本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」に参加したヨ!~“真の暗闇”を体験するイベント~

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先日、外苑の近くにあるワークショップ施設ダイアログ・イン・ザ・ダーク(通称DID)」に行ってきた。今回はそのレポートをお送りする。

もくじ

DIDの概要

これはどういうものか。参加料1人5,000円を支払い、地下の完全に光が遮蔽された暗闇の空間で、視覚障害(イベントでは「暗闇のエキスパート」もしくは「アテンド」と称される)のリードに従いながらいろいろなことを体験できるアトラクションだと考えてもらえれば間違いない。体験時間は1回90分、人数が制限されている完全予約制のエンターテイメントだ。

つまり、普段の生活における健常者と視覚障害者の立場が逆転した世界を体験できるのだ。施設内は携帯電話や腕時計など、わずかでも光を発するものの持込は一切禁止されている。なお、ダイアログ・イン・ザ・ダークは直訳すると「闇の中の対話」である。

暗闇の中では方向感覚すら失いかける

具体的にどんなことをやるのか、説明していこう。ただし、開催場所や開催時期によってやる内容は変わるかもしれないので、あくまで徒花が体験したことについて以下は綴っていく。

まずもって、歩くだけでも大変だ。なにしろ施設内は本当に真っ暗なので、物体の輪郭すら知覚できない。私の場合、自分がまっすぐ立っているのか、うつむいているのかどうかすら、だんだんよくわからなくなってきた。

そんな状態で、かがまないと通り抜けられないトンネルを通ったり、ちょっとした橋を渡ったり、施設内に設けられた神社にお参りをしたり、飲み物(ビールや梅酒も飲める)や食べ物を購入してそれを食べたり、習字をしたりするのである。ちなみに、おみくじを引いたりするのだが、引いたおみくじは点字で書かれているため、どんなことが書いてあるのか、私はまだ解読できていない。これらは新年向けに、いまの時期だけ開催しているイベントなのかもしれない。

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参加者と仲良くなれる

DIDは一度に8~10人くらいの人間がグループになって体験する。私は友人と2人で申し込んだが、1人で参加している人もいた。もちろん、友人以外はみんな知らない人である。受付兼待合室(ここは明るい。ロッカーもあるので、荷物や貴重品、明かりの出るものはここに預けておく)にはほかのグループの人々もいて、年齢層は20~30代が多いように思われた。

もちろん、年齢制限などはないので、小さい子どもでも参加できる。ホームページを見ると、学生は3,500円、小学生なら2,500円と割引されるようだ。ちなみに、私が参加したグループには50代の方も2人いた。

ただ、実際に施設内に入ると、男性も女性も大人も子どももあまり関係がなくなる。なにしろなんにも見えないし、そんな状況を体験したことがある人はまずいないからだ。しかも、真っ暗闇ということは、声を発しないと「存在しない人」になってしまう。だから参加者はまず最初にお互いに自己紹介し(ニックネームを作ったりする)、暗闇の中ではまず自分の名前を述べてから、自分がどういう状態にあるのか、逐一報告して行動していくのである。また、お互いに背中に触れて位置関係を確かめたり、後ろからついてきた人を誘導するなど、お互いの協力が不可欠になる。進んでいくと、だんだん声だけでどの人がしゃべっているのか、わかるようになってくる。

DIDが「ソーシャルエンターテイメント」と自称しているのは、ここらへんも由来しているだろう。たまたま同じグループに組み込まれた赤の他人同士が、暗闇の中を一緒に行動することによって信頼関係をはぐくんでいくのだ。終わることには一緒に写真撮影をしたり、Facebookのアカウントを交換するくらいの仲になっていた。ちなみに私はその日、名刺を持っていくのを忘れた。

視覚障害者の人のすごさがわかる

暗闇に入る前に、参加者には視覚障害者の人がよく持っている白い杖白杖、というそのまんまの名前)が支給される。徒花はここで初めて知ったのだが、白杖には身長に応じて適切なサイズがあるのだ。施設では「大」「中」「小」の3サイズが用意されていた。厳密ではないものの、大体杖の長さが自分の腰の位置くらいのものが一番使いやすいらしい。また、杖は縮ませてコンパクトにすることもできる。便利。しかしぶっちゃけ、徒花は前を歩く人の背中を触って行くべき方向を確かめていたので、白杖はそんなに活躍の場がなかった。

しかし、目を見張る(見えないけど)のは視覚障害者であるアテンドさんの凄さだ。もちろんこれがお仕事なのでコースそのものには慣れているのだろうが、そのつど的確な指示を飛ばしながら参加者を導いていく。最初に度肝を抜かされるのは、「複数の人が同時に喋っても、人数、位置を瞬時に把握できる」という点だ。

メガネをかけている人は参加の直前にメガネを預けることができるのだが、アテンドさんが「メガネをかけている人はいますか?」と質問したとき、参加者のうち3人(4人だったかもしれない……よく覚えていない)が「はい」と返事をした。すると、アテンドさんは即座に「3人ですね?」と人数を確認し、メガネを回収したのである。たまげた。

また、イベント中、各参加者がお金を出して飲み物を購入する箇所があるのだが、注文を受けてその場で飲み物を作るのもアテンドさんの仕事である。たしか「ほうじ茶」「甘酒」「ビール」「梅酒お湯割り」「オレンジジュース」などがあり、アテンドさんは注文を受けて的確に飲み物を作っては手渡していた。

そして彼らは、――これは完全に私見ではあるが――おそらくいろいろ「見えて」いる。参加者がいま、どのような行動をとっているのか、結構把握しているんじゃないかなぁと感じることが何回かあった。だから、暗いからといってエロイことはしないほうがいいだろう。

DIDのあらまし

さて、さも「目新しいものに早速参加してきましたよ」という体でここまで述べてきたが、じつはこの施設、日本でオープンしたのは2009年とかれこれ6年前の話である。日本で初めて開催されたのはさらに遡ること10年前の1999年。最初は東京ビッグサイトで開催されたとのことだ。

DIDを世界で最初に始めたのは、ドイツの哲学博士、アンドレアス・ハイネッケ氏。誕生したのは1988年というから、じつはけっこうな歴史がある。サイトによれば、現在は全世界39カ国、130都市以上で開催され、2015年現在で800万人を超える人々が体験した、とのこと。

http://www.dialoginthedark.com/free/?no=171より

日本にDIDを持ち込んだのは、ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンの代表を務めている金井真介氏だ。同氏は関西学院商学部を卒業後、広告代理店で働き、のちに経済産業省の所轄である財団法人店舗システム協会にてマーケティングコンサルタントとして活躍した人物。1993年に新聞でDIDを知って興味を持った金井氏は、すぐにハイネッケ博士に手紙を書き、「日本でもDIDをやりたい」という熱いラブコールを贈ったそうだ。一般的に、デキる人はやたら行動が早い。

くわしくは、以下のページに金井氏のインタビューが載っている。

金井氏は、現在は参加費が高すぎ、参加者の負担が大きいため、将来的には国の協力を仰ぎながら、より多くの人々が参加できるような仕組みしていきたいと考えているようだ。たしかに、5,000円はちと高い。気軽に行ける金額ではない。さらに、学校教育にDIDを取り入れようと、佐賀県と協力してなんやかんややっているみたいだ。金井氏は著書もある。

なぜか名字が「志村」になっている。。。どうもいろいろ調べてみると、バースセラピストという志村季世恵さんと、いつかはわからないが結婚したらしい。ただ、いまだにDIDのサイトでは金井という名前のままなので、どういう風に使い分けているのかはよくわからないが……。

志村 季世恵さん|響きから生きる人たち|CTIジャパン

ウィンウィン対談 志村季世恵さん センスのいいおせっかいおばさんが目標だった

そして完全に余談だが、作家の乙一氏はダイアログ・イン・ザ・ダークという朗読CDノベル??を2012年に発表している。ただ、Amazonのレビューはゼロで、あんまり売れている感じはしないけど……。

おわりに

徒花が参加したのは外苑前の常設地だった。場所が場所なだけもあり、地下に位置する施設はサレた外観で、ちょっとアダルティーなアベニューアトモスフィアがドリフトしていた。グッズも販売していた。ロゴもオサレ。

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そして、2013年からは、大阪にも常設施設ができているようだ。こちらは「対話のある家」という名前で、グランフロント大阪のナレッジキャピタルにある。積水ハウスが協賛しているので、たぶん「家」になったのだろう。関西以西の人はこちらのほうがいいかもしれない。しかも、料金はこちらのほうがちと安い。ただし、所要時間は70分なので、施設そのもののクオリティーもちょっと東京より劣ってしまうのかもしれないが。

気になる人はいっぺん行ってみるのもいいかもしれない。ただし、知らない人と半強制的にコミュニケーションをとらざるを得ない状況なので、そういうのが嫌な人は辞めておいたほうがいいだろう。徒花もそんなに得意ではないので、なんだかんだで終わったときにはどっと疲れが出た。

 

それでは、お粗末さまでした。