『タイタンの妖女』(カート・ヴィネガット・ジュニア)のレビュー
※ネタバレ入ってます
SFというジャンルが問いかけてくるテーマは壮大なものが多いですが、哲学的なものも少なくありません。
つまり、
・私たちはなんのために生きているのか
・人間とはなにか
・神のようなものは存在するか
といったことで、それらをどストレートに読者に問いかけてくるのが、今回紹介する『タイタンの妖女』です。
太田さんはこの作品の大ファンで、自分が所属する個人事務所「タイタン」は、この作品名に由来しています。
さてあらすじ。
本作最大のキーパーソンはラムフォードという男です。
ラムフォードは桁違いの大富豪で、個人で宇宙船を作って愛犬と一緒に宇宙に旅立ったりしていました。
しかし、そこでラムフォードと愛犬カザックは「時間等曲率漏斗」(クロノ・シンクラスティック・インファンディブラム)という減少に巻き込まれ、波動現象として存在するようになったのです。
これがまたちょっとわかりにくいのですが、ラムフォード(と愛犬カザック)は過去と未来を知り、時間を乗り越え、ありとあらゆる場所に同時に存在する、まるで神のような存在になってしまったのです。
こうして彼は、火星に軍隊を作って地球と戦争をさせたり、キリスト教に取って代わるような宗教を作ったりして、人類の歴史をコントロールするようになったのです。
そんなラムフォードに翻弄されまくるのが、本作のもう1人の主人公であるマラカイ・コンスタントです。
コンスタントもまた大富豪ではあったけれど、ラムフォードの予言などに翻弄されて、記憶を消されて火星軍の兵士にされたり、水星に送られたり、地球に戻ってきたら救世主扱いされたり、最終的に土星の惑星タイタンに飛ばされたりと散々な目にあいます。
じゃあ、ラムフォードはなんのためにそんなふうに人類をコントロールしたのか。
じつはそれは、タイタンに不時着した異星人のロボット・サロを助けるためでした。
というよりも、サロは自分の故郷であるトラルファマドール星に助けを求め、トラルファマドール星人たちは、太古の時代から地球の歴史を操作して文明が発達するようにして、サロの宇宙船に必要な部品が作れるように人類をコントロールしていたということがわかるのです。
そして、最後に完成したその部品を持ってくる役目を負っていたのがコンスタントであり、じつはすべてをコントロールしていたように思えていたラムフォードですら、トラルファマドール星人たちによって利用されていたに過ぎない、ということが明らかになります。
というよりも、すべての人類は「異星人の故障した宇宙船の小さな部品1つをつくるためだけに文明を発展させた」ということです。
読者が問いかけられるのは、これをどう受け止めるか、ということではないでしょうか。
印象深いのは、コンスタントと同じようにラムフォードに翻弄され続けた彼(ら)の妻、ビアトリスの言葉です。
「わたしを利用してくれてありがとう」
私たちは誰かの言いなりになることをよしとしません。
誰かに命令をされると、つい反発したくなります。
それは私たちが、自分のことは自分で決めることができるはずだと信じているからです。
でも、本当にそうなのか。
自分が下している決断は、過去の自分の経験、過去に自分に投げかけられた言葉、あるいは生まれた国の影響、時代の影響を知らず識らずに受けているはず。
そうしたものを考えたとき、はたして「私の意思」なんてものは存在するのでしょうか。
現実社会に生きているわたしたちも、もしかするとラムフォードとか、あるいはトラルファマドール星人のような、なにか自分を超越した存在によって操られているだけかもしれない……と考えることもできるわけです。
そこで虚無感に陥るのは簡単なのですが、ここで響いてくるのが先に書いたビアトリスの言葉ですね。
他者に利用されるっていうのは、そんなに悪いことなのか。
他者に利用されるままで死んでいくことは、悪いことなのか。
それを問いかけてくれる物語であるのではないか、と思います。
後記
「ムシカゴ オルタナティブマーチ」というゲームをざざっとやってみました。
謎の怪物が徘徊する世界で、特殊な能力を持った人たちを指揮して退治していくゲーム。
とはいえ、アクション的な要素や育成的な要素は一切なくて、ただ「キャラクターからの提案を受け入れるか、却下するか」だけで勝敗が決されていく非常にシンプルなゲームです。
選択肢とかによって結末が変わるマルチエンディング方式で、バッドエンドから意外な終わり方まで、いろいろあります。
ただ、そこまで奥深くないし、時間もかからないので、たぶん2~3日でやりきれるのではないでしょうか。
まあでも、そこそこ楽しめました。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。
年末年始はコレを読んどけ <2021年版>
ギリギリになりましたが、今年も私が読んだ本のなかからとくによかった10冊を選んでまとめておきます。
今年はわりと年末年始の休みが短めというか、実質一週間くらいしかない人が多いのではないかと思いますが、新型コロナのオミクロン株が流行の兆しを見せていますので、自宅でまったり過ごすという人は、ぜひ本選びのお役に立ててください。
そういえば今年はけっこう、Audibleも利用したりしました。電車に乗っているときとかはけっこう便利ですね。
さて、2021年に読んだ本は12月30日時点で「142冊」でした。
例年はだいたい200冊くらいは読んでいるので少なめです。
今年は公私ともにだいぶ忙しく、ブログもまともに更新できませんでした。
何が忙しかったのかというと、仕事でヘンに偉くなって管理職になってしまったのと、子どもが生まれたことです。
とくに子どもが生まれるとほんとうに、これまで読書とかに充てていた時間がすべてなくなるなど、生活リズムが激変しますね。
また、子どもの成長に応じて少しずつこのリズムが変わるのも厄介なところです。
なので、細切れの時間で本を読むことはできても、それをブログに書きまとめる時間がなかなかつくれませんでした。
そんなわけで、いままでは、わりとブログで紹介した本の中からオススメの10冊をセレクトしていましたが、今回はタイミングを逃してブログに書けなかった良書も多かったので、それにこだわらず、紹介していきます。
もくじ
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『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(相沢 沙呼・著)のレビュー(ネタバレ注意)
※今回はレビューの性質上、思いっきり本作のネタバレを含んでしまうので、読んでない人は自己責任でお願いします
ちょこちょことミステリーを読んでいると、なんとなく「きな臭い登場人物」というのが嗅ぎ取れるようになってくるのではないでしょうか。
個人的には「こんなやつは怪しい3大ミステリ登場人物」がいたりします。
続きを読む『サクッとわかるビジネス教養 地政学』(奥山真司・監修)のレビュー
地政学というのはわかるようでよくわからない学問であります。
実際、本書の冒頭、「はじめに」で監修を務めた奥山真司さんも次のように述べています。
地政学とは何なのでしょう。研究者によっていろいろな答えがあると思いますが、私は「国際政治を冷酷に見る視点やアプローチ」と考えています。
それがどういう学問なのか自体が「研究者によっていろいろな答えがある」のは学問としてどうなのかというツッコミを入れたくなります。
が、まあそこは置いておいて、いわゆる自然科学や数学のように明確な答えがあるものではなく、どちらかというと哲学とか経済学のようなものだと捉えれば問題ないのではないでしょう。
地政学を学んだからといって、一般の人がなにがどうなるというわけでもありません。
でも、地理の一環として知っていると国際紛争とか大国の思惑みたいなものがなんとなくわかるようになるかもしれません。
続きを読む『コンピュータ、どうやってつくったんですか?』(川添愛・著)のレビュー
ちょっとご無沙汰していましたが、また更新します(理由はあとで)。
『2001年宇宙の旅』などで有名なSF作家のアーサー・C・クラークは、『未来のプロフィル』というエッセーのなかで、のちに「クラークの三法則」とよばれるものを書きました。
(1)高名で年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。
(2)可能性の限界を測る唯一の方法は、その限界を少しだけ超越するまで挑戦することである。
(3)十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。
いちばん有名なのはたぶん3番めのやつです。
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