なんで同じメッセージなのに、こんなに響くんだろう ~『筋トレは必ず人生を成功に導く』のレビュー
私はTwitterでTestosteroneさんが有名になり始めたころから発言を見ていたし、最初の著書が発売されたときも「ついに出たか」という気持ちで売上状況をチェックしていた。
もくじ
それからアレヨアレヨという間に、さまざまな出版社から続々と本が出版されたわけだが、じつは私自身、Twitterはチェックしても、著書を読んではいなかった。ただ、kindle Unlimitedでたまたまこちらの本を目にして読んでみて、ついつい2冊目も買ってしまった。
筋トレは必ず人生を成功に導く 運命すらも捻じ曲げるマッチョ社長の筋肉哲学
- 作者: Testosterone,福島モンタ
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2018/01/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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それくらい、Testosteroneさんの本には魔(筋)力がある。
ただし勘違いしてはいけないが、基本的にどの本を読んでも内容は同じだし、Twitterで発言していることの繰り返しである。Testosteroneさんのことをまったく知らなかった人でない限り、目からうろこが落ちるような新しい発見はほぼない。
筋トレ!筋トレ!筋トレ!
また、Testosteroneさんの主張は、いろいろな切り口があるけれど、突き詰めていけば「筋トレしろ」という結論にたどり着く。それ以外の解決策はまったく提示されない。たとえば今回紹介するこちらの本の場合は、こんな感じだ。
仕事の効率を上げたいなら筋トレ!
タイムマネジメントを極めたいなら筋トレ!
計画の実現性を高めたいなら筋トレ!
自信をつけたいなら筋トレ!
体育会系の仲間に入りたいなら筋トレ!
上司や取引先が怖いなら筋トレ!
上司のハートをわしづかみにしたいなら筋トレ!
リーダーシップを得たいなら筋トレ!
ライバルに勝ちたいときは筋トレ!
コミュニケーション能力を鍛えたいなら筋トレ!
思いやる力が欲しければ筋トレ!
生涯より添えるパートナーがいるなら筋トレ!
“嫌われる勇気”を持ちたいなら筋トレ!
パワーワードの宝石箱や!
まあ、悪い言い方をすれば、この人の本はどれも内容が薄い。なにしろ「筋トレしろ」と一言で済むことをアレコレ言い回しを変えて繰り返しているだけなのだから、それはそうだ。そのうえ、この本は普通の本に比べて級数(フォントの大きさ)が大きいので、驚くほどあっさり読み終えられる。
しかし、それがおもしろいのである。読んでいるとだんだん「なぜ自分は筋トレしていないのか?」と思えるようになる。一種の洗脳である。
ここらへんは言葉の選び方のセンスや、文章のリズム感もあると思う。以下、本書の中で個人的にお気に入りの文言をちょっと抜粋してみる。
男がほかの男が優れているか否かを、なにで判断するか? 簡単だ、筋肉だ。
人間もしょせんは動物。目の前に立ちはだかる筋肉には、本能的にひれ伏してしまうのだ。
筋トレをすれば「その気になれば相手をいつでも葬れる」という全能感を得ることができる。その全能感が、心の余裕に繋がるのだ。
根底にある圧倒的なポジティブさ
おもしろいのは、筋トレというストイックな行為を推奨しているにもかかわらず、Testosteroneさんの言葉には「押し付けがましさ」がない部分だ。
文中にはたびたび「筋トレしろ」という意味の文章が出てくるが、そこに強制するニュアンスは感じない。だからこそ読んでいるとだんだん「筋トレしたい」「むしろ筋トレしない理由って何?」という思考になってくるのである。
この本の魅力の根底にあるのは「圧倒的なポジティブさ」だ。
というのも、Testosteroneさんはなにかを否定するメッセージを発しない。筋トレの魅力は伝えるが、肥満やガリガリをけなすことは絶対にしない。それがなにを意味するのかというと、誰しもが持っている「怠惰」な部分を否定しないということである。
筋トレというのは、かなり面倒くさいことである。そもそも肉体的に疲れるし、ジムに行けば金も時間もかかる。そして1日やっただけでは成果が出ない。そもそも、体の筋肉を限界まで使って、さらにもう一回繰り返すの筋トレの基本なので、自分の「辛い……もうやめたい」を乗り越えるメンタル的なタフさを要求される。
そして世の中のほとんどの人は、だからこそこれができない。私も定期的に自重トレーニングはしているけれど、やっぱり帰宅が夜遅くなると、早く寝たいからサボってしまう。
弱さを認めつつ、あきらめずに訴えてくれるすごさ
Testosteroneさんはもちろんこのことを理解している。自分の本を読んだ人がすべて筋トレを実行し、続けてくれるわけではないこともわかっている。しかしその上で「筋トレしろ」というのをひたすら繰り返すのである。辻説法をしていた日蓮のようだ。
私は最近、スマホの待ち受け画面の背景をこの本の表紙にしている。そして、顔の部分にはアプリを配置しないようにしている。そうすると、待ち受け画面が表示された瞬間に
「おい、ゲームなんかしてる暇あるのか? だったら筋トレしろよ」
と言われているような気がしなくもない。筋トレしよう。そして本を読もう。
今日の一首
37.
白露に 風の吹きしく 秋の野は
つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける
文屋朝康
現代語訳:
風の吹きつける秋野の原は、葉の上の白く光る露が吹き散って、
まるで糸で止めていない真珠の玉が散っているようだよ。
解説:
あんまりイメージはないけれど、平安時代は現代と同じように真珠に穴をあけてひもを通し、体に身に着けるのがはやっていたらしい。この歌は純粋に情景を歌っただけだが、六歌仙ならではの感受性が伝わってくるよいたとえ方。
後記
今度引越しをすることになって、本を思い切って整理している。もともとそんなに本をため込むほうではなかったけど、それでもやっぱり放っておくといつのまにか増えていくのが読書家の宿命ではあろう。
今後は基本的に、奥さんによってあてがわれた本棚につねに手持ちの本が収まるようにしておきたい。もったいない気もするが、冷静に考えて、やっぱりよほどの年月を読まずに置いた本を手元に置いておくのはスペースがもったいない。と、考えた。電子書籍で買いなおす、という手もある。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末様でした。