本で死ぬ ver2.0

基本的には本の話。でもたまに別の話。

『メトロポリス』のレビュー~手塚治虫×大友克洋のボーイミーツガール作品~

 

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先日、国立新美術館で開催されている『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム』展覧会に行ってきた。はっきりいって、この展覧会自体は全然大したことはない。チケットは1,000円とお手軽だが、「ただ単に代表的な作品を並べただけ」という印象を受けたので、さほどおもしろくはなかった。

もくじ

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ただ、この作品展の最後のところで紹介されていた『メトロポリス』。展示自体は作品の一部分を流したりしていただけなのだが、徒花はこれまで見たことがない作品だったのでちょっと興味を持った。近くのTSUTAYAで検索すると在庫があったので、この三連休に借りて鑑賞してみた次第である。なお、若干のネタバレが含まれるので、注意していただきたい

手塚治虫大友克洋

メトロポリス自体は2001年に公開されたアニメ映画だが、原作はあのマンガの神様・手塚治虫氏が1949年に発表している。『ロスト・ワールド』『来るべき世界』とともに、手塚氏のSF三部作のひとつとされているものだ。太平洋戦争の終結が1945年なので、それからわずか4年後に発表された作品なのである。

メトロポリス

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ロストワールド

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来るべき世界 1

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とはいえ、これが完全なオリジナルなのかというとそうとも言えない。手塚氏自身が、この作品は1927年に公開されたフリッツ・ラング監督によるドイツの映画『メトロポリス』に触発されたといっているからだ(ただし、手塚氏自身はこの映画をちゃんと見たわけではないらしい)。この映画はのちのSF作品に多大なる影響を与えた記念碑的作品とされている。

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もちろん、今回レビューする2001年の『メトロポリス』も、手塚氏の原作を細部まで忠実に再現しているわけではない。脚本を書いたのは、『AKIRA』などで世界に名を轟かせる大友克洋氏だ。そのため、この作品は手塚治虫×大友克洋のタッグ作品」としてアピールされる。たとえば、物語のカギを握る人造人間の名前も、原作ではミッチイ(※及川光博さんのことではない)で男にも女にもなれる設定だったが、ティマという名前の少女になっている。

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 じつは徒花は大友氏のキャラクターデザインがそんなに好きではないのだが、本作のキャラクターは手塚氏のものに基づいている。だからこそ見てみてもいいかなと思ったのである。

ストーリーは鉄板のボーイミーツガールもの

「ボーイミーツガール」とはとくにファンタジー・SF作品などでよくある物語構造のひとつで、基本的には主人公の少年がひょんなことから少女と出会い、冒険していくものである。定義があるわけではないが「少年は平凡」「少女には秘密、隠れた力がある」「なにか組織に追われる」というのがテンプレだ。一番代表的なのは、スタジオジブリの『天空の城ラピュタ』だろう。

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ほかにも、『交響詩篇エウレカセブン』などは、ロボット系かつボーイミーツガールの典型的なものである。

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また、徒花が最近見たアニメの中では、『サカサマのパテマ』もボーイミーツガールのお手本のような作品だった。この作品、個人的にはラピュタをかなり意識しているのではないかと考えている。ラピュタでは「空から落ちてきた女の子」が物語のきっかけとなっているが、この作品では「空に落ちていく女の子」との出会いが端緒になっているからだ。ちなみに、敵役の声優さんはハリポタのスネイプ先生の声を担当してる土師孝也氏である。

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ちなみに、ボーイミーツガールものは得てして「セカイ系」の物語になりがちだ。なにしろ、作家の東浩紀氏はセカイ系のことを「主人公(ぼく)とヒロイン(きみ)を中心とした小さな関係性(「きみとぼく」)の問題が、具体的な中間項を挟むことなく、「世界の危機」「この世の終わり」などといった抽象的な大問題に直結する作品群のこと」と定義しているので、ボーイミーツガールはただそれだけでセカイ系の要件の一部をすでに満たしているのである。セカイ系は2003年ころからいわれ始めた言葉らしく、それ自体について解説している本もいくつかあるので、以下に紹介しておく。

セカイ系とは何か (星海社文庫)

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セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史 ソフトバンク新書 (SB新書)
 

そして、『メトロポリス』も、これらと同様のボーイミーツガールものだ。主人公のケンイチがメトロポリスというハイテク都市で記憶のない少女ティマと出会うことから物語は進展していく。ただし、この作品でちょっと特殊だと思われるのは、最終的に主人公と少女が結ばれない、というところだろうか。もちろん、解釈の仕方によってはこの作品の後にケンイチがティマと再会を果たすことを予感させるが、作中ではそのことが明示されているわけではない。

テーマは「人間とロボットの共存」

ちょっと遅れたが、あらすじをいかにまとめよう。

科学技術が高度に発達し、人間に代わってロボットが労働力として酷使されている大都市「メトロポリス」。そこでは上流階級の人間たちが豊かな生活を享受している一方で、ロボットに職を奪われた労働者たちがフラストレーションをためていた。
メトロポリスで強大な力を握るレッド公は強大な力を持つアンドロイド、ティマを秘密裏に作り上げていたが、実験室の火事によりティマは行方不明になる。彼女を見つけたのは私立探偵ヒゲオヤジとともに日本からやってきた少年、ケンイチだった。
生まれたばかりで記憶がないティマとともに追ってから逃れるケンイチ。そのころ、ロボットを憎む組織がクーデターをもくろみ、動き出していた。

まぁ、はっきりいって、シナリオ的には特別目新しいものではないし、星の数ほどあるSF作品の中でも特筆するべきほどおもしろいとは言い難い。テンポも良くない部分がある。ただ、やはりこの作品で目を引くのは作画だろう。さすがは大友克洋というべき、神懸かった細やかな作画はエンターテイメントというよりも美術作品の域に達している。

とくにこだわりが見られるのが、ティマの髪の毛だ。風に吹かれてなびくティマの毛髪はそれ自体が意思を持っているかのようにうねり、気持ち悪ささえ感じるほどよく動く。真意はわからないが、物語の設定上、彼女がロボットはもちろん、人間さえも超越した存在であるため、この髪の毛や瞳でそうした人知を超えた存在であることを表現しているように思う。もちろん、キャラデザそのものもふつくしい

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というわけで、DVDを購入したいと思うほどではないが、見る価値はある作品だろう。旧作なのでレンタル108円だしね。

 

というわけで、お粗末さまでした。