『図解 戦車』のレビュー~戦車の基礎知識~
世の中は安保法制とかでかしましいが、一般的に「男の子」は戦いに一種の憧れを持つ生き物である。「戦争したくない」というのは本音だろうが、やっぱり格闘技や刀剣、銃、ロボットなどには誰しも「カッコよさ」を感じてしまう人は多いのではないだろうか。ビジネス書でも「戦略」という言葉はよく聞く。
というわけで今回のエントリーのテーマは戦車である。戦車は人気のあるジャンルなので、どんな時でも様々な本が出版されている。
週刊陸上自衛隊10式戦車をつくる(10) 2015年 7/29 号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: アシェット・コレクションズ・ジャパン
- 発売日: 2015/07/22
- メディア: 雑誌
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徒花は飛行機や戦艦よりも、断然戦車が好きだ。それはなぜだろうかと改めて自問してみて、おそらく「武器と機体のバランス」が大きいと気づいた。飛行機や戦艦にももちろん機関銃や大砲が積まれている。単純に口径の大きさなら、戦艦に搭載されているものの方が大きいだろう。しかし、戦艦自体が大きすぎるため、あまり大砲の大きさを感じられないのがちょっと不満だ。
その点、戦車は素敵である。車体に対して搭載されているカノン砲は非常にその大きさを感じるし、発射したときの反動具合がたまらない。なによりも戦車が活躍する際にはすぐそばに歩兵がいる場合が多いので、人と比較していかに巨大な平気であるかがわかりやすいのである。まったく、戦車はサイコーだぜ!
――とはいえ、私はミリオタではない。
そこまでちゃんと勉強していないので知識は薄弱だ。学びたいとは思いつつも、そうした専門書は買っていない。だが先日、ふと書店でこの本を目にして、思わず衝動買いしてしまった。
著者の大波篤司氏はもともと陸上自衛隊に在籍していたが、のちに除隊し、現在は株式会社ORGという会社でゲーム制作などの仕事に従事している人物である。
本書は基本的に戦車の基本的な知識を1項目1見開きで説明している。左ページが文章で、右ページがイラスト入りの図解という、単行本というよりムックのような作りだ。構成も含めて非常にわかりやすく、イラストも丁寧に書かれているため、視覚的にも理解しやすい。数々の専門用語もきちんと噛み砕いて説明されており、知識ゼロの人にうってつけの入門書だ。
さらに、「なぜ怪獣映画やロボットアニメで戦車は簡単に破壊されてしまうのか」などの章末コラムも、たぎる戦車愛にあふれている。やはり、著者の熱量は紙面上からも伝わるのだ。
日本の10式戦車・試作車両
ただし、本書は本当に「一般的な戦車」の基礎知識しか説明していないので、各国の戦車の特徴とかは詳述されていない。また、あくまで一個人によって書かれた本なので、内容的に著者の決めつけが含まれている可能性があることは留意したい。もっときちんと勉強するなら、著者の異なる複数の本で学ぶ必要があるだろう。
というわけで、以下からは本書の内容に基づき、とくに基礎の基礎的な部分と言える知識を簡単に紹介していく。
戦車とは何か
まずは戦車の定義である。本書によれば、次の3つの要件を「ハイレベルに、バランスよく」備えている先頭車両のみが戦車と呼べるそうだ。
・旋回砲塔と戦車砲
「旋回砲塔」とはグルグル回転できる砲塔のこと。前方しか狙えない固定砲塔ではダメだ。「戦車砲」はカノン砲といっていい。カノン砲については後述する。
・敵戦車の攻撃に耐えられる強靭な装甲
戦車は厚い装甲を持っているものだが、基準としては「敵戦車のカノン砲を受けてもスクラップにならない」くらいの耐久力は必要だ。また、天井部分がない「オープントップ」も戦車とは呼ばない。
・悪路も走行できる履帯
履帯とはキャタピラのこと。ただ、キャタピラはアメリカのキャタピラー社の登録商標なので、戦車マニアの人はキャタピラとは呼ばない。履帯、もしくは無限軌道と呼ぶのが通なのだ(ただし、以下はわかりやすくするためにキャタピラで統一する。履帯だと一発で変換できないし)。そもそも戦車はデコボコした戦場でも移動できることが求められるので、そうした悪路を走行できるキャタピラがなければ戦車ではない。
なお、戦車の能力を示すのも基本的にはこの3点である。すなわち「攻撃力」「防御力」「機動力」だ。これは、国によってどれを一番重視するかが異なる。この定義に基づけば、「思考戦車」とかと呼ばれる『攻殻機動隊』のタチコマは戦車ではないらしい。なにしろ、カノン砲も搭載していなければキャタピラもないのだ。
戦車の世代
戦車が実践に投入されたのは第一次世界大戦あたりからだが、本格的に使われ、研究されるようになったのは第二次世界大戦から。「第一世代」と呼ばれるのは戦後に改良されたものである。戦中に使われたものは「ゼロ世代」とでも呼べばいいだろうか。ただし、第一世代は基本的にゼロ世代のバージョンアップ版と言える。
冷戦期にさらに改良を加えられたのが「第二世代」だ。特徴としては砲のブレを安定させる「スタビライザー」や遠赤外線投光器を搭載していること。また、どちらかというと機動力を重視した戦車が多いとされる。
そして1980年代末から90年代初頭に登場し、現在も活躍しているのが「第三世代」である。高度なコンピュータを搭載し、FCS(射撃統制装置)などを備え、エンジン性能が向上したことでサイズが大きくなったにもかかわらず機動力がアップしている。ただし、発展途上国などでは現在も第二世代が活躍しているようだ。
戦車の乗組員
戦車はだいたい1両につき4~5人くらいで動かす。役割は以下の通りだ。
・戦車長(コマンダー)
一番偉い人。索敵をし、敵戦車との位置を図りながら各隊員に指示(戦車をどう動かすか、どの弾をどのタイミングで発射するかなど)を出す。どれだけ戦車が高性能でも、コマンダーが無能だと負ける。そのため、基本的に戦車の戦績はコマンダーに与えられる。
・砲手(ガンナー)
砲撃担当。砲撃は高い技量が求められるので、普通は戦車長の次に偉い。ただし、最近はコンピュータによって標準が自動調整されるので、以前よりも楽なようだ。
・操縦士(ドライバー)
操縦担当。自動車の運転とは全く勝手が違うので、こちらも技量が必要だ。しかも、ドライバーは車両の整備点検、修理なども担当する。
・装填手(ローダー)
戦車砲に砲弾を込める係。コマンダーの指示に従ってとにかく砲弾を詰め込めばいいので、基本的に若くて一番経験の浅い者がこの役割になる。ただし、戦車砲の砲弾は数十キロになるので、これはこれで大変だ。
・前方機銃手(マシンガンナー)、無線手(ラジオオペレーター)
いたりいなかったりする役割。戦車によってくる歩兵を蹴散らす機銃を操作したり、無線を担当する。最近は戦車に歩兵が取りつかれるような状況は少なくなったため、この役割は姿を消しつつあるようだ。
なお、最近の戦車は戦車砲の装填が自動化されていたりと、もっと少人数でも動かせるが、乗組員が少なくなればいいわけでもない。敵の攻撃で誰かが負傷・死亡したときに困るからだ。
戦車砲の種類
先に戦車砲とはカノン砲のことである、と説明したが、戦車が登場したばかりの黎明期は違った。なぜなら、戦車は敵兵を蹴散らす移動大砲的な役割だったため、戦車に搭載されていたのは着弾すると爆発して広範囲に攻撃できる「榴弾砲」だったからだ。
しかし、次第にどの国でも戦車が実戦配備されるようになると、次第に戦いは「戦車vs戦車」となってくる。そうなると、榴弾では戦車にダメージを与えにくくなってきたのだ。そこで、戦車の厚い装甲も貫ける「カノン砲」を装備したものが主流になって行ったのである。
ちなみに、榴弾砲は太くて短く、カノン砲は細くて長い。弾道も違う。榴弾砲は山なりに飛んでいくので当てるのが難しいが、カノン砲は長い砲塔で十分に加速させてから撃つので、低くまっすぐな弾道になるのだ。
砲弾の種類
戦車が使う砲弾は大きく「榴弾」と「徹甲弾」に大別できる。榴弾は内部に仕込んだ炸薬(火薬)の爆発によってダメージを与えるもので、広範囲に攻撃できるが厚い装甲は突破できない。一方、徹甲弾は金属の塊で、攻撃範囲は狭いが厚い装甲も貫くことができる弾丸だ。これが基本である。
さらに、対戦車砲の榴弾は大きく「粘着榴弾」と「成形炸薬弾」のふたつである。
粘着榴弾:
弾丸の先端部分に炸薬を仕込んだもので、着弾すると先端がつぶれて泥団子のようにへばりつき、一瞬遅れて爆発する。よく映画やアニメなどで着弾後、一瞬遅れて爆発するのはおそらくこうした粘着榴弾の表現だろう。この弾丸は敵の装甲を突破することはできないが、強い衝撃で装甲の裏側を破壊し、その破片を飛び散らせることで内部にダメージを与える。ただし、この砲弾が使われたのは対戦車砲が開発された初期のころで、現在は主流ではない。
成形炸薬弾:
現在、対戦車砲弾の主流となっているのはこっち。内部に炸薬を仕込んでいるのは同じだが、内部に漏斗のような機構を作ることで爆発のエネルギーを一点に集中させ、漏斗表面に塗られた金属(③)を溶かしてメタルジェットと呼ばれる液体金属を射出する。このメタルジェットが敵の装甲を一瞬にして溶かして穴をあけ、内部に誘爆させる仕組みだ。以下は、Wikiにあった成形炸薬弾の内部の図である。
避弾軽始とリアクティブ・アーマー
避弾軽始とは敵の攻撃をできるだけ無力化するために、戦車の車体を流線型に作ったり、装甲に傾斜をつけることだ(「被」弾軽始ではない)。こうすることで敵の戦車砲弾の直撃を避け、できるだけ攻撃力を削ぎ落す。
リアクティブ・アーマー(爆発反応装甲)は爆薬を仕込んだ装甲のこと。装甲の手前で意図的に爆発を起こすことで、敵の形成炸薬弾の攻撃を防ぐのだ。リアクティブ・アーマーはもちろん一回攻撃を受けると取り換える必要があるので、車体に備え付けられているのではなく、装甲の上にさらに取り付ける「増加装甲」である。もちろん、リアクティブ・アーマー事態も傾斜させ、避弾軽始が取り入れられている。
リアクティブ・アーマーのひとつ「エラヴァ1」を装着したポーランドのPT-91 トファルドィ
戦車の弱点
戦車は分厚い装甲が施されているが、全面にそれがあるわけではない。そもそも、装甲を分厚くしすぎると機動力が落ちるし、金もかかる。そのため、基本的に一番装甲を分厚くしているのは一番攻撃を受けやすい前面だけだ。側面や後ろは前面に比べると装甲が薄めである。とくに、後部はエンジンを積んでいるデザインのものが多いので、ここを狙われると弱い。
また、戦車は「地上での戦い」を想定して作られているため、天井部分は特に装甲が薄めである。そのため、飛行機から長砲身機関銃などで撃たれると成す術がない。最近は飛行機のみならず、アメリカのベルAH-1コブラに代表される対戦車ヘリなども登場していて、戦車の射程外からすばやく対戦車ミサイルを撃つことも多い。戦車は飛行機やヘリなど、上空からの攻撃にももろいのである。
アメリカのベル・ヘリコプターが作ったAH-1Gヒューイ・コブラ
また、地雷にも要注意だ。底の装甲も薄いので、対戦車地雷を踏むと大きなダメージを受ける。また、キャタピラは構造上とても壊れやすいので、内部にダメージを受けずとも、キャタピラが破損すると移動できなくなってしまう可能性がある。
さらにさらに、歩兵にも要注意だ。戦車の弱点には「視界の悪さ」もあるので、死角から歩兵に近づかれて取りつかれたり、至近距離から擲弾(パンツァーファウストやRPGなどの手持ちグレネードランチャー)を撃たれればひとたまりもない。
大戦以降を題材にした映画でおなじみのRPG-7
陸上最強の兵器などとも呼ばれているが、結構戦車は弱点だらけなのである。もちろん、真の戦車マニアはそうした戦車のもろさも全部含めて好きらしい。これが愛である。
戦車はどうやって方向転換するのか
普通の乗用車はハンドルを曲げるとタイヤも曲がるので、それで方向転換できる。だが、戦車のキャタピラは固定されているのでそれができない。ではどうやって右折したり左折したりするのかといえば、片方のキャタピラの動きを緩めたり止めたりするのである。たとえば右に曲がる場合は右側のキャタピラだけ回転を止めれば、そこが支点となって車体がぐるりと回転する。これを「信地旋回」という。
さらに、左右のキャタピラをそれぞれ互い違いに回転させると、その場にとどまったままグルリと反対方向に向くこともできる。これはキャタピラ車ならではの方向転換方法だ。これを「超信地旋回」という。ただし、超信地旋回はキャタピラに大きな負荷がかかるため、多様は禁物らしい。
戦車の燃費性能
国交省が発表した「燃費のいいクルマ・ベスト10」によれば、1位はトヨタのアクアで、リッター37㎞だという。つまり、ガソリン1リットルで37キロ走れるということだ。
では戦車の燃費はどのくらいなのかというと、最新型のものでもだいたいリッター1~2キロくらい。エンジン自体は普通の乗用車よりも大きいが、分厚い装甲や大きな戦車砲を積み、キャタピラで移動しているのでとにかく燃費が悪いのだ。こうした燃費の悪さは、戦車が戦車である以上、仕方がないことと言える。
そのために大切になるのが「戦略機動性」。これは戦場までの運搬のしやすさで、あまりにも大きかったり重すぎたりすると、戦車を移動させるのも大変になる。戦車の輸送手段として、かつては鉄道が主流だったが、現在では専用のタンク・トランスポーターと呼ばれる車両によって運ばれる。
アメリカのタンク・トランスポーター「M1070 HETS」
というわけで、こんなところだろうか。わたしもまだまだ勉強途中ではあるが、上記の内容は本当に基礎の基礎的な部分である。
最後に戦車関連の作品をいくつか紹介。まずは戦車戦の魅力を描き出した映画『フューリー』だ。舞台は第二次世界大戦で、見どころは何と言ってもフューリー号と当時最強と謳われたドイツの超重量級戦車ティーガーの戦闘シーン。いかに戦車戦をカッコよく見せるかに力を入れられている。そのうえ、映画で使われているティーガーⅠは、なんと世界で唯一現存する動く実物なのだ。
また、戦車を強さを理解するにはマンガ『パンプキン・シザーズ』もオススメだ。こちらは異世界軍事ファンタジーである。最近は戦車の出番がなかなかないが、初期は戦車という兵器がいかに恐ろしいものか、うまく描写されている。いまも連載中だが、観光ペースが遅いので、私は新刊が出るたびに2~3巻前まで遡って読み直している。
ちなみに徒花、これだけ戦車について語ったエントリーを書いておきながら、ガルパンこと、あの『ガールズ&パンツァー』は見ていないのだ。そのうち見ようとは思うのだが、なかなかまとまった時間が取れない。パンツァーとはパンツ愛好家のことではなく、ドイツ語で「戦車」を意味する言葉である。
というわけで、お粗末さまでした。