『老人Z』を見て、老後に一番必要なものを考える
そういえば最近は「老人」という言葉を聞かなくなったなぁと思った徒花です。
もくじ
代わりに使われるようになったのは「高齢者」。老人というと、たぶん差別的な意味合いが強いからだろう。というわけで、今回紹介するのはこちら。
原作は大友克洋、キャラデザは江口寿史
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キャラクターデザインは江口寿史。最近だと、この雑誌の表紙が印象的だった。主人公の三橋晴子がめちゃくちゃくぁいい。
独居老人×ロボティックSF
1991年ともう20年以上前に公開された映画だが、「独居老人」「介護」「高齢社会」など、いまだに解決されていない社会問題が大きなテーマになっている。当時か現在に至るまで、状況はあまり変わっていないということだ。
あらすじ:
厚生省(現在の厚生労働省)の役人・寺田は、西橋商事と協力して画期的なプロジェクトを立ち上げた。それが、超高性能の第6世代コンピュータを搭載した自立型介護ロボット介護ロボット「Z-001号機」の活用である。Z-001号機はベッド型のロボットで、健康管理から食事、入浴、排せつなど、老人の世話をすべてこなせるものだった。
厚生省はZ-001号機の試運転のため、独居老人・高沢喜十郎をモニターに選定。しかし、看護学校で学びながらボランティアで高沢の介護をしていた主人公・晴子はチューブにつながれて苦しんでいる高沢を見て、彼を助けようと奮闘する。
やがて、高沢の精神と融合したZ-001号機は彼の記憶を頼りに、鎌倉の海を目指して暴走を開始。さらに、じつはZ-001号機は軍事転用を図るための技術も搭載されていることが判明し、町中の無機物を自らに取り込みながら制御不能に陥るのだった……
大友克洋のロボットデザイン
じつは徒花はあんまり大友克洋のロボットのデザインが好きじゃない。理由は単純で「汚らしい」から。チューブやいろいろなものがゴチャゴチャしていて、あまりスマートじゃない。同様の理由で、鳥山明のロボットのデザインもそんなに好きじゃない。
本作のZ-001号機はいかにも大友氏っぽいデザインで、しかも性質上、暴走の家庭でいろいろなものを取り込みながら肥大化していき、最終的にはガラクタの山にしか見えないものに変貌していくのだ。
第6世代コンピュータって?
1982年に当時の通商産業省(現在の経済産業省)は、国家プロジェクトとして「第5世代コンピュータ」の開発を目指していた。そもそも、第4世代までどういう区分けがされているのかというと、以下のような感じだ。
第1世代:真空管
第2世代:トランジスタ
第3世代:集積回路(IC)
当時はまだようやく第3世代が主流になってきた時代で、LSIは実用化に至っていなかった。しかし、通商産業省は第4世代ではなく、あえてさらにその先の第5世代コンピュータの実現化を進めようと画策したのである。
んで、第5世代コンピュータとは何かというと、「述語論理による推論を高速実行する並列推論マシンとそのオペレーティングシステムを構築する」というもの。端的にいえば「自分で学習して賢くなるAIを搭載したコンピュータ」である。
本作に登場するコンピュータは第6世代といっているが、つまりAIの先を行っていることになる。第6世代コンピュータの定義ははっきりとしないが、まず「超小型原子炉が動力」であることと、コア部分に生体部品……すなわちタンパク質をもとに組成されたものが使われていることが作中で明らかになっている。
老後に一番必要なもの
さて本作で問題提起しているのは「老後」だが、見ていて思ったのは「老後に一番必要なのはきっと“友人”だな」と思った。作中では晴子を手助けする、天才ハッカーのジジイ集団が登場するが、彼らはたいへん楽しそうに生きている。それはハッキングという趣味もあるだろうが、それよりもむしろ一緒に楽しめる友人がいるからだろう。
大人になると、知り合いは増えるが友人は減っていく。友人の定義とはなにかというと、徒花的には「用事がなくても連絡が取れる人」だと思っている。男は特にそうだが、なにか「用事」がないと基本的には相手に連絡しない。しかし、「特に用事はないけど話そうぜ!」「特に用事はないけど会って話でもしようぜ!」と気軽に言える相手がいるとすれば、それは間違いなく「友達」なのだと思う。
お金があって健康でも、人生にむなしさばかりを感じてしまうのだろう。
おわりに
本作はかなりおもしろい。ユーモアが基本的にベースとなっているので、お堅いテーマを見事に中和している。オチもいい味を出している。暇なら見てみるのもいいかも。
あと、本当に「社会ってあんまり変わってないんだなぁ」というのをしみじみと感じた。いまだに高齢社会は解決策のない問題として横たわっているし、AIを搭載したコンピュータもまだ実用化していない。今後はどうだかわからないが。
今回はこんなところで。
それでは、お粗末さまでした。