイッチング的な役割を持っているに過ぎない。赤ちゃんができるのは卵子が細胞分裂した結果であって、精子というのはそのきっかけをつくるだけ。そして世の中には、精子なしで細胞分裂を始めてメスだけで子どもを作ってしまった動物の多数存在する。ぶっちゃけ、子どもを残すために必要なのは卵子だけで、精子はあってもなくてもいいような存在といえるのである。
じゃあなんでこの世にはオス(男)がいるのか?
だったらそもそも全部メス(女)でいいじゃんなどと私は思ったが、そこは生物の賢いところで、オスがいるのはリスクヘッジのためなのだ。つまり、たとえば未知の病原菌やウイルスなどが発生して、それがメスだけを殺すようなものだった場合、「メスしかいない=即絶滅」という超危険な状態になってしまうのだ。そういった危険性を低下させるため、オス・メスと性別を分けて、絶滅するリスクを回避しているのである。端的に言えば、オスというのはメスがヤバくなったときの予備なのだ。
なんというか、そういう考え方を聞くと、男が武力を盾に権力を握り、女性蔑視を行うというのは、ある意味で「男の僻み」のように思えてくる。つまり、生物学的には圧倒的に女性の方が優位に立っているから、せめて社会的には高い地位につきたいという潜在的な欲求が支配欲という形になって顕現しているのではないだろうか……などと、私は考えてしまうのである。
まぁ、あれだ。とにかく、女性は偉大である。
糖尿病は氷河期の名残である
これは後半、内田氏との会話の中で出てきたテーマである。なぜ、糖尿病という遺伝性の病気があるのか、ということについての話だ。
かつて、日本には氷河期というすごく寒い時代があって、ヒトもそうした時代を過ごした。そういうとき、一番危険なのは凍死してしまうことだ。とくに、血液が凍ってしまったらもうおしまいである。そこで、太古のヒトの体は血液中に糖分を流すことで血液の凝固温度を低くし、凍りにくくしたというのである。そして、氷河期でなくなったいまも、かつての習性が残っている人には糖尿病が発症しやすい体になっているということらしい。ちょっとほかのサイトの説明も引用しよう。
その原理は未解決ながら有力な理論が。それを説明するためにアイスワインの話を。
この芳醇な香の高級ワインは、初霜が降ってから収穫されたぶどうで作られますが、それは、ぶどうの寒い温度での自己防御反応に由来しています。すなわち、ぶどうは、寒い気温になると、氷の結晶になる水分を放出し、かつ、不凍剤として機能する糖の濃度を高めることによって、氷の結晶がぶどうの薄皮を傷つけ、「凍死」することから自己防御しているのです。ということで、寒い時の小用も自己防御反応ということになります。
こうした話は以下の本に詳しいが、たしかに、遺伝性の病気というものは厄介だが、DNAが子孫に伝えるものには何らかのメッセージが込められている。無用の長物となってしまったものも、きっと、かつてはなにか有用性があったに違いないのだ。この本はまだ読んでいないが、そのうち読んでみたい。
- 作者: シャロンモアレム,ジョナサンプリンス,Sharon Moalem,Jonathan Prince,矢野真千子
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2007/08/25
- メディア: 単行本
- 購入: 12人 クリック: 275回
- この商品を含むブログ (59件) を見る
おわりに
というわけで、今回のイベントは非常におもしろく、個人的に好奇心を書きたてられるものだった。本を読むのもいいが、たまにはこういうイベントに参加し、なにかしらの専門家の話を聞いてみると、興味の幅が広がるのではないだろうか。いかに、自分が狭い世界に住んでいたのかがわかる……かもしれない。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。